人的資本経営で重要なKPIとは?【具体例・設定・活用方法】

人材を「コスト」ではなく「資本」とみなす人的資本経営は、近年注目を集めている人事トレンドのひとつ。人的資本経営に取り組む上で、KPIは非常に重要な役割を持ちます。

今回は人的資本経営で重要なKPIについて、具体例や設定のポイント、活用方法などを詳しく解説します。

1.人的資本経営で重要なKPIとは?

KPIとは、目標を達成するプロセスにおける達成度合いを計測・監視する重要な指標のこと。「Key Performance Indicator」の略で「重要業績評価指標」を指します。人的資本経営を実行するには、KPI設定・達成を含む次のプロセスが重要になるのです。

  • 経営戦略と人材戦略の紐づけ
  • 実行する人事施策の検討とKPIの設定
  • KPI達成に向けた人事施策の実行
  • モニタリング・改善

人的資本経営を進める際にKPIを設定しないと、方向性が定まりません。KPIで目指すべき場所を明確化・数値化し、人事施策のPDCAを回していくことが求められます。

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そもそも人的資本経営とは?

人材を「コスト」ではなく「資本」ととらえて経営を進めていく考え方です。経済産業省では人材を「資本」としてとらえ、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方、と定義しています。

新たな価値を生み出すのは人材であり、その結果持続的な企業価値の向上をもたらします。そのために人材を投資対象として捉え、人材の価値を引き出すために戦略的に投資していくことが人的資本経営です。

人的資本の情報開示が義務化されているように、ステークホルダーにとっても人的資本が重要視されていることからも企業は人的資本経営の実行が求められています。

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2.人的資本経営でも注目度の高いKPI

次のふたつは、人的資本経営でも注目度の高いKPIです。

  1. エンゲージメント
  2. コグニティブ・ダイバーシティ

①エンゲージメント

従業員が自社に対して貢献したいという気持ちや愛着を示す指標であり、企業と従業員の結びつきの強さを表します。

エンゲージメントが高いと主体的・積極的に業務に取り組めるようになり、組織全体の士気やパフォーマンスが高まります。その結果、生産性が向上し、質の高いサービスや商品が生まれやすくなることで企業利益・価値の向上につながるのです。

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②コグニティブ・ダイバーシティ

環境や経験による考え方の多様性を認めるダイバーシティの一種です。なお、コグニティブとは「認知」を意味します。

一般的にいわれるダイバーシティは人種や性別、障がいの有無といった人属性のものです。しかしコグニティブダイバーシティは、外見からはわからない内面的な違い・多様性を指します。

認知の多様性を認めると、新たなアイデアの創出やリーダー育成に役立ち、組織力の強化にもつながるのです。

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3.人的資本経営で使用するKPIの具体例

KPIは人的資本経営の実行のほか、人的資本の情報開示にも役立ちます。つまり、人的資本経営を進めていくにあたって、人的資本の情報開示で求められている項目に合わせてKPIを設定するのもひとつです。

ただし、設定するKPIは自社の経営戦略に沿っていることが前提となります。ここでは非財務情報可視化研究会が発表した「人的資本可視化指針(案)」で明示されている開示項目をベースに、人的資本経営で使用するKPIの具体例をみていきます。

  1. 人材育成に関連するKPIの具体例
  2. 従業員エンゲージメントに関連するKPIの具体例
  3. 流動性に関連するKPIの具体例
  4. ダイバーシティに関連するKPIの具体例
  5. 健康・安全に関連するKPIの具体例

①人材育成に関連するKPIの具体例

  • 研修時間
  • 研修費用
  • パフォーマンスとキャリア開発について定期的にレビューを受けている従業員の割合
  • 研修参加率
  • 複数分野の研修受講率
  • 研修と人材開発の効果
  • 人材確保・定着の取組の説明
  • スキル向上等プログラムの種類・対象等

上記のほか、リーダシップや後継者育成も重要なKPIのひとつ。人材育成に関連するKPIは、経営戦略や経営課題との整合性をみて設定しましょう。

②従業員エンゲージメントに関連するKPIの具体例

従業員エンゲージメントに関連するKPIでは、主に下記のような数値をアンケートやサーベイから調査します。

  • 総合満足度:自社に対する総合的な満足度
  • 継続勤務意向:今後も働き続けたいと思う度合い
  • eNPS:知人や友人に自社を紹介したいと思う度合い

従業員エンゲージメントとは、従業員が企業に対して持つ愛着や満足度の高さを表す指標です。満足度や働き続けたい意欲など多角的な面から、企業に対する想いを引き出してみましょう。

③流動性に関連するKPIの具体例

  • 離職率
  • 定着率
  • 新規雇用の総数・比率
  • 離職の総数
  • 採用・離職コスト
  • 後継者有効率
  • 後継者カバー率
  • 従業員一人あたりの質

離職率や定着率は、企業の持続的な成長につながる人的資本経営が実行できているかを測る指標です。自社の抱える課題や経営戦略もふまえて、流動性に関する適切な指標を設定してみてください。

④ダイバーシティに関連するKPIの具体例

  • 属性別の社員・経営層の比率
  • 男女間の給与の差
  • 正社員・非正規社員等の福利厚生の差
  • 育児休暇等の後の復職率・定着率
  • 男女別育児休暇取得社員数

ダイバーシティに関連するKPIからは、個が尊重される環境で人的資本経営がなされているかを判断できます。なかでも「女性の管理職比率」や「男性の育児休業取得率」は、人的資本情報開示の義務化の対象となる項目です。

⑤健康・安全に関連するKPIの具体例

  • 労働災害の種類、発生件数・割合、死亡数等
  • 医療・ヘルスケアサービスの利用促進、その適用範囲の説明
  • ニアミス発生率
  • 健康・安全関連の研修を受講した社員の割合

健康・安全に関連するKPIからは、人材の健康や安全を守ったうえで経営がなされているかを判断できます。とくに従業員の命の危険を伴う業務がある業界・業種では、重要なKPIといえるでしょう。

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4.人的資本経営におけるKPIの活用方法

人的資本経営のKPIは企業の人的資本の見える化、人的資本の情報開示に活用できます。

2023年度から有価証券報告書に人的資本情報の記載が義務化され、対象企業は「女性管理職比率」「男性の育児休暇取得率」「男女間賃金格差」といった項目の開示が求められます。

そのほかは企業の経営戦略・計画に合わせて開示項目を選択できるため、ステークホルダーから高い評価を受けられる項目を選択してみましょう。なお、開示が望ましい分野は下記のとおりです。

  • 人材育成
  • 従業員エンゲージメント
  • 流動性
  • ダイバーシティ
  • 健康・安全
  • コンプライアンス・労働慣行

自社で人的資本経営を行うにあたって、人的資本の情報開示も視野に入れると戦略的にKPIを設定できます。

またKPIを活用すると人事施策の改善に向けたPDCAを回すのも可能です。人的資本経営の取り組みには人事施策に関係する面も大きくあるため、人的資本経営におけるKPIを活用してPDCAを回すと、同時に人事施策の改善も図れます。

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5.人的資本経営におけるKPI設定のポイント

人的資本経営におけるKPI設定のポイントは、次のとおりです。

  1. 自社ならではのKPIを設定する
  2. 達成可能な効果的なKPIを設定する
  3. 優先度を意識する
  4. 適切な人材データを収集する
  5. リソースを準備する

ここでは、各ポイントを詳しく解説します。

①自社ならではのKPIを設定する

他社との比較材料となる共通項目のKPIだけでなく、自社の経営戦略や経営計画に連動した独自性のあるKPIを設定します。

KPI設定の目的は人的資本経営の実現であり、自社の企業価値を向上させること。企業によって経営戦略・計画は異なるため、当然設定すべきKPIも異なります。

適切なKPIを設定すると、より効果的な人事施策を実行でき、企業の成長・価値向上につながる人的資本経営が実行できるはずです。

②達成可能な効果的なKPIを設定する

高いKPIを設定して達成できない、または達成できても人的資本経営に効果的でないKPIでは意味がありません。

達成可能かつ効果的なKPIを設定するためにも自社の状況を把握したうえで、人的資本経営を実現するために必要な人事施策や課題を明確にしましょう。

この際、人的資本の情報開示を意識しすぎてもいけません。開示を目的にせず、KPIはあくまで人的資本経営を実現するための手段だと意識しましょう。

③優先度を意識する

複数のKPIを設定するなかで、優先的に達成すべきKPIを意識します。

そのためにも人的資本経営の実現に向けて自社の大きな課題となっている、あるいは経営戦略・計画の実現に大きな影響をもたらすポイントを把握する必要があるのです。優先度を意識せずにすべてが中途半端にならないよう注意しましょう。

④適切な人材データを収集する

人的資本経営の実現には従業員のスキルや経験、志望キャリアやエンゲージメントなどといった「個」の詳細なデータが必要です。

KPIを設定する際、自社の人事課題を把握するために適切な人材データの収集が欠かせません。現状を正確に把握してこそより効果的なKPIが設定でき、人的資本経営の実現につながります。

⑤リソースを準備する

適切なKPIの設定、設定したKPIを達成するには十分なリソースも必要です。自社の経営戦略と連携してKPIが設定できる人材、人事領域における専門性のある人材やKPI達成に向けて適切に施策を実行できる人材などをそろえるのもポイントです。

また人的資本経営に組織で一体的に取り組めるよう、経営陣・人事が主体となって従業員にKPIを周知するのも重要となります。

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6.人的資本経営における企業のKPI活用事例

経済産業省が発行する「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書~人材版伊藤レポート2.0~実践事例集」から、人的資本経営における企業KPI活用事例をご紹介します。

  1. 旭化成
  2. 伊藤忠商事
  3. 荏原製作所
参考 人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書~人材版伊藤レポート2.0~実践事例集経済産業省

①旭化成

旭化成ではビジネスモデル変革や価値創造のために全社的にDXを推進しており、その一環としてDX人材レベルを1〜5まで定義し、高度なDX人材育成に向けたKPIを設定しています。

2021年度末までのDX人材の育成目標(KPI)を230名に設定し、結果は達成済みです。また自社に重要なエンゲージメントを「上司部下関係、職場環境」「活力」「成長につながる行動」の項目として特定し、毎年調査しています。

個人と組織の成長につながるエンゲージメントを定義することで、より正確な調査が行えるよう工夫している点がポイントです。

②伊藤忠商事

伊藤忠商事では、人的資本経営の実現のため人的資本投資におけるKPIと施策を明示しています。

人的資本の拡充策例とKPI例

  • 企業理念の改訂、企業行動指針の設定:社員の労働生産性
  • 朝型勤務制度・在宅勤務制度:エンゲージメント・サーベイスコア
  • 健康経営:社員の能力開発に充てた時間・費用
  • 職務機能:時間外勤務制度や精勤休暇取得率

KPIから施策の成果を見える化して、人的資本の拡充策を継続的に見直す環境を整えています。

③荏原製作所

荏原製作所では、長期ビジョン(E-Vision2030)に連動する人材施策・KPIを整備しています。そのなかで、人材の活躍促進を重要課題の1つに位置づけているのです。

中期経営計画(E-Plan2022)では、「グローバルでの持続的成長を実現するための基盤整備」「競争し挑戦する企業風土への変革」に向けた施策を掲げ、各施策の目標をKPIとして設定し、過去の成果とちに開示しています。

ここからは施策の内容と、2022年12月までのKPI・2020年12月時の実績をみていきましょう。

グローバルでの持続的成長を実現するための基盤整備

  • 役割等級制度をグローバルに拡大:100%・10%
  • 評価制度をグローバルに拡大:50%・0%
  • サクセションプログラム制度をグローバルに拡大:100%・1%

競争し、挑戦する企業風土へ変革

  • グローバルエンゲージメントサーベイスコア向上:83%・78%
  • 海外事業所のグローバルキーポジション現地社員比較の向上:50%(2030年までの目標)・20%

【10選】人的資本情報の開示例、開示で使われる指標
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