【連載:人事評価はもういらない 最終回】
働き方新時代に生産性を上げるカギ「1on1」成功のコツとは?

はじめに

最新の人事評価のトレンドを追う連載「人事評価はもういらない」も今回が最終回。今回は働き方が多様化する中で、社員と企業のパフォーマンスを同時に上げていく「1on1マネジメント」のコツを伺いながら、人事評価の今後のトレンドについてお話いただきました。

エム・アイ・アソシエイツ株式会社 松丘啓司
1986年 東京大学法学部卒業。アクセンチュア入社。2005年 エム・アイ・アソシエイツ株式会社を設立し、代表取締役に就任。以後、パフォーマンスマネジメント、ダイバーシティ&インクルージョン、営業意思決定といった領域で、企業向けの人材開発・組織変革プログラムの開発と提供を続けている。
著書に『1on1マネジメント』『人事評価はもういらない』(共にファーストプレス)などがある。

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多様化する働き方の時代に、必要なのは1on1

人ありきのマネジメントを実行するにも、「仕事とプライベートは分けたい」と考える人が多いと思います。そんな中で、前回お話いただいたような「家族的な関わり方をしながら仕事をする」ためには何が必要ですか?

松丘:1on1が重要になってきます。

「家族的な付き合いが大切」といっても、かつてのように社宅で社員が一緒に暮らす必要はありません。「相手をよく理解する」という意味です。最近の若い人は他人に無関心になったといわれますが、その反面SNSの発達もあり承認欲求が以前より強くなっていると感じます。若い社員にとっても理解されることは決して嫌なことではないのです。

そして仕事とプライベートをうまく両立させるために、その2つを切り離すべきだという考え方はもはや必要ないのです。仕事中に子どもの学校から連絡がくることもあるし、家に帰ってから料理の合間にスマホで仕事のメールの返信をする、などということも増えていますよね。つまり、仕事とプライベートを明確に分けると逆に効率が悪くなる。

リモートワークやさまざまな雇用形態で働く時代に生産性をアップさせていくには、効率を重視した仕事環境が必要で、お互いの理解のための「1on1」が欠かせないのです。

マネージャーにとっての「1on1」の重要性をお聞かせください。

松丘:本来マネージャーの育成とは、経験学習でしか成し得ないわけです。マネジメントの本を10冊読んだからといってできるようになるわけではなくて、トレーニングを受けた後に実践していく中で発見したことを、繰り返しながら試行錯誤していくしかない。ところが日常の職場においては、実地の機会というのは実はあまりないのです。つまり「1on1」とは、マネージャーがマネジメントスキルを高めるための場でもあるといえます。

新たなパフォーマンスマネジメントの導入においては、マネージャー自身のピープルマネジメント力が特に重要であると書かれてますね。

松丘:それこそ従来のように「ウォーターフォール型」のマネジメントをしていた時代は、上から与えた目標の達成の度合いを管理することがマネージャーの役割であり、KPIなどの数値で判断していればよかったので、ひとりのマネージャーが20人の部下を抱えているような組織も割とありました。

しかし「ピープルマネジメント」というのは、「人材の潜在的な価値を引き出し、パフォーマンスを高めるために行う」「一人ひとりに応じたマネジメント」という意味なので、せいぜい6~7人くらいが現実的なところです。

そういった意味では、マネージャーを増やしていく必要があります。今どき、マネジメントに専念できるマネージャーはほとんどいませんが、本来は部下に任せるべき仕事も全部自分でやっているから忙しいのです。マネージャーがやるべきことは、マネージャーにしかできない新たなチャレンジであり、未来を切り拓いていくような仕事であるべきなのです。

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マネージャー必見! 1on1を成功に導く2つのコツ

「1on1」マネジメントを成功させるコツはありますか。

松丘:私の著書『1on1マネジメント』の中に、35のポイントを挙げています。コーチングのスキルはもちろんあったほうが好ましいですが、それ以前に大事なことが2つあります。

まず1つは「マネージャー自身がどのようなマインドセットを持ち合わせているのか」ということ。これまでの一般的なマインドセットは「マネージャーとは管理者であり、上司であるべき」というものでした。「自分より下のメンバーは未熟なので、管理してあげなければいけない」「自分の知っている正解の方向に部下を導いていく必要がある」というようなものが主流でした。これからは「マネージャーが気付いた問題点を改善させるのが部下の成長につながる」といったような管理者的なマインドセットではなくて、「1on1」という、個々人に応じたパフォーマンス向上や成長を支援していくマインドセットが求められていきます。

「彼女の強みは何だろう」とか「彼はこういうときにモチベーションが高まるんだ」といったことが分かれば「ここをもっと伸ばすために応援してあげよう」といったマインドセットに変わっていくはずなのです。逆にマインドセットが変わりさえすれば、多少マネジメントのスキルが足りなくても、何をすればよいのかが分かるのです。

そして2つ目に大事なのは「マネージャーとは単純なコーチ役ではなく、自らも実践者でなければいけない」ということです。「1on1」の重要な機能の一つに、メンバーのキャリア開発を支援するというものがあります。「あなたは3年後、5年後、どうなっていきたい?」「どういうキャリアビジョンを持っているの?」と部下に尋ねたときに、逆に「参考までにマネージャーのキャリアプランを教えていただけますか?」と質問されたら、「いや、考えていない」と言うわけにはいきません。自分なら、そんな人に支援されたくないですよね。

目標設定も同じです。部下に「もっと高い目標を掲げろ」と言っておきながら、自分自身が全くチャレンジしていなかったら、そもそも「ピープルマネジメント」なんて成り立たないじゃないですか。逆に、マネージャーが自分のキャリアビジョンや目標について真剣に考えていれば、部下に対して自分がどういうことをしてあげればよいのか、というのは大体想像がつくわけです。

そういった意味でスキルやコツといったもの以上に、「マインドセット」と「実践者である」ということが、まず何より大事なんじゃないかと思います。

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成果主義で置き去りにされた人材開発

長いスパンでメンバーの成長を見届けていくためにどのようなことが必要でしょうか?

松丘:人材開発というものは「未来志向」であるべきなのです。「彼が課長になるためには、どういう経験が必要なんだろう」とか「彼女にはこういうプロジェクトをやらせてみたらいいんじゃないか」とか。そういうことをマネージャー同士が話し合った上で、実際にそれをやらせてみて「これだけ成長したから、もう課長になっても大丈夫だよね」という流れが理想なのです。人材開発における「どうやってこの人を育てるのか」という議論が、成果主義の中で極端に少なくなってしまっていたのです。

一部のエリートについては、そういった開発がなされているかもしれませんが、大多数の人たちについての評価は、過去を見て採点しているだけ、という状況になっているといえます。

新たなパフォーマンスマネジメントでは、本人の自発的な意志や意欲が大切になりますが、本人の希望とチームやマネージャーのプライオリティにずれが生じた場合、どのようなすり合わせを行うべきでしょうか。

松丘:やはりそこは市場原理にはなりますよね。「誰が一番その役割にふさわしいか」ということを、会社として見極めていくことになる と思います。たとえば「マーケティングマネージャーをやりたい」と希望している人の能力を総合的に判断したときに「それより別のポジションのほうが、より一層彼の能力が発揮できる」という可能性もあるわけじゃないですか。でも、そういうアセスメントは実はあまり行われていないのです。

最近では会社によってはHRテックで、AIが「自分に合ったポジションは?」というようにリストアップしてくれることもあります。客観的なデータを見ると今まで自分が思い込んでいたことと、本当に向いていることが同じであるとは限らないのです。

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人事が客観的なデータを現場や経営に提案していく

AIがない場合も多いと思います。そうなると客観的な立場であるマネージャーの私見が評価を左右する可能性が高くなるということですか。

松丘:いや、マネージャーが一人だけでメンバーの昇格を決めてはいけません。基本的には部門の中で「タレントレビュー」だとか「ピープルレビュー」といわれるディスカッションの場を持って、昇格を決めていくことが必要です。直属の上司が一番部下の情報を持っているのは確かですが、個人の私見に左右されないように、客観的なアセスメントのデータを参考にしたり、今後はITツールを使って割り出したりしながら、ディスカッションして決めることが大切です。

そこで人事部の出番ですね。マネジメント層や経営層から求められた人材リクエストにパッと「客観的なデータを提示すること」が人事の仕事になるわけですね。

松丘:そうなるでしょうね。

今後は既存の人事部の業務を超え、経営や戦略に関わることも多くなりそうです。

松丘:すでにメンバーがスムーズに目標設定できるようになるためのワークショップを、人事主導で企画している企業もあります。私たちのようなコンサルタント会社が入って、人事と一緒にOKRをつくるサポートを行うケースも増えています。

人事を担当している方の中には、変革に対して抵抗を感じる人もたくさんいらっしゃるかもしれません。今までの人事の仕事は非常に内向きで、一歩会社の外に出ると他では通用しないという印象がありました。でも「新たなパフォーマンスマネジメント」の導入は、どの企業でも通用するような人事のエキスパートとしてのキャリア形成にもつながるのです。

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人事戦略の今後のトレンド

社会の変化に伴い、今後企業のあり方はどのように変化し、人事の変革はどのように進んでいくとお考えでしょうか? 未来を見据えた予測をお聞かせください。

松丘:日本企業における成果主義の仕組みはすでに行き詰まりつつあります。 この先5年~10年くらいのスパンのなかで、大きく変わっていくことは間違いありません。

すでに一部の企業では、「新たなパフォーマンスマネジメント」の導入が始まっています。今後さらに雇用形態が多様になり、仕事の形態自体も変わってくる可能性があります。今までは組織に仕事が紐付いていましたが、すでに一人の人間が社内の複数のプロジェクトに関わるケースも増えており、もはや組織単位で仕事をする時代ではなくなりつつあります。

それに伴い、一人ひとりの価値観が重視され、働き方の選択肢も多様になっていく。そういった意味でも、一人ひとりの意志や希望を踏まえた新しいパフォーマンスマネジメントが、より一層求められるようになるのではないかと思いますね。

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まとめ

ライフ&ワークバランスが重視され、働き方が多様化する時代に生産性を向上させるにはマネジメントの形が変わっていきます。

また、これからは人事も企業におけるエキスパート職として、その役割を変えていかなければならないことも同時に分かりました。

「人材のプロとして積極的に経営に関わっていく人事部」

最新の人事評評価のトレンドを紐解くことで、未来の人事部のあり方が見えてきました。

渡邊玲子 文