多能工化とは?【意味をかんたんに】デメリット、スキルマップ

多能工化とは、一人が複数の業務や工程に対応できる状態のこと。別名「トヨタ生産方式」とも呼ばれ、トヨタ自動車の副社長 大野耐一氏によって考案された生産システムです。

今回は多能工化について、メリット・デメリットや多能工化の進め方、多能工化を導入する企業事例などを詳しくご紹介します。

1.多能工化とは?

多能工とは、一人で複数の業務やタスクを進めることで「マルチタスク」や「マルチスキル」とも言い換えられます。つまり、多能工化とは一人で複数の業務や工程に対応できる状態にすることです。

多能工化は、トヨタ自動車の副社長 大野耐一氏によって考案された生産システムで、主に製造業で多く取り入れられていた考え方です。現在はサービス業などにも広く採用されており、生産性を高める手法として注目を集めています。

多能工化の反対語「単能工化」とは?

単能工化とは、一人が単一の業務や工程に対応する状態にすること。特定の従業員が専門的に業務を進める形式で、担当者はスペシャリストとなるためスキルが高く、難易度の高い作業やイレギュラーにも対応できる点が特徴です。

ただし、ほかの業務・工程を把握できず、周りもほかの人が対応している業務・工程を把握できない状態になるため、属人化やブラックボックス化を引き起こす可能性もあります。

属人化やブラックボックス化が起こると、休みや離職で担当者が欠けてしまったときほかの人がカバーできない、ナレッジが共有されないといったリスクも発生するのです。

また単能工化は、人手不足が著しい現代において、生産性の面でもデメリットのあるシステムといえます。トヨタ生産方式では、単能工化を「手持ちのムダ」とも呼び、改善すべき状態と定義しているほどです。

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2.多能工化が求められる理由

多能工化が求められる主な理由は、少子高齢化による労働人口の減少や働き方改革推進のためです。

現代は少子高齢化による労働人口の減少により、人材確保が困難な状況にあります。くわえて、キャリア形成における転職の一般化、終身雇用制度の実質的崩壊により、人材の流動化も激しくなっているのです。

こうした状況下で既存の従業員の能力を最大限活用して生産性を高めるには、多能工化がポイントになります。一人ひとりのスキルや能力を高め、かつ一人あたりが担当できる業務が増えれば生産性が高まり、人材不足解決にもつながるのです。

また、働き方改革により、長時間労働の解消やワークライフバランスの充実が求められています。労働時間の適正化には業務効率化と生産性向上が欠かせず、この場合にも多能工化が役立つのです。

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3.多能工化のメリット

多能工化では、下記5つのメリットが期待できます。多能工化のメリットをみていきましょう。

  1. 業務量を平準化できる
  2. 業務の可視化・リスク管理ができる
  3. 生産性が向上する
  4. チームワークが強化される
  5. 柔軟性の高い組織づくりができる

①業務量を平準化できる

多能工化では特定の人が業務・工程を担当せず、状況に応じて柔軟に人員を配置できます。

単能工化では業務・工程によって一人あたりにかかる負担が異なるものの、多能工化では稼働状況や業務量を可視化して必要なリソースを投下できるため、負担が均等化されて業務量が平準化できるようになるのです。

欠員やイレギュラーな事態にも対応できる人員がいるため、後れを取らず業務が遂行できるようになります。

②業務の可視化・リスク管理ができる

従業員に必要なスキル・知識を習得させるためには、業務に必要な能力や手順、業務内容を可視化する必要があります。業務の可視化により、難易度の高い作業や工程、一人当たりの負担がかかりやすい業務、稼働率の高い業務などが明確になります。

想定されるリスクや問題、必要なリソースが把握でき、課題や改善策を洗い出しやすくなるなど、潜在的なリスクの可視化にも有効です。

また、ひとつの業務・工程に対して対応でいる人員が複数いるため、欠員やイレギュラーな事態にもリソースを投下でき、作業のストップや遅延のリスクを回避できます。

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③生産性が向上する

難易度が高い作業や稼働率の高い業務でも必要なリソースを投じて効率的に進められるため、特定の人に負担がかからず、生産性もアップします。また、特定の業務や工程に対応できる人が複数人いるため、欠員などによって作業が滞らなくなる点もメリット。

さらにほかの業務・工程で手が空いている人がいても、その業務・工程に対応できないがゆえに発生するリソースの無駄の解消にもつながり、リソースの有効活用・最適化に有効です。

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④チームワークが強化される

さまざまな業務に対応する過程で日頃から密に連携が取れる環境が整っているため、自然と連帯感やチームワークが育まれます。お互いの業務内容を把握できているためフォローに入りやすく、相互理解が深まるため対立もなくなるでしょう。

多能工化では自然と一体感を浸透させられる効果が期待できます。

⑤柔軟性の高い組織づくりができる

ニーズが多様化し、変化が激しい現代では、組織運営やビジネス展開に柔軟性を持たせられないと生き残ることが困難といっても過言ではありません。

多能工化は、柔軟性の高い組織づくりにも有効です。各従業員がさまざまな業務に対応できれば、変化に合わせて柔軟に対応しやすく、それぞれの判断によって意思決定のスピードも早くなります。

また、従業員の数だけアイデアも生まれやすく、変化し続けるニーズに柔軟に応えられる組織づくりが期待できるのです。

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4.多能工化のデメリット

一方で、多能工化には下記のようなデメリットもあります。

  1. 人材育成に時間とコストがかかる
  2. 評価制度を見直す必要がある
  3. モチベーションが低下する恐れもある

①人材育成に時間とコストがかかる

一人の従業員が多能工化するまでには、時間とコストがかかります。なぜなら、新たな知識やスキルの習得が必要であり、すぐには身につかないからです。とくに専門スキルや難易度の高い業務におけるスキル・知識を身につけるのは容易ではありません。

時間とコストを無駄にしないためにも、従業員の特性・適性を見極めた計画的な育成が必要です。すぐに多能工化のメリットを得るのは難しいことを前提に、中長期的な目線で育成に取り組み、多能工化を目指す必要があります。

②評価制度を見直す必要がある

多能工化を導入するうえで、多能工化に対応した評価制度を作る必要があります。多能工化によって、従業員は複数のスキルや知識を身につけ、多方面で活躍できる状態です。

相当の評価が得られない、多能工化前と変わらない評価だと納得感が得られず、モチベーションやエンゲージメントの低下につながる恐れもあります。

評価制度の見直しはかんたんではないでしょう。しかし多能工化までは時間を要するため、同時進行で評価制度の見直しも行っておくことをオススメします。

③モチベーションが低下する恐れもある

評価制度が原因でモチベーションが低下する恐れもあるほか、企業が都合よく多能工化を行っている場合も要注意です。多能工化で負担がかかるのは、新たなスキル・知識の習得が必要であり、かつこれまでに担当していない業務にあたることになる従業員。

従業員の適性やキャリアプランに見合った多能工化を行うと、従業員のモチベーションアップにもつながります。企業側の独断や都合だけで多能工化を行わず、従業員とコミュニケーションを図りながらお互いが納得できるように進めることが大切です。

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5.多能工化で役立つスキルマップとは?

スキルマップとは、業務内容に関するスキルレベルを示したもの。役職・部門・職種・業務内容など、さまざまな単位における現在のスキルがどのレベルにあるのかが一目でわかります。

たとえば、スキルマップを活用して評価を行う場合、ある業務や工程について下記のようにレベルわけするのです。

  • 一人で担当できないが、作業を理解している
  • 時間はかかるが、一人で作業できる
  • 作業を理解したうえで一人でできる
  • 作業を熟知し、他者に指導できる

スキルマップは、従業員の能力評価や能力開発、育成計画の策定に役立つツールとして活用されています。多能工化では、業務の可視化や従業員の現在のレベル把握が必要であるため、スキルマップの活用が最適です。

スキルマップにもとづいて現状を把握し、いつまでにどのレベルに到達すべきかといった育成計画も立てやすくなります。

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6.多能工化の進め方

ここでは、多能工化の進め方をステップ別に解説します。

  1. 業務・スキルの洗い出し
  2. 業務の可視化
  3. 育成計画の立案・実行
  4. 評価と振り返り

①業務・スキルの洗い出し

まずは、現状の各従業員の業務やスキルを洗い出します。スキルマップも活用し、それぞれのスキルに偏りがないかもチェックしましょう。

現状を把握したら、重要度の高い業務や優先度の高い業務を明確化し、多能工化すべき業務を選定します。業務の属人化の度合いやコスト、人手不足の面からも選定すると効率化に有効です。

あわせて、現場にヒアリングし、多能工化の必要性や方向性について理解を得ておきましょう。

②業務の可視化

業務、スキルの洗い出しができれば、次は業務の可視化です。具体的には、どのような手順で業務を遂行するか、どのようなスキル・知識が必要かを見える化します。

そして業務量の平準化や負担の均等化を図るため、業務フローやマニュアルの作成も進めましょう。第三者が見てもわかりやすいよう作成し、従業員が業務を習得しやすい環境を整えることがポイントです。このとき、並行して評価制度の見直しも進めましょう。

③育成計画の立案・実行

マニュアルを作成後、育成計画を立案します。スキルマップも活用し、いつ・誰が・どのレベルまで到達できるようにするかを明確にしましょう。この時、誰が誰に、どのように指導するかも決めておくことがポイントです。

育成計画ができたら、実際に育成に取り組みます。育成は業務と並行するため、指導者と指導される側が負担にならないよう、教育中は人員を増やす、スケジュールに余裕を持たせておくなどして対策したうえで進めることがポイントです。

④評価と振り返り

多能工化を定着させるため、育成計画の進捗を管理しながら定期的に評価と振り返りを実施します。計画通りに行っていない、うまくいかない場合は、計画を見直すなどして改善に取り組みましょう。

またOJTを導入して育成体制を整えながら、従業員がしっかりと業務を覚えられる体制を整えることも大切です。無理な教育がモチベーション低下や離職に発展しないためにも、適切な評価と教育・フォロー体制を整えて慎重に進めていきましょう。

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7.多能工化を失敗させないための注意点

多能工化を失敗させないためにも、下記ポイントに注意して多能工化に取り組みましょう。

短期間で行おうとしない

多能工化するまでは時間がかかるため、中長期的な施策として取り組むことが重要です。また従業員への負担が大きいため、短期間で行おうとするとキャパオーバーに追い込んでしまう恐れもあります。

結果、モチベーション低下や負担増加によって離職を検討する従業員が出てくるリスクも考えられるでしょう。業務内容によって育成にかかる時間は異なるものの、できるだけ短すぎず、かといって長すぎないよう育成期間を設定します。

進捗状況の確認を怠らない

進捗を可視化すると多能工化が効率的に進められ、かつその過程で新たな課題や問題点が発見しやすくなります。

従業員も多能工化がどれだけ進んでいるかが可視化されることで、モチベーションを高めて前向きに取り組めるようになるでしょう。進捗状況の可視化は、ツールやシステムを活用するとスムーズです。

業務を押しつけすぎない

優秀な従業員は、すぐにスキルや知識を身につけられるため、多能工化もスムーズです。すぐに仕事を覚えられるためさまざまな業務を任せたくなるでしょう。頼りすぎるとキャパオーバーや業務負担の偏りが発生するため要注意です。

優秀な従業員に頼りすぎず、時間がかかっても業務量が平準化できるよう多能工化を進めていきましょう。

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8.多能工化の企業事例

多能工化に取り組む企業は多く、その取り組み方はさまざまです。ここでは、3業種の企業から事例をご紹介します。

トヨタ自動車|製造業

多能工化の発案者である大野氏は、一人の女子工員が複数の機械を扱って作業している豊田紡織と一人一台の機械を使って組み立てる自動車の製造プロセスを比較して、単能工のデメリットを認識しました。

そこで、徹底的に無駄を排除した生産システムとして多能工化を取り入れ「トヨタ生産方式」として体系化。

自動車工場においても一人が複数台の機械を扱う「多台持ち」や複数の工程を担当するアイデアを提案し、実現のために訓練を始めたのが多能工化の始まりです。

トヨタ自動車の多能工化は現在でも効果を発揮し続けています。コロナ禍で危機的状況に陥る企業も多かった自動車業界でも、トヨタ自動車のみが四半期決算を黒字計上したことが一例です。

多能工化によって自社以外の工場機器も使いこなす保全マンによって、医療用ガウンの増産を助けたことが黒字へと導きました。

星野リゾート|サービス業

星野リゾートは、サービス業界には珍しく多能工化を実現する企業として有名です。当初は清掃と調理に労働が集約され、ピーク時間外の昼間の中抜けシフトが常態化し、生産性低下が問題視されていました。

そこで、従業員全員がフロント、客室、レストランサービス、調理(補助)ができるよう育成を開始。それぞれのスキル習得度と実践度を細かく数値化し、多能工化によるメリットを従業員に提示したのです。

その結果、大卒はフロント、調理専門学校卒がレストランへ配属といった、固定観念による業務分担から脱却。

結果中抜けシフトが解消され生産性や収益の向上を実現し、さらにはさまざまな業務に携われるようになったことで顧客との接点が増え、顧客満足度向上のためのアイデアが出やすくなるといった効果ももたらしました。

ヤオコー|小売業

小売業における多能工化の事例です。スーパー「ヤオコー」では、一人がレジ打ちから品出し、惣菜作りの補助までできる人材を育成。そのため、忙しさに応じて人員を調整でき、店内の業務効率化とサービス品質向上を実現しています。

また、非定員制を導入し、忙しい部門に従業員が自己申告でフォローに行ける体制を導入。特定のポジションを決めず、かつどの業務にも対応できるよう育成を行って、忙しい時間でも部門ごとに業務量が偏ることなく、スムーズに業務を回せています。