社会保険料を決定するには、報酬月額を算出し、さらに標準報酬月額を決定する必要があります。
ここでは、
- 標準報酬月額の意味するもの
- 標準報酬月額の仕組み
- 標準報酬月額の対象
- 標準報酬月額の決定時期と改定時期
- 保険料の算出方法
- 標準報酬月額の決定時期
- 標準報酬月額の調べ方
などについて見ていきます。
目次
1.標準報酬月額とは?
標準報酬月額は、企業と社員が折半して負担しなければならない社会保険料を簡単に計算するための仕組みです。
社会保険料には、
- 健康保険料
- 介護保険料
- 厚生年金保険料
が含まれています。標準報酬月額の算出は、毎年1回7月に行われます。まず、その年の4月、5月、6月の3カ月間に支払われた報酬の平均額を計算します。算出した月平均額を標準報酬月額表にある等級区分に当てはめれば、標準報酬月額が決まります。
報酬月額とは?
報酬月額とは、企業が社員に支払う1カ月の給与額のことです。報酬月額には、
- 基本給
- 役付手当
- 通勤手当
- 残業手当
といった手当も含まれています。基本給だけではなく、各種手当も合算して計算してください。
標準報酬日額とは?
標準報酬月額に類似する言葉に、標準報酬日額という言葉があります。標準報酬日額とは、
- 健康保険
- 介護保険
- 厚生年金保険
の社会保険料決定の基礎になる標準報酬月額の30分の1に相当する額のことです。
社会保険料とは?
一般的に社会保険といった場合、
- 健康保険
- 介護保険
- 厚生年金保険
- 雇用保険
- 労災保険
の計5種類の総称を意味します。この5種類の保険の中で、
- 雇用保険
- 労災保険
をひとくくりにしたものを労働保険といいます。
2.標準報酬月額の仕組みの用途
労働の対価として支払われる報酬は、毎月毎月一定金額が支払われるとは限りません。
- 時給制で働く場合には、勤務時間によって
- 月給の場合には、手当などによって
というように報酬額は変動します。毎月の報酬額の変動を社会保険料に反映させるのは非常に手間がかかります。そこで、1年の中で4月、5月、6月の特定月の報酬の平均を基準として標準報酬月額を定め、標準報酬月額表によって導き出した保険料をその年の9月から翌年の8月まで使用することにしたのです。
標準報酬月額を算定する仕組みは、1年間の4分の1に相当する3カ月間の報酬を平均することで、年間の保険料額をできる限り現状の報酬に見合う保険料にすることができます。
3.標準報酬月額の対象に含まれるもの・含まれないもの
標準報酬月額には、基本給のほか
- 通勤手当
- 家族手当
- 住宅手当
- 役職手当
など、労働の対価として企業から支給されている現金、もしくは現物支給を含んだ金額を用いて算出します。ただし、
- 結婚祝い金
- 出産祝い金
- お見舞金
- 出張旅費
- 年3回までの賞与
など臨時的に支給されたものは、標準報酬月額の算定に使用する報酬とは認められていません。標準報酬月額の算定となる報酬に含まれるか否かの線引きをしっかりとして、標準報酬月額を算出します。
報酬の範囲の注意点
標準報酬月額を算定するための報酬の範囲で特に注意が必要なのは、通勤手当です。通勤手当は、所得税法上では、月15万円までが非課税の扱いになっています。
しかし、社会保険料を算出するための標準報酬月額を計算する場合には、通勤手当を含めて計算します。また、通勤手当の他にも年4回以上支給される賞与も標準報酬月額の計算対象になりますのでご注意ください。
4.社会保険料の算出方法
社会保険料の算出方法は、4月、5月、6月の報酬に基づいて7月に算出した標準報酬月額に保険料率を乗じて計算します。社会保険料の算出に標準報酬月額を用いることで、残業代の増減などで毎月の報酬に変動が生じても一定金額の社会保険料を報酬から控除すればいいことになります。
そのため、企業は毎月保険料額を算出する煩雑な事務手続きをしなくて済むのです。
社会保険料の算出の仕方
標準報酬月額の等級・区分とは?
標準報酬月額には、
- 区分
- 等級
があります。区分とは、社会保険料を算出する際の基準となります。毎月の報酬を金額の区切りがよい幅ごとに区分します。等級は、区分をもとにして健康保険と厚生年金と異なった下記のような階層で分けられています。
- 健康保険は5万8000円~139万円まで、計50等級
- 厚生年金は9万8000円~62万円まで、計30等級
・定額制の健康保険、建設連合国民健康保険組合(建設国保)
・税理士国民健康保険組合(税理士国保)
などは、一般企業で用いられている標準報酬月額の対象ではありません
標準報酬月額の一覧
標準報酬月額の一例として、全国健康保険協会、いわゆる協会けんぽのホームページにある平成31年度保険料額表、東京都の標準報酬月額表をご紹介しましょう。都道府県ごとに必要な医療費の支出が異なるため、標準報酬月額表は都道府県ごとに作成されています。
5.計算方法の具体例
社会保険料の計算方法を、
- 東京都にある企業に平成31年3月から勤務
- 報酬月額25万円と算定
といった条件で働く社員を例に見てみます。健康保険の運営主体には、
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)
- 健康保険組合
の2種類がありますが、ここでは全国健康保険協会に加入しているものとします。社会保険料は標準報酬月額に保険料率を乗じて計算します。
報酬月額の25万円は25万円以上27万円未満の区分の等級に該当するため、標準報酬月額は26万円となります。保険料は、26万円に保険料率を乗じれば算出できます。なお、算出された保険料額は、
- 企業
- 被保険者
が折半して支払います。
6.ボーナスは標準賞与額で計算する
賞与が出た場合には、標準報酬月額ではなく標準賞与額で保険料を計算します。標準賞与額は特別な計算は必要なく、税引き前の賞与額の1千円未満の端数を切り捨てた金額となります。賞与標準額は1年単位で考えるのではなく、賞与が支給されるたびに決定します。ただし、注意しておきたいのは、
- 標準賞与額は1回の支給につき150万円を上限とすること
- 150万円を超える場合には、150万円として計算すること
です。実際の保険料額の計算は、標準賞与額に保険料率を乗じて計算します。標準報酬月額表をそのまま利用して、保険料を計算してください。
7.標準報酬月額が決まる時期
標準報酬月額を決めるタイミングは、
- 資格取得時
- 定時決定
- 随時改定
と大きく3つあります。最初に標準報酬月額が決定するのは、企業が社員の入社を年金事務所や健康保険組合へ届け出た時、すなわち社員が入社して被保険者資格を取得した時です。
その後は、
- 年1回7月1日に改定を行う定時決定
- 賃金の大幅な昇降や育児休業などの休業が終了した時の随時改定
の場面でそれぞれ標準報酬月額は改定されます。
①入社時(主に4月)
最初の標準報酬月額が決定するのは、入社時です。残業代などが考慮されていないため実際に支払われる報酬額と異なっているケースもありますが、まずは社員の入社するタイミングで当該社員が受け取ると想定される報酬額をもとに標準報酬月額を決定します。
届出書類:被保険者資格取得届
社員の入社時の手続きとして、当該社員が健康保険や厚生年金保険に加入すべき場合には、事業主はその事実が発生してから5日以内に被保険者資格取得届を提出します。仮に社員が年金受給者であっても、加入要件を満たしていれば届出が必要です。
②7月1日
入社後は、毎年7月1日に標準報酬月額を改定します。改定に当たっては、その年の4月、5月、6月の3カ月間の報酬から報酬の平均額を算出します。そして、その年の9月1日より定時決定して新たに決定した標準報酬月額によって保険料額を計算します。
届出書類:被保険者報酬月額算定基礎届
定時決定は、昇給や手当の増減を標準報酬月額に反映させるために行うものです。事業主は、使用している健康保険や厚生年金保険の被保険者である社員の4月、5月、6月の報酬月額より標準報酬月額を決定します。それを算定基礎届に記入して提出します。
このように、定期的に年1回標準報酬月額を見直せば、より現状に即した保険料額の算出が可能になります。
③賃金に大きな変更があった場合
定時決定の他にも、報酬に大幅な増減が生じた場合に行われるのが随時改定です。報酬の大幅な増減とは、連続している3カ月間の月平均報酬額が標準報酬等級に照らし合わせて2等級以上の変動があった場合をいいます。この連続している3カ月間は、
- 報酬支払基礎日数が17日以上
- 短時間労働者で被保険者の場合では11日以上
の場合のみ、随時改定が行われます。このように、昇給や降給などで報酬に2等級以上大幅な増減が生じた場合、標準報酬月額に反映される仕組みが整っています。
届出書類:被保険者報酬月額変更届
通常は4~6月の3カ月間の報酬総額より1カ月の平均報酬額を算出して標準報酬月額を決定します。しかし、昇給や降給などで標準報酬月額に2等級以上の変動が生じた場合、随時改定を行います。
随時改定には、月額変更届の提出が必要であり、届けを提出することで社会保険料額も変更できます。随時改定の条件が揃った時点で、できるだけ速やかに月額変更届を提出しましょう。
④育児休業等の終了時
随時改定は、2等級以上の報酬額の変動以外でも、育児休業等が終了した場合も行われます。育児休業等の場合には、休業等が終了した日の翌日が属する月から3カ月間の平均報酬を算出することで、標準報酬月額を決定します。
そして、育児休業等が終了した日の翌日が属する月の4カ月後より標準報酬月額を改定し、社会保険料を新たに算出します。
届出書類:育児休業等終了時報酬月額変更届
育児休業等に関する随時改定は、育児休業等終了日に3歳未満の子を養育している被保険者がいる場合、2等級以上の増減が生じなくても育児休業終了日の翌日が属する月以後3カ月間に受けた報酬の平均額に基づいて、4カ月目の標準報酬月額から標準報酬月額を改定できる仕組みです。
事業主は、当該被保険者から申出を受けた場合、日本年金機構へ「育児休業等終了時報酬月額変更届」を提出します。この標準報酬月額は、
- 1~6月改定の場合、再び随時改定等がない限り当年の8月までの各月に適用
- 7~12月改定の場合は、翌年の8月までの各月に適用
となっています。
・資格取得時
・定時決定
・随時改定
8.標準報酬月額の見方・確認方法
標準報酬月額の見方や確認方法を正しく理解しておけば、社会保険料の計算や確認もスムーズにいきます。会社からの書類の確認方法や、資格取得時決定の場合の確認方法といったものは、一度理解してしまえばあとは簡単です。ここでは、報酬月額が265,000円の場合を例にして、標準報酬月額の確認方法を見ていきましょう。
例:報酬月額が265,000円の場合
保険料額表の等級の調べ方
報酬月額が265,000円の場合を想定してみましょう。標準報酬月額表の中では、265,000円は250,000円~270,000円の間に入ります。よって、標準報酬月額は260,000円となります。標準報酬月額が260,000円の場合、
- 健康保険は20等級
- 厚生年金保険は16等級
に該当することが分かります。
9.パートタイム労働者の標準報酬月額の求め方
近年、パートタイムで働く労働者が増加しています。パートタイム労働者であっても、社会保険の被保険者になる場合があります。その条件は、
- 1日または1週間の所定労働時間
- 1カ月の所定労働日数
のどちらかが正社員のおおむね4分の3以上の場合です。この場合には、パートタイム労働者でも、社会保険被保険者と扱うべきであるとされています。
時間給の労働者の算定方法
パートタイム労働者など時間給の労働者の標準報酬月額の算定方法は、年間労働日数をもとに年収を計算し、それを12カ月で割って1カ月の平均賃金を導き出します。
- 時給1,000円
- 所定労働時間8時間
- 年間労働日数257日
の場合の計算式は、(1000×8×257)÷12=171,333となり、1カ月の平均賃金は171,000円となります。
「(時間給×所定労働時間×年間労働日数)÷12」
で求めることができます
10.2018年10月より随時改定に「年間平均の保険者算定」が加わる
社会保険料を計算する際の基礎となる標準報酬月額は、資格取得以外に定時決定や随時改定で見直されていました。たとえば、10月、11月、12月の3カ月の間に報酬変動があった場合、
- 随時改定の届け出をする
- 1月分より新たな標準報酬月額によって算定された社会保険料を支払う
という手続きが必要です。しかし、決定した標準報酬月額と実際に支払われている給与から想定できる社会保険料との乖離がしばしば問題になっていました。
定時決定に関してはすでに2011年から利用されていましたが、2018年10月より標準月額報酬の随時改定でも「年間平均」を用いた見直しを行えるようになりました。
これにより、決定した標準報酬月額と現状の報酬から想定した社会保険料との乖離が少なくなりました。
要件
2018年10月より新たに随時改定に加わった年間平均の保険者算定には、以下の要件が設定されています。
- 現在の標準報酬月額と、通常の随時改定による報酬月額に2等級以上の差がある
- 非固定的賃金を年間平均した場合の3カ月の報酬月額の平均が、通常の随時改定による報酬月額と2等級以上の差がある
- 現在の標準報酬月額と、年間平均した場合の報酬月額との差が1等級以上ある
これらの要件を満たして、業務の性質上、同様の状況が例年見込まれる場合には年間平均の保険者算定を適用できます。要件を満たすかどうかの把握が必要です。
11.退職後の社会保険料(任意継続)の算出方法
健康保険制度において、被保険者とは事業所に使用されている人が対象になっています。しかし、例外的に会社を退職した後も引き続き最長で2年間、個人で健康保険に加入できる任意継続被保険者制度があります。
この任意継続被保険者制度には、一定の要件が設定されており、その要件を満たす個人が任意で加入できます。その際、任意継続被保険者制度に関する
- 届出
- 保険料の納付
といった義務は、加入者自らが負うことになっています。
退職時の標準報酬月額×保険料率=保険料
退職時の任意継続被保険者制度による保険料は、
- 会社を退職した時の標準報酬月額
- 当該退職者の住まいのある都道府県の保険料率(40歳以上65歳未満は、介護保険料率が含まれる)
この2つを乗じた額となっています。計算式に直すと「退職時の標準報酬月額×都道府県の保険料率=保険料」となります。ただし、この保険料には上限があります。
- 退職時の標準報酬月額が30万円を超えていた場合には30万円
- ただし、平成31年3月分までは上限28万円
と規定されている上限に基づいた標準報酬月額によって算出した額を保険料とします。
12.4~6月に時間外労働が増加すると損をする?
仮に4月から6月の間、時間外労働が増加した場合、標準報酬月額が高く算出されることになり社会保険料が高くなって損をしてしまうのではないか、といった疑問が生じるかもしれません。実際、4月から6月までの間に残業が多くなると、損をしたと感じることがあるのは事実です。
残業するほど給料が減る理由
残業するほど給料が減って損をしたと感じる人がいます。報酬から天引きされる社会保険料の金額は、原則として4月、5月、6月に支払われる給与額により標準報酬月額を算出し、保険料率を乗じて決定します。
給与額は、
- 基本給
- 諸手当
- 通勤交通費
などのほか、残業代も含んで計算されます。定時決定した標準報酬月額は、報酬に2等級以上の大幅な増減がない限りその年の9月1日から1年間変わりません。よって、4月から6月の間に時間外労働が集中した場合、標準報酬月額と共に年間社会保険料額が高めに設定されてしまいます。
そして、時間外労働が減り、残業代の支払いが少なくなった月でも、報酬額が大幅に増減しない限り保険料額は変わらないことから、損をしたと感じる人が多くいます。
13.自分の標準報酬月額の調べ方(給与明細から)
自分の標準報酬月額を知りたい場合、給与明細から確認するのが手っ取り早いでしょう。給与明細に記載されている厚生年金保険料から逆算して計算すれば、自分の標準報酬月額がいくらであるかが分かります。また、標準報酬月額表に照らし合わせれば、何等級であるかも把握できます。
①加入している健康保険をチェック
自分の社会保険料、標準報酬月額、標準報酬月額の等級などを知りたい場合には、まず、自分が加入している健康保険の保険証を確認します。健康保険証の下部に保険者名称が記載されていますが、ここが健康保険証の発行元になっています。
②給与明細の厚生年金の金額をチェック
標準報酬月額を調べるには、給与明細に載っている厚生年金保険の保険料の金額をチェックします。ほとんどの給与明細には、支給額の内訳として
- 基本給
- 時間外賃金
- 通勤手当
といった項目があります。その中の厚生年金の欄を確認すれば、厚生年金の保険料額が分かります。
③会社が所属する都道府県の保険料率表をチェック
給与明細から読み取った厚生年金の保険料額を、会社の住所を管轄している都道府県の保険料率表から探し出します。ここで用いる保険料率表は、会社の住所を管轄している都道府県であって、社員個人の住んでいる都道府県でないことに注意してください。
④自分の厚生年金の表をチェック
厚生年金の保険料額を保険料額表で見つけたら、左側に目を移します。そこには、
- 標準報酬月額
- 標準報酬月額等級
- 報酬月額
が記載されています。表が細かいので、列を間違えないように確認してみてください。