労働基準法とは、労働条件の最低基準を定めている法律のこと。労働者を雇用している使用者は、正しく労働基準法を理解し、法に則った企業経営をしていく必要があるのです。
- 労働基準法とは何か
- 労働基準法の主な内容
- 働き方改革による改正内容
- 労働基準法の違反企業事例
などについて、詳しく解説します。
目次
1.労働基準法とは?
労働基準法とは、労働条件の最低基準を定める日本の法律で、日本国憲法第27条第2項に基づいて1947年に制定されました。
労働者が持つ生存権の保障を目的として、労働契約や賃金、労働時間、休日および年次有給休暇、災害補償、就業規則などの項目について、労働条件としての最低基準を定めています。
労働三法の1つ
労働三法とは、労働基準法、労働組合法、労働関係調整法、3つの法律の総称です。しかし労働三法という言葉は、法律上の名称ではありません。
労働三法とは、労働事件の最高裁判所裁判例などにおける法律的判断を含めたもので、労働三法と称した法体系のこと。労働三法という言葉は講学上の用語と捉えてください。
労働三法に挙げられている法律は、具体的な労働基本権を示すもので、労使にとって非常に重要な法律です。
憲法第27条「労働権」とは?
日本国憲法第27条には、「労働権」が規定されています。労働基準法は、この日本国憲法第27条の定めである「労働権」に基づいて1947年に制定されました。
労働基準法は、統一的な労働者のための保護法としての役目を担うため、労働基準法で規定されている事項は労働者の労働条件として最低限度の内容となっています。仮に使用者と労働者間で合意があっても、労働基準法の内容を下回る労働条件は無効となるのです。
使用者は、労働者との労働契約締結の際に、労働条件が労働基準法の定める最低基準を下回っていないかを確認しなくてはなりません。
労働基準法の強行法規性(労基法第13条)
強行法規とは、法令の規定の中で、その法令に反する当事者間の合意があるか否かを問わずに適用が強行される規定のこと。強行法規に反した労働契約は、合意があっても無効とされます。
罰則付きの法律
労働基準法は罰則のある法律のひとつで、違反したと認められた行為に対し、罰金刑や懲役刑といった刑事罰が科せられることもあります。
罰則に関しては、労働基準法第13章第117条から121条までの条文に規定されており、刑事罰の中で最も重い処罰は、「強制労働を行わせていた場合(労働基準法第5条違反)」です。
労働基準法第5条違反の場合、「1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金」が科せられます。
労使トラブルに多い解雇予告手当を支払わずに即時解雇した場合の刑事罰を見ると、
- 労働基準法第20条の違反となる
- 6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる
といった状況になるのです。労働基準法は罰則付きの法律であるとしっかり意識しておきましょう。
2.労働に関する主な法律
労働に関する法律には、
- 個別的労働関係法
- 集団的労働関係法(労使関係法)
があります。
①個別的労働関係法
個別的労働関係法とは、個別的な労働関係および労働契約関係に関しての法律です。そんな個別的労働関係法には、下記のようなものがあります。
- 労働基準法
- 労働契約法
- 労働安全衛生法
- 男女雇用機会均等法
- パートタイム労働法
- 育児・介護休業法
- 最低賃金法
これらはすべて、労働者の個別的な契約に大きな影響力を持つ法律です。
労働基準法
労働基準法は、労働者の生存権の保障を目的として、労働契約や賃金、労働時間、休日および年次有給休暇、災害補償、就業規則といった労働者の労働条件についての最低基準を定めた法律です。
使用者は、仮に労働者との間に合意があっても、労働基準法で明記されている内容を下回る労働契約を締結することは認められていません。
労働契約法
労働契約法は、平成19年に成立した法律です。働き方が多様化し、労働者ごとに労働条件が決定されることが多くなった結果、個別の労働紛争は増加傾向となりました。
そのため、労働契約を巡る不要な労使トラブルを回避するために、労働契約の基本的ルールを定めた労働契約法が平成20年3月に施行されたのです。労働基準法は労働者の最低労働基準を明記したものであり、労働基準法に違反した場合には罰則が科せられます。
それに対して労働契約法は、
- 個別労働紛争の未然防止
- 労働者の保護
- 個別労働契約の安定
を目的としており、個別労働関係紛争の解決を目的とする私的領域に関する法律となっているのです。

労働契約法とは? 就業規則との関係性、基本原則、裁判例
労働契約法とは、労働者と使用者間で締結される契約についての法律です。その目的や就業規則との関係性、労働基準法との関係や基本原則、概要や注意点、裁判例などについて解説します。
1.労働契約法とは?
労...
労働安全衛生法
労働安全衛生法は、
- 労働災害を防止するための危害防止基準の確立
- 労働災害に関する責任体制の明確化
- 労働災害に対して自主的活動の促進の措置を講ずる等の労働災害防止に関する総合的計画的な対策の推進
3本柱を実施することで、場での労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境の形成を促進する法律です。
もともと労働安全衛生法は、労動基準法の中にあった労働者の安全や衛生に関する規定を分離し独立させたものでした。つまり労働基準法と労働安全衛生法は、一体としての関係にあるといえるのです。

労働安全衛生法とは? メリット、ストレスチェック制度、違反した場合の罰則
労働安全衛生法とは、労働者の安全と健康、よい職場環境の確保を目的とした法律です。
背景や遵守によって得られるメリット、企業が行うべき項目や違反した場合の罰則などについて解説します。
1.労働安全衛生...
男女雇用機会均等法
男女雇用機会均等法は1985年に制定され、1986年に施行された法律です。正式名称を、「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」といいます。
- 性別を理由とする差別を禁止
- 間接差別の禁止
- 女性労働者に係る措置に関する特例
- 婚姻、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等
について定めています。
パートタイム労働法
パートタイム労働法の正式名称は、「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」です。平成5年6月に制定され、同年12月に施行されました。
パートタイム労働法は短時間労働者についての、
- 適正な労働条件の確保
- 雇用管理の改善
- 通常の労働者への転換の推進
- 職業能力の開発及び向上等
を目的としています。パートタイム労働法の対象者となる労働者は、正社員もしくはフルタイム労働者の1週間の所定労働時間と比較して労働時間が短い労働者です。

パートタイム・有期雇用労働法とは?【わかりやすく解説】
パートタイム労働法とは、
正規社員
非正規社員
の不合理な待遇差を禁止するための法律です。
ここでは、パートタイム労働法について解説します。
1.パートタイム労働法(パートタイム・有期雇用労働法)...
育児・介護休業法
育児・介護休業法の正式名称は、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」で、育児と仕事、介護と仕事といった2つの両立を目指した生活を提供するための法律です。
子の養育および家族の介護を行う労働者に対して、
- 所定外労働時間の制限
- 時間外労働の制限
- 短時間労働勤務の実施
など、事業主が講ずべき措置を定めています。また、育児・介護休業法の制度を利用したことを理由とした解雇や降格、減給など、労働者に対する不利益な取り扱いも併せて禁止しているのです。
近年の改正では、
- 介護休業の分割取得
- 育児休業の取得条件の緩和
などが定められました。

育児介護休業法とは?【わかりやすく簡単に解説】改正
進行する少子高齢化社会の中では、誰が、いつ、仕事と介護・育児の両立を迫られるかわかりません。いざ両立を迫られたとき、とても助けとなるのが、「育児・介護休業法」の存在です。そんな育児・介護休業法が改正さ...
最低賃金法
最低賃金法は、労働基準法で定められている最低賃金制度を分離独立して作られた法律で、使用者が労働者に対して支払う給与などの賃金について最低額を定めています。
賃金の低い労働者について、
- 事業若しくは職業の種類又は地域に応じ賃金の最低額を保障
- 労働条件の改善
- 労働者の生活の安定、労働力の質的向上
を図ることを目的とし、
- 事業の公正な競争の確保
- 国民経済の健全な発展への寄与
なども併せて実現していくために制定されました。現在、最低賃金は中央最低賃金審議会で決定され、最終的には各都道府県の労働局長の判断によって決定されています。
集団的労働関係法(労使関係法)
集団的労働関係法とは、使用者と労働者、2者間について規定している法律です。集団的労働関係法といわれる法律には、労働組合法と労働関係調整法があります。
労働組合法
労働組合法は、労働基準法や労働関係調整法と並ぶ労働三法の1つです。使用者や労働組合の関係を定めた法律で、労働者が使用者と交渉する際、使用者と対等な立場に立つことの促進、労働者の地位の向上を目的としています。
また、労働組合法では、「労働者がその労働条件について交渉するために自ら代表者を選出することその他の団体行動を行うために自主的に労働組合を組織し、団結することを擁護すること並びに使用者と労働者との関係を規制する労働協約を締結するための団体交渉をすること及びその手続を助成すること」も併せて、法の目的と定めています。
一人ひとりの労働者の立場が弱くとも労働組合をつくることで団体交渉を可能とし、使用者と対等の立場で労働条件をより良くしていく。そのために生まれたのが、労働組合法だと解釈できます。
労働関係調整法
労働関係調整法は、労働基準法や労働組合法と並ぶ労働三法の1つです。労働関係調整法には、労働関係の公正な調整および労働争議の予防や労働争議を解決するための手続き
が定められています。
具体的には、行政機関である労働委員会が、あっせんや調停、仲裁といった労働争議を統制する手続きが明記されているのです。
3.労働基準法の制定目的
労働基準法は、労働時間や賃金、休日といった労働条件に最低限の基準を設けることを法律制定の目的としています。なぜなら、労働条件とはそもそも、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすものでなければならないからです。
つまり、労働基準法に定められた事項は最低限度の内容になっているため、労働関係の当事者はこの基準を理由として労働条件を低下させることは許されていません。
労働基準法は、
- 労働契約
- 賃金
- 労働時間
- 安全衛生
- 女子労働
- 年少労働
- 災害補償
- 附属寄宿舎の自治
といったさまざまな分野に関して、国際的水準の基準を達成すべく労働者の労働条件の向上を目指しています。
4.労働基準法の対象者
労働基準法は、労働者の労働条件に最低限の基準を設けた法律で、家事使用人や同居の親族を除いた、すべての労働者が対象となっています。
ここでいう「すべての労働者」とは、正社員やパート、アルバイト、契約社員、派遣社員など、日本国内で営まれている事業に従事している労働者のこと。
また、「すべての労働者」にある「労働者」に該当する条件として、
- 職業の種類を問わない
- 事業または事務所に使用されている
- 賃金を支払われる
という3条件があります。
適用事業の範囲
労働基準法は、日本国内のほとんどの事業に適用されています。たとえば、労働者を1人だけ使用している事業や事業所でも労働基準法の適用事業に該当するのです。
ただし、労働基準法の対象者から除外されている、家事使用人・同居の親族のみの事業や事業所には適用されません。国内にあるほとんどの事業や事業所は労働基準法の適用を受けますが、一部に例外がある点を正しく理解しておきましょう。
5.労働基準法の主な内容
労働基準法は、全12章で構成されています。
- 労働条件の明示(労基法第15条)
- 解雇の予告(労基法20条)
- 賃金支払いの4原則(労基法24条)
- 労働時間の原則(労基法32条)
- 休憩(労基法34条)
- 休日(労基法35条)
- 時間外および休日の労働(労基法36条)
- 時間外、休日および深夜労働の割増賃金(労基法37条)
- 年次有給休暇(労基法39条)
- 就業規則(労基法89条)
- 制裁規定の制限(労基法91条)
- 周知義務(労基法106条)
①労働条件の明示(労基法15条)
第15条では、使用者は労働者と労働契約を締結するにあたり、当該労働者に対して、賃金や労働時間、その他厚生労働省令で定める労働条件について、明示しなければならないとされています。
労働条件が事実と異なる場合、労働者は即時に労働契約の解除が可能です。
②解雇の予告(労基法20条)
使用者は労働者を解雇しようとする場合、
- 少なくとも30日前に解雇の予告をしなければならない
- 30日前に解雇の予告をしない場合には、解雇予告手当として30日分以上の平均賃金を支払わなければならない
のです。
解雇予告に関する注意点
労働基準法第20条は解雇のための手続きを定めたものですが、それに従い解雇予告をしても解雇事由が、客観的、合理的な理由を欠いている場合、当該解雇は無効になります。
ただし、
- 天災事変その他やむを得ない事由によって事業の継続が不可能
- 労働者の責に帰すべき事由に基づく解雇
の場合、労働基準法第20条の限りではないとされています。
③賃金支払いの4原則(労基法24条)
賃金支払い4原則とは、下記のようなものです。
- 賃金を通貨で支払う、通貨支払の原則
- 賃金は直接労働者に支払う、直接払いの原則
- 賃金はその全額を支払う、全額払いの原則
- 賃金は毎月1回以上一定の期日を定めて支払う、毎月1回以上一定期日払の原則
ただし、法令や労働協約に別段の定めがある場合など一定の条件が整った場合には、
- 通貨以外のもので支払う
- 賃金の一部を控除して支払う
などの取り扱いが可能となります。
賃金全額払原則に関する注意点
賃金全額払原則の注意点は、使用者が労働者に賃金を支払う際、賃金と当該労働者に対する債務を相殺すること。労働基準法では賃金と債務の相殺は、賃金全額払原則に違反する行為となっています。
④労働時間の原則(労基法32条)
労働時間の原則とは、下記のようなものです。
- 使用者は、労働者に休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない
- 使用者は、1週間の各日については、労働者に休憩時間を除き1日について8時間を超えて労働させてはならない
変形労働時間制、フレックスタイム制、裁量労働制など
働き方改革の影響もあり、さまざまな働き方を導入する企業が増えてきました。このような背景もあって、労働基準法第32条、労働時間の原則には例外があります。たとえば下記のようなものです。
- 変形労働時間制
- フレックスタイム制
- 裁量労働制

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⑤休憩(労基法34条)
使用者は、労働時間が、
- 6時間を超える場合においては少なくとも45分
- 8時間を超える場合においては少なくとも1時間
の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない、と定められています。休憩時間は労働者にとって、心身の休息を図る大事な時間です。
- 休憩時間は、一斉に与えなければならない
- 使用者は、労働者に休憩時間を自由に利用させなければならない
なども定められています。
休憩に関する注意点
労働基準法第34条に定めのある休憩とは、労働から解放されている時間のこと。たとえば、作業と作業の間に手が空いた時間などは使用者の指示があればすぐに業務に従事する時間と考えられます。
そのため、労働者が労働から解放されていない時間については労働時間の一部であると見なされてしまうのです。つまり、このような手が空いた時間は、労働基準法第34条の中にある休憩時間には含まれません。
⑥休日(労基法35条)
使用者は労働者に対し、毎週少なくとも1回の休日を与えなければなりません。また、4週間を通じ4日以上の休日を与えることも可能です。
過労死などを防ぐためにも、休日の適切な管理は非常に重要でしょう。そこで労働基準法では、労働者が休日を取得できるよう、具体的な日数管理の方法を明記しているのです。
⑦時間外および休日の労働(労基法36条)
使用者は、
- いわゆる36協定と呼ばれている労使協定を締結する
- 労使協定を労働基準監督署に届け出る
2つの条件を満たした場合、当該労使協定で定める範囲内で、労働時間の延長や休日労働が可能となります。逆説的に言えば、時間外労働や休日労働をさせる予定のある使用者は、事前に36協定を締結し行政官庁に届け出ておかなければならないのです。
36協定(サブロク協定)とは?
36協定とは、労働基準法第36条に明記されている労働協定のことで、正式名称は、「時間外・休日労働に関する協定届」です。
使用者は、36協定の締結および労働基準監督署への届け出なしに、労働者に対して法定時間外労働や休日労働を命じることはできません。労働基準法は休日労働を除いた時間外労働の上限を原則として月45時間、年360時間と定めています。
臨時的な特別の事情がない限り、この上限を超えて労働させることはできません。また仮に、臨時的な特別の事情があっても、
- 時間外労働は、年720時間以内
- 時間外労働と休日労働の合計時間は、月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内
としなければなりません。なお、中小企業についての時間外労働の上限適用は、2020年4月からとなっています。

36協定とは?【わかりやすく】違反、特別条項、新様式
36協定とは、従業員に法定労働時間を超えて労働をさせる場合に、労使間で書面にてその旨を取り決めておく協定のこと。
労働基準法第36条に定めがあり、違反して違法な時間外労働をさせた場合には罰則が科されま...
⑧時間外、休日および深夜労働の割増賃金(労基法37条)
使用者が労働者に対して、法定時間外労働・休日労働・深夜労働を命じた場合、割増賃金を支払わなければなりません。割増賃金の割合は、時間外労働や休日、深夜などの場合で異なります。
どの割増率で賃金を支払えばいいのかを正しく理解してきましょう。具体的な割増賃金の計算は、以下の通りです。
- 法定時間外労働は、1時間当たりの賃金×1.25
- 休日労働は、1時間当たりの賃金×1.35
- 深夜労働は、1時間当たりの賃金×1.25%
- 法定時間外かつ深夜労働は、1時間当たりの賃金×1.50
- 休日かつ深夜労働は、1時間当たりの賃金×1.60%
残業代の計算方法に関する注意点
残業代を計算する際の注意点は、1カ月の法定時間外労働が60時間を超えるようなケースにおいて、60時間を超える部分についての時間外労働の割増賃金は、25%増しではなく50%増しで支払う義務があること。
中小企業の場合、2023年4月からこの割増率を適用することになっています。割増賃金を含めた給与計算を正しく行うためにも、労働時間の管理を併せて厳格に行いましょう。
⑨年次有給休暇(労基法39条)
使用者は、
- 雇入れの日から起算して6カ月間継続勤務
- 全労働日の8割以上出勤
の条件を満たした労働者に対し、継続または分割した10労働日の有給休暇を与えなければなりません。年次有給休暇の付与日数は、勤続年数が増加するに従って最大20労働日まで増加します。

有給休暇 / 有給 / 年休とは? 年休と有給の違い
年次有給休暇は、労働者の当然の権利です。働き方改革では、労働者の心身のリフレッシュを図ることを目的に、年次有給休暇の取得を促進する改革を行いました。
ここでは、
年次有給休暇とは何か
年次有給休暇の...
パートタイム労働者の有休について
年次有給休暇は正社員だけでなく、パートタイム労働者やアルバイトといった週の所定労働時間が短い労働者に対しても
- 雇入れの日から起算して6カ月間継続勤務
- 全労働日の8割以上出勤
という条件を満たした場合に付与されます。付与される年次有給休暇の日数は、週所定労働日数によって異なります。
⑩就業規則(労基法89条)
就業規則については、
- 常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成する
- 作成した就業規則は行政官庁である労働基準監督署に届け出なければならない
と明記されています。常時10人以上の労働者は、雇用形態や勤務時間などを問いません。
⑪制裁規定の制限(労基法91条)
就業規則の中で減給の制裁規定を設ける場合、「1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」という規定を遵守する必要があります。
制裁については減給のほか、出勤停止や譴責、懲戒解雇などがありますが、減給以外の制裁内容について労働基準法による制限は規定されていません。
⑫周知義務(労基法106条)
使用者が労働者に対して周知しなければならないものは、労働基準法や就業規則などです。
使用者は、労働者に対して労働基準法や就業規則などを、
- 常時、各作業場の見やすい場所へ提示する、又は備え付ける
- 書面を公布する
- その他、厚生労働省令で定める方法、磁気テープや磁気ディスクによって周知する
などで伝えなくてはなりません。
6.労働契約法による定め
労働契約法は、使用者と労働者との間で締結される労働契約に関する基本的事項を定めた法律で、下記のようなことが定められています。
- 労働契約の成立
- 就業規則と労働条件
- 就業規則違反の労働契約
- 懲戒
- 解雇
- 期間の定めのある労働契約
- 有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換
- 有期労働契約の更新
労働者を雇用する立場にある使用者は、労働基準法だけでなく労働契約法の中身もある程度しっかりと把握しておくことが必要です。
特に、
- 労働関係がいつ成立したのか
- 不当解雇
- 雇止めといった有期労働契約の更新
については、労使間でのトラブルが絶えません。法律上、労働契約がどのようになっているのかを正しく理解しておけば、労使トラブルが起きても速やかに対処できるでしょう。
解雇
労働契約法では、解雇について「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」としています。
職を失うことは、労働者にとって生活基盤を失うことと同等です。労働契約法では、使用者が解雇権を濫用し、客観的に合理的な理由なく労働者の生活基盤を奪うことを禁止しています。

解雇とは?【4種類の解雇】懲戒処分の内容、解雇の流れ
ニュースや新聞で度々目にする「解雇」。仕事をする人としては何かと気になりがちな言葉ですが、「解雇」の定義とは一体どんなものか、よく分からないという人も多いでしょう。
ここでは、
解雇の定義
解雇の種...
無期転換ルール
平成24年8月に、改正労働契約法が成立し、平成25年4月1日から施行されました。この改正により、無期転換という新たな雇用に関するルールが設けられたのです。
無期転換ルールとは、同一の使用者との間で有期労働契約が更新されその通算が5年を超えた場合には、労働者が申し込みをすることによって無期労働契約に転換されるといったもの。
当該労働者が使用者に対し、現在締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までに無期転換申込みをした場合は、使用者は当該申込みを承諾したものと見なすことになっています。

無期転換ルールとは? 無期雇用転換、無期労働契約への転換について
期間を定めて雇用されている労働者、いわゆる非正規社員と呼ばれる労働者の雇用確保が社会問題となっています。同時に、企業にとって少子高齢化による労働人口の急激な減少が頭を悩ませる課題となっているのです。こ...
非正規社員の雇止め(有期契約の更新拒否)
労働契約法には、非正規社員の雇止めについても言及しています。これは、非正規社員として労働契約を反復して更新してきたにもかかわらず、客観的に合理的な理由がないまま雇止めが行われることを禁止するルールです。
具体的な条件として、
- 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること
- 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること
2つが挙げられています。
7.働き方改革における労働基準法の改正内容
- 少子高齢化による人手不足
- 過労死などに象徴される過重労働
- 育児や介護などと仕事との両立問題
といった社会構造の変化や社会問題に対応するため、2018年に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」、いわゆる「働き方改革関連法」が成立しました。
この法案が成立したことで、
- 長時間労働の是正
- 多様で柔軟な働き方
- 雇用形態に関わらない公正な待遇の確保
などの実現に向けて、各種労働法規制の整備が行われたのです。労働基準法も働き方改革によって、いくつかの部分で法改正を行っています。労働者の働き方に関わる4つの改正内容について個別に見ていきましょう。
- 時間外労働の絶対的上限規制の導入
- フレックスタイム制の見直し
- 年次有給休暇の付与義務の創設
- 高度プロフェッショナル制度(特定高度専門業務・成果型労働制)の導入
①時間外労働の絶対的上限規制の導入
過重労働による過労死は、日本において深刻な労働問題のひとつです。時間外労働の絶対的上限規制は、この過労死をゼロにするために設けられました。
時間外労働の絶対的上限規制とは、上限なく時間外労働が可能となっていた特別条項を用いた場合でも上回ることのできない上限、すなわち絶対的上限規制を設定するといったルールのこと。
時間外労働の絶対的上限規制は、過労死の撲滅を図るだけでなく、
- マンアワー当たりの生産性を上げる
- ワーク・ライフ・バランスの改善
- 女性や高齢者にとっての働きやすい社会の創造
の実現も目的としています。長時間労働の是正だけでなく、一億総活躍社会の実現に向けて多様で柔軟な働き方を構築するためにも、必要不可欠な改正といえるでしょう。
労働基準法第36条の全面改正
時間外労働の絶対的上限規制の導入にあたって、労働基準法第36条が全面改正されることになりました。現在、省令や時間外限度基準告示などの中で定められている事項のほとんどを、法律条文上に記載する形で改正が行われたからです。
そのため、時間外や休日労働といった労働時間に関する36協定の事項がすべて「法律」で規制されることになりました。このことは、従来から行政が行ってきた「使用者が行うべき労働時間の管理に対する監督指導」が、より一層強化されることを意味しています。
使用者は、改めて時間外労働や36協定について、しっかりと確認しておかなければなりません。
年間上限時間「720時間」
労働基準法が改正されたことで、大企業は2019年4月から、中小企業は2020年4月から年間の時間外労働に720時間という絶対的上限規制が設けられることになりました。
従来の労働基準法では時間外労働について、月45時間、年間360時間という上限が設けられていたのです。しかし、やむを得ない場合には年6カ月に限り所定の手続きを行うことで月45時間を超過しての時間外労働が可能となりました。
時間外労働・休日労働「平均80時間以内」「月100時間未満」
労働基準法の改正によって、休日労働を含めた時間規制が新たに設けられました。社員の健康を害する時間外労働の時間数、いわゆる過労死ラインは月80時間です。
そのため時間外労働や休日労働については、2カ月から6カ月の平均で月80時間を超えてはならないという規制が設けられました。
また、医学的エビデンスにより、過労死ラインを超えた長時間労働が常態化することで、脳血管疾患や心臓疾患の発症率が増加すると判明しています。
時間外労働や休日労働が2カ月から6カ月の平均で月100時間に達した場合、明らかに身体医学的にも精神医学的にも極めて危険な状態に陥ることから、月100時間に達することを禁止する規定も盛り込まれているのです。
労働時間の状況把握義務と医師による面接指導(労働安全衛生法)
大企業と中小企業のどちらも、2019年4月より時間外労働や休日労働が月80時間を超過した労働者(管理監督者を含む)から申し出があった場合には、医師による面接指導を受けさせることが義務化されました。
面接指導を実施するためにも、厚生労働省令で定める方法による労働時間の把握が必要となり、時間外労働割増賃金を支払わなくても構わない管理監督者も含めて、
- 使用者の現認
- ICカード
- タイムカード
による在社時間の把握が必要になったのです。
5割割増賃金の中小企業への適用猶予の廃止
労働基準法第37条1項ただし書きには、中小企業について、月60時間を超過した時間外労働に対して5割増しで割増賃金を支払うことを猶予する定めがありました。しかしこの猶予に関する規定は、2023年4月1日から削除されます。
このため従来、中小企業への適用を猶予されていた月60時間超過の時間外労働への割増賃金の支払いが、支払い義務に変更となるのです。
時間外労働に関する割増賃金の支払いは、労使間のトラブルの原因になりやすいといえます。使用者は、時間外労働の管理を適切に行うとともに、割増賃金の支払いを怠ることのないようにしなければなりません。
②フレックスタイム制の見直し
従来のフレックスタイム制は、労使協定を締結するのみで届出義務はありませんでした。しかし今回の改正で清算期間が1カ月を超過する場合、労使協定の届出が義務化され、清算期間そのものも最長3カ月に延長されました。
清算期間が1カ月を超える場合として盛り込まれたのは下記のようなものです。、
- 労働時間上限の設定
- 労働期間が当該清算期間より短い労働者の1週平均の労働時間が40時間を超えている場合には、使用者は超過時間の労働に対して法定の割増賃金支払いの義務化
具体例
フレックスタイム制の見直しについて、厚生労働省は具体的な事例を挙げています。
たとえば今回の改正で6、7、8月の3カ月の中で労働時間の調整が可能となるため、子育て中の親が子ども夏休み期間中である8月の労働時間を短くすれば、子どもと過ごす時間を確保しやすくなるといったものです。
従来の制度では、月をまたいだ労働時間の調整をすることができず、
- 仮に6月の労働時間が1週40時間を超過していた場合、超過部分について割増賃金の支払いが必要
- 仮に8月の月総労働時間が1週40時間に達していない場合、欠勤控除の対象
となっていました。
しかし今回の改正によって、3カ月平均で1週当たりの労働時間が法定労働時間の枠内に収まれば、
- 6月の時間外労働が発生しない
- 6月に超過して働いた分を8月不足分に充当することで欠勤控除も発生しない
といった調整が可能となりました。
③年次有給休暇の付与義務の創設
改正法第39条7項によれば、2019年4月より事業規模を問わずすべての企業において、
- 年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者を対象
- 年次有給休暇の日数のうち年5日について、使用者が時季を指定して取得させる
が義務化されました。低迷している有給休暇の取得率の向上によって、労働者の心身のリフレッシュの機会を確保することが、この改正の狙いとなっています。
④高度プロフェッショナル制度(特定高度専門業務・成果型労働制)の導入
労働基準法の改正によって新たに設けられたのが、高度プロフェッショナル制度(特定高度専門業務・成果型労働制)です。
- 高度の専門的知識等を有し、職務の範囲が明確で一定の年収要件を満たす労働者を対象
- 労使委員会の決議及び労働者本人の同意を前提
- 年間104日以上の休日確保措置や健康管理時間の状況に応じた健康・福祉確保措置等を講ずる
などにより、労働基準法に定められた労働時間、休憩、休日および深夜の割増賃金に関する規定を適用しない、といった制度が新設されました。
8.労働基準法違反になるケースの具体的事例
労働基準法の違反行為に関する対処事項は、労働基準法第117条から第120条に定められています。労働基準法の具体的な違反事例を見ながら、労働基準監督署による調査や指導勧告について確認していきましょう。
労働基準法違反で送検された企業事例
労働基準法違反で書類送検された事例をいくつかご紹介します。
- 賃金不払いを繰り返す
- 最低賃金法違反
- 違法な時間外労働を行わせた
- 違法な休日労働をさせた
- 賃金不払いおよび労働条件の不明示
- 労働基準監督官への虚偽陳述
- 36協定を締結せず時間外労働をさせた
- 36協定の範囲を超えた労働をさせた
- 割増賃金の不払い
業種や事業規模を問わず、これら違法行為が行われた場合、書類送検される可能性があります。
労働基準監督署による調査や指導勧告
労働基準法違反が発覚するのは、労働者からの通報からです。労働者が通報することで労働基準監督署から、調査や指導勧告が実施されます。労働違反行為があった企業でもさらに悪質な企業は書類送検され、労働基準法にある罰則規定が適用されるのです。
9.人事担当者が労働基準法を学ぶ必要性
人事担当者が、職場で起こるトラブルや企業と労働者の間で起こる法律問題に対処するには、労働基準法や労働契約法といった労働関係の法律について正しい知識を持つ必要があります。
細部にわたり理解が行き届いていなくても、それぞれの法律についておおまかに把握しておけば、迅速な対処もできるでしょう。労働法を正しく理解していないことを起因とした法律違反も少なくありません。
労使トラブルは労働各法の正しい理解、管理、運用でその多くを防ぐことが可能です。人事担当者は、
- 労働各法について正しい知識を持つ
- 違法な行為につながらない人事労務管理を行う
といった法律遵守の意識を持つことが求められます。