予実管理とは、企業の予算と実績を管理する業務のことです。ここでは予実管理の目的や意識するポイント、予実管理の具体的な進め方について解説します。
目次
1.予実管理とは?
予実管理とは、企業の予算と実績を比較して、経営目標に対する現状を把握する手法のこと。予実管理の「予実」とは、「予算」と「実績」を指しますが、実績という言葉を用いず、予算管理と呼ばれる場合もあります。
会社は、事業の規模にかかわらず、自社の実績が経営目標に対して順調に向かっているか、軌道修正の必要はないかなどを確認します。設定した予算に対してどの程度の実績をクリアしているか、どの程度足りないかを把握、管理することが予実管理の目的です。
2.予実管理を行う必要性と方法
企業の予算と実績を管理する予実管理は、何のために行われるのでしょうか。予実管理=予算を必ず達成させる方法と思われがちですが、違います。
予実管理は、設定した予算に対してどれだけ実績をあげられたかを分析し、改善していくための手法です。そんな予実管理の重要性や、予実管理を行う際のポイントについて解説しましょう。
予実管理の重要性
なぜ経済活動の基本と呼ばれるまでに予実管理が重要視されているのでしょうか。予実管理を行うと、企業は自社が抱える経営上の課題を「見える化」できます。
たとえば、ある部門に赤字があったとしましょう。これだけを見ても、赤字の原因は特定できません。売上が低迷している場合もあれば、売上は上がっているにもかかわらず、経費が過剰に発生した結果赤字になっている場合もあるでしょう。
このように、企業が抱えているさまざまな問題を「見える化」して、その問題を修正するために必要なのが予実管理です。
予実管理を行うポイント
予実管理を行うと、どの分野の実績が不足しているか、どうすれば予算達成できるかを具体的に考えられます。その際、1か月も2か月も前のデータを分析していたとしたら、その予実管理はどうなるでしょうか。
1か月前とはユーザーのニーズが変わっているかもしれませんし、2か月前は担当者が変わっているかもしれません。そのため、一連の流れに時間差が生まれないよう注意する必要があるのです。
予実管理は最低でも毎月、必要に応じて毎週、または毎日行うようにします。ポイントは、予算と実績の乖離をリアルタイムに把握し、原因を究明して改善策を打ち立てることです。
PDCAサイクルを活かす
予実管理の軌道修正には、PDCAサイクルの活用が効果的です。PDCAサイクルは、Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)の段階を追って進み、Action(改善)をもとに新たなステージで再びPlan(計画)から始まるサイクルのこと。
予実管理がPDCAサイクルにもとづいていない場合、問題解決の遅延や計画倒れの連続、経営計画をいかせない状況に陥る可能性も高いです。PDCAサイクルを活かして予算編成の精度を高め、生産性の向上につなげましょう。
3.5つのポイントを意識して予実管理を行う
古すぎるデータや現実性のない目標で予実管理を行っても、実際の経営に活用できません。把握や分析に無意味な時間をかけるだけで、経営目標の達成につながらない可能性もあります。
予実管理を実際の経営に活かすには、5つのポイントを意識しましょう。
- 予算設定に気を配る
- 細かな数字にこだわり過ぎない
- 原因究明をしっかりと行う
- 事前に準備しておく
- リアルタイムな数値を反映する
①予算設定に気を配る
予実管理を行うと、設定した予算と実績の比較が定量的に行えるようになります。予算達成にはどの実績がどの程度足りなかったのか、達成するためには何が必要なのかをより具体的に分析できるのです。
ですので、比較を恐れて意図的に達成しやすい予算目標を立てないよう注意しましょう。また見栄を張って実現不可能な予算を設定してもいけません。
低すぎる予算設定では企業の抱える問題を炙りだせず、高すぎる予算設定では企業の強みや課題を見極められなくなります。予実管理には適切な予算設定が必要不可欠です。
②細かな数字にこだわり過ぎない
予算と実績の差分が1%の要素と、差分が10%の要素。企業の経営目的を達成するためには、どちらの要素にフォーカスするのが効率的でしょうか。
予実管理において大切なのは、予算の構成要素や優先順位を見極めること。詳かい数字にこだわると、適切な予実管理の妨げになる可能性も高いです。差分が1%の要素を分析するうちに、10%の要素を分析する時間がなくなってしまうかもしれません。
細かな数字にこだわらないようにするためには、どの要素にどの程度の差分が生じたら優先度を上げるかをあらかじめ決めておくとよいでしょう。
③原因究明をしっかりと行う
予実管理により、より優先度の高い課題が判明しました。もちろん予実管理はここで終わりません。成長の足枷となっているのは何か、経営上のどんな課題が関わっているのかなど、原因を本質的に捉えます。
たとえば顧客回転率の低下が見つかったとしましょう。回転率が低くなっているのは顧客満足度の低下によるものでしょうか、それとも予算不足でしょうか。
予実管理を行う際は、表面的な問題にとらわれないよう注意しましょう。なぜ回転率が下がったのか、その原因を徹底的に調査し、仮説と検証を繰り返して問題を深掘りする必要があるのです。
④事前に準備しておく
予実管理では、企業の業績をさまざまな角度から集計して分析を重ねます。効率的な予実管理を行うには、事前に準備を整えておくことも大切です。
予実項目の要素によっては、データ集計に時間のかかる要素があるかもしれません。繰り返しますが、予実管理は分析がゴールではないですし、継続的にPDACサイクルを回す必要もあります。予実管理の効率性を高めるためにも、事前準備を整えておきましょう。
分析する際の指標が不適切だったり、正しい方法で集計作業が行われなかったりしたら、企業の実態は正確に把握できません。集計作業が効率的かつ正しい方法で行われているかを常に意識しましょう。
⑤リアルタイムな数値を反映する
企業を取り巻くビジネス状況は、刻々と変化しています。先月はなかった新たな法令が追加されていたり製品に必要な素材が生産終了していたりするかもしれません。時間が経過すればするほど、数字の持つ意味合いは変化します。
予実管理には、タイムリーな数値が必要というのは前述したとおりです。月よりも週、週よりも日と、よりリアルタイムな数値を反映させられる仕組みを整えましょう。根本的な経営課題にまでたどり着けなくとも、数値としての問題点は気付けます。
4.予実管理の具体的な進め方
設定した予算に対する実績を知る、進捗の度合いを把握、管理して経営上の課題を「見える化」する、これらが予実管理の目的ですが、手順を踏んで進めると、より確実な成果を挙げられます。ここでは予実管理の具体的な進め方について見てみましょう。
予算目標を決めて必要な情報を集める
予実管理の目的は、実績を予算目標に近づけること。つまり予算目標を決めるところから予実管理は始まるのです。企業としての成長を目指しながら、現実的に達成可能な予算目標を立てましょう。
予算目標を決める際は、現在の実力よりも少し高めの目標を設置するとよいでしょう。あまりに高すぎる目標は諦めを生み、モチベーションの低下を招きます。企業としてどれくらいの利益を出したいのかを精査しながら、現在の能力に見合った目標を立てましょう。
予算を立てて月次決算を行う
続いて過去の実績をもとに、具体的な予算を決めていきます。予実管理を毎月行うと、より精度を高められます。ビジネスの繁忙期と閑散期では、予算も実績も違うもの。予算を決める際は、具体的にいつのデータを参考にするかよく考えた上で行いましょう。
設定した予算と実績に差異が生じたら、そのたびに軌道修正を重ねます。これが月次ではなく年次だった場合、差異に気付くのが遅れ、より問題が拡大する恐れも。また一度に確認する期間が短ければ短いほど、より詳細な分析を行えるようになります。
予算と実績を比較して対策を立てる
決算によって、当初目標としていた営業利益と実績に差異が見られました。これは予実管理に何かしら課題があるということです。
予算と実績にある程度の乖離が見られたら、軌道修正を考えましょう。その際、売上に最も貢献している自社の活動を軸とした改善案が効果的です。
売上に最も寄与しているのはどの商品でしょうか、またどんな活動、取り組みでしょうか。この部分を明らかにし、リソースを割くことで利益と実績のギャップを埋めていきます。
営業利益に注目することが重要
予実管理を行う際、最も重要とされるのが「営業利益」です。営業利益とは、売上総利益(売上高から売上原価を引いたもの)から販管費(販売費および一般管理費)を差し引いた利益のこと。
どれほど高い売り上げをあげても、経費がかかり過ぎれば利益は少なくなり赤字となりますし、売り上げが少なくても、経費がほとんどかからなければ利益を創出し、黒字になります。
つまり予実管理でまず注目するのは、「適切な営業利益目標を立てること」なのです。
5.予実管理を効率化しよう!
当初立てた計画に対して予算と実績を把握・改善する予実管理は、日々の取り組みが非常に重要です。そうと分かっていても、時間などコストがかかって大変になる場面もあるでしょう。
以下に挙げるさまざまなツールを用いて、予実管理を効率化してみてはいかがでしょうか。
Excelで管理する場合
個人あるいは中小企業の場合、表計算ソフトのExcelを用いる場合も少なくありません。Excelによる管理のメリットは、なんといっても導入のしやすさ。Excelで予実管理を行う際は、次の3つを満たしたツールにしましょう。
- 現状を入力する項目がある
- 予算目標が記載されている
- 予算と実績の差分が把握できる
月次主体の事業であれば毎月集計を行い、四半期ごとの流れを把握しやすい形に整えます。日販が主体の場合は、日次ベースで予実管理を行うと、より詳細な実態を捉えられるでしょう。
予実管理ツールで行う場合
事業規模が大きくなるにつれ、Excelでの予実管理は難しくなります。商品カテゴリー列の追加や商品単価の変更、月別平均売上の入力など、情報が増えるほどメンテナンスに時間と手間が生じるでしょう。
予実管理には、よりタイムリーな事態把握と改善が必要ですので、事業の拡大に合わせて予実管理ツールの導入を検討してみましょう。ツールを活用すると、データ破損の危険を退けたり、予実管理業務の効率化を図ったりとさまざまな効果が期待できます。
2つの予実管理ツール
ここでは2つの予実管理ツールを紹介します。Excelでの予実管理に厳しさを感じ始めたら、これらの導入を検討してみましょう。
BizForecast
BizForecastは、「脱Excelから活Excel」を目標に掲げる経営管理システム。操作性がExcelに似ているため、Excelで予実管理をしている企業が導入しやすいツールとして知られているのです。
グラフやチャートなど多彩なビジュアルツールを備えているため、柔軟性と使いやすさに優れています。
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