ユーザー会レポート

なぜ「個の力」を活かすためにデジタルが要るのか? ─“個を活かす”マネジメント改革2020 レポート(2)

2020年11月11日

イベント

10/15(木)、リモートワークが広がるなかでの人材マネジメントのあり方、テクノロジーによる組織開発を考えるオンラインイベントを実施しました。組織開発、DXにおける官民学それぞれのフロントランナーが登壇するということで話題を呼び、4,000件以上のご応募をいただきました。その模様をお伝えします。

第2部のSession1では、テクノロジーを通じた組織づくりの必要性が高まる中で、「デジタル化推進にあたって欠かすことのできない心構え、極意とは何か?」という問いに対し、弊社COOの佐藤がモデレーターとなりそれぞれ異なる場でデジタル変革を見つめるプロフェッショナルからの提言を伺いました。前半は行政のDXを牽引する渋谷区副区長兼CIOの澤田伸氏、後半はイノベーションの研究者として企業のデジタル変革に示唆を与えてきた早稲田大学 ビジネススクール 教授の入山章栄氏にご登場いただきました。

組織のDXを成功させるコツは「従業員満足」にあり

佐藤:
まず、澤田さんにお伺いします。澤田さんは民間を経て、現在は渋谷区の行政に関われていますが、渋谷区のDX化の取り組みについてお聞かせください。

澤田氏:
最も大事なのは、サービスの提供側である従業員が、まずDXの恩恵を受けることです。DXによる従業員満足(ES)が得られなければ、サービスのデジタル化など考えられないでしょう。そこで渋谷区では、デジタル化のTCR(Total Cost Reduction:全社的に行うコスト削減)を管理しながら、「タイムレス」「プレイスレス」「ペーパーレス」を意識したデジタルによる環境整備を行い、業務の効率化を図りました。それによるROI(Return on investment:投資対効果)を測定し、職員がデジタル化による恩恵を実感した上で、行政サービスのDX化を推進していきました。

デジタルで行政サービスの24時間提供を目指す

佐藤:
行政サービスのDX化について、特に意識されたことがあればお話しください。

澤田氏:
部分的なデジタル化では意味がないと考え、end to endで提供できることを重視しました。行政の関心はセキュリティ面に集まりがちですが、そうするとUI/UXが後回しになって使いにくさにつながります。そこで、世の中で既に浸透しておりユーザビリティにも優れるLINEをサービスの中心に据えました。

DX化の目標は、来庁しなくても区民全てに全サービスを提供できるようになることです。問い合わせ対応や各種申請受付を24時間オンラインでできるようにデジタルレイバーを導入し、本年度は高齢者のデジタルデバイドを解消するために人的サービスの充実を進めています。

将来的にはフルクラウドのSaaSへシフトすることを目指しています。スマート化を進めることで初めて、区民の方々と信頼関係ができます。信頼関係があれば、医療データなどの提供が進み、データ駆動型サービスにリフトアップできると考えているからです。

佐藤:
今後のDX化の展開についてお聞かせください。

澤田氏:
2021年に向けて業務のデジタル化を4割から8割と上げ、AIやRPAも積極的に導入し、”人にしかできない仕事”に職員が専念できるよう環境を整えています。コストの投入先や削減結果を可視化し、5年間で50〜70億円と試算しているコスト削減分を、教育や福祉の充実にあてることを想定しています。今後もDXによって、区民の皆さんの住みやすさや幸せを追求していきたいと考えています。

企業のDXは全員が目的に”腹落ち”することから始まる

佐藤:
渋谷区のDXの取り組みは、企業のDXにも適用できることが多いように思います。澤田さんのお話を聞いて、企業のDXおよび組織変革などに共通して感じられることはありましたか。

入山氏:
渋谷が先進的とは聞いていましたが、直接伺って、ここまで進んでいるのかと驚きました。「区民の生活をこうしたい」という明確な目的や方向性が示されているからこそ、ここまで進めてこられたのでしょう。一方、企業ではDXがバズワード的に注目され、目的化してしまっている傾向が見受けられます。

本来DXは目的があっての手段です。「何のためのDXか」を、全社で”腹落ち”していることが大切です。そのためにはリーダーが方向を示し、さらに現場への権限委譲ができること。そうすれば、既にコロナ禍による課題に対して解決策を模索している現場では、自ら考えて良いDXを実現できるはずです。

佐藤:
全社に浸透させるのは難しいとも聞きます。社内の賛同を得るためにはどうすればよいでしょうか。

入山氏:
納得してもらうには「しつこくいい続け、やり続けること」しかありません。そのために大事なのは、「My story, your story, our story」です。自分の想いや組織の利益を語るだけでなく、”あなた個人”にとっても得であることも伝えるべきでしょう。

コロナを組織変革のビッグチャンスと捉えて行動を

佐藤:
新型コロナウイルスによって、企業や個人でどのような部分が変化したと思われますか。

入山氏:
まず企業については、変化する方向性は変わらなくとも加速は増したと思います。コロナ前から「不確実性が高い時代の到来に備え、DXが必要」といわれていました。とはいえ、日本の社会システムは合理的に絡み合った”経路依存”状態にあり、一部だけ変えても効果が薄いために変化を躊躇する企業も多くありました。それが、コロナによって半強制的にやらざるを得ない状況となったわけです。いわば変化のビッグチャンスといえます。

一方、個人については、リモートワークが主流になって評価の仕組みが変わることに加え、正解がない中で意思決定でき、自分の言葉で語れる人が求められる”個が強い時代”となってきます。デジタルにはできず、人にしかできない「暗黙知」を、他者が共感できる「形式知」として表現できる人が存在感を増すでしょう。

佐藤:
ありがとうございました。お二人に共通するものとして、変化を生み出すために周囲を共感・腹落ちさせること、そして「本気でやる」ことの重要性を強く感じました。

プロフィール

澤田伸 氏
渋谷区副区長。飲料メーカーのマーケティング部門、大手広告代理店、外資系投資ファンドのマーケティング部門などを経て、2015年10月より現職。東京23区では初の民間出身の副区長となり、CIO/CISO兼務で渋谷区のIT改革の立役者としても注目されている。

入山章栄 氏
早稲田大学 ビジネススクール 教授。三菱総合研究所を経て、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得し、同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。2013年から現職。ベストセラーとなった『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)の著者としても知られる。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

イベント

2020.11.11