清水建設株式会社

1万人の人財情報と全社の職務情報を可視化。清水建設がデータを活かす人財マネジメントを推進する理由

2026.07.28
課題
  • 職務の役割・職責に見合った処遇
  • 採用、育成、配置の意思決定に必要な情報の不足
  • 従業員のスキル・経験データの未整備
活用法
  • 役割を処遇に反映する形で評価制度を見直し、カオナビで運用スタート
  • 系統横断の共通コンピテンシーと系統ごとの専門コンピテンシーを定義し、収集・蓄積
  • 蓄積した人材データをダッシュボード化し、上司と部下の対話・育成に活用していく
期待効果
  • 役割・成果を反映した新しい評価制度を、カオナビで運用できる体制
  • 育成・配置などの人材マネジメントの方針を考える土台
  • 上司が部下の経験・スキル・キャリア志向を把握したうえで、対話できる土台
  1. 役割・職責を重視する人事制度への転換
  2. 「記憶と感覚」だけに頼るのではなく、情報やデータも活用
  3. 個人の把握から、全社の最適配置へ。カオナビで実現するデータ活用
  4. 育成体系も刷新し、従業員一人ひとりのキャリアを支える

中期経営計画(2024~2026年度)で、経営基盤の強化として「成長を支援する仕組みづくりにより『挑戦し共創する多様な人財』を育成する」を柱に据える清水建設様。創業200年超の歴史を持ちながらも変革を続ける同社は、そんなあるべき組織・人材の姿から逆算して2026年から人事制度を見直し、役割や成果にもとづく評価体系へと移行を進めています。

同時並行で整備してきたのが、カオナビを軸とした1万人規模のタレントマネジメントの土台です。育成や配置をはじめとした人材マネジメントについて、「記憶と感覚」のみを頼るのではなく、情報やデータも意思決定に活用できる環境をつくろうとしている同社。制度改正とタレントマネジメントを推進する人財戦略部の藤本 宣氏、岡田 夕里子氏、人事部人財開発グループの小野寺 将一氏、島田 智絵氏に話を聞きました。

※本記事の掲載内容は全て取材時(2026年4月)の情報に基づいています。

役割・職責を重視する人事制度への転換

── 今回の人事制度改正は、中期経営計画の「経営基盤の強化」とも連動した動きだと聞いています。まずはその背景から教えてください。

岡田氏:当社では、「持続的成長に向けた経営基盤の強化」を基本方針とする中期経営計画を策定していて、「人財と組織力の成長」を経営基盤強化の中心に据えています。今回の制度改正はこの中期経営計画に基づくもので、新たな人事方針のコンセプトとして「会社と従業員が健全な緊張感の中で、お互いに成長できる関係性」を目指すこととしました。従来の制度では、会社への貢献や成果がタイムリーに処遇に反映されにくく、自律的な成長へのモチベーションも生まれにくい状態にあったためです。制度改正を通じて従業員の働く意欲を高め、それがひいては組織の活性化と生産性向上につながり、中期経営計画でも掲げた会社の持続的成長に至ると考えました。

── いわゆるジョブ型に近い内容でしょうか?

岡田氏:建設業の特性を踏まえ、完全な「ジョブ型」という考えとは少し異なり、当社にあった形にアレンジしています。「これまで積み上げてきた能力・経験を一定評価しつつ、役割をより大きく処遇に反映させる」。今の役割で成果を上げたら次の役割へ、というキャリアアップのバリエーションが以前より明確になったイメージです。

── 従来の制度に慣れた従業員からの反発はありませんでしたか?

岡田氏:従業員からの質問や疑問の声は当然上がりましたが、むしろ、ポジティブな声も届いています。経験年数ベースで処遇が横並びだったところが、「役割の明確化によってモチベーション向上や、次のポジションを目指す意欲が生まれた」という声が多い印象です。従来の制度では役割に関わらず給料が横並びになりがちでしたが、役割が可視化されることで「どうすればキャリアアップできるのか」が初めて見えてきた、という反応でした。

人財戦略部 岡田様
人財戦略部 岡田様

また今回は、「制度変更の背景をこまめに従業員に発信」していたことも従業員の制度理解に貢献したと思います。2021年にも人事制度改正を行ったのですが、このとき従業員との対話が十分でなかったことで、「なぜこの制度になったのか分からない」という疑問が残ってしまいました。そこで今回は、オンライン・対面の説明会を両方実施し、人事だけでなく検討に携わった経営層にも従業員との対話の場にでてもらう形に。会社から一方的に情報が下りてきただけ、と感じてしまうと疑問が残るので、会社と従業員が双方向で理解し合うことが大前提だと考えていました。

── 制度改正のプロセスで、特に苦労したことは何でしたか?

岡田氏:2年ほど前から経営層との議論を経て、人事部と事業部門で検討を重ねてきました。意見が割れてゼロから議論し直す場面もあり、行ったり来たりは正直ありましたね。一番大変だったのは運用への落とし込みです。新しい役割を再定義し、従業員一人ひとりを各ポジションにアサインする際の検討作業は、処遇に直結するだけに慎重にならざるを得ない。ある系統で決めた基準が別の系統に合わないことも多く、何度もやり直しながら調整を重ねました。

「記憶と感覚」だけに頼るのではなく、情報やデータも活用

── 制度改正と並行し、タレントマネジメントの取り組みも進めてきたと聞きました。そもそもの課題は何だったのでしょうか?

藤本氏:採用、育成、配置の意思決定が、どうしても担当者の記憶や感覚のみに頼らざるを得ないというのは、人財マネジメントにおけるリスクであると考えていました。「あの人こういうスキルがあるよね」、「こういう経験があったはず」という情報が、システムではなく人の記憶の中に閉じていたんです。人財の情報を適切に把握し、一人ひとりの価値を最大限に引き出すような人財マネジメントが求められる中で、情報やデータをきちんと蓄積・活用して意思決定に活かすべきだという課題感は、人事部だけでなく事業部門も抱えていました。

── 具体的に何から着手したのですか?

藤本氏:大きく3つあります。

1つ目は、コンピテンシーの定義です。弊社には建築・土木・エンジニアリングなど、約80の系統がありますが、それぞれの系統で求められるコンピテンシーを定義しています。各系統の責任者のもとへ出向いて、取組みの趣旨やタレントマネジメントの考え方を説明し、「各系統で求められる能力やスキルを一緒に定義していきたい」という話をしに行くところからスタートしました。何か一つの系統を取り残すということはせず、全部門に説明して、全社一体で取り組みを進めました。

人財戦略部 藤本様
人財戦略部 藤本様

また、コンピテンシーは一般的に「高い成果を出す人財の行動特性」などと定義されることが多いですが、弊社では「目標達成の過程で発揮している言葉や行動」と定義。各系統のコンピテンシーに対してレベル1〜4のステップを設け、従業員本人に自己申告してもらいます。そして、上司が承認する形で、コンピテンシーに関する情報をカオナビに蓄積しているのです。

清水建設様のコンピテンシーのイメージ
清水建設様のコンピテンシーのイメージ

2つ目が、職務情報の可視化です。「職務記述書(ジョブディスクリプション)」と、系統ごとの業務内容を紹介する「役割記述書(ロールディスクリプション)」をセットで整備しました。「この系統ではこういう仕事をしていてこういう専門分野がある」というのを従業員に見せることができる環境を整えました。

清水建設様の職務記述書のイメージ
清水建設様の職務記述書のイメージ
清水建設様の役割記述書のイメージ
清水建設様の役割記述書のイメージ

3つ目がキャリアツリーの作成です。これは、各系統のキャリアの道筋を可視化したものです。施工管理者として入社した従業員であれば、所長、マネジメント、技術開発のエキスパート…など、複数の選択肢があります。こうした複数のキャリアが実は存在しているのに、今まで従業員に見せられていませんでした。今回の人事制度変更と同じタイミングで公開し、従業員一人ひとりの行動変容を促す狙いです。

個人の把握から、全社の最適配置へ。カオナビで実現するデータ活用

── カオナビの話が出ましたが、改めて導入経緯を教えてください。

小野寺氏:もともとの出発点は、「人事考課表を紙で回すのをやめよう」、というところからです。プラスチックのバインダーに紙を挟んで評価を回していた時代から、一時期は内製システムを使ったこともありましたが、2021年の人事制度改正のタイミングで評価のやり方も刷新しようということになりました。さまざまなシステムを検討する中で、「評価プロセスが複雑でも柔軟に再現できるカスタマイズ性」や、「当社に一番寄り添って対応してくださった点」などが決め手になりましたね。

人事部人財開発グループ 小野寺様
人事部人財開発グループ 小野寺様

今回も制度改正を行いますが、まさに「新しい評価制度も、これからカオナビで運用」していくところです。

さらに現在は、藤本が話した通りコンピテンシーに関する情報や過去の経験など、「タレントマネジメントに必要な人財データをカオナビへ集めています」。

── カオナビに人材データを蓄積したうえで、まずはどのように活用していく予定ですか?

藤本氏:まずはカオナビに蓄積した人財データをダッシュボード化し、「上司と部下の対話や目標設定に活用してもらいたいです」。蓄積したコンピテンシーレベルの情報、これまでExcelで管理され、眠っていた取得資格や研修の受講履歴、さらにどの現場でどんなプロジェクト・立場・役割を経験したかという経験情報も可視化しています。上司が部下をより深く理解できる環境を作るためです。

── 個人の把握にとどまらず、全社レベルでの活用も考えていますか?

藤本氏:はい。全国単位や部門単位・部署単位など、幅広い組織情報として活用できるものにしていきます。「組織的な強みや弱み」が全国、部門、支店レベルで分かるようになるのが理想で、より戦略的な育成施策や配置計画につなげていきたいですね。実は、本社の統括機能が意思決定するためのダッシュボードもすでに作成済みです。全国のどの支店に、どのような経験を持つ人財がどれくらいいるのかを可視化し、採用・配置・育成の各計画に横断的に活用できる基盤を整えていきます。

さらに、適所適材な配置を実現する「配置調整システム」という構想も進んでいます。全国で案件やプロジェクトの情報が毎日生まれ、契約状況も日々変わっていく中で、「このプロジェクトにはこういう経験を持つ人が向いている」といったことや、「このプロジェクトを遂行する上で標準的に必要な人員数は●名である」といった提案をシステムやAIが瞬時にしてくれるものです。記憶・感覚頼りの状態から、情報やデータも意思決定に活用できる状態にしたうえでの「全体最適な配置」が、エンゲージメントの向上や生産性向上にもつながると考えています。

配置調整システムの仕組み図
配置調整システムの仕組み図

育成体系も刷新し、従業員一人ひとりのキャリアを支える

── 今回の制度改正にあわせて、従業員の方へのキャリア支援や育成はどう変わりますか?

小野寺氏:これまでは「配置の観点からどうしたいか」という人事目線にとどまり、自分がどういう教育を受けたいか、何を望んでいるかを上司に報告したり会社に申告したりする仕組みがありませんでした。カオナビを使って、そうしたキャリア申告の仕組みを整えていきたいと考えています。「会社の方針は分かったけど、聞いてくれないじゃないか」とは言われないよう、きちんと双方向にしていきたいです。

島田氏:さらに、系統ごとに定義しているコンピテンシーとは別で、系統横断でどの職種にいても大事な「共通コンピテンシー」も定義し、カオナビにその情報を集めようとしています。

人事部人財開発グループ 島田様
人事部人財開発グループ 島田様

共通コンピテンシーはヒューマンスキルやコンセプチュアルスキルなどをベースに構成した項目で、「全従業員の育成の指針」です。4段階のレベルで自己評価をしてもらい、上司がレベルを承認。自己評価と差異がある場合はコミュニケーションをとったうえで、すり合わせを行います。そのデータをカオナビに蓄積してジョブディスクリプションや役割の定義と紐づけることで、「この役割を目指すには、コンピテンシーがどれくらい必要か」が見えるようになります。「今はレベル2だけど、次のステップにはレベル3が必要だからこの研修を受けよう」という使い方ができるイメージですね。なお、評価とは切り離し、あくまで育成の指針として活用する方針です。

── 研修体系自体も変わりますか?

島田氏:はい。これまでは各階層を呼んで一律に受けてもらう階層別研修が中心でしたが、これからは「1人ひとりが自分で伸ばしたいものを選んで学べる選択型研修を増やしていきます」。例えば、共通コンピテンシーに合わせたeラーニングを用意するほか、集合研修も課目によって対面・オンラインそれぞれの開催方法を用意し、選択できるようにしています。さらに研修では、中期経営計画と連動した人財開発方針から逆算し、何年目でこの能力が必要だからここでこの教育を行う、という段階を踏んだストーリーも見えるようにしていきたいですね。

── 最後に、今後の展望をお聞かせください。

藤本氏:人事や事業部門が意思決定を行うための施策は実現が見えているので、「次は従業員体験の向上」です。例えば、自分が目の前の仕事で何を頑張るべきか、あるいは将来目指したい「その道のプロ」を考えたときに、足りないコンピテンシーや経験をカオナビが把握し、研修レコメンドやキャリアアドバイスにつなげてくれる。研修を受けてレベルが上がると、バッジを取るような感覚で成長を実感できる。「RPGのように従業員の成長体験がカオナビの中で可視化される」のが理想だと思います。カオナビの強みはシンプルで見やすい点だと思っているので、1万人全員に毎日使ってほしいですね。

島田氏:個人的なことかもしれませんが、私自身もこれまで働く中で、様々な系統や部署の人たちと関わることで、多様なタレントにあふれた魅力的な人財がたくさんいることを強く感じてきました。そのため、1人でも多くの従業員が「この組織で活躍したい」と思ってくれるように、人事としてできることをしていきたい。営業や現場で様々な従業員と関わる経験をしてきた自分だからこそ持てる視点も大切にしながら、経営視点と現場視点のバランスを考えていきたいと思っています。

人事部人財開発グループ 島田様
人事部人財開発グループ 島田様
設立:
1804年
社員数:
11,434人(2026年3月31日現在)
事業内容:
建築・土木等建設工事の請負(総合建設業)
  • ※インタビューの内容は取材時のものになります。

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