年次有給休暇は、労働者の当然の権利です。働き方改革では、労働者の心身のリフレッシュを図ることを目的に、年次有給休暇の取得を促進する改革を行いました。
ここでは、
- 年次有給休暇とは何か
- 年次有給休暇の義務化された部分
- 日本の年次有給休暇の取得率
- 付与の条件
- 日数の算出
- 半休、買い取りによる消化
- 時季変更権
などについて見ていきます。
目次
1.有給休暇(年次有給休暇)とは?
年次有給休暇とは、使用者から賃金の支払いを受けられる休暇日のことで、労働基準法第39条で認められた労働者の権利です。正式名称は年次有給休暇ですが、略して有給、有給休暇、年休、年次休暇といった名称で呼ばれることもあります。
年次有給休暇が付与される条件は以下の通りです。
- 雇い入れの日から6カ月時点で
- 1年ごとに
- 労働した日数に応じて
労働基準法第39条
労働基準法第39条には、労働者の年次有給休暇に関する規定が定められており、それによると年次有給休暇は、雇い入れの日から6カ月間継続して全労働日の8割以上出勤した際に付与しなければならないとされているのです。
目的は、
- 労働者の心身の疲労回復
- 労働力の維持培養
- ゆとりある生活の実現
などで、最初に付与した後は、毎年一定日数の年次有給休暇を労働者に対して付与します。
年次有給休暇に関する事項は労働基準法という法律に定められているため、法律上当然に労働者に認められている権利といえるのです。年次有給休暇は、労働者の申請を以て始めて権利が生じるといった類いのものではありません。
年休と有給の違い
年休と有給は組織によって呼び方が異なるだけです。どちらも「年次有給休暇」を省略した言葉で、意味に違いはありません。
2.有休取得の義務化|2019年4月~働き方改革関連法案として
働き方改革は、一億総活躍社会を実現するため労働環境の見直しに着手した取り組みです。この働き方改革では、年次有給休暇にもメスを入れました。働き方改革関連法案施行に伴って労働基準法の中の有給休暇に関する規定が改正されたのです。
その結果、2019年4月から法定の年次有給休暇が10日以上付与されているすべての労働者について、使用者は労働者ごとに付与した日から1年以内に5日間の年次有給休暇を確実に取得させることが義務化されました。

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働き方改革関連法とは、改正...
使用者が時季を指定して年5日の有休を取得させる
従来の年次有給休暇は原則として、使用者に対して労働者が年次有給休暇の取得時期を申請することにより与えるとされていました。しかし、年次有給休暇の取得率が非常に低調といった問題点を鑑みて、年次有給休暇に関する労働基準法が改正されることになったのです。
その結果、2019年4月からはすべての企業において「年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年次有給休暇の日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させる」ことが必要となりました。
時季指定では、時季について使用者が労働者の意見を聴取することが求められています。
3.日本の有給休取得率は51.1%
厚生労働省の調査によると日本の年次有給休暇の取得率は51.1%で、世界的に見てもまだ低水準です。
また日本での労働者保護に関する意識はまだまだ低く、ILO第52号や第132号条約といった労働者保護に関する条約のほとんどが批准されていない状況にあります。
なぜ日本の年次有給休暇の取得率は低いのか?
日本の労働者の有給休暇取得率が低迷している原因のひとつに、「自分だけ休むことへの罪悪感」が挙げられます。
「周りが働いているのに自分だけ休めない」といった考え方は、会社社会における日本独自の文化的な背景があるため、一朝一夕に変えられるものではありません。そこで、付与された年次有給休暇のうち5日分を強制的に取得するよう労働基準法が改正されました。
法改正をきっかけとして、会社社会に深く根付く日本独自の文化を変革していくことが期待されています。
また、年次有給休暇の取得率を上げて休みを取りやすい社会を実現するには、労働者一人ひとりも意識を変え、積極的に年次有給休暇を取得していく必要があるでしょう。
2020年までに取得率を70%に
政府は、2020年までに年次有給休暇の取得率を70%まで高めるという目標を定めています。
現在は50%程度の取得率を70%まで高めるという目標を達成するために、政府は企業や労働者と一体となって年次有給休暇に関する労働基準法の改正などを含めた働き方改革を実施しているのです。
4.有給休暇付与の条件|アルバイトやパートの有給休暇
年次有給休暇は、正社員にだけ付与される休暇ではありません。アルバイトやパートタイマーといった雇用形態で働く労働者にも、法律上の要件を満たした場合には、年次有給休暇が当然の権利として付与されるのです。
労働者の基本条件
年次有給休暇が付与される労働者の条件は、
- 雇い入れの日から6カ月継続勤務している
- 全労働日の8割以上出勤している
付与条件の中にある「継続勤務」とは、事業場における在籍期間を示しており、在籍期間は、勤務の実態に即す形で実質的に判断されます。
雇用形態が異なっても実質的な勤務が継続していることが重要です。そのため、嘱託社員として定年退職者を再雇用したといったケースは継続勤務として取り扱うことになっています。
育児休業中や介護休業中の出勤率算定について
労働基準法では、育児休業や介護休業、業務上の怪我や病気による休業といった場合の期間の取り扱いについても言及しているのです。それによると、これらの理由で休業している期間も、出勤したものと見なします。
一方、会社都合で休業を余儀なくされている休業期間に関しては、原則として、有給休暇を算出するための全労働日から除外するのです。
5.有給休暇の付与日数の算出方法
年次有給休暇の付与日数には、あらかじめ決まった算出方法があります。ここでは、算出条件や方法について見ていきましょう。
フルタイム勤務の場合
年次有給休暇の付与日数は、1日の労働時間を基準に考えるわけではありません。年次有給休暇は短時間勤務者でも、週所定労働時間を基準に算出します。
たとえば、週5日フルタイムで勤務しているケースでは、入社6カ月後に10日の年次有給休暇が付与され、その後は1年ごとに年次有給休暇が付与されていきますが、付与日数も勤続年数の増加とともに徐々に増えていきます。
ただし、年次有給休暇の付与日数には上限があるのです。入社後6年6カ月で付与日数は20日になり、それ以降は何年継続勤務をしても年次有給休暇は20日が上限となります。
週所定労働時間が30時間未満の場合
週2日、週3日といったように所定労働日数が少ないパートタイム労働者に関しては、所定労働日数に応じた年次有給休暇が比例付与されます。
たとえば週2日勤務の場合、
- 入社後6カ月
- 5日間
の年次有給休暇が付与されます。年次有給休暇の上限もあり、週3日勤務の場合は勤続6年6カ月以上で年次有給休暇の上限日数は11日となるのです。
6.半日休暇(半休)や時間単位の年休取得の取り扱い
年次有給休暇は、1日単位で取得するのが一般的ですが、それ以外に年次有給休暇を取得する方法もあります。ここでは、半日休暇や時間単位の休暇として取得する場合の考え方を見ていきましょう。
年次有給休暇の時間単位付与について
年次有給休暇を取得する場合、1日単位で取得することが原則となっていますが、それぞれの企業で年次有給休暇を、半日単位や時間単位で取得するケースも少なくありません。
このように、年次有給休暇を1日単位ではなく時間単位で取得したい場合、使用者と労働者の間で労使協定を締結する必要があるのです。また、労使協定が締結されていなくても使用者と労働者の間で合意があった場合は、半日単位で年次有給休暇を取得できます。
労使協定に規定する内容
年次有給休暇の取得は、原則として1日単位で行いますが、通院や子どもの授業参観など、数時間もしくは半日だけ休めば十分というケースもあるでしょう。
年次有給休暇を半日単位、時間単位で取得したい場合には、労使協定の中で時間単位年休の対象労働者の範囲、時間単位年休の日数、時間単位年休1日の時間数について、あらかじめ規定しておかなければなりません。
7.有給休暇の消化についての注意点
年次有給休暇の消化について注意すべき点を3つ、簡単にまとめておきます。
- 労働者に有給休暇を与えない会社は違法
- 企業は有給休暇の取得理由を問わない
- 有給休暇の請求権利行使(2年まで)
①労働者に有給休暇を与えない会社は違法
労働者に有給休暇を与えない会社は違法です。
会社が労働者に対して年次有給休暇を買い上げることを条件に、
- 年次有給休暇の日数を減じる
- 請求されている年次有給休暇の日数を消化させない
などは、労働基準法に違反します。これは正社員のみならず、アルバイトやパートタイマーといった雇用形態が異なる労働者や短時間労働者の場合でも同様です。
有給休暇は6カ月以上継続勤務している労働者に付与される労働者の当然の権利。もし、労働者に年次有給休暇を与えない会社があれば、労働基準法違反の罰則となり、懲役6カ月または30万円以下の罰金が科されます。
②企業は有給休暇の取得理由を問わない
会社は労働者の年次有給休暇の取得理由を問いません。
労働者が年次有給休暇を申し出た際、上司や会社が年次有給休暇の取得理由を聞いたり年次有給休暇取得申請書の提出を指示したりする場合があります。
しかしその際、労働者は年次有給休暇の取得理由を回答する義務はないのです。申請においては「年次有給休暇を取得します」のみでよく、特段、取得理由を伝える必要はありません。
有給休暇の時季変更権とは?
時季変更権とは、労働者に対し、年次有給休暇を別の日に取得させるようにするもの。
年次有給休暇の取得は労働者の当然の権利で、取得の際、
- 労働者は使用者の許可を得る必要はない
- 使用者は労働者が取得したい日に年次有給休暇を使用できるように配慮する必要がある
と定められています。ただし、労働者が申請した年次有給休暇の取得によって会社事業の正常な運営に支障をきたす場合、使用者側は時季変更権を行使できるのです。
時季変更権を行使する際の相当性は、事業所の規模や本人の担当業務、他の労働者への代替の難易度などから総合的に判断されます。なお、派遣労働者の年次有給休暇について時季変更権の行使の正当性を判断するのは、派遣元事業主である点に注意してください。
③有給休暇の請求権利行使(2年まで)
有給休暇の請求権利行使については、労働基準法第115条に規定があります。「この法律の規定による賃金(退職手当を除く)、災害補償その他の請求権は、2年間この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によって消滅する」
つまり、
- 年次有給休暇の請求権には2年という期限がある
- 付与されて2年以上経過した場合には消滅する
のです。
8.有給休暇の買い取り制度とは?
年次有給休暇の買い取りとは、年次有給休暇の残日数からそれに見合った賃金額を計算し、会社がその額で年次有給休暇を買い取ること。
年次有給休暇は、労働者に一定の休みを与えて心身を回復してもらうといった労働者保護を目的とする休暇です。そのため、労働者保護の観点から年次有給休暇の買い取りは現行法上では許されていません。
ただし、会社が買い取りを認め年次有給休暇買い取り制度を採用している場合もあるので、就業規則などを確認してみましょう。
年次有給休暇の買い取りに関するトラブル
年次有給休暇の買い取りに関しては、さまざまなトラブルがあります。たとえば、年次有給休暇の買い取りを予約して、休暇の日数を減じる、請求されている日数を付与しないといったもの。この場合は、どちらも労働基準法違反になります。
ただし、退職時といった例外的なケースや会社が買い取りを認めて制度化している場合、その制度に従って年次有給休暇の日数を減じることなく買い取り処理が可能です。
勤続6カ月以上の労働者には年次有給休暇が付与されますが、労働時間や雇用形態を問わず、当該労働者に年次有給休暇を付与しなければ、会社は懲役6カ月または30万円以下の罰金が科されるのです。このことを覚えておきましょう。
9.有給休暇の管理方法
年次有給休暇は労働者一人ひとりで発生日が異なるため、中途入社する労働者が多い企業などでは、年次有給休暇の管理が煩雑になりがちです。
年次有給休暇の管理をより効率的に管理する方法は2つあります。
- 統一して年次有給休暇を管理する
- 個別に年次有給休暇を管理する
ここでは、年次有給休暇の統一管理について説明します。
年次有給休暇を統一管理する方法の具体例
年次有給休暇を付与する基準日を全社的に統一して管理する方法です。一斉付与されても、勤務時間を切り捨てて付与されることはないため労働者が不利益を被ることはありません。
たとえば、1月1日を基準日とした場合、9月1日入社の労働者は6カ月経過していませんが、週5日勤務の場合10日の年次有給休暇が付与されます。年1回の基準日設定では入社日によって不公平になると判断した場合、基準日を年に2、3回設定することも可能です。
- 12月1日~3月31日入社は4月1日
- 4月1日~7月31日入社は8月1日
- 8月1日~11月30日入社は12月1日
をそれぞれの基準日にする体制です。
ただし、基準日の設定日数が多ければ、労働者一人ひとりの基準日を管理する個別管理に近い状況が生じ、従業員が多くなればなるほど事務処理が煩雑になります。
10.有給休暇の計画的付与制度
働き方改革関連法における労働基準法の改正によって、2019年4月から年次有給休暇の計画的付与制度が義務化されました。
年次有給休暇の計画的付与制度には、年次有給休暇のうち5日を超える分について労使協定を結ぶ、計画的に休暇取得日を割り振れるといった特徴があります。
具体的には、
- 事業所全体が休業することによる一斉付与方式
- 部署やチームごとの交代制の付与
- 年次有給休暇付与計画表を使用した個人付与方式
この改正により、会社は対象年次有給休暇取得を拒むことができず、労働者は対象日に必ず有給休暇を取得できるようになりました。
11.有給休暇の時季指定義務
2019年4月1日から会社には、年次有給休暇が10日以上発生する労働者を対象に年次有給休暇が発生した日から1年間に最低でも5日間の年次有給休暇を消化させなければならないというもの年次有給休暇の時季指定義務が発生しました。
目的は、日本における年次有給休暇の取得率の低迷にメスを入れ、労働者の心身のリフレッシュを図ることです。
対象者:年次有給休暇が10日以上の労働者
年次有給休暇の時季指定義務対象者は、年次有給休暇を10日以上付与されている労働者です。労働者が職場へのためらいなどから年次有給休暇を取得できない状況を、管理監督者も含めて改善していくことを目的としています。
期限:1年間に5日
年次有給休暇の時季指定義務の対象期間は、労働者ごとに年次有給休暇を付与した日、すなわち年次有給休暇の基準日から1年以内に5日です。
本来、年次有給休暇は労働者が会社に取得時季を申し出ますが、申し出をしにくい環境下にある場合も多いため、会社側が基準日から1年以内に5日、「○月○日に休んでください」と年次有給休暇の取得時季を指定することになりました。
条件
年次有給休暇を5日以上取得済みである労働者に関しては、会社による時季指定は不要となっています。
たとえば、
- 労働者自ら5日取得した場合
- 労働者自ら3日取得したほか、計画付与が2日あった場合
会社は時季指定を行う必要はありません。
しかし、
- 労働者自ら3日取得した場合、会社の時季指定で2日
- 計画的付与で2日取得した場合、会社の時季指定は3日
といったように年次有給休暇の時季指定を行います。
注意点
会社が年次有給休暇の時季指定を行う際の注意点は、2つです。
- 会社が時季指定を行う際は、労働者の意見を聴取し、尊重するよう努めなければならない
- 会社は、労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存しなければならない
時季指定では、労働者の意見を聴衆し労使間ですり合わせを行う、年次有給休暇の記録を適切に管理するなどが、会社側に求められています。
12.時季指定義務の影響を受ける業種
有給休暇の消化とを目的として導入された時季指定義務の影響を受ける業種があります。
年次有給休暇の時季指定義務の影響を受ける可能性が高いのは、アルバイトやパートタイマーなどです。
時季指定義務は正社員に限らず、すべての労働者に適用される制度。年次有給休暇の取得率が低いアルバイトやパートタイマーを多く雇っている飲食店、小売など一部の業種などでは、こうした労働者などが次々に年次有給休暇を取得する状況になります。
今まで年次有給休暇の取得率が低かった分、大きな影響が出る可能性は高いでしょう。
13.有給休暇引当金とは?
有給休暇引当金とは、会社が負うべき債務として消化されていない年次有給休暇の日数を債務計上するもので、未払有給休暇とも呼ばれます。
有給休暇引当金の計算方法は、年次有給休暇の残日数や年次有給休暇の取得率、日給を用いて算出できますが、有給休暇引当金を計上するには、細かい条件があるため、実際の計上時には確認が必要です。
有給休暇のQ&A
年次有給休暇とは、使用者から賃金の支払いを受けられる休暇日のことで、労働基準法第39条で認められた労働者の権利です。正式名称は年次有給休暇ですが、略して有給、有給休暇、年休、年次休暇といった名称で呼ばれることもあります。
- 雇い入れの日から6カ月継続勤務している
- 全労働日の8割以上出勤している
「継続勤務」とは、事業場における在籍期間を示しており、在籍期間は、勤務の実態に即す形で実質的に判断されます。