同一労働同一賃金とは? 内容、ガイドライン、対策、例外について【メリットとデメリット】

同一労働同一賃金は、雇用形態などが異なっても同じ仕事をする場合、賃金も同等のレベルで支給するというルールです。政府のガイドライン案も発表されており、各企業で同一労働同一賃金の導入に向けて対応を模索する動きが出ています。

ここでは、

  • 内容やガイドラインの詳細
  • 企業が取るべき対策
  • 例外事項や判例

などについて解説します。

目次

1.同一労働同一賃金とは?

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同じ仕事をするのなら、正社員も契約社員もアルバイトでも同じ賃金が払われるべきだという意見を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

同一労働同一賃金は、働き方改革のなかで、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との待遇格差の解消を目的とした点が注目されています。同一労働同一賃金とはどのような制度なのか、見ていくことにしましょう。

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同一労働同一賃金の意味

同一労働同一賃金とは「仕事ぶりや能力が適正に評価され、意欲をもって働けるよう、同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すもの」と定義されています。

正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇差を解消する必要性については、多くの企業で共通認識が形成されつつあります。

そこでさまざまな取り組みを通して、正規や非正規を問わずどのような雇用形態を選択しても納得が得られる処遇を受けつつ多様な働き方を自由に選択できるようにと政策の推進が始まったのです。

働き方改革でもその後押しをするように議論が行われており、同一労働同一賃金は社会全体で非常に注目されています。

同一労働同一賃金は働き方改革関連法案の柱

働き方改革は、労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会の実現を総合的に推進するものです。

そのため、

  • 長時間労働の是正
  • 多様で柔軟な働き方の実現
  • 雇用形態に関わらない公正な待遇の確保

などの措置を講ずるものとなっています。

なかでも同一労働同一賃金は、働き方改革関連法案の柱ともいえる政策で、2016年に「同一労働同一賃金ガイドライン案」が提示されました。2017年の労働政策審議会から出された法律案要綱の答申を受け、2018年4月には法案が国会に提出されています。

同一労働同一賃金の施行はいつから?

同一労働同一賃金の導入タイミングは、大企業と中小企業とで異なります。

  • 大企業:2020年4月から同一労働同一賃金施行
  • 中小企業:2021年4月から同一労働同一賃金施行

次項からは、それぞれの詳細を見ていきましょう。

【大企業】2020年4月~

働き方改革関連法案の柱となっている同一労働同一賃金について大企業の適用時期は2020年度とされています。2017年9月に厚生労働省が出した法案要綱では、制度の施行は2019年4月とされていました。

よって2020年施行は、当初の予定より1年遅れたスケジュールです。また、同じく改革の柱として打ち出されている残業時間の上限規制については、予定されていたスケジュール通り2019年度が適用時期となっています。

【中小企業】2021年4月~

中小企業における同一労働同一賃金は、2021年度から適用されます。2017年に厚生労働省が作成した法案要綱では、中小企業における制度の施行は2020年4月とされていたので、大企業と同様に施行スケジュールが1年遅れました。

残業時間の上限規制については、2020年度の適用が決められています。大企業も中小企業も、労使協定の締結や就業規則の改変を伴う同一労働同一賃金の施行は、十分な時間を必要とするため、時間を確保できるよう配慮した形となっています。

どのような形で法律上制度化される?

正規雇用労働者と非正規雇用労働者間の処遇格差について、「同一労働同一賃金」という言葉そのものを制度化するというわけではありません。

同一労働同一賃金の多くが、「合理的理由の無い処遇差別(不利益取扱い)の禁止」という形で条文化されています。賃金だけに限定してしまうと、労働の対価としての給与以外の手当や経費などについての処遇格差は制度外の問題とされてしまうのです。

賃金以外の給付についても処遇格差が生じないようにするために広く処遇を意味する形で「合理的理由の無い処遇差別(不利益取扱い)の禁止」という文言が使用されているのです。

海外と日本の違い

同一労働同一賃金に関連して、海外と日本の賃金や労働時間の格差について比較してみましょう。

フルタイム労働者の賃金を100とした場合、日本のパートタイム労働者は57、英国は71、フランスは89となっており、欧州諸国と比較して賃金格差の大きさが際立ちます。

また週49時間以上働いている労働者の割合は、

  • イギリス12.5%
  • フランス10.4%
  • ドイツ10.1%
  • 日本は21.3%

とほぼ倍になっており日本の賃金制度や労働時間の格差に大きな課題があるとわかります。

同一労働同一賃金の先進国は欧州(EU)

同一労働同一賃金の先進国といえば、欧州(EU)でしょう。

日本はこれから同一労働同一賃金の制度を本格的に適用しようとしていますがEUでは司法判断による客観的正当化事由がない場合、「正社員(=フルタイム労働者/常用雇用労働者)よりも不利益な取扱いを受けない(原則禁止)」としています。

反対に客観的正当化事由があれば、「不当利益取扱いが許容される(例外)」と規定されています。司法判断という非常に明確な基準があることが特徴です。

現行法の課題は?

現行法における課題を見てみましょう。

  1. 労働契約法:第20条の適用対象外の扱い
  2. 労働者派遣法:均衡待遇が「配慮義務」「努力義務」といった程度に留まっている 支払う賃金の規制
  3. パートタイム労働法:「フルタイムパート」に、労働契約法・パートタイム労働法の適用がない

①労働契約法

労働契約法は2008年3月に施行、2012年に一部改正されました。

「労働者及び使用者の自主的な交渉の下で、労働契約が合意により成立し、又は変更されるという合意の原則」を定めることにより、「労働者の保護を図りつつ、個別の労働関係の安定に資することを目的」(厚生労働省)としています。

労働契約法には、判断がわかれる3点の課題があります。

  1. 無期転換権の行使をした場合(第18条)など第20条の適用対象外 有期労働契約から無期労働契約へと転換した労働者の保護策
  2. 有期契約労働者側が不合理性を裏付ける事実の主張立証をする証明責任の問題
  3. 20条が無効とされた労働条件を補完する効力(直律的効力)を有するか

②労働者派遣法

労働者派遣法の正式名称は、「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」で、派遣労働者の雇用の安定、保護が目的です。

この労働者派遣法のなかにある均衡待遇確保のための規定は2015年に改正され、一定の補強がなされたといえるでしょう。しかし補強された均衡待遇ですら「配慮義務」「努力義務」といった程度に留まっているのが現状です。

また、行政指導の対象になり得ることがあったとしても均衡待遇への実効性を考えた場合、その効果は薄いでしょう。

ほかにも派遣元が派遣労働者に対して支払う賃金をどのように規制するかといった課題について現行法には設定されていないのです。派遣労働者の保護をうたった法律にも、課題が残されているのです。

③パートタイム労働法

パートタイム労働法は、パートタイム労働者の「公正な待遇の実現」を目的としています。

第9条には差別的取り扱いの禁止項目があり「事業主は、職務の内容、人材活用の仕組みや運用などが通常の労働者と同一のパートタイム労働者である場合には、パートタイム労働者であることを理由として、その待遇について差別的取り扱いをしてはならない」としています。

2014年の改正で新しく第8条の短時間労働者の待遇の原則が制定されましたが、適用条件が厳格なので違法の判決が出たものは未だにありません。

また期間の定めのないフルタイムの「フルタイムパート」の非正規雇用労働者に関しては、労働契約法・パートタイム労働法の適用がないとされており、この点も大きな課題です。

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2.同一労働同一賃金のガイドライン案(解説)

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2016年12月20日に安倍総理が議長を務める「働き方改革実現会議」において、政府案として提示された同一労働同一賃金のガイドライン案があります。

ガイドライン案は、結婚や子育てなどで離職した若年層で、非正規雇用を選択せざるを得ない人たちの労働に対する選択肢を広げることを念頭に作成されたものです。

政府のガイドライン案とは?

ガイドラインとは、自治体や国といった組織が、その関係者が取り組むことが望ましいとする指針、目安を提示したもので、法的拘束力は持ちません。前述した政府のガイドライン案とは、政府が同一労働同一賃金の指針を示したものです。

正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間にある不合理な待遇格差を解消することを目指すために作成されています。不合理な待遇格差と不合理でない待遇格差の目安が示され、運用にあたっての指針となるものです。

現時点では骨子、行政指導等の対象にはならない

政府のガイドライン案も、法的な拘束力はなく、現時点ではあくまで「案」に過ぎません。今後関係者や有識者の意見をヒアリングしたり国会で改正法案についての審議を通過させたりする過程を経て、最終的に確定されます。

施行についてはこれからの検討課題である改正法案の施行時期に合わせた形で施行される見込みです。よって現時点では骨子であり、法的拘束力がないので行政指導等の対象にはなりません

原則となる考え方

政府のガイドライン案では「待遇ごとに、その趣旨・性格に照らして、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間に違いがなければ同一の、違いがあれば違いに応じた待遇が必要」といった原則となる考えもまとめられています。

ガイドラインの基準は、裁判でも争い得る問題としても捉えられています。原則となる考えのうえに問題となる・問題とならないそれぞれの具体例を置くことで、同一労働同一賃金の原則をベースにしたガイドラインの基本を確立させているのです。

対象は、賃金や賞与、各種手当だけではない

同一労働同一賃金のガイドライン案では、その対象が明記されています。対象となる待遇は、「賃金(基本給を始め、賞与や各種手当)のみならず、福利厚生や教育訓練も対象」です。

同一労働同一賃金の対象となる賃金については、

  • 基本給(時間あたりの労働賃金)
  • 時間外手当
  • 賞与
  • 役職・業務手当
  • 通勤手当
  • 家族・住宅手当
  • 食事手当

なども含まれます。

企業によっては、そのほかの名称でさまざまな手当てが支給されています。基本給といったベースの給与以外でも、正規雇用社員と非正規雇用社員の両方に支給されているものはすべてが対象となると考えましょう。

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具体例

同一労働同一賃金の制度は、対象となる待遇や原則となる考えがガイドライン案で提示されています。そこで、同一労働同一賃金の典型的な事例として整理できるものを、問題とならない事例、問題となる事例として具体例を提示してみましょう。

実例をもとに考察を行えばガイドライン案の骨子をより理解できますので、自社の制度に照らし合わせて考える材料にするとよいでしょう。ただ、具体的な事例といっても個々の事情を考慮する必要がありますので、典型的な事例として捉えてください。

問題とならない事例

個々の事情を考慮せず一律の典型的な事例ではありますが、同一労働同一賃金の問題とならない事例を挙げてみましょう。まず、キャリアコースと基本給の関係です。

特殊なキャリアコースを選択した結果、スキルアップした正規雇用労働者の基本給を非正規雇用労働者より高くすることは、同一労働同一賃金の問題にはなりません

特殊なキャリアコースを選択したという事実がある場合、それは正規雇用労働者の能力をワンランクアップさせたことになるため、それを理由に基本給に格差をつけるのは、正当な理由となるのです。

また職業経験や勤務地に変更がある正規雇用労働者の基本給を非正規雇用労働者より高くすることも同一労働同一賃金の問題とはなりません

転勤という形で、住まいを変更する必要のある正規雇用労働者は多いですし、この場合同じ仕事をしていても労働契約時の条件には非正規雇用労働者とは大きな違いがあります。

正規雇用労働者と非正規雇用労働者の待遇格差を生じさせる合理的理由があれば、差別的取り扱いとは見なされないのです。

問題となる事例

同一労働同一賃金として問題となる事例もあります。

たとえば正規雇用労働者には職務内容や貢献等にかかわらず支給している賞与を非正規雇用労働者には支給しない場合、同一労働同一賃金の原則にのっとると問題となるのです。

職務内容や貢献度に関係がないということは、正規社員と非正規社員の区別なく同等に取り扱うべきであることを意味します。労働内容が同じであれば、当然、非正規社員にも賞与を支給すべきでしょう。

ほかにも、役職(たとえば店長)も責任の範囲・程度が同じであるにも関わらず、非正規雇用労働者の店長には正規雇用労働者の店長より低額の役職手当を支給するといったケースの場合、同一労働同一賃金の原則から考えると問題があります。

役職も同じで責任の範囲や程度が同程度ならば、役職手当に関しても正規雇用労働者と非正規雇用労働者との待遇格差は認められません

実社会ではこのような問題とされる制度が放置されているケースもあります。自社の制度が問題となるケースに当てはまらないかどうか、慎重に精査が必要です。

「同一労働」はどのように定義される?

「同一労働」の定義とは、「そのときどきの職務内容の同一性または同等性」です。しかしその時点での職務内容が同じなら、常に同一賃金の支払い義務が生じるのかというとそうではありません。賃金に格差が生じる「合理的理由」があれば、格差は許容されます。

この「合理的理由」は、同一労働同一賃金を語るうえでのキーワードになります。たとえばヨーロッパで一般的である「職能給」は、「職務」が同じならば同じ賃金が支払われる場合が多いです。

一方日本企業の「職能給」は、職務内容だけでなく将来的なキャリア展開を考慮した賃金制度となっています。つまり、それぞれの時点で職務内容が同じでも、正規雇用労働者と非正規雇用労働者とで異なった賃金が支給されていることが多いのです。

3.施行されるとどうなる? メリット・デメリット

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同一労働同一賃金には、待遇に関しての原則が定められています。原則に照らし合わせて問題とされる場合と、問題ではないと解釈される場合があるとわかりました。

実際に制度として施行された場合、労働者にはどのような影響があるのでしょう。ここでは、正規雇用労働者、非正規雇用労働者が受けるメリット、デメリットについて考察します。

正規雇用労働者のメリット

  1. 高齢者の再雇用促進
  2. 男女格差の是正
  3. 外国人労働者の待遇改善

①高齢者の再雇用促進

終身雇用が崩壊するとともに年功賃金制度も崩れていく時代のなかで経験や知識を活かして相応の成果を上げている高齢者の賃金を、年齢を理由に抑制するケースが多いです。

制度の施行によって、年齢を理由に賃金を低く抑えることは問題とみなされます。同一労働同一賃金の原則からいえば、あくまでも賃金は労働あるいは成果に応じて決定されるべきです。

所与の業務を遂行できれば、年齢を問わず働き続けることができる柔軟な仕組みも実現できるでしょう。

②男女格差の是正

同一労働同一賃金の施行で、男女間の格差も是正されることが見込まれます。少子高齢化などによる労働人口の減少分の補強や個人の社会への参加機会の増大などのため、日本でも女性の社会進出が確実に進んでいます。

しかし現実、企業内には根深い男女の賃金格差が残っており、日本は先進国中でも待遇格差が大きい国といえます。

制度の施行で同じ仕事に就いていれば、男女で格差のない賃金が支給されますし、それによって女性の社会進出もさらに進むでしょう。

③外国人労働者の待遇改善

日本で働く外国人の数は増えています。多くの企業で労働力不足やグローバル社会への対応のために、外国人の活用を積極的に行っているのです。

日本で働く外国人にとって納得性の高い人事給与制度を構築するのは、非常に重要な課題でしょう。同一労働同一賃金の考え方は、国籍に関係なくすべての労働者にとって公平な制度構築の一助となるのです。

同一労働同一賃金の施行は、日本人の働き方だけでなく外国人労働者にとっても大きな変化をもたらすでしょう。

正規雇用労働者のデメリット

  1. 賃金が下がる
  2. 年功序列の崩壊
  3. 若者の失業率が高くなる

①賃金が下がる

正規雇用労働者は自分が現在取り組む職務の価値が決定された場合、その価値に応じて賃金が見直される可能性があるでしょう。するとその現実を受け入れなければなりません。

もし能力以上の賃金をもらっていたとすれば、同一労働同一賃金の考え方が取り入れられた際、賃金が下がる可能性があります。

また会社の経営力が低下している場合、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との均衡を優先するあまり、他社における同等の職務と比べて賃金が抑えられてしまうことも考えられるでしょう。

②年功序列の崩壊

同一労働同一賃金は、正規雇用労働者に年功序列の崩壊というデメリットをもたらします。

同じ仕事をすれば同じ賃金を支払われることが具現化されると、極端な話同じ仕事をしていれば新卒社員と勤続20年のベテラン社員が同一の賃金水準となる可能性もあるのです。

社歴に関わらず労働内容で賃金が一律化されることは、年功序列の崩壊を意味します。ベテラン社員のモチベーション低下などを引き起こす可能性も否めません。

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③若者の失業率が高くなる

欧米のように職種別労働市場で同一労働同一賃金が実現されると、労働に対する習熟度や熟練度の低い若年層の失業率は一気に高くなるでしょう。

新卒者を一括採用し、採用後に研修などを通して教育する日本の通例によって、若者の失業率が低いといったメリットもあります。

同一労働同一賃金は、若年層の労働市場にも影響を与える側面を持っています。メリットを享受しつつ、デメリットを上手に回避する工夫も必要でしょう。

非正規労働者のメリット

  1. 賃金や賞与がアップ
  2. 福利厚生など待遇改善

①賃金や賞与がアップ

同一の労働に従事していれば、正規雇用労働者と同等の賃金の支払いがなされるため、正規雇用労働者との待遇格差が解消されます。非正規雇用労働者の基本給などの賃金が上がる可能が高まるのです。

賞与などが支給されるケースがあれば、大幅な待遇改善が見込まれますし、それによって非正規雇用労働者の労働意欲やモチベーションも大きく向上するでしょう。意欲的になれば、業務の質も向上するので企業へ与えるメリットも増えていくかもしれません。

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②福利厚生など待遇改善

同一労働同一賃金の施行は、正規雇用労働者に支払われている各種手当や福利厚生にもメスを入れることとなります。たとえば通勤手当や住宅手当などが非正規雇用労働者にも支給される可能性が高まるのです。

また待遇格差の改善を進めている企業では、非正規雇用労働者に福利厚生として提供している施設の利用を認めるといった制度改変を実施しているところもあります。

賃金だけでなく諸手当や福利厚生にも改善が見られるのは、非正規雇用労働者にとって大きなメリットとなるでしょう。

非正規労働者のデメリット

非正規労働者間で賃金格差が広がる

同一労働同一賃金の施行によって、非正規労働者も就く職務により賃金の決定が行われます。どこに配属されどのような仕事に就くかによっては、同じ非正規労働者の間でも賃金格差が生じることが考えられるのです。

どんな人にも公平・中立な制度を構築するのは非常に困難でしょう。皮肉にも、賃金格差の解消といった待遇改善を目指して施行された制度によって、新たな賃金格差が広がってしまう可能性を持ち合わせているのです。

4.派遣労働者は注意! 無期転換ルールと同一労働同一賃金の関係

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派遣労働者には同一労働同一賃金のほかに、無期転換ルールも気になる制度ではないでしょうか。ここでは、無期転換ルールと同一労働同一賃金の及ぼす影響について考察していきます。

無期転換ルールとは?

無期転換ルールは、2018年4月から適用がスタートしています。

無期転換ルールとは原則として期間の定めがある「有期雇用労働契約」が、同一の会社で通算5年を超えるすべての人を対象とする制度です。

契約社員やアルバイト、パートタイマーのほか派遣労働者も対象で有期契約労働者からの申し込みにより無期労働契約への転換が可能です。ただし派遣労働者は派遣先企業ではなく、派遣元企業との労働関係においてルールが適用されます。

無期転換したフルタイム労働者は、同一労働同一賃金の対象外

今回の同一労働同一賃金制度の対象に、無期転換したフルタイム労働者は入っていないのです。

同一労働同一賃金制度は、有期雇用契約労働者と正規雇用労働者との待遇格差を解消することを目的としています。そのため無期転換したフルタイム労働者は同一労働同一賃金制度の対象外となり、制度に則していないとしても法的に問われることはないのです。

無期転換したフルタイム労働者と正規雇用労働者との待遇格差は、今回の同一労働同一賃金制度の導入で解消されません

無期転換したフルタイム労働者よりも有期雇用契約労働者のほうが待遇が良いケースも

同一労働同一賃金は、無期契約労働者を対象としていません。そのため、法的には次のようなケースも想定されます。

無期転換ルールの施行により、有期契約時の待遇を維持したままで無期転換するフルタイム労働者が出てくるのが2018年4月です。大企業では2020年、中小企業では2021年に同一労働同一賃金ガイドラインが適用され、有期契約労働者の処遇が改善されることになっています。

この場合無期転換したフルタイム労働者より有期契約労働者が処遇が良くなるケースも発生しますが、法律的には直ちに違反とはならないのです。

ただ法的な観点とは別に、人事労務管理上の問題は残ります。無期転換したフルタイム労働者の処遇全般をどう扱うかは、労使双方の検討課題となるでしょう。

法改正までに企業労使ですり合わせを

このように、無期転換ルールと同一労働同一賃金の整合性に課題があることが浮き彫りになりました。

2018年の無期転換ルール適用から、2020年(大企業)もしくは2021年(中小企業)の同一労働同一賃金の法改正まで、期間があります。この間に、労使双方で労働契約や処遇などの制度についての調整を行うことが重要です。

調整を行う際に参考となるのが、裁判所の判断要素です。

裁判所が、同一労働同一賃金ガイドラインに基づいて均衡・均等待遇を考慮する際に判断材料とするのは、有期雇用契約労働者・パート、派遣労働者の意見を労使協議でどれほど反映したかどうかです。

労働組合の組織化を速やかに行い、労使が話し合えるテーブルを用意するべきでしょう。

5.施行に向けての企業内対策の方法

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同一労働同一賃金制度は、労働者だけでなく企業内部にもさまざまな影響を与える制度です。同一労働同一賃金の施行に向けて、企業として何か対策を講じる必要はあるのでしょうか。

制度の施行に向けた企業内対策の方法を4つご紹介しましょう。

  1. 個人の職務範囲を明確化
  2. 賃金体系を「職能給」から「職務給」に近づける
  3. 公正で透明性の高い評価制度を導入
  4. 時代と合わない各種手当の見直し

①個人の職務範囲を明確化

同一労働同一賃金を労働市場に組み込む場合、最初に考えるべきは個人の職務範囲です。職務範囲が明確化されなければ、どの労働による対価であるのか断定できません。欧米諸国のような職種別に企業横断的水準を確立できたとしても、賃金の決定段階でつまずいてしまうでしょう。

ジョブディスクリプション(職務記述書)を利用すると、責任の範囲が明確になります。不合理な賃金格差を生じさせないよう、全社で個人の職務範囲を統一して把握しましょう。

②賃金体系を「職能給」から「職務給」に近づける

同一労働同一賃金を賃金制度に組み込むことも必要で、そのためには、賃金体系を「職能給」から「職務給」へと近づけなくてはなりません。どの職務に対して、いくら賃金を支払うのかといった仕組みを構築しましょう。

ジョブディスクリプション(職務記述書)で把握した個人の職務範囲をもとに分析・分類し、分類された職務に対して賃金を割り振って「職務給」の構築を進めるのです。

③公正で透明性の高い評価制度を導入

賃金制度を含め、企業内の制度はすべて公正で透明性の高いものでなければなりません。もちろん、評価制度も同じでしょう。

貢献度がダイレクトに賃金に反映されるシンプルな賃金体系のもとで働く労働者にとって、評価制度の持つ意味や価値は今まで以上に大きく感じられるでしょう。

労働意欲を引き出すためにも、同一労働同一賃金を実施するには、公正で透明性の高い評価制度を企業内に構築する必要があります。

④時代と合わない各種手当の見直し

賃金体系は「職務給」を基本としたシンプルなものにすると同時に、時代と合わない各種手当の見直しも行わなければなりません。

同一労働同一賃金のもとでは福利厚生的な意味やライフスタイルに応じて支払われていたような手当は必要なくなるため、配偶者手当、住宅手当などは制度から外します

公正で透明性の高い評価制度に基づいて「職務=賃金」というシンプルな構図ができるとよいでしょう。

6.同一労働同一賃金と判例

同一労働同一賃金は、施行されれば法的拘束力を持ちますし、裁判所からもすでにいくつか判例が出ており、判例を把握することで、この制度の考え方を法的に学ぶことができます。

同一労働同一賃金と判例についての知識をつけるためにも、実際の判例をいくつかご紹介しましょう。

長澤運輸事件(東京高裁)

長澤運輸は、従業員66人の運送会社です。昭和55年から平成5年までに入社した従業員には60歳定年が適用されており、定年後の再雇用制度も存在したため、再雇用労働者として勤務を継続していたのです。

しかし再雇用の労働条件が定年前の条件と同じ職務内容、就業場所、転勤もあり得るという内容だったにもかかわらず、給与額は定年前と大きな相違がありました。このことから定年後再雇用された従業員が「正社員と同等の賃金」を請求したというのが事件の概要です。

この事件について東京地裁は、「給与格差は不合理な差異として、労働契約法第20条違反である」と結論を出しました。しかし控訴審における東京高等裁判所の判決は、まったく違ったものだったのです。

「従業員が定年退職後も引き続いて雇用されるに当たり、その賃金が引き下げられるのが通例であることは、公知の事実」であり、「退職金を支給した上で、新規の雇用契約を締結するものであることを考慮すると、定年後継続雇用の賃金を定年時より引き下げることそれ自体が不合理であるということはできない」との見解を示しました。

最高裁の判決

東京地裁と東京高裁での判決がまったく異なったため、裁判は最高裁までもつれます。最終的に最高裁の判決は、次のようなものになりました。

「精勤手当と超過手当(時間外手当)に関してのみ東京高裁の判断を覆して、労働契約法20条に違反する」、つまり、東京地裁の判決を採用したのです。

しかし、最高裁はこのようにも付け加えています。

「有期契約社員と無期契約社員の待遇差が不合理といえるかどうかは、職務内容並びに当該職務の内容及び配置変更の範囲に関連する事情に限定せず、その他の事情も考慮して決定する」「単に有期契約社員と無期契約社員との賃金の総額を比べるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である」

つまり個々の事例できめ細かな把握、配慮が必要ということを示唆したのです。

同一労働同一賃金の制度は、高齢者の再雇用制度にも大きく関わります。労働力不足によって定年制を廃止する企業も多いなか、最高裁の判決の意味を重く受け止める必要がある企業も出てくるのではないでしょうか。

ハマキョウレックス事件(大阪高裁)

この事件は、長澤運輸事件とは違い有期契約社員と無期契約社員である正社員との格差を争ったものです。

正社員が月給制で、

  • 賞与や退職金
  • 無事故手当
  • 作業手当
  • 給食手当
  • 住宅手当
  • 皆勤手当
  • 家族手当

などの各種手当がつくのに対し、有期契約社員は時給制ですべての手当が不支給とされていました。

一審では、制度はすべて合法とされ、「有期契約社員と無期契約社員である正社員の待遇格差が容認されるべきものである」との判断がなされましたが、原告側はこれを不服として大阪高等裁判所へと裁判は続きました。

控訴審である大阪高等裁判所は、

  • 基本給の制度や住宅手当、皆勤手当など一部の給与項目 違法性を否定
  • 家族手当、定期昇給、賞与、退職金 大阪高等裁判所として判断をしない
  • 無事故手当、作業手当、給食手当などいくつかの手当 不合理な格差

という結論を導き出しました

最高裁の判決

これを不服とした企業側の控訴により、最高裁判所の判断が下されます。

最高裁判所の判決は、「正社員は転居に伴う配転が予定されており、多額の支出が伴う可能性がある一方で有期契約社員については就業場所の変更が予定されていないという違いがあり、この違いがある以上、労働契約法第20条には違反しない」というものでした。

しかし一方で皆勤手当については「運送業務を円滑に進めるには実際に出勤するトラック運転手を一定数確保する必要があることから、皆勤を奨励する趣旨で支給されるものであり、これは契約社員と正社員で差異が生じるわけではないため、正社員にのみ皆勤手当を支給するのは違法」との判断を下しました。

無事故手当、作業手当、給食手当、皆勤手当などについての違法性を指摘したのです。裁判の判決も、個々の事例で内容が大きく異なります。企業内で丁寧な制度を構築をしないと、不合理性を指摘されることとなるでしょう。

まとめ

欧米諸国では労働市場の原則ともなっている同一労働同一賃金制度。日本でも、ようやくその考え方が企業活動に導入されようとしています。

制度の導入に際しては、「待遇格差を生じさせる不合理性」がないよう労使間ですり合わせを行う必要があるでしょう。しかし、個人の職務範囲を把握し、制度に組み替えるには時間もかかります。

政府の出しているガイドラインや最高裁判所の判例などを参考にして、公正で透明性のある制度のもと、労使が納得できるような仕組みを構築するとよいでしょう。