ユーザー会レポート

成功の秘訣は「表層と深層の両輪」。業績向上につながるダイバーシティ推進

2022年6月20日

マナベル

こんにちは!カオナビ カスタマーサクセスグループ ユーザー会担当です。

2022年2月8日(木)、ユーザー会「プロからマナベル」を開催しました。今回はカオナビキャンパス開校記念も兼ねた全4回シリーズで、カオナビ導入事例から少し離れ、昨今の潮流のひとつでもある「ダイバーシティの推進」をテーマにお送りしました。

第1回の今回は、組織行動論・経営組織論をご専門にされる明治学院大学 経済学部経営学科 林祥平 准教授に、ダイバーシティの基本を丁寧に解説していただきました!

企業がダイバーシティに取り組む価値や、インクルージョンマネジメントの考え方などをお伝えした今回。これからダイバーシティ施策に取り組む方や、基本に立ち戻っておさらいしたい方向けにセミナー当日の内容をまとめましたのでぜひご一読ください!

「プロからマナベル」とは?

「プロからマナベル」はある分野の専門家をお招きし、人事業務の最新トピックやカオナビの実践例を解説していただくセミナーです。

カオナビでは、そのほかにも導入目的別の使い方を解説するセミナーや、ユーザー様同士で活用方法をディスカッションできる交流イベントも開催。今後開催予定のセミナーは、以下をチェックしてみてください!

サポートサイト『セミナー・ユーザー会』

ご登壇者紹介

林 祥平 氏

明治学院大学 経済学部 経営学科 准教授

神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(経営学)。2015年4月より現職。
経営学の中でも組織行動論、人的資源管理論の領域を専門としている。

著書は『一体感のマネジメント―人事異動のダイナミズム』(白桃書房)、『労働・職場調査ガイドブック―多様な手法で探索する働く人たちの世界』(共著、中央経済社)など。
2015年に日本労務学会賞、2020年に日本経営学会論文賞、など受賞。

ダイバーシティが企業経営に貢献する根拠

※ここからは実際に林准教授にお話しいただいたセミナー内容です!

私の専門は組織行動論、人的資源管理論といった、経営学のなかでも従業員の心理、たとえばモチベーションやストレス、リーダーシップなどを、人事管理と併せて研究しています。今回は、これまでの研究から、職場でのダイバーシティがどういったメカニズムをもって従業員のモチベーションを高め、創造性を刺激するのか、お話しします。

まず前提として、ダイバーシティは企業経営に貢献するものだという考えが正しいのか、確認してみましょう。
経済産業省では、多様な人材の能力を引き出し、経営成果につなげている企業を毎年選定・表彰していて、「ダイバーシティ経営企業100選」として発表しています。その受賞企業と、非受賞企業にアンケート調査したものが、次の「ダイバーシティ経営の成果」というグラフです。

たとえば、新入社員の採用がうまくいっていると思うかを聞いた結果は、100選に選ばれた企業の3割弱が「うまくいっている」と回答していて、非選定企業では1割弱にとどまっています。中途採用、正社員の定着率、仕事への意欲や満足感など、どの項目でもダイバーシティ推進に成功している企業のほうが有意に高いポイントを示しています。とりわけ、社員の育成や仕事に対する意欲面のスコアの高さから、ダイバーシティがその分野で高いパフォーマンスを発揮すると読み取ることができます。
つまり、今回のセミナーシリーズのテーマでもあり、働きかた改革の柱のひとつとして国が推奨しているダイバーシティは、企業経営に貢献するものであるという前提は間違っていないと言えるでしょう。

ダイバーシティは「表層」と「深層」に分かれる

ではそのダイバーシティとは何なのか、本編のお話に入りましょう。

ダイバーシティというのは、直訳すると「多様性」を意味します。年齢・性別・人種・国籍・宗教などさまざまな属性の人が集まった状態のことを言い、経営においては組織の生産性や競争力を高める取り組みとして認知されています

簡単に言うと「うちの会社にはいろんな人たちがいるよ」という状態で、たとえば日本人だけでなく、アメリカ人、中国人、フランス人などさまざまな国籍の人が働いているのであれば、それは「国籍のダイバーシティが高い」と言えます。

一方で「うちの職場には仏教徒しかいないんです」といった場合には「宗教のダイバーシティが低い」と表されます。

このようにさまざまな属性でダイバーシティは議論されるのですが、そのなかでも、目で見える特徴である「表層のダイバーシティ」と、見た目ではわからない特徴である「深層のダイバーシティ」の二つに大別されます。

「表層のダイバーシティ」とは、性別・国籍・年齢・言語といった属性、「深層のダイバーシティ」とは、専門性・学歴・価値観・経験年数などの属性を言います。

ダイバーシティをこのような二分類にすることには意味がありますので、それについては後ほど詳しくお話しするとして、まずは日本でダイバーシティ推進に力を入れている企業の取り組みをご紹介しましょう。

表層のダイバーシティははじめの一歩として取り組みやすい

たとえば、日本マクドナルドでは、学生・主婦(主夫)・シニア・外国人・障がい者の積極採用を推進しています。

また、クラレでは女性活躍推進と障がい者雇用推進に力を入れていますし、セブン&アイ・ホールディングスでは女性管理職比率30%、男性の家事育児参画推進、障がい者とLGBTへの理解促進を掲げています。

この3社の取り組みは、目で見てわかる表層のダイバーシティに注力していることがわかりますね。なぜ表層の分野に偏っているのか、それはこれらが取り組みやすい課題だからだと考えられます。

たとえば女性管理職比率で言えば、「2000年時点でわが社の女性管理職は5%でしたが、2020年時点では17%までになり、20年で12%も上げることができました」と、エビデンスがわかりやすく、成果を数字で示すことができます

国籍や性別のダイバーシティを進めたければ、採用段階で意図的に押し進めることもできます。そういった面で、表層のダイバーシティはマネジメントしやすく、はじめてのダイバーシティとしては非常に取り組みやすいでしょう

深層のダイバーシティこそが業績を上げる!

とはいえ、表層だけで満足することはおすすめできません。なぜなら、表層と深層では、業績に対する影響力が大きく違うからです。

上のグラフは、ダイバーシティを推進した結果、その企業・職場の業績やパフォーマンスが上がったのか、下がったのかを項目別に示しています。

性別・国籍・年齢の表層3項目ではパフォーマンスが下がっていますが、反対に専門的経験・学歴・勤続年数の深層3項目では効果が上がっていることがわかりますね。

基本的に、表層のダイバーシティは業績を引き下げる傾向にあることが知られています。それは決して日本だけではなく、世界の企業を調査しても同じような傾向が見られます。

一方、深層のダイバーシティは業績を引き上げる傾向にあることもわかっています。
ではどうして表層と深層の違いでパフォーマンスに対する影響がこんなに違うのでしょうか。

私たちは通常、肌や目の色、話す言語の違いなどで仲間意識を持ちやすく、それが職場の中になると派閥化する傾向があります。たとえば多言語の職場でも、母語が日本語の人、英語の人、中国語の人などの違いがあれば、それぞれ母語を同じくする人たちでグループができてしまい、コミュニケーションや協力関係がとりにくくなってしまいます。その結果として、業績にまで悪影響を及ぼすケースが多いと、私たち学者の間で考えられています。

他方、深層のダイバーシティを推進すると、知識・経験・価値観が多様な人たちが一つの職場に集まることになります。その人たちが多様な経験を持ち寄ってお互いに協力することができれば、効率化やイノベーションを生み、これまでになかったサービスなどを創造するきっかけにつながるので業績を引き上げるのだと考えられます。

ダイバーシティは「表層」と「深層」の両輪こそ大切

このようなお話をすると、「では表層のダイバーシティ推進なんてせずに深層のダイバーシティ推進だけすればいいじゃないか」という声が出てくるものですが、これらは相関関係にあり両輪であることが大切なのです。

深層のダイバーシティは目で見てわからない特徴ですから、そちらだけを効率的に高めることは難しいのです。しかし、たとえば男性特有の考え方や価値観があるように、女性にも特有の考え方や価値観があり、女性の活躍を推進すると、それにともなって職場の価値観も男女の偏りなく分散していきます。

国籍や年齢でも同様に、表層のダイバーシティを進めた結果として、深層のダイバーシティも進んでいくことになるのです。

そして、両方のダイバーシティ推進の効果を業績につなげるためには、コミュニケーション不全にならないよう、協力関係をつくるダイバーシティマネジメントの力が必要になってきます。

事例に学ぶ!CEO自ら牽引するアクサ生命保険

モデルケースとして、ダイバーシティの分野で有名なアクサ生命保険の例を見てみましょう。この会社の特徴的なところは、CEOが積極的にダイバーシティ推進にかかわっているという点です。次の図を見てみましょう。

右側の図の中央に「Inclusion & Diversity Advisary Council」というのがありますね。これはダイバーシティ推進を考える委員会のようなもので、ここにCEOが常にかかわっており、今後どのような方向でダイバーシティを進めるのか、現状で目標の何%を達成しているのかなどを考え、指示し、全社的に取り組み、会社として大きな流れをつくっています。

具体的には、女性管理職登用支援、障がい者やLGBTへの理解促進といった、表層のダイバーシティを高める取り組みと並行して、ワークライフバランス支援など間接的にダイバーシティを高める取り組みも行っています。

これらの施策を通じて、全社的にダイバーシティの高い状態が当たり前の風土ができあがっているのは、非常に強い。CEO自ら舵をとるダイバーシティマネジメントが成功している例です。

このように全社的にダイバーシティをマネジメントする人が強いリーダーシップを発揮し、たゆまず施策を押し進めることで、徐々にそれが企業風土となっていきます。たとえば新しいダイバーシティの戦略を打ち出したとして、管理職だけでなく一般社員の隅々まで、積極的に関与し、協力してくれるようになるのです。

これはひとつの理想でもありますが、企業風土というものは一朝一夕でできるものではありません。どうしたらこのような大きな流れをつくることができるのか、次は「インクルージョン」に注目してお話ししましょう。

インクルージョンで重要な「独自性」と「承認」

インクルージョンとは英語で「包摂」。多種多様な要素をもつ人たちが、お互いを受け入れ、尊重することを意味します。共存共栄とも言える、近年注目のダイバーシティにかかわるアプローチです。

インクルージョンを議論するときに重要な視点として、「独自性」と「承認」があります。職場で自分の独自性が周囲から認められ、職場の一員として承認されていると感じるとき、インクルージョンの状態にあると言えます。「独自性」と「承認」のどちらか一方ではなく、両方が高い状態にあることが必要です。

また、インクルージョンに至るまでの3つの状態についてもご紹介します。

【状態1】分化

たとえば、データアナリストは、非常に社会的に求められており、需要と供給のバランスがとれていない職種です。ですからデータアナリストの方々は、会社のなかでも自分の独自性を自覚し、あるいは評価されているという自負があると思います。

ところが、同僚が「そういう特殊な仕事をする人とどうつきあっていけばいいかわからない」と感じていた場合、お互いの間に距離ができてしまい、データアナリスト側からすると「周りから受け入れられていないんじゃないか」と思ってしまいますよね。そのように、独自性は高くとも承認が低い場合を「分化」と呼びます。

分化の状態にある人は、「能力のある自分が職場で受け入れられないのであれば、ほかに居場所を探してもいいんじゃないだろうか」と容易に転職してしまいます。それは会社側にとっては損失でしかないので、どうにか分化をインクルージョンの状態にシフトさせたい。これもマネジメントの力なのです。

【状態2】同化

独自性は低いが、承認度は高い「同化」というのは、いわゆる古き良き日本の企業によく見られた状態です。一括採用された同期が一斉に横並びで昇進していくような、競争が少なく、みんな和気あいあいとした雰囲気ですが、特殊な経験を積むことは少なく、独自性は得られないし、自分に独特の強みがあると思っていてもそれを発揮できません

この同化の状態をインクルージョンに持っていくには、タレントマネジメントが必要です。一人ひとりを戦力として活かすように、配置換えや仕事の割り振りを考え、それぞれのやりたい仕事、行きつきたいキャリアをサポートするのです。個人の目標や希望を社内でオープンに話し合って実現し、「この人の独自性はここにあるんだな」と社員同士お互いに理解していくことが、インクルージョンを引き上げることにつながるのではないでしょうか。

【状態3】排他

独自性も承認も低い「排他」の状態では、一足飛びにインクルージョンにするのは非常に難しいですね。独自性か承認かどちらかを高めてから、つまり排他から分化、または排他から同化への転換に取り組んでから、次の段階としてインクルージョンを目指すのが良いでしょう。

近年、ワークライフバランスや男性の育児休暇取得の推奨など、仕事以外の充実を支援する施策が多くの企業で推進されています。こうした施策の理解が進むと、個人個人が職場の一員として認められ、それぞれの生き方を尊重されている状態に近づきますから、インクルージョンに引き上げやすくなるのではないでしょうか。

こういったインクルージョンのマネジメントを成功させると、従業員の独自性が組織に貢献される状態になり、

  • 仕事の充実感が高まる
  • 創造的に仕事に取り組むことができるようになる
  • ストレスレベルが下がる
  • 仕事に対する満足感が高まる

といった結果につながりますので、ぜひインクルージョンマネジメントを考えていただきたいと思います。

インクルージョンマネジメントのカギは「経験学習」

インクルージョンマネジメントをうまく進めていくカギは、従業員それぞれが自分の独自性・強みを理解することです。そしてマネジメント側には、従業員が活躍できる職場をつくり、転職を考えられないほど居心地のいい職場をつくることが求められます。

まず、従業員それぞれが独自性・強みを理解するにはどうしたらいいかというと、仕事を通した学び、「経験学習」が必要です。

たとえば、今までできなかった仕事が、あるプロジェクトを通してうまくできた場合、「なんで今回はできたんだろう」と振り返ります。そして「今回はプロジェクトのなかで意識的にいろんな人に頼ったな」というように、今までと違う行動が自覚できたら、「それが成功の秘訣だったのかもしれない」と仮説を立てられます。

次の仕事でもその仮説をもとに取り組んだ結果、またうまく行くと、「自分には今まで人に頼るという経験が足りなかった」「うまく頼れるようになることで、成功を引き寄せることができる」と確認できるわけです。

このようなプロセスが、有名な研究者デイヴィッド・コルブの言う「経験学習」です。

私たち日本人は「経験や過去から学ぶ」というと、失敗経験から学ぼうとする傾向があると言われています。もちろん失敗から学ぶこともありますが、強みに気づくという点では、成功体験を振り返って学ぶことのほうが有効です。成功体験は、自分の強みを活かせたからこそ獲得できる経験だからです。

自分の強みに気づいた人は、仕事に自信をもつことができます。余裕をもって周囲をサポートすることもできるようになりますので、助け合い、学び合う職場づくりを牽引してくれることでしょう。うまく振り返りができるよう、面談などで促すことも有効ですね。

居心地が良くて活躍できる職場のつくり方とは?

では、マネジメント側に求められる「居心地のいい職場をつくる」「活躍できる職場をつくる」ためには、どうしたらいいでしょうか。

まず居心地のいい職場をつくるためには、次の3つが重要です。

  • 部下の仕事をサポートしてあげること
  • 公平に扱うこと
  • 権限を委譲すること

仕事をサポートするというのは、単純に手伝ってあげるということではなく、精神的なサポートです。いい働きをした人は褒め、ほかの人にも見習ってほしい面は感謝を伝えてみんなに共有するなど、どこがどのように良かったのかをきちんと言葉にすることが大切です。

部下を公平に扱うのは、当たり前のことに見えて、実は難しいこと。とりわけ評価の場面での公平性は重要ですから、評価軸を見える化してオープンにし、評価の結果もわかりやすく伝える必要があります。

そのうえで、不平不満があればしっかり聞く姿勢も示しておきましょう。

次に、社員が活躍できる職場をつくるためには、

  • 貢献の仕方を上司が勝手に決めないこと
  • 貢献意欲を引き出すこと

の2つが重要です。

たとえば、新しいプロジェクトを立ち上げ、目標を設定したとき、そこへ行きつくプロセスを上の立場から限定してしまうと、部下それぞれの経験を活かすことができません。「今までの仕事のなかから、役に立つ知識や経験を持っていたらぜひ活用してね」と推奨してみてください。

自分の強みを発揮する機会をもらえるのは、非常に貢献しがいがあるものですし、活躍したいという感覚をもって意欲的に取り組んでくれるでしょう。

また、貢献意欲を削がないことも大切。「自分のことを何もわかってくれていない」「仕事を勝手に投げてくる」とネガティブに捉えられるような仕事の割り振り方は、大きく意欲を削ぎます。

日頃からコミュニケーションをとり、できるだけ部下の得手不得手を把握するように努めてください。たとえ本人の希望通りの割り振りができなくても、「自分のことを理解して支援してくれている」と部下が感じてくれれば、貢献意欲を削ぐことは少なく、むしろ高めてくれるでしょう。

ダイバーシティ&インクルージョンを阻む「アンコンシャスバイアス」

このようにインクルージョンマネジメント、ダイバーシティマネジメントを行っていただきたいのですが、真っ先にぶつかる壁として「アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)」があります。

たとえば、上司が部下に出張を打診するとき、お子さんのいる男性社員には声をかけられるものの、お子さんのいる女性社員だと打診をためらってしまうことはないでしょうか。また、年代の違う社員同士で意見が食い違ったとき、「最近の若者は」「これだから年配社員は」といったフレーズを聞いたことはないでしょうか。これがバイアスです。

もう一つ、採用面接の場面を想定してみましょう。

面接で外国人の方を見たとき、プロフィールを確認する前に「この人は語学に強そうだから、採用したら海外で活躍してくれるだろう」と期待をもってその人の言葉を聞くようになってしまう。これもバイアスですね。国籍や性別などを特定の属性や能力と勝手に結び付けて考える、これを「パフォーマンスバイアス」と言います。

また、面接に自分と同じ出身大学の学生が来た、あるいは出身地が同じ人が来た場合、ほかの人と違って前のめりに話を聞いたり、積極的にその人にだけ質問をしてしまったり、対応にムラが出てしまうかもしれません。このように自分と似た特性を持った人に興味関心を持つことを「親和性バイアス」と呼びます。

これらを無意識にやってしまうと、客観的には不公平に見えてしまいます。アンコンシャスバイアスというのは、過去の経験が積み重なって行動の傾向をつくったもの。過去の経験から身に付いた不適切な習慣と言い換えることもできますね。偏見のすべてが悪いということではなく、それが仕事の上で悪影響を及ぼすのであれば、改善が必要です。

近年、ダイバーシティ研修のなかでもバイアス研修に力を入れる企業が増えています。バイアス研修というのは、バイアスを克服するためのものではなく、研修を通じて自分のもっているバイアスを知ることに主眼を置いています。無意識の偏見の厄介なところは、意識していないところで行動が変わってしまう点。自分の持っているバイアスを意識することができれば、ブレーキもかけられるし、改善もできるわけですから、偏見をなくすということより、まずはバイアスを理解することが重要なのです。

研修を通じてバイアスを知り、改善する

バイアス研修の典型的な流れでは、まず座学で「職場でのバイアスにはどんなものがあるか」などを学び、チェックリストを使って自分のバイアスを自己点検していきます。

また、複数人で話し合い、職場におけるバイアスの共有知を作るのも有効です。そうした一連の流れを通じて、バイアスを知り、改善する、そのためのきっかけとして研修が行われているのです。

研修を受ける前に、まずは上司や先輩のコーチングでバイアスに気づいてもらうのも有効な方法。「研修を受けてみよう」「改善する努力をしてみよう」という姿勢を、促すきっかけになるかもしれません。

バイアス研修は「一回で終わらせない」ことが重要

こうした研修を受ける際に必ず注意したいのは、一回で終わらせないこと。2019年にアメリカで、ジェンダーバイアス研修を行った企業の追跡調査の研究が発表されました。対象になった研修では、女性への偏見があることを学び、実際に仕事上でも影響していることを理解してもらい、意識改革をして成功に終わったはずでした。

ところが、その後、研修参加者たちが仕事に戻り、女性の待遇がどう変わったのかを調査すると、女性社員がアドバイスを受ける回数も、表彰される回数も一切増えなかったという結果が出たのです。この研究で言えるのは、一度の研修で意識を改めることはできても、行動を変えるのは難しいということです。2回3回と定期的に継続して研修を続け、粘り強く根気を持ち、徐々に行動を変えていくことで、本当の意味でのダイバーシティを活用できるようになるのではないかと思っています。

最後になりますが、表層のダイバーシティに力を入れている企業はたくさんありますが、それだけで終わってしまうのはもったいない。表層のダイバーシティを活かすためにも、インクルージョンに目を向けてください。インクルージョンを活用するうえで、上司の方のがんばりが必要不可欠ですので、管理職研修を定期的に行うことも重要だと考えています。

【Q&A】「テキストのおススメは?」「実現が想像できない!」参加者から多く挙がった質問に回答

Q)アンコンシャスバイアスの研修でお勧めのもの、またはe-ラーニングで良いものがあったら教えてください。また、頻度はどの程度が良いのでしょうか?

A) まだまだ手探りの状況で試行錯誤されている研修会社も多いようで、絶対的にお勧めできるようなものはありません。ただ、アンコンシャスバイアスの研修で頑張っているなと思う(株)メルカリさんなどは、社内で行っているバイアス研修の資料を公開していますので、参考になるのではないでしょうか。
頻度については、1か月に1回か2か月に1回程度のペースが、業務に支障も出ず、ストレスにもならないような、ちょうどいい間隔かなと思っています。

Q)ダイバーシティを推進することで業績が上がったのか評価する方法はありますか? 既出のアンケート調査のような調査結果があれば教えていただきたいです。

A) まず、業績を何で測るかというのはすごく難しい問題ですよね。ダイバーシティ推進におけるひとつの大きな難所とも言えると思います。現在一般的な評価方法は、部署レベルの業績か、あるいは主観的に「うまく行っていると思うかどうか」という、達成感のようなもので測っているのが現実だと思います。
経済産業省が資料を大量のPDFで公開していますし、あるいはダイバーシティ関連書籍はたくさんあって研究者の調査結果などもまとめられていますので、参考になるかと思います。

Q)ダイバーシティは大切に取り組むべきだと社内で認知はされているものの、自分事にまで落とし込んで考えてもらうところにまで至りません。どうしたら社員が自分事として取り組むことができるでしょうか?

A) これも非常に難しい質問ですね。ダイバーシティが当たり前なアメリカでは、小学校中学校からダイバーシティ教育が始まります。「白人だけでなく、黒人も黄色人種も、いろいろな人がいる環境というのが自分たちにとってハッピーだよ」という教育を受けたうえで、就職すると会社でダイバーシティ研修を受けます。そうして長い年月をかけても、まだダイバーシティがちゃんと活用しきれていないという現実があります。

どうしたらダイバーシティを自分事としてとらえられるかと言うと、おそらく、ダイバーシティを頑張っている会社の人と交流をするのが一番早いのではないでしょうか。自分たちのいる特定の居心地のいい文化のなかで日々仕事をしていると、その考え方が当たり前で、ほかのものを受け入れられなくなるので、一回その当たり前から足を一歩踏み出してもらわないと、ダイバーシティが大事だという新しい刺激を取り込めないのではないかと思います。今の文化を壊すとか、今の考えかたを少しずつ溶かしていくということをやりつつ、他社さんの取り組みを実際に学んでいただくというのが、効率的ではないかと思います。

Q) 当社では、男性は体を張って長時間労働をして売り上げを稼ぐ、女性はワークライフバランスの関係で限られた時間しか働けない、という対立が根強く残っていて、それを認め合って融合することが想像できないのですが…。

A) 結局この問題も「男性はこうあるべき」という「べき論」だと思います。男女平等とか男性だから女性だからという軸ではなくて、一人ひとりにジョブ型のキャリア形成を推進してはどうでしょうか。性別は関係なく、「自分が望んだからこういう働きかたをしているんだ」という議論に切り替えてあげることが重要なんじゃないかなと思います。成果主義と、一人ひとりの目標管理を連動させてあげると、性別に由来する対立というのは多少は和らぐのではないでしょうか。

Q) アクサ生命保険さんのお話がありましたが、ほかに先進的な取り組みをされている企業さんがあったらご紹介いただけますか?

A) インクルージョンマネジメントという言葉の定義が各社各様で内容にバラつきがあるのが現状ですが、それでも非常に頑張っておられると思うのが、(株)ニトリさん、日産自動車(株)さん、ヤフー(株)さんです。インクルージョンでもダイバーシティでも実験的な取り組みを繰り返していて、他社さんから見て学びが多いのではないでしょうか。

Q) マネージャーではなく一般社員同士で価値観の違いを認めあうためには、どのようなことができるでしょうか?

A) 本田技研工業(株)でやっていた「ワイガヤ」などは面白い取り組みですね。合宿のようにしてずっと同じメンバーと議論を続けると、表面的な会話だけでは知ることができなかった価値観の違いに理解が深まります。そこまで徹底しなくても、時代錯誤と思われるかもしれませんが、飲みニケーションや、会社に家族を招いてパーティーやバーベキューなどのイベントを催す「ファミリーデー」といった取り組みも、会社で見る顔と違った面を見ることができて、お互いの理解深まるのではないかと思います。

【参加者の声】表層的・深層的と分類した講義はわかりやすかった

参加された皆さまからのご感想も、一部抜粋してお届けします!

  • 組織論の専門家から、アカデミックな内容について講義いただいた点がよかった。経営幹部にプレゼンするときには基本的な知識が必要なので、活用できるポイントが多くありました。
  • ダイバーシティを表層的・深層的と分類した講義はわかりやすかったです。深層的なダイバーシティへのアプローチがもっと段階的に、例を含めて示されると、より理解が進んだと思います。
  • 他社がどんな取り組みや研修を行っているか知ることができ、勉強になりました。
  • バイアスについてはほとんど知らなかったので、ダイバーシティへの理解が進みました

ユーザー会を終えて

そもそもダイバーシティは本当に経営に役立つのか、何から手をつけたらいいのか、といった基礎からお話をお届けした今回の「入門編」。

「ダイバーシティ向上に力を入れたい」「みんなが働きやすい会社にしたい」とお考えの皆さんには参考になったのではないでしょうか。

ダイバーシティマネジメントの要点や、つまづきがちな「アンコンシャスバイアス」などについてもお話しがあり、ダイバーシティの考え方を浸透させていく筋道も見えたのではないかと思います。

カオナビのユーザー会では機能の使い方に限らず、今回のダイバーシティセミナーのようにさまざまなテーマを取り扱っていく予定です。「こんなテーマを扱って欲しい」「カオナビに集めたデータを採用や経営に活かす方法が知りたい!」「人事施策とセットでカオナビの使い方を教えて欲しい」など、ぜひお気軽にご意見をお寄せくださいませ!

また、カスタマーサクセスチームでは、Twitterも運営中。セミナー情報や便利な活用テクニックなどを定期的につぶやいていますので、チェックしていただけると嬉しいです!

それでは、今後もカオナビをどうぞよろしくお願いいたします!

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マナベル

2022.06.20