特別対談企画
AIによって変わる仕事のかたち、人事のかたち

楽天株式会社
 | 執行委員・楽天技術研究所代表

森 正弥

株式会社カオナビ
 | 代表取締役社長

柳橋 仁機

Special Talk

2019.03.28

毎日ニュースなどで目にしない日はない「AI」、そして「ディープラーニング」という言葉。果たしてそれらの技術革新は人事業務にどんな変化をもたらすのだろうか。技術研究の第一人者である森正弥をお招きし、AIの最新トレンドと人事への活用法についてお話を伺った。
※ 本企画は、2019年1月22日に行われたカオナビのWA主催ユーザーミーティングにおける対談を再編集したものです。
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PROFILE

森 正弥

楽天株式会社

アクセンチュア株式会社を経て、2006年に楽天株式会社へ入社。創業10周年事業として立ち上がった楽天技術研究所の最初の専任メンバーとして同社のAI・深層学習を中心とした技術戦略を担うと同時に、世界各国の研究拠点のマネジメントを手がける。2013年、日経BP社IT Proにて「世界を元気にする100人」に、日経産業新聞にて「40人の異才」に選出される。2018年には国連本部にて日本企業代表として、技術研究によるSDGs取組みに関する報告も行った。

柳橋 仁機

株式会社カオナビ

2000年にアンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社し、業務基盤の整備や大規模データベースシステムの開発業務に従事。2002年アイスタイルに入社。事業企画を担当したのち、人事部門責任者として人材開発や制度構築、管理体制の整備などに従事する。2008年に株式会社カオナビを創業、2012年に顔写真を切り口とした人材マネジメントツール『カオナビ』をクラウドサービスとして提供を開始。

AI導入を検討しているならば人事データは蓄積しておくべき

柳橋:最近は“AI”という言葉を耳にすることは多いですが、その活用法や理解があいまいな方も多いと思います。そんな方に向けたヒントになるよう、技術研究の第一人者である森さんに解説していただこうと思います。早速ですが、そもそもAIとはなんでしょうか?

森:実はAIには定義が存在しないんです。2000年くらいまでは最も進んでいるコンピューター技術のことをAIと呼んでいましたが、2010年ごろからディープラーニングやそれに類する技術が発展したことで、「データから法則性を発見し、人間に代わる発見をする技術」のことを指すようになりました。だから、AIという広義の中に、ディープラーニングというものが存在するというわけです。

柳橋:ということは、ディープラーニングが今のAIの主要素と考えていいのでしょうか。

森:そうですね。2000年以前においては、AIの要素技術やディープラーニングは効率の悪い技術という評価が定着していました。しかし大規模データ処理の技術群が発達したことで、2009年あたりから潮目が代わり、それらの論文が再注目されるようになったんです。

柳橋:それはつまり、それまで蓄積されてきたデータが活用されるようになったということですか?

森:そうです。2012年に画像認識精度を競うコンテストが行われたのですが、ジェフリー・ヒントン教授率いる学生たちがディープラーニングを活用して優勝してしまった。さらに化合物反応予測に関する競争でも最優秀となったことで「これはすごい技術だ」と一気に注目されるようになったんです。

柳橋:僕たちはカオナビでAI活用を考えています。でも、そもそもカオナビにデータが入っていなければディープラーニングのしようがない。勤怠やコンディション、SPIの結果など、日々変わっていくデータが蓄積されていくことは、ディープラーニングにとって非常に大切ではないでしょうか。

森:データをどう蓄積するかにもよるが、そもそもディープラーニングは大量のデータを必要とするという大前提がありますから溜めることは重要。ただし、ディープラーニング以外の技術も色々あるので、あまり囚われすぎずにデータを溜めた方がいいと思います。

十分なデータがなくても高精度の結果を導き出せる新技術

柳橋:一方で、ディープラーニングに相反するような「データオーギュメンテーション」という技術があるそうですね?

森:データオーギュメンテーションというのは技術研究の中でも最近の人気トレンドで、感度の高い研究者はすごい活用をしています。データがなければ作ればいいという新しいメソッドです。ディープラーニングは音声翻訳をはじめ、色々な方面で精度が高くなっています。でも、なぜ精度が高くなるかは理論的によくわかっていない。ある程度本物のデータ、残りは嘘のデータを突っ込むという研究が2017年くらいから始まり、「嘘のデータでもその生成方法によっては精度が高くなるケースがある」という論文が発表され業界に衝撃が走ったんです。データが大量になくてもディープラーニングが動くというエポックメイキングの一つがデータオーギュメンテーションというわけです。

柳橋:それは例えば、営業部だけ勤怠データをきちんと入れてくれなかったとしても、部のコンディションがちゃんと出てくるということでしょうか?

森:まさにその通り。一定のデータをもとに水増ししたデータを作るけれども、それでもきちんとした結果が返ってくる応用があるということです。

柳橋:人事の仕事としては「勤怠を作ってしまう」のはあり得ない話なのに、それができる上に精度が高くなるケースがあるというのが面白いですよね。
もうひとつ、プレモデルというのもキーワードになりつつありますよね。

森:専門的に言うと「プレトレーニング(事前学習)モデル」ですね。どこかの会社の人事データをベースに勉強させておけば、ちょっと改変するだけで他の会社ならではのデータになってくれるというものです。

柳橋:大量のデータが必要となるはずのディープラーニングが、データなしの状態でも動くということですよね。

森:カオナビさんの場合、人事業界のプレモデルを作っておくと、少しカスタマイズするだけで他社のデータになるということです。

柳橋:プレモデルが実証的に使われている事例はありますか?

森:2018年の時点で、画像処理や、工場でロボットを動かす技術としては当たり前になりつつありますね。

柳橋:顔認証はどういうトレンドになっていますか?

森:コモディティ化が進み、各社の差がなくなってきていますね。顔認証技術に関しては、トップレベルは8K(映像規格)で争っている状況である上に現状の2D技術で十分な認証ができているため、今後3D技術が爆発的に進み一般普及するとは考えにくいですね。ちなみに、顔認証単体では双子は見破れないというのがこの分野のあるあるです(笑)。

柳橋:もし双子が同じ会社に勤務していたら、顔認証が導入できないわけですね(笑)。

脳科学とAIを組み合わせると離職を予見し、パワハラも防ぐ?!

柳橋:最近では書類選考にAIを活用し、ある程度の選考を行うという話を聞きますが、人事におけるAI活用は今後どうなっていくと考えられますか?

森:うちの研究所でもレジュメ判定とジョブマッチングにAIを使おうという議論が盛り上がっていますが、手書きのレジュメを除けば技術的に難しい話ではありません。ただ、1社でジョブマッチングの完成度を上げるのは難しいので、同業他社と結果やデータを共有できるといいでしょうね。

柳橋:離職防止にはAIを活用できますか?

森:履歴書をもとに、「この人はジョブホッパーではないか」という判断はできます。さらにデータが溜まれば、ディープラーニングで離職を予見するアラートを鳴らせるかもしれない。

柳橋:人事にAIを活用するというと、採用での合否判定に使うなどと考えがちですが、逆に社員に最適な仕事をAIで見つける使い方はできませんか?

森:可能性はあると思います。ある一方方向で処理を行うAI と、逆の方向で処理を行うAI を連結させてお互いのフィードバックを取り込み、精度をあげていくという試みが、2018年のバックトランスレーションなどに代表される衝撃的なパラダイムシフトでした。そのことで、より精度の高いマッチングができるようになっていますから。

柳橋:似た話でいうと、AlphaGo(アルファ碁)同士が戦って強くなったという話もありますよね。

森:そうですね。お互いに戦い合い、インタラクティブにフィードバックを受けていくということですね。

柳橋:双方向で高めあうのがキモということですよね。ところで、様々なセンサーが小型化実用化されていますが、センサー技術に関してはいかがでしょうか。

森:もともとインターネット上に画像が大量に蓄積されていたことで、画像分野でAI、ディープラーニングのトレンドが生まれました。さらにそれを応用すれば自動運転や安全化技術に使えるのではと、カメラや車にトレンドが向かっていったわけです。その結果、センサー開発にもお金が流れた。最近はセンサーの小型化と画像取得の技術進化のトレンドが医療関係にも来ています。

柳橋:脳神経の研究でも、センサーや画像技術の応用が話題になっていますよね。

森:センサーの小型化が進むことで、人間の様々なデータをモニタリングができるようになり、例えば、交感神経優位かどうかという傾向が指先で計れるようになってきています。その技術はスポーツの世界にも応用されていて、リラックスした方が良い動きになるのか、それともプレッシャーがかかった方が良いのかがわかる。これを人事に応用するならば、もしセンサー計測で柳橋さんが交感神経優位とわかったら、部下が突き上げた方がアグレッシブに動き出すということですね(笑)。

柳橋:交感神経優位の人には発破をかければ優位に作用するが、副交感神経優位の人だと不安が増すからリラックスさせた方がいいということですよね。上司の言動がパワハラにあたるかどうかという判断基準にも使えるかもしれませんね。

森:交感神経優位タイプの部下に「なんでもいいよ、大丈夫」なんて言ったら、指示があいまいという評価になるかもしれないですからね(笑)。

既存の規制や枠を破壊できる人がAIには不可能な革新をもたらす

柳橋:最後に、AIとの付き合い方のヒントとして“ラッダイト運動”の話をしたいと思います。蒸気機関車の発明以前は、炭鉱夫の仕事はその運搬など肉体労働が主でした。そこに蒸気機関車が登場すると、肉体労働者から仕事を奪うものと敵視され破壊運動へとつながった……という、19世紀のイギリスで起きたのがラッダイト運動です。つまり、得体のしれない新しい技術が入るとそれを敵視してしまう傾向が人間にはあるということですね。僕が思うに、ネオラッダイト運動はIT革命でも起きていたのではないかと。

森:IT革命の中で、人々の関心が、機械(マシーン)からコンピューターへと移ってきたときでしょうね。当たり前にパソコンが普及し、それまで存在していた数値計算をする専門の職種、すなわち計算士という仕事が奪われた。コンピューターとはもともとこの「計算する仕事」のことを指していたんです。

柳橋:新しい技術が出てきたときに恐怖が出てくるのは当たり前ですが、それと共存していかなくてはいけないと思うんです。森さんはどう思われますか?

森:そもそも「いい仕事ってなんだっけ?」とか、「この仕事を既存のリソースとマッチングさせるとどうだろう」など、バイアスをかけずにプロセスを見直せることがAIの最大の良さです。一方、プロセスを破壊し、意義を組み替えられるのは人間だけ。例えば、無人船をAIで作ったとしても、現在の法規制では、人が乗っていない船の航海は認めていません。例えばアルファ碁は「面白いゲームを考えて」と言われてもできませんが、人間はできる。

柳橋:それがAIと人間の本質的な違いですよね。人間は枠組みを外したり、飽きたりという側面があるからこそ、違うものを模索できる。

森:楽天では株価の研究もやっていて、「リーマンショックを予測してくれ」というリクエストをよく受けるのですが、あれはあり得ない方向から来た学習外のことなので無理なんです。AIはあくまで枠組みの中で正解を出すもので、リーマンショックのような予測に対応できるのは人間。AIに過剰な期待感がありますが、常に枠組みの外で起こることというのはありますから。

柳橋:最後に、森さんはこの先どんな人材を育成していくといいと考えてらっしゃいますか?

森:ルールを壊す人ですね。AIは、ルールやデータの中で人間のできないことをするもの。カスタムはあっても、枠組みがゼロの状態で動かすことは無理です。例えば、無人船というのは法規制があるから航海できないわけで、その規制や枠を取っ払うよう、働きかけることができる人がいなければ実現しない。いかに枠組みやルールを破る人、変えていく人をウェルカムとするカルチャーを作れるかは、今後の人事のポイントになると思います。

柳橋:なるほど。駆け足ではありましたが、AIとは何か、そしてそのトレンド、さらにAIを人事に活用する可能性についての大枠がご理解いただけたのではと思います。森さん、本日はありがとうございました。

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森 正弥

楽天株式会社

アクセンチュア株式会社を経て、2006年に楽天株式会社へ入社。創業10周年事業として立ち上がった楽天技術研究所の最初の専任メンバーとして同社のAI・深層学習を中心とした技術戦略を担うと同時に、世界各国の研究拠点のマネジメントを手がける。2013年、日経BP社IT Proにて「世界を元気にする100人」に、日経産業新聞にて「40人の異才」に選出される。2018年には国連本部にて日本企業代表として、技術研究によるSDGs取組みに関する報告も行った。

柳橋 仁機

株式会社カオナビ

2000年にアンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社し、業務基盤の整備や大規模データベースシステムの開発業務に従事。2002年アイスタイルに入社。事業企画を担当したのち、人事部門責任者として人材開発や制度構築、管理体制の整備などに従事する。2008年に株式会社カオナビを創業、2012年に顔写真を切り口とした人材マネジメントツール『カオナビ』をクラウドサービスとして提供を開始。

 

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