会社が従業員に支払う手当の一つに、通勤手当があります。通勤手当を支給している企業は多いですが、通勤手当にかかる所得税や消費税、社会保険料や雇用保険料などの処理について、正しい理解が進んでいないケースもあるのです。
- 通勤手当の意味
- 通勤手当の定義
- 通勤手当にかかる所得税
- 通勤手当の計算
- 通勤手当にかかる消費税
などについて説明しましょう。
目次
1.通勤手当とは?
通勤手当とは通勤にかかる費用を従業員に手当として支給すること。支給額は、通勤にかかる費用の全部、または一部になります。
通勤手当はどこの会社にもある一般的な手当の一つに思えるかもしれませんが、中には「通勤手当の支給がない」という人もいるでしょう。実は、通勤手当の支給は企業にとって義務ではありません。よって、通勤手当を導入していない企業もあります。
通勤手当の支給には、
- 現金支給
- 定期券の現物支給
などの形式があります。条件にもよりますが、通常は1カ月10万円まで非課税扱いとすることが認められています。
2.通勤手当の支給義務はない
労働基準法などの労働法では、通勤手当の支給が義務付けられていません。そのため、従業員の通勤にかかる費用は原則自己負担となるのです。
企業に通勤手当の支給義務が発生するのは、
- 就業規則
- 給与規定
などで「通勤手当を支給する」と規定してある場合です。支給金額は会社の任意で決定します。
3.交通費とは?
通勤手当と類似する言葉に、交通費があります。
交通費とは、営業や出張といった業務遂行のために電車、バス、飛行機、タクシーなどの交通機関を使用した際に発生する移動費のこと。通勤手当と違い、従業員が自分の利用した交通費を立て替えて支払っておきます。
経路や運賃と合わせて月締めで経理部などに申請、請求、精算するのが一般的です。
勘定科目上は「旅費交通費」
交通費は税法上、非課税所得に該当します。また、勘定科目上の扱いは、「旅費交通費」として処理します。勘定科目を誤ってしまうと、正しい会計処理ができなくなりますので、交通費の管理はしっかり行ってください。
4.通勤手当への所得税の課税・非課税について
通勤手当への所得税の課税は、取り扱いが少し複雑です。間違いやすいので、しっかり覚えておきましょう。
手当=課税対象
会社が従業員に支払う「手当」と名が付くものは、基本、従業員個人に対する所得とみなされます。そのため、「手当」と名の付くものは所得税の課税対象となるのです。所得税の課税対象となる「手当」には、
- 住居手当
- 残業手当
- 扶養手当
- 食事手当
- 資格手当
- 皆勤手当
- 役職手当
などがあります。
例外:通勤手当(非課税)
「手当」と名が付くものは、所得税の課税対象になりますが、通勤手当の場合、課税方法が他の手当と異なります。通勤手当に関しては、一定の範囲内であれば所得税は非課税になるのです。
その理由は、通勤手当が会社への通勤に関する実費を補填することを目的としているため。所得と考えることに当たらないのです。
【所得税がかかるもの】 | 基本給、残業手当、休日出勤手当、職務手当、住宅手当、家族手当、残業手当、役職手当、退職手当などの各種手当 |
【所得税がかからないもの】 | 旅費、海外渡航費、通勤手当、制服、社宅、技術習得費用など |
5.非課税で支給できる通勤手当の範囲
通勤手当は、一定の範囲内であれば所得税が非課税になります。ただし現実には、通勤手当の金額が非課税の限度額を超えるようなケースはほとんどないため、通勤手当のほとんどは非課税で処理されています。
- 自転車や自動車の場合
- 交通機関や有料道路の場合
- マイカーや自転車にくわえて電車・バス等も利用する場合
①自転車や自動車の場合
通勤に、自転車や自動車を使っている場合、通勤する距離によって非課税限度額が定められています。
たとえば、
- 片道55km以上:限度額は31,600円
- 片道25km以上~35km未満:18,700円
片道2km未満の場合、全額課税対象となります。
距離 | 限度額 |
---|---|
片道55km以上 | 31,600円 |
片道45km以上?55km未満 | 28,000円 |
片道35km以上?45km未満 | 24,400円 |
片道25km以上?35km未満 | 18,700円 |
片道15km以上?25km未満 | 12,900円 |
片道10km以上?15km未満 | 7,100円 |
片道2km以上?10km未満 | 4,200円 |
片道2km未満 | 0円(全額課税) |
例:2km以上、10km未満の場合は、1カ月当たり4,200円が非課税となる
さらに詳しく見ていくと、1カ月当たりの所得税非課税の限度額は、片道の通勤距離に応じて変わると分かります。もし、1カ月当たりの非課税限度額を超えて通勤手当が支給された場合、限度額の超過部分の金額が給与と見なされ、課税対象になるのです。
超過部分の金額は、通勤手当を支給した月の給与額に上乗せして、所得税および復興特別所得税の源泉徴収を行います。たとえば2km以上~10km未満の場合、1カ月当たりの非課税額は4,200円。超えた部分は給与と合算され課税対象となります。
②交通機関や有料道路の場合
交通機関や有料道路を使って通勤している従業員がいる場合、「最も経済的かつ合理的に認められる通常の通勤経路による運賃」を非課税で支給できます。
最高限度額:15万円
「最も経済的かつ合理的に認められる通常の通勤経路」に対して支払われる通勤手当などの金額が1カ月当たり15万円を超える場合、15万円が支給限度額と見なされ、15万円が非課税となります。15万円を超える部分は課税対象です。
注意:新幹線の特別急行料金は含まれるが、グリーン料金は含まれない
通勤に新幹線を利用している場合、特別急行料金は「経済的かつ合理的な方法による金額」と見なされ非課税限度額によって計算されます。しかしグリーン料金は「経済的かつ合理的な方法による金額」と見なされないため、限度額には含みません。
③車や自転車に加えて電車・バスなどを利用する場合
車や自転車に加え、電車やバスなどを利用する場合、
- 電車・バスなど交通機関における1カ月の通勤定期券などの金額
- 車や自転車通勤の片道分の距離における1カ月当たりの非課税限度額
を合算した金額となり、1カ月当たりの限度額は15万円になります。
パートやアルバイトの非課税限度額の計算方法
正社員以外の雇用者、たとえばパートやアルバイトといった短期雇用者に対しても通勤手当を支給するケースがあります。短期雇用者に通勤手当を支給した場合でも、非課税限度額の計算方法は月を一つの単位にして計算します。
6.国税庁による非課税限度額(免税限度額)の改正【平成28年度】
通勤手当の非課税限度額は、国税庁の税制改正によって変わることがあります。平成28年度の税制改正によって、非課税限度額(免税限度額)の改正が行われたことは記憶に新しいでしょう。
平成28年度の税制改正で、通勤手当の非課税限度額の上限額は10万円から15万円に引き上げられました。上限額の引き上げによって、税制面で優遇される範囲が広くなったことは、従業員にとっては朗報といえます。
7.年末調整で課税通勤手当は給与に含める
課税通勤手当は、所得税を課税した通勤手当。よって、課税通勤手当を給与に含めて計算し、年末調整の対象として処理する必要があります。
エクセルで給与計算を行っている場合、補助勘定科目の中で課税と非課税を事前に分けておくと、年末調整時に残高試算表での突き合わせが楽になるでしょう。
8.通勤手当は雇用保険料・社会保険料の計算に含まれる
非課税通勤手当が、その他の面でも対象除外扱いになるかというとそうではありません。
- 雇用保険料
- 社会保険料
を算出するには、通勤手当の金額を全額含めて計算するのです。非課税通勤手当といっても、所得税に関することのみが非課税であって、その他の税金や保険料まで非課税や対象外になるわけではありません。
通勤手当は社会保険の標準報酬月額に含まれる
通勤手当は、一定の限度額まで所得税が非課税になるため、社会保険の標準報酬月額の計算の除外になると思っている人が少なくありません。しかし、それは間違いです。
非課税通勤手当でも、
- 基本給
- 残業手当
などを含めた給与に合算し、税引き前の給与を一定幅で区分した標準月額に当てはめ、標準報酬月額を計算します。
具体例
たとえば、全国健康保険協会(協会けんぽ)の場合、
- 社会保険料:従業員ごとの「標準報酬月額」をもとに
- 健康保険料:都道府県ごとに定められる保険料率を
- 厚生年金保険料:全国一律の保険料率を掛けて
それぞれ計算します。
具体的な数字で見ていきましょう。
- 月給25万円
- 住宅手当1万5,000円
- 課税通勤手当800円
- 非課税通勤手当4,200円
を毎月支給されている従業員の標準報酬月額は、27万円になるのです。
9.通勤手当は割増賃金の基礎には含めない
通勤手当は、割増賃金の計算に合算する必要がない手当です。割増賃金は、「1時間当たりの賃金×割増率」で算出します。「1時間当たりの賃金」を「割増賃金の基礎」ともいいますが、この基礎は従業員に支給している各種手当の金額も含めて計算します。
しかし、
- 労働との直接の関係が薄い
- 個人的事情の色合いが濃い
といった理由から、通勤手当は割増料金の基礎に含めなくても構わないことになっています。
10.通勤手当の消費税に関する会計処理
消費税処理の方法についても別途理解が必要です。通常、必要と認められる通勤手当の金額は、課税仕入れに係る支払対価に該当するものとして処理します。その場合、売り上げに対する仮受消費税から仮払消費税を控除した後、期末に消費税を納付するのです。
誤った処理によって、控除できるはずの消費税が控除できなくならないように気を付けましょう。
通勤手当が限度額を超える場合の消費税は?
通勤手当が限度額を超える場合、消費税はどうなるのでしょう?消費税上は、課税仕入れ所得税が非課税であるかは不問です。
つまり通勤手当の消費税は、所得税の限度額に関係なく全額課税仕入れとして処理されます。所得税の場合、一定範囲の限度額までは非課税になりますが、所得税の処理とは処理方法が異なるので注意してください。
11.役員に通勤手当を支給しても定期同額給与になる
役員報酬に別途通勤手当を支給すると、定期同額給与と見なされることを知っていますか?つまり、役員報酬に通勤手当を含めて支給すると、損をすることになります。
定期同額給与と見なすには、
- 他の従業員と支給額が同水準
- 最も経済的かつ合理的な経路
という要件を満たすことが必要なのです。
「旅費交通費」として仕訳する
役員に通勤手当を支給した場合、役員報酬ではなく「旅費交通費」として仕訳をします。もし、通勤手当を役員報酬に含めたかたちで支給している場合があれば、
- 通勤手当の損金算入ができなくなる
- 定期同額給与と認められなくなる可能性が出てくる
ということになりかねません。役員に関しても、通勤手当の処理方法をしっかりとマスターし、的確な処理を心掛けてください。
12.会社における通勤手当の不正受給について
電車通勤で申請したにもかかわらず、自転車で通勤している
自宅から最寄り駅までバスの申請をしたのにもかかわらず、徒歩で通勤している
といった通勤手当の不正受給問題が考えられます。
- 不正受給した金額の返還
- 懲戒免職処分
などを就業規則に規定しておきましょう。万が一の際に対処できるので安心です。