働くことの価値や質が問われるようになってきた現在、従業員にとって福利厚生の充実が非常に重要視されるようになりました。
ここでは、福利厚生とは何か、導入のメリットとデメリット、注意点などを見ていきます。
目次
1.福利厚生とは?
福利とは幸福と利益、厚生は豊かな生活を意味する言葉です。福利厚生とは、賃金などの基本的労働条件とは別に、企業が従業員やその家族の福祉向上のために行う施策を指したものです。
2.企業が福利厚生を定める目的
企業が福利厚生を定める大きな目的は、従業員のモチベーションを高め、精神的・経済的に従業員の支援を行って離職を防ぐ、従業員のロイヤリティ(企業への忠誠心を示す言葉)を育むことです。
具体的には次のような目的が挙げられます。
- 労働市場から人材を確保する
- 仕事をする環境や条件を整える
- 仕事に対するモチベーションを向上させる
- 従業員の住環境を安定させる
- 企業定着率を向上させる
3.福利厚生の対象となる従業員
福利厚生の対象となる従業員は誰になるのでしょう。また、雇用形態によって利用可否は異なるのでしょうか。
福利厚生は「正規雇用」の社員はもちろん、アルバイト・パートタイマー・フルタイム従業員・就業派遣会社の登録スタッフなど「非正規雇用」と呼ばれる従業員もすべて利用できます。
パートタイムや有期雇用の福利厚生は?
雇用形態によって利用可否の差異がないということは、2016年(平成28年)に開催された「働き方改革実現会議」で示された「同一労働同一賃金ガイドライン案」にも明記されています。
ここでは正社員と同等の業務を行う有期雇用労働者、およびパートタイム従業者の福利厚生について言及しています。食堂や休憩室、更衣室などの福利厚生施設や社宅の利用について、無期雇用労働者と同一の利用が認められているのです。
これまでも労働関係の法律で一定のルールは設けられていましたが、「同一労働同一賃金」によってルールが明確化され、すべての事業主がこれを徹底するよう求められています。
4.福利厚生の主な種類
一口に福利厚生といっても、2種類あります。
- 法律で規定されている「法定福利」
- 企業が独自に定める「法定外福利」
①法定福利厚生
法定福利厚生とは法律によって規定された必ず行うべきだとされるもの。運営の主体は国、もしくはその代行を法律によって認められている機関(健康保険組合、共済組合など)になり、具体的には以下のものを指します。
- 健康保険料の事業主負担分
- 介護保険料の事業主負担分
- 厚生年金保険料の事業主負担分
- 雇用保険料の事業主負担分
- 労働者災害補償保険料(労災保険料)
- 児童手当拠出金
- 労働基準法に基づく災害補償費用
これらの保険料は、種類に応じて企業と従業員が各割合ずつ支払います。区分と種類により支払う割合や期間が異なりますので、企業側は適切に把握しておきましょう。
②法定外福利厚生
法定外福利厚生とは法律に定められた法定福利厚生とは異なる、企業が独自の裁量で任意に決められる福利厚生のことで、住宅手当(家賃補助)や通勤手当、健康診断補助などが挙げられます。
法定外福利厚生には自社内で提供するものと、外部にアウトソーシングして提供するもののの2つに分かれています。
5.福利厚生の導入効果
福利厚生を導入することによって、以下のような効果があります。
メリット①採用力が上がる
最大のメリットとしては採用時の人材が集まりやすいこと。募集の一次応募が増えれば、共感度の高い人材との接点創出に役立つでしょう。
福利厚生の充実は、他社との差別化を図るといった面でも効果的です。企業特質を特徴づけるようなユニークな制度やほしい人材が魅力を感じそうな制度を導入することで、採用活動におけるアドバンテージのひとつにもなり得ます。
メリット②従業員満足度が向上する
企業の成長と従業員の満足度は切っても切れない関係です。ワークライフバランスが取れている従業員は経験値や能力、業務効率が高くなるという傾向にあります。
働きやすく仕事のしやすい環境に整えることで、従業員は個々が持つ強みを活かし、高い集中力を持って仕事に取り組むことができるのです。
メリット③労働生産性が向上する
企業の成長を維持・向上させるには労働生産性の向上も必要です。従業員の心身の不調は、本人はもちろん、周囲にも影響を及ぼします。結果として企業全体の生産性を低下させる可能性があるのです。
ストレス社会とされる現代、運動習慣やメンタルヘルスなどの福利厚生を提供することは労働生産性の向上に有効です。福利厚生を充実させ健康維持と健康増進を支援すれば、心身共に健康で個々の能力を発揮できる人が集まる組織づくりにもつながるでしょう。
労働生産性の向上には、長期的に見て労働者人口が減少していく時代背景も加味する必要があります。

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メリット④企業の社会的信頼性が向上する
福利厚生に対する注目度は社会的にも高まっています。充実した福利厚生の提供は、安定した経営基盤の証明にもなるのです。
6.福利厚生の課題・問題点
福利厚生の導入や制度の充実はメリットだけではありません。ここでは反対に福利厚生の課題や問題点を見ていきます。
デメリット①コストがかかる
従業員のための福利厚生ですから、当然コストがかかります。従業員所得が上昇し企業業績がアップするほど、法定福利の企業負担額も上がるのです。
福利厚生の充実度が注目される現在でも、福利厚生のコスト削減は経営課題のひとつ。適切な見直しと状況に合わせた改善によって、費用対効果の高い制度の導入が常に進められています。
デメリット②管理負担が大きい
申請書類の作成や受付、利用機関とのやりとりに利用後の処理など、管理負担が大きいことも課題に挙げられます。
それぞれの制度で処理方法が異なるため、福利厚生が充実するに従って作業は膨大になります。これらバランス調整も課題でしょう。
7.法定外福利厚生の分類と代表例
法定外福利厚生に法的義務はないため、さまざまな種類があります。既存のものから自社で独自につくり出したものまで、法定外福利厚生の例を紹介しましょう。
- 住宅
- 健康・医療
- 慶弔・災害
- 育児・介護
- 自己啓発
- 業務・職場環境
- 休暇
- 財産形成
- 文化・体育・レクリエーション
①住宅
人気の上位にランクインするのが「住宅」に関する制度です。社宅や寮、家賃補助や住宅ローン補助などを指します。
②健康・医療
人間ドックをはじめとした法定外の健康診断です。スポーツ施設利用費補助なども含まれます。
③慶弔・災害
結婚祝金や出産祝金、傷病見舞金や災害見舞金など、お祝い事や弔事に際して適用される制度です。
④育児・介護
育児休暇や時短勤務制度など、法律規定の日数や条件以上の待遇を提供することです。
⑤自己啓発
通信教育の提供やセミナー参加の補助、資格取得援助金などが含まれます。
⑥業務・職場環境
日常の業務を行う環境の整備です。社内食堂やカフェの設置、在宅勤務制度の導入も含まれます。
⑦休暇
誕生日や結婚記念日、アニバーサリー休暇やリフレッシュ休暇などが該当します。
⑧財産形成
財形貯蓄制度や持株会、投資教育の提供や各種年金保険制度などを指します。
⑨文化・体育・レクリエーション
懇親会援助やサークル補助、イベント開催補助などです。社内イベントに類似しています。
8.従業員に人気のある福利厚生とは?
数ある福利厚生の中でも特に従業員に人気のある福利厚生を3つご紹介します。
住宅手当・家賃補助
生活から切り離せない出費を抑えられれば、従業員は楽になるでしょう。ローン返済の一部補助や家賃補助など、住宅に関する法定外福利厚生の人気は群を抜いています。
食堂、昼食補助
食事もまたすべての従業員にとって必要な出費です。ヨーロッパ諸国においては「従業員の健康維持は企業の成長に関わる先行投資」と見なされています。
人間ドックなど法定外の健康診断
費用の高さからついおろそかにしがちな人間ドックですが、大病の早期発見に効果的です。心身の健康維持はストレスチェックの実施が義務化されたことでも注目されています。
9.福利厚生のアウトソーシングサービスとは?
企業が新しい福利厚生制度を作る際、経営陣や人事部だけで決定してしまいがちです。しかしアンケートを実施して従業員全体の意見を集めれば、より有益な制度を策定できます。
また前述の通り、一言で福利厚生と言っても住宅や育児、自己啓発にレジャーなど多岐にわたります。それらすべてを自社で運用すると企業の負担もそれだけ増えるでしょう。そこで近年注目されているのが、福利厚生のアウトソーシングです。
社内で行っていた業務を専門企業に委託することで、企業はさまざまなメリットを享受できます。それまで企業が保有していた社宅や寮及び事務手続きを共有化することで実現する大幅なコスト削減は、その最たるものでしょう。
またウェブ上から申し込める仕組みにするば、従業員も気軽に利用できます。従業員1人当たりの月会費を抑えられることも魅力でしょう。
10.福利厚生の代行サービスの選び方
それまで人事や財務が行っていた福利厚生業務のすべてをアウトソーシングすることで、業務の負担を大幅に削減できるでしょう。代行業者は多くの企業の福利厚生を代行しており、求められる福利厚生のニーズや傾向を把握しています。
また外部委託により、最小限の費用で従業員に充実した福利厚生を提供できるようになるのです。負担軽減や独自制度の構築など、自社の目的を明らかにして福利厚生の代行サービスを選びましょう。
パッケージサービス
パッケージサービスとは、定額制で、従業員1人当たりの費用を払えば福利厚生パッケージで提供されているすべてのサービスが利用できるというもの。
コストを抑えて幅広い福利厚生を導入し、採用力を底上げしたい企業向けの総合型福利厚生サービスです。企業独自のサービスを含めることはできませんが、申請や利用による複雑な業務が不要になるため、担当者の業務削減が期待できます。
カフェテリアプラン
既存の福利厚生だけでは従業員に支持されなくなってきた企業や、福利厚生の利用率を上げたい企業、独自のサービスを含めたい企業にお薦めなのがカフェテリアプラン。
企業側が従業員に対して一定のポイントを与え、企業ごとにカスタマイズしたメニューの中から自由にそのポイントを使ってサービスを利用するプランです。福利厚生コストが管理しやすいのも魅力です。
また、多彩なメニューの中から企業が自由にカスタマイズできるため、従業員の多様なニーズに対応し、満足度の向上を図ることができます。
11.企業独自のユニークな福利厚生(事例)
他社との差別化を図るため、ユニークな福利厚生を取り入れている企業もあります。
おひるねスペース GMO Siesta(GMOインターネット)
日本のインターネットを支える総合インターネットグループ、GMOインターネットでは午後の作業効率アップのため20分程度の昼寝を推奨しています。12時半から13時半の間に会議室を仮眠スペースとして開放し、誰でも気軽に昼寝ができる制度です。
Know Me!(Sansan)
社内コミュニケーションをより活性化させるため、Sansanでは懇親会費用を補助する制度を設けました。他部署で過去に飲みに行ったことがない3人と飲める制度です。1人3000円が支給され、日頃深く関わったことのないメンバーとの親睦を深められます。
まかない(クックパッド)
料理レシピの投稿、検索サービスでおなじみのクックパッドではユーザーが投稿したクックパッドのレシピを見ながらランチを作るのが日常の光景です。
これは社員が会社から支給された食材を使用して会社のキッチンで料理し、食事を取ることができる制度を導入しているからです。新入社員向けに、キッチンの利用方法を学びながら一緒に料理を作るオリエンテーションも実施しています。
12.福利厚生制度を設ける際の注意点
福利厚生制度を設けるにあたって、いくつか注意する点があります。
制度の目的を周知し、従業員の理解を促す
まず、何のためにその制度を導入するのかという目的を明確にしましょう。たとえば自社がエンターテインメントに関するサービスに関わっているなら音楽や美術、ライブなどに触れて刺激を受けてほしいという目的が考えられます。
そのようなサービスの利用に福利厚生として補助を出すなら、目的を明確にした上で周知し、従業員に理解してもらう必要があるでしょう。
サービスを利用した際にレポートを提出してもらう、活用例を提案してもらうなどの試みも重要です。導入によってどんなメリットがあるのか、どういったシーンに役立ててほしいのかといったイメージを共有しておきましょう。
導入による効果を確認する
担当者は、運用を意識して制度を導入する必要があります。長年誰も使っていないような制度に予算を割くのは非常に不毛です。定期的に利用状況を確認しておきましょう。
また制度そのものではなく、職場環境の変化も考慮する必要があります。使用率が低い制度から、従業員同士のコミュニケーションに使うための食事補助に変更するといった柔軟な転換が必要です。
制度内容を定期的に見直す
Google社ではインパクトのある福利厚生を導入する際、従業員に「この制度は試験的に導入するものである」と事前に説明してからスタートしています。
目的に沿った活用がされなければ改変、廃止もあることを事前に伝え、制度内容をブラッシュアップしていくことが前提にあるからです。
数年前と今とでは従業員の年齢層や性別、生活スタイルなどあらゆる面において違いがります。近年の働き手の多様化やライフスタイルに対応して制度内容を見直していくことが必要でしょう。