嘱託とは? 労働条件、定年再雇用、デメリットをわかりやすく

働き方改革では、さまざまな雇用契約や雇用制度がクローズアップされてきました。そのひとつが、嘱託です。

ここでは、

  • 嘱託とは何か
  • 嘱託社員と契約社員の違い
  • 嘱託社員の労働条件
  • 嘱託社員の給料や待遇の注意点
  • 嘱託社員の無期転換ルール
  • 嘱託社員を雇用する企業メリット

など、嘱託をさまざまな視点から解説していきます。

1.嘱託(しょくたく)とは?

嘱託とは、正式な雇用関係を結ばなかったり、正式な任命をしたりしないまま、業務への従事を依頼することを意味する言葉です。労働契約では、正社員とは異なる嘱託制度によって、嘱託職員や嘱託員等の名称で労働者を雇用することを指します。働き方改革や多様な働き方が注目されることで、関心が集まる制度のひとつです。

嘱託と委嘱の違い

嘱託と類似する言葉に委嘱があり、それぞれ下記のような違いがあります。

  • 嘱託:一定の業務や仕事を正規の職員や社員以外の人に頼み任せること、もしくはそのような形で業務や仕事を依頼された労働者
  • 委嘱:特定の仕事や役職を人に任せる

委嘱が単に他者に業務を任せるという意味で用いられるのに対し、嘱託は正規の社員以外の人に頼み任せるといった制限があるのです。

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2.嘱託社員とは?

嘱託社員とは、正規の社員とは異なる嘱託制度によって雇用される労働者のこと。特徴は、正規社員ではない、有期雇用契約を結んでいる、労働時間や労働日などを個別に決めることができないといった点です。

しかし、嘱託社員という言葉が広く社会に浸透しているにもかかわらず、「嘱託社員がどのような社員のことを指すのか」法律上の定義が存在していないという実情があります。

嘱託社員の具体例

嘱託社員は2種類に分類できます。

  1. 定年後に再雇用された労働者:企業を定年退職した社員をもう一度企業が雇い入れるケースで、当該労働者を正規の社員と区別するため嘱託社員と呼ぶ
  2. 特殊なスキルや知識を持った人に仕事を依頼すること:たとえば、医師や弁護士といった人物に仕事を頼む場合、嘱託社員という呼び方を用いる

ただし、労働基準法で規定する労働契約に該当したり労働基準法の適用を受けたりするのは、前者の定年退職後に再雇用した場合に限ります。

一方、企業が医師や弁護士に仕事を依頼する場合、嘱託社員という呼び方でも、その契約は請負契約となるため、契約は労働基準法の適用から外れます。

嘱託社員の雇用形態

嘱託社員の多くは1年程度の雇用期間を決めて労働契約を締結しています。そのため、嘱託制度は有期雇用契約(非正規雇用)のひとつだと考えられているのです。

また、嘱託社員の「嘱託」という言葉には、「頼んで任せる」という意味があります。つまり、嘱託契約は「業務を頼んで任せる」ことが条件になっているため、雇用契約以外の委任契約、請負契約、業務委託契約といった契約でも構わないとされています。

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有期雇用の場合、不合理な労働条件は禁止

嘱託社員の労働契約が有期雇用契約の場合、正規の社員と比較して「不合理な労働条件」を設けることは、法律上、禁止されています。その理由は、定年後の嘱託社員の雇用契約が多くの場合、1年契約の更新制といった有期雇用となっているためです。

労働契約法第20条では、有期雇用契約者と無期雇用契約者の間に不合理な労働条件の相違が存在することを禁止しています。企業は、定年後に再雇用した労働者への労働条件が、正規の社員の労働条件と比較して不合理に低いものでないかを確認しなくてはなりません。

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3.定年後再雇用される嘱託社員とは?

「定年後再雇用される嘱託社員」の具体的な例として、「定年後に再雇用され、引き続き企業に所属する社員」「定年を超えた年齢で新規採用された社員」2つが挙げられます。

一般的に嘱託社員という言葉を用いた場合、定年を超えた年齢の社員を指す、1年契約といった有期雇用契約を結んでいるというケースが多くなります。この2つから考えても、正規の社員とは労働契約の内容が大きく異なると分かります。

65歳まで雇用の機会を与える義務(高年齢者雇用安定法)

少子高齢化が社会問題になっていることもあり、高齢者の雇用機会の創造は急務の課題といえるでしょう。現在の高年齢者雇用安定法では、65歳まで雇用の機会を与える義務が盛り込まれています。

具体的には、下記のようなものです。

  • 一部の業種を除くすべての企業が対象
  • 従業員のうち原則として希望者全員に65歳までの雇用の機会を与える

このため企業では、再雇用制度として定年を迎えた希望者を嘱託社員として継続して雇用しているのです。

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4.嘱託社員と各雇用形態との違い

嘱託社員の具体的な雇用形態について、有期雇用契約や業務委託契約、契約社員といった切り口から解説します。

正社員との違い

嘱託社員と正社員の主な違いは雇用期間の有無です。嘱託社員には契約期間の定めがあるのが一般的です。つまり、契約期間が満了となり、契約の更新がなければ雇い止めとなります。

一方で正社員には契約期間の定めがありません。加えて懲戒処分等の正当な理由がなければ、正社員は解雇できないため、働く上での安定性は正社員の方があるとされています。

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契約社員との違い

契約社員とは、嘱託社員と同じく雇用期間の定めがある非正規雇用労働者です。契約形態には大きな違いはありません

異なる点はその呼称で、企業によって異なりますが、有期雇用契約の社員で、特定の専門スキルを持った人や定年後に再雇用される人を指して嘱託社員と呼ぶことがあります。

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契約社員と同じく、嘱託社員とパート・アルバイトでの明確な違いはありません。有期雇用契約を結んでいる労働者には、下記の通り様々な呼称がありますが、企業内でも複数の呼称を併用するケースがあるため、企業ごとに定義を確認する必要があります。

  • 嘱託社員
  • パートタイマー
  • アルバイト
  • 契約社員
  • 臨時社員
  • 準社員

また呼称が異なる場合でも、「1週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比べて短い労働者」という条件に該当する場合、呼称に関係なくパートタイム労働法の対象となるパートタイム労働者として法律上認識されます。

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5.嘱託社員のメリット

非正規雇用というとネガティブなイメージがつきまといますが、実際には従業員・企業側双方にメリットがあります。それぞれ確認してみましょう。

従業員側

フルタイムで働く正社員と比べ、勤務日数や時間をある程度選べるため、ワークライフバランスを確保しやすくなります。

また定年後に同じ企業で再雇用される場合、働き慣れた環境で円滑にスキルや能力を発揮できます。そのほか収入が得られることや有給休暇の繰越し、社会保険料の負担軽減が可能といった点も嘱託社員のメリットです。

企業側

雇用期間の定めがないため、契約を更新しないことで、雇用の調整が可能です。

定年退職後の人材を嘱託社員として再雇用する場合、人柄やスキルを知った上で採用できるため採用のミスマッチが防げます。さらに積み上げてきた知識や経験をそのまま発揮してもらえるので教育コスト削減といった点でも効果があります。

また定年後の再雇用の場合、給与が下がるのが一般的のため、人件費削減にもつながります。

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6.嘱託社員のデメリット

嘱託社員での雇用はメリットばかりではありません。デメリットも知った上で自分・自社にとって良い選択肢なのかを確認していきましょう。

従業員側

有期雇用契約のため契約が更新されない場合、職を失うことになります。加えて、契約満了による退職は自己都合退職となり、失業手当を受給するまでの期間が大きく延びるため、金銭周りで不安に陥る可能性があります。

また定年前よりも給与が下がるのが一般的で、昔の部下が上司になることも少なくなく、モチベーションの維持も問題です。

企業側

嘱託社員は有期雇用契約となるため、契約更新の度に更新手続きあり、社員の負担が増えます。

また給与の低下や業務の変化、元部下が上司になるといった環境の変化から、モチベーションが低下する恐れがあり、これを維持するための配慮等が必要になってきます。

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7.嘱託社員の労働条件とは?

嘱託社員について、法律上で明確な定義や基準は定められていません。そのため、月給や賞与などの給与額や各種手当、退職金や福利厚生といった労働条件に関する決まりはないに等しいのです。

つまり嘱託社員の労働条件は、企業によって大きく異なるといえます。一般的に定年後、嘱託社員として再雇用された場合の給与額は以前の給与額より下がるケースが多いようです。

嘱託社員の有給休暇と発生日数

嘱託社員の有給休暇は、入社後6カ月で発生します。実際に付与される有給休暇が、週の所定労働日数に関する条件のうちの1つに該当した場合、正規の社員と同日数の有給休暇が付与されるのです。

週の所定労働日数に関する条件とは、「週の所定労働日数が4日以上」「週の所定労働時間が30時間以上」で、どちらか1つの条件を満たす必要があります。

有給休暇の比例付与

「週の所定労働日数が4日以上」「週の所定労働時間が30時間以上」どちらの条件も満たさなかったとしても、「週の所定労働日数が4日以下」「週の所定労働時間が30時間未満」2つの条件に該当した場合、正規の社員よりも少ない日数が比例付与されます。

比例付与の日数は、10日×週所定労働日数÷5.2日といった計算にて求められます。

嘱託社員にボーナスの支給はある?

嘱託社員へのボーナス支給の有無は、労働契約の内容によって異なります。つまり、企業が提示した労働契約の内容によって、「ボーナスをもらえる」「ボーナスをもらえない」といったケースに分かれるのです。

一般的に嘱託社員のボーナスには、下記のような特徴があります。

  • 正規の社員の基本給を基準にして、その何%といった形で給与やボーナスが支給される
  • 嘱託社員でボーナスが支給される場合であっても、正社員と比較して大幅に少ないケースが多く見られる

嘱託社員の場合、ボーナスの金額以前に、ボーナスが支給されるか否かといったことも検討課題になるでしょう。

嘱託社員の退職金

一般的な企業は、就業規則や退職金規定の中で退職金についての規定を設けています。このように、就業規則上などで退職金の支給を明記している企業でも、嘱託社員に対しては、必ずしも退職金を支払う必要はありません。

たとえば、就業規則上では退職金規定がある場合でも、

  • 就業規則に委任規定を設けた上で別途、嘱託規定を設け退職金を不支給とすると明記する
  • 就業規則において嘱託職員に対し適用除外と明記した上で、別途パートタイム労働法が要求する「労働条件通知書」を交付する
  • 嘱託社員との労働契約において退職金不支給を規定する

といった場合、企業は嘱託社員に対する退職金を不支給とすることができるのです。

嘱託社員の給与・退職金・福利厚生などは、企業が提示する労働条件によって大きく変わります

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8.嘱託社員の給料や待遇の注意点

嘱託社員の給料や待遇を決定する際、注意しなければならないことがあります。

労働契約法第20条では、「正社員と比較して不合理に低い賃金」を支払うことを禁止しています。正規の社員でないからといって、不合理に低い給与や待遇を決定しないよう注意が必要です。

正社員との賃金格差は合法

嘱託社員に「正社員と比較して不合理に低い賃金」を支払うことは、労働契約法第20条で禁止されています。

しかし、仕事の内容や仕事に対する責任の程度などが正規の社員と異なることを理由として、合理的な範囲で正社員と差をつけた賃金を支払うことまでは禁止されていません。これは労働契約法第20条の中に法的根拠があります。

労働契約法第20条では、正社員と有期雇用契約社員、両者の格差について「労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。」と明記しています。

この規定が根拠となり、合理的な範囲であれば、職務の内容などの違いをもととして異なる賃金を支払うことができるのです。

通勤手当や皆勤手当の支給格差は違法

労働契約法第20条では、嘱託社員に対する労働条件について、正社員と比較して不合理に低い労働条件を設定することを禁止していますが、この中に、各種手当も含まれています。

平成30年6月1日長澤運輸事件の最高裁判決にもあるように合理的な理由がないにもかかわらず、正規の社員に対して支払っている通勤手当や皆勤手当などを嘱託社員である点を理由に不支給にすることを禁止しているのです。

嘱託社員に支給しない手当がある場合、手当の設定趣旨を鑑みて、不支給が不合理であるか否かを検討しなければなりません。

住宅手当や扶養手当の支給格差は合法

不合理であってはならない労働条件の中に、各種手当も含まれているため、通勤手当・皆勤手当の不支給は禁止されています。

しかし同じ手当でも住宅手当・扶養手当といった住居費や家族の扶養に関わる生活費の補填を目的とした手当を嘱託社員に対して不支給とすることは、手当の趣旨から考え適法とされています。

嘱託社員に対し、正社員と比較して不合理に低い賃金を支払うことは、労働契約法第20条で禁止されています

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9.嘱託社員の社会保険について

企業は、嘱託社員に対する社会保険各種の取り扱いなどについて、正しい知識と適切な手続きが求められます。

原則として定年後に再雇用された嘱託社員でも、「健康保険」「介護保険」「厚生年金保険」「労災保険」「雇用保険」といった社会保険各種に加入できるのです。

嘱託社員の健康保険

定年後に再雇用された嘱託社員でも、75歳までであれば原則として健康保険に加入できます。

しかし、再雇用後の労働契約で規定されている、定年退職前と比較して就業時間を減らしたという場合、健康保険への加入対象者から外れることも。健康保険の加入については、労働契約の中身を必ず確認しましょう。

嘱託社員の介護保険

介護保険については、65歳の誕生日の前日までであれば、退職前と同様に加入しなければなりません。よって社会保険と同様、介護保険料を給与から天引きすることになります。

ただし、

  • 定年退職前と比較して再雇用後の労働契約で就業時間を減らした
  • 就業時間を減らしたことを理由に健康保険の加入対象者から外れた

場合、65歳の誕生日の前日までの介護保険料の負担はなくなります。

嘱託社員の厚生年金保険

原則として70歳の誕生日の前日までであれば、厚生年金保険への加入が義務付けられています。

ただし、厚生年金保険にも例外があり、

  • 定年退職前と比較して再雇用後の労働契約で就業時間を減らした
  • 就業時間を減らしたことを理由に健康保険の加入対象者から外れた

場合、厚生年金保険の加入対象者から外れるのです。健康保険や介護保険と同様に、労働契約の中身を確認しましょう。

嘱託社員の雇用保険や労災保険

64歳になった年の月までは雇用保険の被保険者となります。よって、定年前と同様に雇用保険料を給与から天引きするのです。

ただし、

  • 定年退職前と比較して再雇用後の労働契約で就業時間を減らした
  • 週の所定労働時間が20時間未満になった

場合、雇用保険の対象者から外れるため、雇用保険料の負担はなくなります。

一方、労災保険は健康保険や厚生年金保険などと異なり、年齢や労働条件にかかわらず加入対象となるのです。労災保険は、嘱託社員自身ではなく企業が事業所単位で加入するもの。そのため、労災保険料は給与天引きの対象ではありません。

嘱託社員でも、原則的には、

  • 健康保険
  • 介護保険
  • 厚生年金保険
  • 雇用保険
  • 労災保険

に加入しなければなりません

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10.嘱託社員の無期転換ルール

嘱託社員には、雇用契約における無期転換ルールがあります。

無期転換ルールとは、有期雇用契約が通算して5年を超えて繰り返し更新され、かつ当該社員が申し込みをした場合、企業は当該有期雇用契約を期間の定めのない雇用契約に転換しなければならないルールのことで、労働者保護の観点から生まれました。

定年後再雇用の「無期転換ルールの特例制度」

嘱託社員には、無期転換ルールがあります。しかし、定年まで勤め上げた後、さらに企業に再雇用されたといったことを鑑みて、都道府県労働局の認定を受けることを条件に、嘱託社員を無期転換ルールの対象外にできる仕組みがあります。

このような制度を、定年後再雇用の「無期転換ルールの特例制度」と呼びます。

具体例

1年の有期雇用契約で嘱託社員を雇用する場合、企業は高年齢者雇用安定法の適用によって65歳までの雇用の機会を提供しなければなりません。そのため、65歳になるまで、1年更新で有期雇用契約を繰り返し結ぶケースも多く見られます。

しかし、65歳まで契約更新を繰り返し行っていると、無期転換ルールである「有期雇用契約が通算で5年を超えて繰り返し更新された場合」に該当するでしょう。

  • 無期転換申込権が発生する
  • 嘱託社員から無期転換の申し込みがあった場合、企業は雇用期間満了を理由とした雇用の終了ができなくなる

といった状況になります。このような場合、都道府県労働局の認定を受けることで無期転換ルールの対象外とする「無期転換ルールの特例制度」を活用するのです。

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11.嘱託社員は解雇しやすい?

嘱託社員の雇用契約は、有期雇用契約が主流ですので、「正規の社員と比較して企業が解雇しやすいのではないか」といった疑問が湧いてくるでしょう。ここでは、嘱託社員の雇い止めや契約解消について考えてみます。

有期雇用契約の雇い止め

嘱託社員の雇用契約は、そのほとんどが有期雇用契約です。有期雇用期間は、3カ月・6カ月・1年といった適度な期間で区切られており、期間満了の都度、契約を更新していきます。

そのため、契約期間のどこかのタイミングで雇い止めがいつ行われてもおかしくない状況にあるのです。雇い止めをめぐる訴訟の判例では一定の基準を明示していますが、仮に雇い止めが違法であったとしても、嘱託社員の雇い止めを解決できる方法はありません。

期間途中の契約取消は困難

嘱託社員の雇用契約を、期間途中に解消することは困難です。

正規の社員よりも嘱託社員のほうが雇用契約を取り消しやすいと思うかもしれません。しかし実際、無期で雇用されている正規の社員と比較しても、有期で雇用されている嘱託社員は解雇されにくい立場にあります。

法律上でも、倒産など「やむを得ない事由」がない限り嘱託社員の雇用契約を途中で解消することはできないとしているのです。契約期間途中での契約解消はまず困難だと理解しておきましょう。

嘱託社員の契約期間中の契約解消は、倒産などのやむを得ない事由がない限り、困難です。ただし、雇い止めの可能性は否定できません

12.公務員の嘱託職員とは?

公務員にも嘱託職員と呼ばれる職員がいます。地方公務員を例に考えてみると、地方公務員には、

  • 一般職
  • 特別職
  • 行政職
  • 専門行政職
  • 税務職
  • 教育職
  • 医療職
  • 研究職
  • 公安職

といったさまざまな種別があります。さらに任用条件の違いによって

  • 正規職員
  • 臨時的任用職員
  • 再任用職員
  • 任期付短時間勤務職員
  • 非常勤職員

と分かれるのです。

地方公務員法における嘱託職員とは非常勤職員

嘱託社員という呼称は、一般企業だけで用いられるわけではありません。たとえば、地方公務員の中にも、嘱託職員として仕事をする人も多く存在するのです。一般的に地方公務員法における嘱託職員は、非常勤職員と呼ばれています。

地方公務員の種別には任用条件における種別があり、一般企業で用いられている言葉で言い換えれば、正規職員や臨時的に任用する臨時的任用職員です。

非常勤職員といった種別で職員を区別しており、この種別に分類されるもののひとつに、嘱託職員が存在します。地方公務員法にて嘱託と呼ばれる非常勤職員の種別は、それぞれ労働条件が異なります。

ただし、雇用期間に関しては、3年程度を限度とする、常勤職員より短い時間のみ勤務するといった条件になっています。

嘱託と臨時(臨時的任用職員)の違い

嘱託職員に類似する言葉に、臨時的任用職員があります。

  • 嘱託職員:3年程度を限度とし、常勤職員より短い時間のみ勤務するといった条件で雇用される職員
  • 臨時的任用職員:一時的に正規の職員が欠けたことによって臨時の職が設置された場合に雇用される職員