裁量労働制とは?【専門・企画業務型】残業代をわかりやすく

昨今話題になっている裁量労働制。会社員の働き方に関する非常に重要なキーワードですが、実際どういったものなのでしょうか?

ここでは、

  • 裁量労働制の意味
  • 裁量労働制と他の制度との違い
  • 裁量労働制の制度詳細
  • 裁量労働制の種類
  • 裁量労働制導入のメリット・デメリット

について解説します。

1.裁量労働制とは?

裁量労働制とは、実際の労働時間ではなく、前もって企業と労働者で合意の上で定めた時間を労働時間とみなす制度です。たとえば、裁量労働制の契約でみなし労働時間を1日7時間とした場合、実際の労働時間が4時間であろうと10時間であろうと、契約した7時間働いたこととされ、給与に反映されるのです。

基本的には時間外労働という概念がないため、労働者保護の観点から労働時間に関する取り決めがあったり、適用される職種が限られたりする点にも注意が必要です。

簡単にいえば「労働時間が長くても短くても、実際に働いた時間に関係なく『契約した労働時間分を働いた』ことにする」制度です。

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2.裁量労働制と他制度との違い

裁量労働制と似ている、または混同されやすい制度がありますので、それぞれの共通点と相違点について説明しましょう。

  1. 高度プロフェッショナル制度
  2. 事業場外みなし労働時間制
  3. みなし残業制度(固定残業代制度)
  4. フレックスタイム制度

①高度プロフェッショナル制度(高プロ)と裁量労働制の違い

裁量労働制と類似している制度に、高度プロフェッショナル制度があります。

証券アナリストやコンサルタントなど専門的知識を持ちつつ一定以上の年収がある専門職を、残業代などの割増賃金が発生する労働時間の規制対象外とする制度です。

裁量労働制との高プロの共通点

労働者の裁量によって労働時間が決まる点は、裁量労働制と高度プロフェッショナル制度に共通する部分といえます。

裁量労働制と高プロの相違点

相違点は、裁量労働制が深夜手当や休日手当など割増賃金の支払い対象であるのに対し、高度プロフェッショナル制度は、深夜・休日労働に関しての割増賃金の支払いがない点です。

また高度プロフェッショナル制度の対象となる労働者は証券アナリスト、コンサルタント、研究開発職などに限定されていますが、裁量労働制では弁護士や税理士、デザイナー、ソフトウエア開発者など幅広い職種が対象となっています。

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②事業場外みなし労働時間制と裁量労働制の違い

事業場外みなし労働時間制は、裁量労働制と同じくみなし労働時間制のひとつです。

毎日通勤する職場である事業場以外で一部、または全部の業務を行う職種に適用します。

使用者の指揮監督が及ばないため労働者の労働時間を算出することが困難である場合に、「特定の時間」労働したものとみなすことができるものです。

直行直帰の営業や在宅勤務(適用にはいくつかの条件あり)といったものをイメージするとわかりやすいでしょう。

裁量労働制とみなし労働時間の共通点

裁量労働制との類似点は、みなし労働時間を設定するという点です。

裁量労働制とみなし労働時間の相違点

相違点は、

  • 職種による制限はない 事業場外みなし労働時間制は、使用者の指揮監督が及ばない業務が対象
  • 時間外労働、深夜労働、休日労働のすべてに関して割増賃金の支払い対象

などです。

③みなし残業制度(固定残業代制度)と裁量労働制の違い

法的には存在しない制度ですが、みなし残業制度という仕組みもあります。みなし残業制度とは実際の残業時間にかかわらず、契約にある残業時間を働いたものとみなす制度です。

みなし残業制度では、実際に残業時間が少ない場合でも「みなし残業時間」分の残業代が支払われ、残業時間がみなし時間より多くなってしまった場合、超過した分の残業代が発生します。

裁量労働制とみなし残業の共通点

みなし残業制度と裁量労働制は、実際にその時間分働いていない場合でも働いたこととみなされる点で共通しています。

裁量労働制とみなし残業の相違点

しかし働いたとみなす労働時間の範囲には相違点があり、裁量労働制が所定労働時間部分を対象とするのに対し、みなし残業制度は所定労働時間を超えたいわゆる残業時間部分を対象としています。

④フレックスタイム制度と裁量労働制の違い

フレックスタイム制度は、会社が定めたコアタイムに就業していれば、始業・終業の時刻を自由に選択できる制度です。

例として、

  • 所定就業時刻を9:30~18:30(休憩1時間)
  • 所定労働時間を8時間
  • コアタイムを13:00~17:00

としている場合を考えてみましょう。

労働者は13時までならいつ始業してもまた17時以降ならいつ終業しても構いませんが、1日8時間は働かなければならないので、13時に始業した場合には休憩時間も含めますと22時まで就業することになります。

裁量労働制とフレックスタイムの共通点

やや限定的ではありますがフレックスタイム制度は就業時刻が労働者側である程度自由に決められる点は裁量労働制と共通しています。

裁量労働制とフレックスタイムの相違点

ただフレックス制度では「みなし労働時間」の設定がないので、所定労働時間は働かなければならず、この点は裁量労働制と異なるのです。

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3.裁量労働制の仕組み

裁量労働制は労働時間が労働者の裁量にゆだねられている制度です。

実際の労働時間に関係なくみなし労働時間分働いたとされるため労働者保護の観点から労働時間や時間外労働などに関して法的に取り決めがなされています

裁量労働制を正しく理解するためにも、裁量労働制における労働時間や残業代などの取り扱いの仕組みについて見ていきましょう。

労働時間の扱い

裁量労働制において、労働時間の取り扱いは労働者個人の裁量に任されています。

たとえば、フレックスタイム制度におけるコアタイムのように必ず勤務する必要のある時間帯の決まりはありません。

また、

  • 出勤時間
  • 退勤時間
  • 始業時間
  • 終業時間
  • 就業時間

などのすべての労働時間を個人の裁量で決定可能です。

残業(残業代)

実際に働いた時間に関係なく、あらかじめ決めた労働時間分労働したものとみなすのが裁量労働制です。

裁量労働制には時間外労働という概念がありません。よって原則として、時間外労働に対する割増賃金は発生しません。

ただし特例があります。

  • 「22時以降翌朝5時までの間に労働した場合、深夜手当を出す」といった割増賃金
  • 「法定休日に労働した場合には休日手当」といった割増賃金

が発生します。

みなし労働時間

裁量労働制の一番の特徴ともいえるのが、みなし労働時間の採用です。

みなし労働時間とは、実際の労働時間を問わず、事前に取り決めた労働時間分労働したとみなす労働時間をいいます。

労働者にとって最も重要な労働時間の決定に関しては、

  • 労使委員会の設置
  • 委員全員の合意による決議
  • 対象労働者の同意義務
  • 労働基準監督署への届出

といった手続きが必要です。労働時間の算出にあたって労使の合意が絶対条件となります。

労使協定、36協定

裁量労働制を導入する場合、労働者と使用者で労働条件などの取り決めを行う労使協定を結びます。

なかでも、36協定と呼ばれている労働基準法第36条「時間外および休日の労働」には注意が必要です。

36協定には「法定時間(1日8時間、1週間に40時間)を超えて労働させる場合や法定休日に休日労働をさせる場合には、労働組合または労働者の代表と協定を書面で結ばなくてはならない」と記載されています。

裁量労働制と36協定の関係とは?
裁量労働制を導入する場合でも、みなし労働時間が1日8時間の法定労働時間を超える場合には、36協定を結ぶ必要があります。 また、法定労働時間を超える労働時間についても、36協定の上限時間が適用されるので...

たとえば、裁量労働制におけるみなし労働時間を10時間超と設定した場合、1週間の労働時間が40時間を超過してしまうため、その場合には36協定の締結が必要です

②その他の扱い

裁量労働制はみなし労働時間を設定し、また原則時間外労働による割増賃金は発生しないなどの特徴を持っています。

それ以外にも裁量労働制を考えた場合、注意して取り扱う必要があります。

裁量労働制のその他の扱い、たとえば休日労働や遅刻についての取り扱いがどのようになっているか見ていきましょう。

休日出勤

裁量労働制であっても、一般の労働者と同様に休日を設ける必要があり、休日に労働をした場合、裁量労働制では休日手当(残業代)を別途算定します。

休日手当は、実労働時間を基準にして算定します。固定残業代の定めがない場合、

  • 時間外に相当する法定外休日については基礎賃金×1.25
  • 法的休日については基礎賃金×1.35

を支給することが労働基準法で定められています

裁量労働制は、時間外労働に対する残業代が支払われない制度ではありますが休日手当に関しては別途支払いが必要になる点に注意しましょう。

深夜労働

裁量労働制では、深夜労働の考え方にも注意を払わねばなりません。

みなし労働時間を決めてその時間労働したと考える裁量労働制において、いわゆる22時以降翌朝5時までの時間帯に労働させた場合、割増賃金はどうなるのでしょうか。

この場合、深夜労働に関して、割増賃金の支払いが必要になり、固定残業代の定めがない場合には、時間外深夜労働については基礎賃金×1.5の残業代を支給する必要があります。

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4.裁量労働制の対象業務、対象職種

裁量労働制は対象となる業務の違いなどから、2種類にわかれます。

  1. 専門業務型裁量労働制
  2. 企画業務型裁量労働制

それぞれについて、比較して説明します。

2種類の裁量労働制

①専門業務型裁量労働制

厚生労働省による専門業務型裁量労働制の定義では、

「業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として厚生労働省令及び厚生労働大臣告示によって定められた業務の中から、対象となる業務を労使で定め、労働者を実際にその業務に就かせた場合、労使であらかじめ定めた時間働いたものとみなす制度」

専門業務型裁量労働制」厚生労働省

とされています。

現在研究開発、出版事業の取材や編集、システムコンサルタント、公認会計士や弁護士、証券アナリストなど19業務に限り、労使協定を結ぶことでその導入が許可されています。

②企画業務型裁量労働制

企画業務型裁量労働制は、

「事業運営上の重要な決定が行われる企業の本社などにおいて企画、立案、調査及び分析を行う労働者を対象」

企画業務型裁量労働制」厚生労働省

として労働者が創造的な能力の発揮できる働き方として導入されました。

上司からの指示を待つのではなく、

  • 自ら主体的に事業の運営に関する業務を行う労働者のみ
  • 本社・本店のような事業運営に関する決定権を持っている職場のみ

が対象となっています。

専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の比較

対象業務

専門業務型裁量労働制 企画業務型裁量労働制
業務の性質上、その遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し具体的な指示をすることが困難な業務(※) 事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査、分析の業務であって、業務の性質上、その遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため、業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し具体的な指示をしない業務

※以下のいずれかの業務

  1. 新商品、新技術の研究開発の業務
  2. 情報処理システムの分析・設計の業務
  3. 記事の取材・編集の業務
  4. デザイナーの業務
  5. 放送番組、映画等のプロデューサー、ディレクターの業務
  6. コピーライターの業務
  7. システムコンサルタントの業務
  8. インテリアコーディネーターの業務
  9. ゲーム用ソフトウエアの創作の業務
  10. 証券アナリストの業務
  11. 金融商品の開発の業務
  12. 公認会計士の業務
  13. 弁護士の業務
  14. 建築士(一級建築士、二級建築士、木造建築士)の業務
  15. 不動産鑑定士の業務
  16. 弁理士の業務
  17. 税理士の業務
  18. 中小企業診断士の業務
  19. 大学での教授研究の業務

対象事業場

専門業務型裁量労働制 企画業務型裁量労働制
対象業務のある事業場 事業運営上の重要な決定が行われる事業場
(企業全体の事業運営に影響を及ぼすもの)

対象労働者

専門業務型裁量労働制 企画業務型裁量労働制
対象業務に従事する労働者 対象業務に従事する労働者であって、この制度によることに同意したもの

導入要件

専門業務型裁量労働制 企画業務型裁量労働制
次の事項を定めた労使協定を締結し、所轄労基署に届け出ること。

  1. 制度を適用する業務の範囲
  2. 適用者には業務遂行の方法・時間配分の決定等に関する具体的な指示をしないこと
  3. 1日あたりのみなし労働時間数
  4. 労使協定の有効期間
  5. 健康・福祉確保措置
  6. 苦情処理措置
  7. 5及び6に関し労働者ごとに講じた措置か記録を、協定の有効期間およびその期間満了後3年間保存すること
●導入要件

委員会の委員の5分の4以上の多数による議決により次の事項について決議し、決議内容を所轄労基署長に届け出ること。

  1. 対象業務の範囲
  2. 対象労働者の具体的範囲
  3. 1日あたりのみなし労働時間数
  4. 対象労働者に適用する健康・福祉確保措置
  5. 対象労働者からの苦情処理のための措置
  6. 本人の同意の取得・不同意者の不利益取扱いの禁止に関する措置
  7. 決議の有効期間の定め
  8. 4、5、6等に関する記録を、の期間及びその後3年間の保存

●労使委員会の要件

  1. 委員の半数が、過半数労働組合(これがない場合は過半数代表者)に任期を定めて指名されていること
  2. 委員会の開催の都度、議事録を作成し、3年間保存をすること
  3. 議事録を、作業場の見やすい場所への掲示、備付け等によって労働者に周知していること
  4. 委員会の招集、定足数等委員会の運営に関する規程が定められていること
  5. 4の規程の作成・変更について、委員会の同意を得なければならないこと
  6. 委員会の委員であること等を理由として不利益な取扱いをしないようにすること

届出・報告

専門業務型裁量労働制 企画業務型裁量労働制
労使協定の所轄労基署への届出
  1. 委員会の決議の所轄労基署長への届出
  2. 当分の間、次の事項について、決議の日から6カ月以内に1回、所轄労基署長への報告

イ.対象労働者の労働時間の状況
ロ.健康、福祉を確保する措置の実施状況

参考 専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の対比(参考)厚生労働省栃木労働局

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5.裁量労働制の導入におけるメリット

裁量労働制には、専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の2つがあり、どちらも上からの指示を受けるのではなく、自ら業務を遂行する必要のある業務に携わる労働者が対象です。

裁量労働制を導入する企業も増えてきているので、この制度を導入するメリット・デメリットについても見ていきましょう。

新しい仕組みにもかかわらず裁量労働制を導入している企業が増えているのは、何らかのメリットを享受できるからでしょう。裁量労働制のメリットを会社・労働者個人の両面から考えていきます。

会社のメリット

会社として裁量労働制を導入するメリットは、具体的に何があるのでしょうか。

裁量労働制導入のメリットについては、人件費と労務管理という会社にとって非常に重要な2つの面から考えてみると、答えが見えてくるでしょう。

  1. 人件費が予測しやすい
  2. 労務管理負担の軽減

①人件費が予測しやすい

裁量労働制は、みなし労働時間の概念を用いる仕組みです。

休日や深夜に関しての割増賃金支払い義務は発生するものの、原則的に時間外労働による残業代は発生しないという前提でみなし労働時間を設定します。

基本的に残業代は発生しない、みなし労働時間から人件費の総額があらかじめ算定できる点により、人件費の予測値を早い段階で算出可能です。

人件費は事業運営のなかで最も重要な費用のひとつです。人件費を予測しやすい点は、会社にとって裁量労働制を導入する大きなメリットといえるでしょう。

②労務管理負担の軽減

会社にとってもうひとつのメリットは、労務管理がしやすいという点です。

毎月、労働者一人ひとりの残業代を計算し、時間外労働に対する残業代を支給するのは、非常に手間のかかる作業といえます。

システム化が進んだとはいえ、給与支払いに関する部署は毎月の時間外労働算定の作業に追われるでしょう。

しかし裁量労働制を導入すれば、休日や深夜といった特殊な勤務時間を除き原則として時間外労働に対する割増賃金は発生しません。

みなし労働時間を固定給として処理できますので、労務管理負担の大幅な軽減につながるでしょう。

個人のメリット

裁量労働制は、会社にメリットがあるだけでなく、労働者個人へもメリットをもたらします。

労働者側も享受できる裁量労働制のメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。

働き方という側面から、労働者個人のメリットを考えてみましょう。

  1. 拘束時間の短縮
  2. 自分のペースで仕事ができる

①拘束時間の短縮

労働者個人が裁量労働制で働くメリットのひとつめは、拘束時間の短縮です。

自分の仕事の処理能力を高め、所定労働時間より短い時間で仕事を終わらせたり成果をあげたりできれば、勤務時間を短縮できます。

勤務時間が短くなったからといって、その分給与が減額されるわけではありません。

勤務時間が短くてもみなし労働時間分労働したとみなされ、事前に取り決めをした給与額の支払いがなされます。

効率よく仕事ができれば拘束時間を短縮でき、確定した給与が支払われるのは、労働者にとって魅力的でしょう

②自分のペースで仕事ができる

ふたつめのメリットは、自分のペースで仕事ができる点です。

裁量労働制の対象は、上司の指示を受けないで自ら進んで行う業務や専門的な業務。一部、監督者の承認が必要なケースもありますが原則として仕事のやり方は労働者の裁量に任されます。

仕事のやり方が自由、つまり自分の好きな働き方ができるのです。就業時間も自分のライフスタイルに合わせて自由に設定でき、裁量で満員電車を避ける時差通勤も可能となります。

裁量労働制は、拘束時間を短縮できるだけでなく、労働者のペースで業務遂行できる制度なのです。

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6.裁量労働制の導入におけるデメリット

裁量労働制にもデメリットはあります。メリットだけを見たのでは、裁量労働制を正しく理解したとはいえません。

デメリットを、会社と労働者個人の両方の立場から考えてみましょう。

会社のデメリット

裁量労働制の導入により、人件費の予測が可能になるだけでなく労務管理のコスト削減といったメリットが享受できます。

良いことずくめの制度に思えますが、裁量労働制の導入手続きにおいてデメリットが生じます。

導入手続きが負担

裁量労働制の制度導入にあたっては、いくつかの手続きを経なくてはなりません。

・労働者を代表する委員と使用者を代表とする委員で構成された労使委員会を設置する
・労使委員会の運営ルールを定める

ことが求められます。

労使委員会では、

  • 裁量労働制の対象となる業務の具体的な範囲
  • 労働したものとみなす時間
  • 健康及び福祉を確保するための具体的内容
  • 苦情処理のための具体的内容

など複数の項目を決議する必要があります。

労使委員会での決議は、所定の様式によって所轄労働基準監督署への提出が義務付けられています。

裁量労働制の導入にあたって、このような複雑な手続きを行わなければならないのは、大きな負担と感じている企業も多いようです

個人のデメリット

拘束時間を短縮できる裁量労働制は、個人にとって魅力的な制度ともいえます。

しかし、近年過労死や長時間労働といった社会問題も大きく取り上げられるようになっている点から、裁量労働制のメリットとデメリットの両面を、冷静に見ることも必要でしょう。

  1. 長時間労働常態化による過労
  2. 残業代が(基本的には)出ない
  3. 不法適用被害

①長時間労働常態化による過労

裁量労働制は、実際に働いた実労働時間と、給与に反映されるみなし労働時間とが乖離しています。

拘束時間が短縮できれば労働者にとって大きなメリットになりますが、思いのほか業務が立て込んでしまった場合はどうでしょう。

労働政策研究・研修機構の2013年調査によると、月平均労働時間で比べると裁量労働制のほうが一般労働者を上回っているという結果も出ています。

1ヶ月の労働時間の平均は、

  • 専門業務型裁量労働制が203.8時間
  • 企画業務型裁量労働制が194.4時間
  • 通常の労働時間制が186.7時間

このような状況では働けば働くだけ実労働時間とみなし労働時間の乖離が進み、長時間労働の常態化や過労といった深刻な問題が起こりかねません。

②残業代が(基本的には)出ない

業務遂行に長時間かかっている場合でも、みなし労働時間分働いたということに変わりはなく、原則として休日や深夜の手当以外の時間外労働による残業代は発生しません。

残業代が出ない場合、労働者にとって裁量労働制は、「こんなに働いているのに、残業代が支払われないなんて、自分は損をしている」という考え方にもつながりかねないでしょう。

労使協定でみなし労働時間を設定する際に業務量と処理能力とのバランスを正確に算定できなかった場合などで、このような「損をしている」という感情が労働者の中に湧き起こってしまう可能性は否定できません。

③不法適用被害

ほかにも、裁量労働制は労働者にとって不安要素があります。裁量労働制は、人件費の予測ができるので会社にとってはメリットのある制度です。

みなし労働時間分の給与を支払えば、原則的に残業代の支払いも免除されます。

そのため、裁量のない労働者への違法適用が問題視されています。残業代を支払いたくないために、制度を悪用して対象外の業務や裁量権のほとんどない労働者にまで制度を違法に適用しているケースがあるのです。

対象業務を拡大解釈すれば、適用される労働者の数をいくらでも増やせるような状況にもなりかねない裁量労働制を問題視する声も多く上がっています。

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7.裁量労働制で残業代が発生ケースとは?

時間外労働に対する残業代(割増賃金)が発生しないことは裁量労働制の原則ですが、例外的に、下記のような場合には残業代が発生するので注意しましょう。

  1. みなし労働時間が8時間を超える場合
  2. 深夜残業
  3. 休日出勤
割増賃金率について
割増賃金率は、労働基準法第37条により下記の通りに定められています。
・時間外労働:2割5分以上
・休日労働 :3割5分以上
・深夜労働 :2割5分以上
本記事では簡潔な説明を目的に最低割増賃金率を用いて表現・計算する場合があります。

①みなし労働時間が8時間を超える場合(時間外手当)

法定労働時間は、40時間/週、8時間/日であり、裁量労働制のみなし労働時間にも適用されます。

つまり裁量労働制において、みなし労働時間を一日8時間以上に設定した場合、休憩時間を除く労働時間が8時間を超える分は時間外労働(残業)となります。たとえば一日のみなし労働時間が9時間の場合には、8時間を超える1時間分は、時間外労働時間とされます。

当然、みなし労働時間が8時間以内におさまる場合には、法定労働時間内にあたるため、割増賃金は発生しません。

裁量労働制における時間外労働の割増賃金

労働基準法37条にもとづき、時間外労働に対する割増賃金は、従業員の1時間あたりの賃金に、割増賃金率2割5分を加算して算出します。

時間外労働(残業)の割増賃金の計算式
時間外労働の時間数(時間)×1時間あたりの賃金(円)×0.25
ただし時間外労働が60時間/月を超えた場合には、超える分の時間数につき×0.5となります
1時間あたりの賃金の求め方
月給÷1ヶ月あたりの平均所定労働時間

なお、1ヶ月あたりの平均所定労働時間は

(365日(うるう年の場合は366日)-1年間の休日数)×1日の所定労働時間数÷12

という計算式にて導くことができます。

計算方法の具体例

たとえば、みなし労働時間が9時間の事業場において、時給2,000円(1時間あたりの賃金)の従業員が働く場合、1日あたりの法定時間外労働は、1時間(9時間-法定労働時間8時間=1時間)であると計算できます。

時間外労働に対する割増賃金率は25%ですから、1日あたりの時間外手当は

・時間外労働の時間数(時間)×1時間あたりの賃金(円)×1.25
・1時間×2,000円×1.25=2,500円

となり、2,500円(500円の割増賃金を加算)を、みなし労働時間を超える時間外労働として支払う必要があります。

②裁量労働制における深夜残業の割増賃金(深夜手当)

裁量労働制においても、通常の労働体制と変わらず、深夜労働に対する割増賃金の支払義務は免除されません。

労働基準法37条にもとづき、夜22時から翌朝5時までの時間帯に深夜労働を行った場合には、労働時間数に応じて割増賃金(深夜手当)が発生します。

残業代の計算方法

深夜残業の割増賃金は、深夜時間帯の合計労働時間に対して、従業員の1時間あたりの賃金に、割増賃金率2割5分を加算して算出します。

深夜残業の割増賃金の計算式
深夜労働の時間数(時間)×1時間あたりの賃金(円)×0.25

深夜労働に対する残業代の計算における注意点

残業代を計算するにあたり、割増賃金が重複して発生し得ることには、注意が必要です。時間外労働が深夜業となった場合には、2種類の割増賃金を加算することになります。

具体的には、

  1. 時間外労働=1.25倍
  2. 深夜労働=1.25倍

となりますから、深夜残業を行った場合には、通常賃金より合計で1.5倍の賃金を支払う必要が生じます。

算出方法の具体例

計算が容易になるよう、時給(1時間あたりの賃金)1,000円で働いている従業員の場合で考えてみましょう。

この従業員には、時間外労働(残業)時間1時間につき、割増賃金率25%を加算して、1,250円の賃金を支払うことになります。

くわえて、残業が夜22時以降に至った場合、あわせて深夜手当も発生しますから、さらに割増賃金率25%を加算して、合計で1,500円/時の賃金が、労働時間数に応じて発生します。

たとえば、上記の従業員が夜22時から翌朝5時まで勤務した場合、深夜労働時間は7時間となります。この7時間に対する割増賃金を計算するべく、計算式に当てはめてみると、

・深夜労働の時間数(時間)×1時間あたりの賃金(円)×0.25
・7時間×1,000円×0.25=1,750円

となり、1,750円を深夜手当として上乗せ支給する必要があることがわかります。

③裁量労働制における休日労働の割増賃金(休日手当)

たとえば日曜日など、法定休日において従業員を出勤させた場合には、休日労働に対する割増賃金が発生します。

休日労働の定義
労働基準法にて定められている法定休日に、従業員を労働させることを休日労働と呼びます。具体的には、週1日もしくは4週を通じた4日を指します。曜日は問いません

休日出勤の割増賃金の計算方法

従業員を法定休日に労働させて場合には、裁量労働制が適用されている従業員であっても、労働時間数に応じて通常賃金に3割5分を加算して支払う必要があります。

休日労働の割増賃金の計算式
法定休日における労働時間数(時間)×1時間あたりの賃金(円)×1.35

算出方法の具体例

1時間あたりの賃金2,000円の労働者が、法定休日である日曜日に、15時から18時まで勤務した場合、法定休日における労働時間数は3時間となります。この労働について支払うべき割増賃金は

・法定休日における労働時間数(時間)×1時間あたりの賃金(円)×1.35
・3時間×2,000円×1.35=8,100円

となり、1日あたり8,100円を休日労働として支払う必要があります。

裁量労働制の休日出勤における注意点

休日労働が深夜業となった場合には、深夜手当(25%)と休日手当(35%)を合算し、合計60%の割増賃金を支払う義務が生じるので注意しましょう。

ただし法定休日には法定労働時間という概念が存在しないため、休日労働においては、時間外労働に対する割増賃金は発生しません。ですから、深夜残業の割増賃金計算とは異なり、休日労働に対する割増賃金と時間外労働に対する割増賃金が重複することはありません。

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8.裁量労働制の「比較データ問題」とは?

問題点

2018年1月、安倍晋三首相は裁量労働制について、「裁量労働制で働く人のほうが労働時間が短いというデータもある」と答弁しましたが、論拠とした厚生労働省の「2013年度労働時間等総合実態調査」のデータに400を超える不備があったことが判明したのです。

いわゆる裁量労働制の「比較データ問題」です。それだけではありません。

労働政策審議会に提出されていた資料にも異常値が発覚するなど、裁量労働制をめぐる働き方改革の土台が揺らぐ事態が起こっているのです。

正しいデータはどれなのか、どんなデータをもとに裁量労働制についての議論を深めていけばいいのか、比較データの数字に日本国中から不信の目が注がれてしまいました。

着地点

その後安倍晋三首相は同年2月14日に比較データが不適切だったと陳謝するとともに、働き方関連法案から裁量労働制の適用拡大を除外することを表明しました(2018年3月末時点)。

野党からは、過重労働を助長する「定額働かせ放題」法案として反対意見が出されているなか、裁量労働制が、多様な働き方を促し労働時間の短縮につながる制度として定着していくのかどうか、これからさまざまな議論が展開されることになり、その動向から目が離せません。

裁量労働制のQ&A

裁量労働制は、実働の長さを気にしない働き方です。実際に働いた時間が長くても、または短かくても、「契約した労働時間分を働いた」ことになります。 たとえば、みなし労働時間が1日7時間と設定されている場合、実際の労働時間が4時間であろうと10時間であろうと、契約した7時間分、働いたことになります。
裁量労働制では原則的に、時間外労働に対する割増賃金は発生しません。 ただし例外として、「みなし労働時間が8時間を超える」「深夜残業」「休日出勤」のケースでは、残業代が発生します。 裁量労働制においても、通常の労働体制と変わらず、深夜労働や休日労働に対する割増賃金の支払義務は免除されませんので、注意しましょう。
高度プロフェッショナル制度とは、証券アナリストやコンサルタントなど、一定以上の年収のある専門職の人材を、割増賃金が発生する労働時間の規制対象外とする制度です。 裁量労働制との大きな違いは、深夜・休日労働に関しての割増賃金の有無です。裁量労働制では割増賃金の支払い義務が発生しますが、高プロにはありません。