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“個”にフォーカスした人事制度によって、新たな企業文化を根付かせる

株式会社SHIBUYA109エンタテイメント
 | コーポレート戦略室 総務・人事部マネジャー

望月 健太郎さん

Interview

2019.04.25

若者のトレンド発信地として、渋谷の象徴でもあるSHIBUYA109。その施設運営を担う株式会社SHIBUYA109エンタテイメント(以下、SHIBUYA109)は、2017年に分社化された新しい運営組織だ。分社化による新たな企業文化の醸成、そして新体制に人事としてどう向き合ったか話を伺った。

PROFILE

望月 健太郎

株式会社SHIBUYA109エンタテイメント

自動車教習所の指導員・運送業の配送業務に携わった後、株式会社東急モールズデベロップメント(以下、TMD)に入社。SHIZUOKA109の企画開発・運営として数々の企画をヒットさせる。その後、ECやブランド統括担当を経て2016年から人事部へ。2018年より株式会社SHIBUYA109エンタテイメントへ出向し、現在に至る。

転職によって開花した、クリエイティブ力

望月さんはユニークなご経歴をお持ちだそうで……。

「新卒後、最初の3年半ほどは自動車教習所の職員だったんです。その後、運送会社で宅配業務に2年携わりSHIBUYA109(当時TMD)に転職しました。」

車つながりのお仕事から、なぜSHIBUYA109へ?

「地元の静岡にSHIZUOKA109ができるということで、求人があることを聞いたんです。東京で過ごした学生時代はギャル文化が盛り上がっていた頃で、渋谷から流行が生まれる様子を目の当たりにしていましたし、自分自身もそんなカルチャーやファッションが好きだった。だから『SHIBUYA109で働いてみたい!』という思いは自然に出てきましたね。」

TMDに入社された後はどんな業務を?

「営業と販売促進を担当し、“男前新聞”という紙媒体を制作し毎月数千部配布したり、ゴシック&ロリータファンの集うイベントを実施したり。男前新聞は撮影からライティング、デザインまで自分でやっていたので、PhotoshopやIllustratorの使い方もそのときに学びました。」

デザインまでご自身でやっていらしたんですか!?

「実は今日着ているTシャツも、自分でデザインしたものです。社内コンテストがあり、1位を獲得し、採用されたもので、今でもSHIBUYA109の1階エントランスとMAGNET by SHIBUYA109の屋上にある自動販売機で、売られていますよ。」

なんとクリエイティブな……。静岡にはいつ頃までいらっしゃいましたか?

「2015年ですね。先ほどの企画に加え、リーシング業務もテナント誘致からクロージングまで携わり、トレンドや顧客の反応を直接見続けてきました。そんな経験を活かし、EC、デジタルマーケティングを担当することになったのですが……。当初はテナント商談会で『PVとUUはー』、『コンバージョンがー』なんて言われても、その場で密かに用語検索しながら乗り切るほど、ちんぷんかんぷん。でも翌年にはCRMを単独設置したほうがいいと提案し担当になりました。そうこうしているうちに今度はSHIBUYA109全体のブランド戦略担当となり、ブランドブックの作成や、SNSマーケティングに携わりました。」

自分のキャリアの道標として、キャリアカウンセラーの資格を習得

人事への異動はいつ、どのような形で?

「2016年に突然辞令が出まして。周囲からも『え?望月さんが!?』と驚かれるくらいで、自分自身でも当初は『自分が異動する意図が分からない』とショックでしたね。」

なぜ望月さんを人事に抜擢したか、説明はありましたか?

「幅広い業務に携わっていて現場もわかるし、地方店の気持ちもわかるといった経験を活かしてほしかったようです。」

それを聞いてモチベーションは……。

「簡単には上がりませんでした。でも、そのときに今後の自分の可能性、キャリアについてもう一度考え直してみたんです。2つ考えが浮かび、一つは好きなマーケティングについて、ビジネススクールなどに通いながら極めようという考え方。もう一つは、ひとまず人事の資格をとってみようという考え方でした。」

それまでの経験からは、マーケティングを極める道に進みそうですが……。

「誰が見てもマーケティングの方が“僕っぽい”方向だったでしょうね。でも、たまたまキャリアコンサルティングの資格を見つけ、『これを学べば自分のキャリアや道も開くのでは?』と思いまして。」

そしてキャリアコンサルティングの資格を取得されることに繋がるのですね。

「勉強自体は非常に大変でした。でも、結果としては資格を取ってよかったです。スクールには、目的が明確でポジティブな仲間がたくさんいて刺激を受けましたから。

同時に、一般的な人事担当者や人事セミナーには堅いイメージがあったので、その中に自分がいたら浮くだろうな、とも思いました。“浮く”ということはエッジを効かせられるということであり、自分というコンテンツが面白がられるかもしれない。ということは、自分が人事に飛び込む行為はブルーオーシャンと言えるのではないか、と(笑)。」

分社化で生まれた新カルチャーを、制度改革でフィットさせる

実際に人事の仕事に携わってみていかがですか?

「キャリアコンサルタントの資格を取って新たな価値観を得たと同時に、自分がやっていたことが合っていると再認識する機会も増えました。例えば、僕は新卒採用の企業説明会で会社説明を一切しません。会社の情報はWEBやパンフレットに載っているので、僕は学生たちにキャリアについての話をするんです。その上で、当社に興味を持ってくれたら自発的に調べるなり質問するなりしてくれればいいですし。

普通の新卒採用は『母数をなるべく多く集め、優秀な人材を探そう』だと思いますが、そうではなく『最初から価値観が合う人を探そう』という方が互いに幸せだと思うんです。結果的に僕が新卒採用した中から離職者は今のところいませんね。」

理由を伺うと、なるほどと腑に落ちます。人事としての悩みや課題を感じられたことはありますか?

「その都度、色々ありますよ。SHIBUYA109がTMDから分社化したことも大きかったですし」

いつ、どういった戦略で分社化されたのでしょうか?

「分社化は2017年です。運営施設の中で、他はみな地域密着型なのに対し、SHIBUYA109だけは若者に特化しつつ商業施設そのものだけでなく、SHIBUYA109が生み出す様々なものに興味を持ってもらうエンタテイメント性が求められるため、コンセプトも動き方も異なるよねという判断です。」

分社後のご苦労もあったのではないですか?

「独立したことで土台がガラリと変わり、それにどう沿っていくかが大変でした。当社の企業理念は“Making You SHINE!”。若者を輝かせ、夢や願いをかなえるために、どう寄り添うかがミッションです。対してTMDは『ショッピングセンターから未来を切り拓く』が経営理念だったので、企業文化そのものが大きく変化したんです。」

「0→1」の立ち上げというのは大変な業務量ですよね。

「TMDでは施設ごとに部署が分かれていましたが、SHIBUYA109だとマーケティング・企画・MD・プロモーションといった横軸の分け方に変化し、TMDからトレースしていた人事制度や就業規則がそぐわなくなってきました。

そこで今年4月から、人事制度を大きく変えました。TMDではそもそも総合職全員がマネジメントを目指し、管理職以上のコースに専門職を設けていました。それに対し、SHIBUYA109では先ず全員が専門職であり、やりたい人がマネジメントに向かう形を採用しました。初めのステップで、自らのキャリアを選択できるということですね。」

専門職はどのように定義していらっしゃいますか?

「専門性は自己申告制で、会社ではセグメントしていません。だから『私はYouTube専門です』と申告し、動画配信やインフルエンサー施策に特化する、というのもありです。仕事で経験したことだけが専門と言えるわけではないですし、“個の力”をどんどん高めていきたい。時代の流れは早いので、会社で“箱”を決めないほうがスピード感についていきやすいと思います。」

コミュニケーション不足は、オリジナル付箋で対策

新たな人事制度は多様な人材が活躍できるシステムのようですね。

「よく『多様性を受容しよう』なんて言いますが、受容する以前に個性が発揮できないと。自分が何者なのかというところからスタートしてほしいので、専門性を高める支援や公開研修は、就業時間中のいつでも参加してよいことにしています。」

他に取り組まれた新たな施策はありますか?

「広報が企業理念を浸透させるプロジェクトを発足し、全社員が少人数で、社長も入りながらカジュアルミーティングをする場を設けたのですが、その場で社内のコミュニケーション不足を強く感じました。“施設ごと”から“機能別”にチーム分けが変わったことでプロジェクトが細分化し、部下が何をしているか上司は把握しきれない。逆に部下が上司に何か尋ねても、上司も自身の業務で忙しく対応しきれない。

実際、コミュニケーション不足による、モチベーションの低下が感じられました。業務によっては、企業理念と直接的には少し距離がある仕事もあり、理念の浸透や、仕事への動機付けには、より密なコミュニケーションが必要になります。

そこで“109(テンキュー)カード”という付箋をオリジナルで作り、感謝の気持ちをお互いに伝えあおうという取り組みを始めました」

意外と口では感謝を伝えにくいですよね、日本企業では。

「取り組みを始め、カードを配布するとき、まず上司からメンバーに配布するようにしたのですが、その際に『必ず1枚目はメンバーそれぞれにメッセージを書いてから配ること』と伝えました。」

それはすごい!

「下の人も、上の人も、みんな褒められたいと思うんです。褒め合う文化が根付いて、そのことで小さなことでもモチベーションに繋がってもらえたら嬉しいですね。」

これからの人事に求められるのは、個にフォーカスできる人

モチベーション対策をはじめ、人事業務でテクノロジーを活用しているシーンはありますか?

「不動産業界はアナログな面が色濃く残っていて、バックオフィス業務もそれに引きずられてアナログなままということが多い。なので、カオナビの導入を軸として、タレントマネジメント面でどんどん活用していきたいですね。先ほどの専門性の自己申告やエンゲージメントにも使いたいですし、個人的には残業時間をすべて公開してもいいのでは?と考えているんです。」

それは働き方改革の観点からでしょうか?

「というよりも、残業時間がわかることで『あのチームやメンバーが忙しいのだな』と助け合うような文化が出来ればいいなと。助け合うことで、相乗効果が生まれてチーム力が育つと思うんです。」

それはいいアイデアですね。新たな試みに積極的に取り組んでらっしゃる望月さんから見て、今後、人事に求められる人物像や要素は何だと思いますか?

「個にフォーカスできる人、でしょうか。個の理念や個々の生きる目的を、会社が理解しないとダメな時代になりつつあります。そんな“個の価値観”をどう見つめ、どう寄り添えるか。まずは人事担当者自身も、自分が何者かが明確でないといけないでしょうね。」

確かに主体的・自立的な人物を求める会社が増えています。

「私自身も、どれだけ個に寄り添えるかを常に考えています。恥ずかしいことでもどんどん言えて、相手の懐に飛び込まなければ価値観はわかりません。プライベートから必要以上に離れることもないと思いますし、『今の若者は……』なんて言い出したら相手の懐に入っていない証拠。

仕事とプライベートは、“生きる価値観”としてはシームレスになってきている。だからこそ、人事は相手の懐に飛び込むことを恐れてはいけないような気がしています。」

人事なら読むべし! オススメの1冊

働き方の哲学 360度の視点で仕事を考える
著:村山 昇
イラスト:若田紗希
刊:ディスカヴァー・トゥエンティワン

本当は秘密にしておきたかった一冊。大判で260ページというボリュームの中に、働くことに関する大切な概念がすべて図解されています。古代から現代に至るまで、多くの先人の知恵やキーワードが掲載されており、人事のみならず働く人、これから就職しようとする人すべての参考になること間違いありません。

会社概要

社名 株式会社SHIBUYA109エンタテイメント
設立 2017年
事業内容 SHIBUYA109事業および関連する事業
従業員数 77名
会社HP
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PROFILE

望月 健太郎

株式会社SHIBUYA109エンタテイメント

自動車教習所の指導員・運送業の配送業務に携わった後、株式会社東急モールズデベロップメント(以下、TMD)に入社。SHIZUOKA109の企画開発・運営として数々の企画をヒットさせる。その後、ECやブランド統括担当を経て2016年から人事部へ。2018年より株式会社SHIBUYA109エンタテイメントへ出向し、現在に至る。

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“kaonavi HR Innovators”は、人事/HR領域で活躍するHR領域で活躍するキーパーソンが「人事の未来」を語るWEBメディアです。人々の働き方や人材の価値が急速な変化を迎えている今、人事のキーパーソンとして真摯に課題と向き合う方々に「人事/HRの在り方」、「テクノロジーの活用」などを語っていただくことで、人事担当者が抱える課題を解決に導くヒントをお届けします。