賃金台帳とは? 給与明細との違い、書き方、保存方法などを解説

賃金台帳とは、従業員を雇う会社において作成・保管が義務付けられている法定三帳簿のひとつです。ここでは賃金台帳の書式や保存期間などについて解説します。

1.賃金台帳とは?

賃金台帳とは、人事労務における重要書類のひとつです。従業員に対する給与の支払い状況を管理したもので、労働基準法施行規則第54条により以下の記入が義務付けられています。

  • 氏名
  • 性別
  • 賃金の計算期間
  • 労働日数
  • 労働時間数
  • 時間外労働時間数
  • 深夜労働時間数
  • 休日労働時間数
  • 基本給や手当の種類およびその額
  • 控除項目とその額

労働基準法で定められている義務

賃金台帳は、従業員に支払った賃金の根拠を示す書類で、従業員を雇うすべての企業に台帳の作成・保管が義務付けられているのです。

賃金台帳については、労働者の賃金や休憩時間などの労働条件について最低限の基準を定めた「労働基準法」の第108条(賃金台帳)において、以下のとおり明記されています。

「使用者は、事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない」

法定三帳簿

1人以上の労働者を雇用するすべての事業主に「法定三帳簿」の作成・整備・保管が義務付けられています。法定三帳簿とは、労働者の労務管理を適切に行うための帳簿のこと。この法定三帳簿には、以下3つの帳簿が含まれています。

  1. 賃金台帳:労働者の給与に関係している記録を取りまとめた帳簿
  2. 従業員名簿:氏名や採用日、住所や業務の種類など、おもに労働者の個人情報を管理している帳簿
  3. 出勤簿:入退社時間や休憩時間など、労働者の勤怠に関する記録を取りまとめた帳簿

賃金台帳の記載対象

労働者の給与支払い状況を管理する「賃金台帳」には、誰の情報を記載するのでしょうか。賃金台帳の記載対象になるのは、同事業所ではたらくすべての従業員です。

賃金台帳では正社員やパート、アルバイトや契約社員など雇用形態にかかわらず、すべての従業員に関する給与の記録を管理しなければなりません。また賃金台帳を含む法定三帳簿は、いずれも事業所ごとに作成・管理する必要があります。

パート・アルバイト

短時間しか労働を行わないパートタイムやアルバイトの従業員も、正社員と同じく「事業又は事務所に使用される者」で、賃金を支払われる者つまり「労働者」に該当するため、賃金台帳の記載対象となります。

なお同じ法定三帳簿のひとつ「従業員名簿」では、日雇い労働者などの短期労働者は対象に含まれませんが、賃金台帳では記載の対象です。混同しないよう注意しましょう。

管理監督者

管理監督者も賃金台帳の記載対象ですが、記載する項目が異なるため注意しましょう。管理監督者とは、一般の労働者とは異なり、企業のなかで経営者と一体的な立場にあるとされる従業員のこと。

職務内容や待遇など労働に関する条件が特殊な形に設定されているため、時間外労働手当、休日労働手当を支給する必要はありません(深夜の割増賃金は支給)。

日雇労働者

日雇労働者とは、日々雇用される者もしくは30日以内の期間を定めて雇用される者のこと。賃金台帳の記載対象に含まれますが、台帳管理が必要な項目のうち「賃金計算期間」について記載する必要はありません。

また日雇労働者は会社と日々雇用契約を結び、その都度採用されると考えられるため、従業員名簿の記載義務も発生しないのです。

賃金台帳は、法律で作成・管理が義務付けられている「法定三帳簿」のひとつです。企業全体として1つの台帳を整備するのではなく、事業所ごとに作成・管理する必要があります

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2.給与明細との違い

賃金台帳に関する疑問のなかでも特に多いのが、「給与明細と何が違うのか」「給与明細は賃金台帳の代替にならないのか」という質問。

賃金台帳には労働時間や時間外労働時間などを記載・管理する必要があります。しかし給与明細の場合、一般的にこういった情報は記載されていません。そのため「給与明細は賃金台帳の代替になるか」という質問に対する答えはNOです。

給与明細で賃金台帳の代用ができるとは考えず、それぞれを作成・管理するよう徹底してください。

給与明細とは

給与明細とは、給与の支払い額や控除額などをまとめて記載した書面(データ)のこと。以下3つの項目に分けて「もらえる金額」と「支払った金額」の詳細を記しています。

  • 支給額:基本給やそのほかの割増賃金、各種手当などの明細を記したもの
  • 控除額:給与から差し引かれる保険料や税金などの金額を記したもの
  • 勤怠:勤務日数や欠勤日数、有休消化日数や有休残日数などを記したもの

企業は従業員に給与明細書を交付する義務があり、給与を支払う際にこれを交付しなければいけません。

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給与明細書との違いは何?

所得税法では、「給与を支払う者は給与の支払を受ける者にたいして支払明細書を交付しなくてはならない」と定めています。給与明細書は給与支払いのたびに従業員に交付するもので、賃金台帳のように会社で保管しておくものではありません。

また賃金台帳では後述する10項目を管理しなければなりません。給与明細書には賃金台帳で管理が必要な性別や賃金の計算期間などを基本的に記載しないため、やはり代替えとしては不十分になってしまうのです。

給与明細は賃金台帳の代替になりません。給与明細とは別に、賃金計算期間や労働日数、労働時間数などを記載した賃金台帳の作成が必要です

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3.賃金台帳の項目の解説

賃金台帳では以下の10項目を管理しなければなりません。ここではそれぞれの項目内容や記載例について見ていきます。

  1. 労働者氏名
  2. 性別
  3. 賃金の計算期間
  4. 労働日数
  5. 労働時間数
  6. 時間外労働時間数
  7. 深夜労働時間数
  8. 休日労働時間数
  9. 基本給や手当の種類およびその額
  10. 控除項目とその額

必要な項目

賃金台帳に記載する項目は、法律によって定められています。これについては労働基準法108条において以下のとおり明示されているのです。

「使用者は、事業場ごとに賃金台帳を調製し、賃金計算の基礎となる事項及び、賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払の都度遅滞なく記入しなければならない」

まずは賃金計算の基礎ともいえる従業員の基本情報を管理しましょう。

  • 労働者氏名
  • 性別
  • 賃金の計算期間
  • 労働日数
  • 労働時間数

賃金計算期間

賃金の計算期間とは、賃金の計算対象となる期間のこと。当月の賃金計算の開始日から締め日を記載します。たとえば下記のとおりです。

  • 毎月末締め:4月1日から4月30日
  • 10日締め:3月11日から4月10日

賃金計算期間は会社によって自由に決められますが、以下2点の原則に注意しなくてはなりません。

  1. 一定期日払いの原則:毎月一定期日に支払うこと(毎月25日払いや毎月最終営業日など)
  2. 毎月最低1回払いの原則:一か月の間に最低1回は賃金を支払わなくてはならない

労働日数・労働時間数

労働時間数や労働日数についても、賃金台帳に記載します。

なお使用者(会社)は原則、1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはいけません(労働基準法第32条)。また労働時間が6時間を超える場合は45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を与える必要があるのです(同第34条)。

同35条には、少なくとも毎週1日の休日か、4週間を通じて4日以上の休日を与えなければならない旨も明記されています。賃金台帳の管理を通じて、自社の労働時間、労働日数の状況を見直してみましょう。

賃金台帳の書式は?

賃金台帳の書式については特に定められていません。前述した10項目が確認できれば、自社の管理状況に合わせて自由に作成できるのです。

なお厚生労働省や東京労働局では賃金台帳のフォーマットを、ExcelとPDFの2形式で公開しています。そのまま使用するか、参考に作成してみるとよいでしょう。

賃金台帳に受領印や検印は不要です。またデータ管理が必須という性質でもないため、紙媒体での作成・管理もできます。

賃金台帳では賃金の計算期間や労働日数、労働時間数などの10項目を管理します。特に労働時間数や基本給、手当に関する項目は厳密に管理しましょう

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4.賃金台帳の書き方は?

賃金台帳に不備があると、思わぬトラブルに発展する恐れも。残業代の未払いや有給日数の計算誤りなどは、従業員からの信頼を下げるだけでなく、社会的な評判を下げる要因にもなってしまいます。

賃金台帳の正しい整備は、自社を守るためにも必要不可欠な業務なのです。ここではそんな賃金台帳の書き方について解説します。

決まった形式はなく必要な事項を記載する

先に述べたとおり、賃金台帳の書き方に決まった形式はありません。これについては労働基準法施行規則第59条の2にも次のように明記されています。

「労働者名簿又は賃金台帳に用いるべき様式は、必要な事項の最小限度を記載すべきことを定めるものであって、横書、縦書、その他異なる様式を用いることを妨げるものではない(抜粋)」

厚生労働省を始め、さまざまなサイトが賃金台帳のフォーマットを公開しています。独自に作成する場合はこれらを参考にして、記載事項に漏れがないか必ず確認しましょう。

手書きよりもExcelやPDFデータ、専用の給与計算ソフトがおすすめ

賃金台帳には決まった書式がないため、手書きの紙媒体での管理も可能です。しかし修正や更新、賃金計算にかかる時間や労力から考えると、あまり現実的な方法とはいえないでしょう。

人の手によって管理する割合が大きい以上、どうしても計算間違いやデータの損失、更新漏れが起きる可能性も高くなるからです。賃金台帳にはExcelやPDFデータ、専用の給与計算ソフトなどを使用したほうがよいでしょう。

社会保険労務士(労務士)への依頼も視野に

賃金台帳の整備は、企業と従業員の間に信頼関係を築くためにも正確に行う必要があります。

「給与計算に関する専門的な知識を持った従業員がいない」「台帳管理にあてるリソースが足りない」「自社管理では不安なのでアウトソーシングしたい」といった場合は、社会保険労務士(労務士)への依頼を視野に入れるとよいでしょう。

残業代の計算ルールや雇用保険、社会保険などの知識に精通しているため、安心して賃金台帳の整備を進められます。

賃金台帳の書き方に決まった書式はありません。厚生労働省や東京労働局などが公開しているテンプレートを活用して、必要項目に漏れのない台帳を用意しましょう

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5.賃金台帳は、どのくらい保存する?

賃金台帳の保存については、労働基準法第109条において以下のとおり明示されています。「使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を三年間保存しなければならない」

それでは賃金台帳の保存について、詳しく見ていきましょう。

起算日から3年間

賃金台帳の保管期間は「起算日から3年間」と定められています。これは従業員名簿や出勤簿などほかの法定帳簿も同じです。なお3年の期間は同じですが、「起算日」の考え方がそれぞれ異なるため注意しましょう。

  • 賃金台帳の起算日:最後に賃金台帳が記入された日
  • 従業員名簿の起算日:従業員の死亡または退職または解雇の日
  • 出勤簿の起算日:最後に出勤簿が記入された日

「労働や賃金、災害補償などに関する書類はいずれも3年間の保存が必要」と覚えておきましょう。

不備があれば罰則が科せられる

賃金台帳をはじめとする法定三帳簿の作成・管理は企業に課せられた義務です。企業規模や業種を問わず、従業員を一人でも雇う場合、事業者はこれら3つの帳簿を作成しなければなりません。

「情報や項目に不備があった」「そもそも帳簿が作成されていない」場合、労働基準法第120条において30万円以下の罰金が処される恐れもあります。

賃金台帳は起算日、つまり最後に記入した日から数えて3年間の保管が必要です。帳簿の不備には罰則が科せられる恐れもありますので、注意してください

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6.賃金台帳の保存方法は?

賃金台帳は起算日から3年間の保存が必要です。しかしどのように保存しておくのがよいのでしょう。

従業員を何百人も抱えているような大企業の場合、ほとんどがパソコンを使ったデータ上で賃金台帳を管理しています。

さて専用システムやExcelといった電子データで賃金台帳を管理する状況は、法務上の義務を果たしたことになるのでしょうか。ここでは賃金台帳の保存方法について解説します。

データでもいい?保存方法は?

すぐに開示できる状態であれば、賃金台帳の保存・管理はデータでも問題ありません。電子媒体で賃金台帳を管理する際は、事業所ごとに以下の4点がクリアできているかを確認しておきましょう。

  • 法令で定められた要件をきちんと満たしており、かつそれを画面上に表示し印字できるか
  • 労働基準監督官の臨検時などの際、直ちに必要事項が明らかにされ、提出し得るシステムとなっているか
  • 誤って消去されない環境下に保存されているか
  • 長期にわたって保存できるか

データで保存する際の注意点

賃金台帳をデータで管理する際は、保存義務のある画像や情報を正確かつ安全に記録保存できる電子媒体を使用しましょう。アクセス権限を付与したりバックアップ体制を整えたりすると、情報を正確かつ安全に管理できます。

提出ルール

最近では賃金台帳や従業員名簿をパソコンで作成し、電子データとして管理・保存している企業も増えました。しかし賃金台帳をパソコン上で管理した際、さらに紙媒体に出力して保存する必要があるかどうかは労働基準法上でも明言されていません。

覚えておきたいのは、データ形式と紙媒体、どちらで管理しても、労働基準監督署などから提出を求められた際は速やかに応じなければならない点。パソコンで管理する際は、ただちに必要項目の閲覧、かつ写しが提出できるようなシステム環境にしておきましょう。

賃金台帳の保存はデータ媒体でも紙媒体でも問題ありません。いずれも要請に応じてすみやかに閲覧、写しの提出ができるような体制を整えておきましょう