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ファクトに基づいた情報を提示できる人事は、経営の“羅針盤”になれるはず

株式会社サイバーエージェント
 | 人材科学センター

向坂 真弓さん

Interview

2019.03.28

インターネット広告事業にはじまり、ゲームやメディアなど各種サービスを次々と立ち上げ、日本有数のインターネット企業へと成長した株式会社サイバーエージェント。同社が2015年から社内で取り組んでいるのが、「人事領域をデータやテクノロジーを用いてマーケティングすること」だ。その役割を担っている人材科学センターの向坂真弓氏は、なぜこの仕事に取り組み、どんな未来を描いているのだろうか。

PROFILE

向坂 真弓

株式会社サイバーエージェント

2003年に新卒入社し、インターネット広告事業本部で営業とマーケティング業務に従事。2011年に退職し、海外でフリーランスとしてマーケティングに携わる。帰国後の2016年に出戻り入社。現在は人材科学センターで人材の適材適所を目的とした人事データの分析を行っている。

一度は退職した“出戻り社員”の私が、経験のない人事に抜擢されたワケ

向坂さんは2003年にサイバーエージェントへ新卒入社していますよね。当時と現在の御社を比較すると、事業の幅や組織の規模感が全く異なっていたと思います。なぜ入社しようと考えたんですか。

「もともとは広告に興味があって、広告代理店を中心に就職活動をしていたんです。当時のサイバーエージェントはネット広告の会社でしたから、あくまでも志望業界の1社という感覚。でも、働く人たちに会ってみると誰もがキラキラとしていたのが印象的で、その姿に惹かれていきました。まだインターネットが今のように発達しておらず、この先どうなるかも分からない時代でしたが、無限の可能性がある産業なんだと楽しそうに語る様子が目に焼き付いて離れなかった。私もそんな環境で働いてみたくなって、躊躇なく飛び込んだ感覚ですね」

入社後は、営業やマーケティングを担当していたそうですが、その間に人事業務に携わったり、興味を持ったりするような経験があったのですか。

「いえ、実は自分の仕事として人事と関わることはほぼなかったんです。ネット広告の営業を3年経験したのち、『マーケティング組織を新しく立ち上げるので一緒にやらないか?』と抜擢されて異動。その後の5年でマーケの基礎を叩き込まれました。2011年にプライベートで上海に転居することになって退職しているのですが、その後も人事への関心が強かったわけではないんですよ」

では、帰国後にサイバーエージェントへ“出戻り”されたのはなぜですか。

「2016年に帰国が決まった当初は、デジタルマーケの経験を活かして他社へ再就職しようと考えていました。一度辞めた会社に戻る発想はありませんでしたし、5年間でサイバーエージェントはスマホ関連のビジネスに舵を切り、事業規模も急拡大していましたから、もう私が第一線で活躍できる場所ではないと思っていたんです。でも実際に就職活動をしてみると、5年間会社員ではなかった私の経歴がキャリアの空白とみなされましたし、ちょうど30代を折り返した頃でしたので、20代とは違って簡単には転職できない現実を目の当たりに。そんな状況をサイバーエージェントの新卒同期に話したところ『戻ってくればいいじゃん!』と言って、人事担当役員の曽山に相談してくれたのがきっかけになりました」

そこで現職の「人材科学センター」を打診されたのですね。

「そうですね。私としては古巣のネット広告事業か、他部署でもマーケティングの仕事ならどうにか働かせてもらえるかなと思っていたんです。だから人事をやらないかと言われたときは驚きました」

なぜ向坂さんが抜擢されたのだと思いますか。

「あの時に曽山から言われたのは、『人事でマーケティングをやるから』という言葉。組織を良くするために人事領域でデータ活用をしたい会社の狙いと、マーケティングという私の強みを上手く繋げてもらったと思っています。また、『スキルだけじゃなく、会社のことを良く分かっている人に任せたい』とも言われましたね。人事の経験や分析・解析の知識だけを基準に採用するなら、世の中には私以外にいくらでも適任者がいたと思うんです。でも、サイバーエージェントは優秀さよりも“サイバーエージェントらしさ”を優先する会社。だからこそ、昔から大切にしてきた会社のカルチャーを知っている私に期待してもらえたのかもしれませんね」

あえて「変化がない人」に注目するのがサイバーエージェント流のデータ活用術

ここからは人材科学センターでの道のりを教えてください。過去に8年働いていた会社とはいえ人事が未経験だった向坂さんにとっては、働きだして驚いたこともあったのではないでしょうか。

「まず感じたのが私の想像以上に人事のみんなが忙しそうに働いていて、その要因はアナログな実務だらけだったこと。紙の書類ベースで行われる業務も多かったことなどを目の当たりにして、『私が働いているのはインターネットの会社だよね?』と思ったほどです(笑)。だから、会社全体を良くするためという目的と同じくらいに、人事業務の進化(デジタル化)も必要だと感じましたね。おかげさまでデータ活用の流れのなかで徐々に業務改革も進んでおり、最近は人事全体でもデータやシステム化の意識がかなり高まっていると感じます」

人事データの活用という意味においてはいかがでしょうか。

「社員の状況を可視化・一覧化すると、“Aさんは業績が高い”“Bさんは労働時間が長い”といったように、一般的には極端な値の人に目が行くと思うんです。けれど、実は注目すべきは“普通の人”。経年でデータを見ていくと、あまり変化が見えない人こそ心に何かあると思った方が良いと分かってきました。というのも、私たちは変化の激しいインターネット業界に身を置き、ベンチャースピリットを大切にして成長してきた会社ですから、働く人も常に変化をしている状態が普通なんです。そう考えると、右肩上がりで変化している人はもちろん、下がっている場合でも何かしらの壁を乗り越えるために一時的に苦しんでいるのであれば健全な状態。むしろ、良くも悪くもない現状維持を続けている人をケアした方が良いんです」

変化の波があって当然という発想は確かにサイバーエージェントらしいですね。まさしく、自社らしさを分かっているという向坂さんの強みが、データ活用に活かされているエピソードだと思います。

「また、変化をしていない人と話してみると、そこには彼らなりの悩みがあることも見えてきたんです。たとえば同じ部署や同じ仕事を5年続けているような人。誰よりもその仕事を熟知し、中核メンバーだからこそ『本当は今と違う仕事にチャレンジしたいけれど、自分が抜けたら迷惑がかかる気がして遠慮していた』と本音を打ち明けてくれたこともありました。こんな風にデータをもとにして人の気持ちや組織の空気感をいかに察知するかが大切。埋もれていた想いをすくい上げて、会社全体での人材の流動性を高め、適材適所を実現するのも私たちの役目だと思っています」

データという武器があれば、人事が経営と距離を縮めるための勇気が湧いてくる

データを活用すれば、他にも人には分からないような事実が明らかになっていくんですか。

「実は、意外とそうでもないんです。先ほどのケースも含め、経営陣や現場のマネージャーとデータをもとに会話をしても、『なんとなく分かっていた』という返答がほとんど。ものすごくセンセーショナルな事実が導き出されるようなことはあまりないし、私はそれで良いと思っています」

では、それでもコストと時間をかけて科学する理由はどこにあると思いますか。今、他社でもデータ活用やHRTechを検討する動きはあるものの、導入メリットを経営に問われている人事も多いと聞くのですが…。

「『ファクトに基づいた情報提供によって、意思決定の精度とスピードが上がる』ことだと考えています。たとえ感覚的には答えが出ていることだとしても、それが経営判断や個人のキャリア・人生に関わる事柄であれば、簡単には決められませんよね。いわば、私たちは、経営にとっての羅針盤。戦略を練りゴールや目的を示すのはあくまでも経営の役割ですが、データによってその正しさを裏付けることは、非常に重要だと思います。ただ、私の経験談として一つお伝えしておくと、データを見せたその瞬間に何かが決まることはほとんどないので、粘り強く続けていくことが大切ですね」

それはどういうことなのでしょうか。

「たとえば、役員会議で人事データを共有しても、その場で“人材の話”にはならないんです。はじめは私もこの仕事に意味があるのだろうかと不安になったんですが、ある日新規事業の子会社をつくるぞという話が持ち上がったときに、誰を社長に抜擢するかがすんなり決まったことがあったそう。他にも、当社では役員がリーダーとなって社員と一緒に新規事業や制度を立案する『あした会議』という経営会議があるのですが、その人選のヒントにもなっているようです。こんな風に一つのデータで何かが決まることはないけれど、少しずつ蓄積されていくことで、やがて経営に効いてくるのだと思います」

向坂さんは、人事はどのように進化したら良いと思いますか?

「当社に限らず、いろんな会社で人事と経営の距離がもっと近づいたら良いなと思っています。他社の人事の方々とお話すると、『そもそも経営に提言できない』という人は少なくない印象。だからこそ、人事がデータという新しい武器を持つことで、経営からも一目置かれるきっかけになれば良いですね」

では最後に、向坂さんが人事として大事にしていることを教えてください。

「私自身は難しい解析が出来るわけでもありませんし、データやテクノロジーが当たり前になったとしても人事の本質は変わらないと思います。あくまでも私たちが向き合うべきは人。むしろ難しいことはテクノロジーにお任せして、人事はもっと人の心や想いなどのウェットな部分に寄り添える存在になっていくと良いのかもしれません」

人事なら読むべし! オススメの1冊

FACTFULNESS(ファクトフルネス) 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣
著:ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド
訳:上杉周作、関美和
刊:日経BP社

脳科学に興味があって、関連書籍として最近読みはじめました。というのも、人事は人の評価や適材適所に携わるので、思い込みや習慣に影響されるような“認知バイアス”を乗り越える必要があるから。いかにフラットに物事を捉えるかは、これだけ様々な情報が飛び交う社会において人事だけでなくすべての人に必要な力だと思います。

会社概要

社名 株式会社サイバーエージェント
設立 1998年
事業内容 メディア事業、インターネット広告事業、ゲーム事業、投資育成事業
従業員数 1,551名(グループ計 4,853名) ※2018年9月末現在
会社HP
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向坂 真弓

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2003年に新卒入社し、インターネット広告事業本部で営業とマーケティング業務に従事。2011年に退職し、海外でフリーランスとしてマーケティングに携わる。帰国後の2016年に出戻り入社。現在は人材科学センターで人材の適材適所を目的とした人事データの分析を行っている。

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