2025年の創立100周年を前に、グローバル企業として進化を遂げるべくさまざまな改革に取り組む宝ホールディングス。同社では、人事戦略の一環としてエンゲージメント向上施策に取り組んでおり、施策をサポートしているのがイグニションポイントです。
なかでも今回は「エンゲージメント調査」の具体例について、カオナビ初の大型カンファレンス「FACE to FES ’24」で、宝ホールディングスの二見哲郎さま(人事部 副部長)、イグニション・ポイントの田村亮さま(コンサルティング事業本部 マネージャー)にお話いただきました。
そこでこの記事では、「準備」「実施」「実施後」という3つのフェーズで、宝ホールディングスが行ったエンゲージメント調査の事例を紹介していきます。
*本記事は、カオナビを活用した人事・人材コンサルティング領域でのパートナーである「コンサルティングパートナー」の事例です。掲載内容はすべて講演時(2024年2月7日)の情報となります。
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準備「操作性」「閲覧性」「セキュリティ」が決め手。システム選定のポイント
田村様(パートナー)今回は貴社が行ったエンゲージメント調査について、準備、実施、実施後の対応という3つのフェーズでお聞きできればと思います。まず、準備の段階ではエンゲージメント調査を行う手段としてタレントマネジメントシステムの「カオナビ」を導入しましたよね。導入の目的や背景から教えていただけますか?
二見様エンゲージメント調査の機能があることはもちろん、大きな目的は、社員情報の一元化と、自己申告や人事評価に関する情報のデータ化です。全社的な電子化・ペーパーレス化の流れもあり、デジタル管理へのシフトを目指していました。
また、人事戦略の観点からもシステム導入の必要性が高まっていました。当社は酒造業からスタートし、国内を中心に事業を展開する会社でしたが、この10年でグローバル化が急速に進み、海外売上比率は約50%に達しました。それにともなって、グローバルに活躍できる人材の育成や、次世代リーダーの輩出が課題となっています。こうした課題に対し、データの集積や活用を通じてアプローチしたいとの考えもあり導入を決めました。
田村様(パートナー)さまざまなツールの選択肢があるなかで、最終的にカオナビを選んだ経緯を教えてください。
二見様タレントマネジメントシステムは、人事部以外の従業員も使うものです。そのため、セキュリティ面はもちろんですが、操作性や閲覧性が決め手となりました。また、労働時間などほかの人事データとのクロス分析も想定していたので、分析のしやすさも評価のポイントです。カオナビは汎用性が高く、かたちが決まりきっていないため、企業ごとの課題に柔軟に適用できる点も魅力だと感じています。
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実施度重なる議論で設問設定。あえて「記名式」にすることで回答の精度を高める
田村様(パートナー)続いて、エンゲージメント調査の実施について移りたいと思います。これは宝ホールディングスさんとしては初めての施策でした。私も実際に京都に行って2泊3日で二見さまと集中的に作業を進めたことは、思い出深い経験です。実施に至る経緯について、二見さまからお話いただけますか?
二見様エンゲージメント調査では、職場、上司、会社などの指標がよく用いられますが、これらの言葉の捉え方は人によって異なります。例えば会社というと、宝ホールディングスという企業体と捉える従業員もいれば、宝酒造や宝酒造インターナショナルなどの事業会社を認識する従業員もいます。やはり設問の意図や回答の基準があいまいなままだと、結果自体もあいまいなものになってしまうという懸念もあったので、議論を重ねながら慎重に設問を考えていきました。
さらに、今回初めての調査ということもありましたが、経営陣の視点や想いも確認しておかないといけません。調査の設計から実施までのスケジュールが非常にタイトで厳しかったのですが、事前に経営陣と認識合わせや意見交換ができたことは、結果的に良かったと思います。経営陣の理解と協力を得ることで、調査の目的や設計について社内の合意形成を行うことができました。
また今回、カオナビをプラットフォームとして選んだことで、自社の意図や想いを込めながら臨機応変に対応できたことも良かったと思います。パッケージ型のソリューションを利用すれば、他社との比較や業界内でのポジショニングの把握が容易になるというメリットがあります。しかし、エンゲージメント調査の目的は、自社のエンゲージメントを高めること。弊社が自社の状況を長いスパンで追跡していくためには、カスタマイズ性の高いカオナビがベストだったように感じます。
田村様(パートナー)エンゲージメント調査を行う際に悩むのが、匿名での回答とするか、記名式にするかです。匿名性を確保することで、より率直な意見を引き出せる可能性がある一方、記名式にすることで経年変化の追跡がしやすくなります。
また、貴社のような多くの工場を持つ企業では、そこで働く従業員がPCを持っていないという課題を持っていることもあります。以上の2点について、貴社での対応をお聞かせください。
二見様エンゲージメント調査は、単に実施して終わりではなく、結果を踏まえてアクションを策定するために行うものです。それを考えると、匿名での調査では十分な精度が得られるかが疑問だったため、当初から記名式で進めるという方針で社内の意見が一致していました。
また紙での回答を認めるかどうかの選択には、ちょうどカオナビの導入が進んでいたタイミングでエンゲージメント調査の実施が決まったことが影響しました。それまでの手書きやExcelでの入力から、カオナビを使ってWeb上で行うように環境を整備したばかりだったので、「工場現場の従業員だけ紙での回答を認めると逆戻りしてしまう」との考えから、弊社の場合は全社でWebに一本化することになりました。
幸い、エンゲージメント調査以前からカオナビでデジタル化を進めていたので、従業員の抵抗感は少なかったように感じます。段階的なデジタル化の取り組みが功を奏しました。
田村様(パートナー)続いて、分析の内容について話を進めたいと思います。調査では全部で65項目ほどの設問を設計しました。それだけでなく、属性や年代、労働時間や残業時間、職務遂行性、評価結果なども掛け合わせた分析を行い、より深い洞察を得ることを目指しました。このあたりの分析について、改めて振り返ると、二見さまはどのように感じましたか?
二見様クロス分析ができるのは、タレントマネジメントシステムの大きなメリットだと感じました。今回は労働時間と評価のデータを用いてクロス分析を行いましたが、さまざまな気づきがありました。
また、エンゲージメントと従業員満足度は異なる概念だと改めて実感しましたし、今回の調査では記名式を採用したため、職場の実態がよく見えてきました。ただし、調査実施にあたっては、データを人事評価に結びつけないことを徹底しました。さらにデータは人事部門だけが取り扱うことをしっかりと明記し、従業員への説明も丁寧に行いました。こうした取り組みの結果、正直に回答してもらえてより精度の高い分析ができたと考えています。
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実施後従業員エンゲージメント向上が「組織力向上」に欠かせないと実感
田村様(パートナー)では最後のフェーズである、エンゲージメント調査実施後の対応について話を進めます。調査は行って終わりではなく、結果をいかに活用するかが重要になります。まず、調査結果の報告と公開のプロセスについてお聞かせください。
二見様エンゲージメント調査は、2023年の3月から約1ヶ月間で実施したのちに調査結果を分析。その後、7月末から8月にかけて経営層へ結果を共有しました。
調査結果を通じて、従業員エンゲージメントの向上が組織力向上に欠かせない要素であるという認識を、経営層と共有できたのは大きな成果だったと捉えています。また同時に、エンゲージメント向上が経営課題であるという点も再確認できました。従業員の生の声から浮き彫りになった課題を共有できたことは、非常に価値があったと思います。
続いて、全従業員へも結果を共有しました。組織別の詳細な数値は開示しませんでしたが、会社全体の課題として浮上した点をありのままに伝えました。これは従業員にも好意的に受け止めてもらえたのではないかと思っています。単にエンゲージメント調査の数値を開示するのではなく、調査によって明らかになった課題や、それに対する会社の認識をしっかりと発信することが大切だと考えています。
また、エンゲージメント向上は人事部だけの努力では実現できません。そこで、本社各部や工場、支社などの組織単位での調査結果を、組織のトップである事業場長にフィードバックし、事業場レベルで解決できる問題は現場で取り組んでもらう一方、全社的な課題については人事部や経営企画部門と連携して解決の道を探るなど、さまざまなかたちで課題解決に向けたアプローチを開始しています。
このフェーズでは、組織ごとのフィードバック資料の作成など、イグニッションポイント社にご協力いただくことも多くあり、大変感謝しています。
田村様(パートナー)嬉しいお言葉、ありがとうございます。ちょうど先ほど「2回目の調査は何月にしようか」と話もしていましたが、経年比較でエンゲージメント調査を行う意義について、二見さまはどのようにお考えですか?
二見様企業を取り巻く経営環境や組織の状況は常に変化しています。当社の場合、10年前を振り返ればグローバル化はそれほど進んでいませんでしたが、今となっては海外売上比率は約50
%です。今後の10年、20年はさらに大きな変化もあるでしょうし、そのなかで、その時々の状況を適切に把握して前進していくためには、エンゲージメント調査で得られたデータを蓄積し、経年比較で分析していくことが欠かせません。何らかの人事施策を行う場合にも、施策の実施前後でエンゲージメントがどのように変化したかを追跡することで、施策の効果を検証して改善につなげることができるのではないかと考えています。
エンゲージメント調査は、まさに組織の健康診断のようなもの。継続的に実施し、長期的な視点でエンゲージメントの状況を把握しつつ、施策の評価と改善を繰り返していくことが、これからの企業経営には欠かせない取り組みになると思います。
田村様(パートナー)最後に、今回導入した「カオナビ」についてお聞きしたいです。カオナビにはエンゲージメント調査以外にもさまざまな機能が備わっていますが、今後の活用の方向性について教えてください。
二見様ようやく2023年度から人事評価機能の運用を開始し、評価データもカオナビに集約される予定です。今後は資格取得や教育研修などの人材育成に関するデータを集めるほか、eラーニングシステムとの連携なども考えられますし、まだまだ課題は山積みです。
さらに人材情報の可視化を通じて、現在の大きなテーマの1つである社内に眠っているグローバル人材の発掘につなげたいと思っています。データが蓄積されていけば、本人も気づいていないグローバル人材の素質を持つ従業員を見つけ出し、育成につなげることができるかもしれませんし、海外での仕事に興味を持ち始めた従業員を発掘できるかもしれません。
このように、タレントマネジメントシステムの活用方法は多岐にわたります。人材情報の集約にとどまらず、非常に大きなポテンシャルを秘めていると感じるので、今後もシステムの可能性を追求しながら、人材マネジメントをアップデートしていきたいですね。
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