静かな退職とは?【わかりやすく解説】企業ができる対策

静かな退職とは、退職前のように契約どおりの仕事だけを淡々とこなす働き方のこと。静かな退職がおよぼす悪影響、原因、対策などについて解説します。

1.静かな退職とは?

静かな退職とは、仕事への意欲や熱意を持たず、必要最低限の仕事のみをこなす働き方のこと。実際に退職するわけではなく、退職が決まった従業員のように淡々と働く様子を指しており、「頑張りすぎない働き方」などとも表現されます。

もともとは「Quiet Quitting」という英語で、主にTikTokを介してアメリカ国内で知られるようになりました。日本語で静かな退職と直訳され、国内においても徐々にその概念が浸透しつつあります。

ダウンシフト(DownShift)との違い

ダウンシフトとは、仕事中心の生活において全体的なペースダウンを意識し、ゆったりとした生活を送ること。もとは自動車のギアを1段下げて減速することを指す語です。

ダウンシフトの対象は仕事を含めた生活全般を指し、静かな退職は仕事のみを対象とする点が異なります。

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2.静かな退職が企業に与える悪影響

2023年、米Qualtricsの日本法人であるクアルトリクス社が行った調査によると、日本では静かな退職の状態に該当する従業員が全体の約15%を占めることが判明。また40代から50代に多く見られました。

異なる点として、アメリカでは静かな退職の中心は若年層である一方、日本では管理職や経営陣となるミドル層にも浸透している点が挙げられます。そのため、日本独自の観点でこの概念に向き合い、生じる可能性のある悪影響や問題に対処する必要があるのです。

参考 『日本国内における「静かな退職」の実態』 Q&Aクアルトリクス

生産性の低下

静かな退職を実践する従業員は仕事に対する意欲が低く、生産性が低下しやすい傾向にあります。彼らは最低限の仕事をこなすものの、業務の改善や改革、創造的な活動への積極的な関与が見られません。

もし静かな退職者を放置すると、組織全体の従業員のエンゲージメントが低下し、生産性が低下してしまうかもしれません。

また、先述したように日本では40代から50代に静かな退職が支持されている傾向にあります。これらの年代は、組織内で重要な役割を果たすと期待されている年代です。そのため、静かな退職は事業や経営にも悪影響をおよぼす可能性もあります。

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3.静かな退職が起こる原因

静かな退職が支持される原因には、社会状況の変化が大きく関係しています。静かな退職を引き起こす7つの原因を解説しましょう。

  1. 選択肢の多様化
  2. ロールモデルの不在
  3. 世界的な危機的状況
  4. 就労者の価値観の変化
  5. 従業員と雇用者の断絶
  6. 職場の労働環境
  7. 静かな解雇

①選択肢の多様化

仕事における選択肢の多様化は、静かな退職が起こる原因のひとつとなっています。現代では、自己実現や自己成長ができる働き方や、本業以外で収入を得る方法が増えており、若手従業員の自社への帰属意識が薄れている傾向にあるのです。

また、転職がキャリア形成において容易になったのも、帰属意識の低下を促進する要因でしょう。職場や働き方を選べるようになったため、自社の仕事に固執しない静かな退職者が増えているのです。

②ロールモデルの不在

ロールモデルの設定が難しくなったことも、静かな退職が起こる原因と考えられています。ロールモデルはほかの従業員にとっての手本や規範となる人物であり、価値観や働き方、仕事の進め方などで優れた存在です。

近年、ビジネスや働き方の変化は非常に早く、それにともなって自社にとって最適なロールモデルも変化していく必要があります。しかし、ロールモデルの設定や更新を適切に行っていない企業も少なくありません。

ロールモデルが存在しないと、従業員は自社でのキャリアプランを具体的にイメージしにくくなります。そのため成長意欲が湧かず、結果として静かな退職者になってしまう場合があるのです。

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③世界的な危機的状況

世界的な危機的状況の発生も、静かな退職が起こる原因として挙げられます。たとえば近年であれば新型コロナウイルスの感染拡大や、ウクライナ戦争の勃発などが該当するでしょう。

危機的状況に面した従業員は、「働くために生きる」考え方から「生きるために働く」考え方へ転換することがあり、仕事以外の要素を重視した結果、静かな退職を選択する場合もあります。

④就労者の価値観の変化

コロナ禍で働き方に対する価値観が変化した従業員が、静かな退職者となるケースもあります。

リモートワークで上司や同僚などとのコミュニケーションが希薄になり、仕事に対するモチベーションが低下しやすいからです。また出社しなくても働けるため、職場に対する帰属意識も下がるでしょう。

その結果、仕事や自社の存在意義に疑問を持った従業員が静かな退職者になってしまうことがあるのです。

⑤従業員と雇用者の断絶

静かな退職の原因として、従業員と雇用者の間に断絶が生じることが挙げられます。とくにリモートワークが浸透した2021年以降、従業員と雇用者(自社)結びつきが希薄になる傾向にありました。

仕事やキャリアへの期待、成長の機会などを失った従業員は、雇用者に対する信頼が薄れてしまい、貢献意欲を持たない静かな退職者となる可能性があります。

⑥職場の労働環境

静かな退職が起こる原因として、職場の労働環境の悪化も挙げられます。職場の人間関係や風土など、自分では改善できない要素が大きなストレスとなり、仕事へのモチベーションが低下する場合もあるからです。

この職場あるいはこの企業では自分の望む働き方ができないと失望した従業員も、静かな退職へ移行する可能性があります。

⑦静かな解雇

静かな退職は「静かな解雇」によって起こるケースも珍しくありません。静かな解雇とは、従業員を意図的に退職へ追いやるような行為のこと。たとえば「長期間にわたって昇給や昇進をしない」「これまで担当していた重要な業務から外す」などが挙げられます。

静かな解雇で仕事への意欲を失った従業員は、静かな退職者となりえるのです。

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4.静かな退職で従業員が得るメリット

企業にとって悪影響をおよぼす静かな退職ですが、従業員にはメリットをもたらします。静かな退職のメリットをふたつ解説しましょう。

  1. メンタルヘルスの安定
  2. 自分軸の確立

①メンタルヘルスの安定

静かな退職によりワークライフバランスが改善し、メンタルヘルスの安定がうながされるのです。

仕事に対する責任感や意欲が強すぎる従業員は、「自分がやらなければならない」というプレッシャーがかかり、ストレスによってメンタルヘルスが損なわれる場合もあります。

とくに激務をこなし続けたあとの バーンアウト(燃え尽き症候群)から静かな退職者に移行する従業員も見られるでしょう。

静かな退職者となることで、仕事に縛られすぎず、自己実現のための時間やプライベートな時間を確保できるため、心身ともに安定しやすくなるのです。

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②自分軸の確立

静かな退職により仕事への思い入れが弱まり、自分軸を確立しやすくなるのもメリットです。

「仕事=自分の存在価値」と考える従業員は、仕事における失敗や不満が自己評価に直結してしまい、自己肯定感や自尊心を失うことがあります。静かな退職では仕事と心理的な距離を取れるため、自分自身のアイデンティティを確立しやすくなるのです。

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5.静かな退職を防ぐ方法8つ

静かな退職は自社へ悪影響を与えるため、放置できない課題です。ここでは静かな退職の予防策を8つ解説します。

  1. 職場環境の整備
  2. 評価基準や制度の設置
  3. キャリアパスの多様化
  4. 従業員の価値観の見える化
  5. リーダーにアクション権限を譲渡
  6. 仕事量の管理
  7. 人間関係の改善
  8. 職務の再定義

①職場環境の整備

静かな退職を防ぐためには職場環境を改善し、従業員の不満やストレスを軽減する必要があります。

たとえば健康診断の無料実施や、オフィス内にセラピールームを設けるなど。従業員が働きやすい職場環境を整備すると、メンタルヘルスの向上やワークライフバランスの改善を促せます。これにより、静かな退職を防げるでしょう。

②評価基準や制度の設置

評価基準や制度を設置あるいは見直すと、静かな退職の防止効果が期待できます。自分の業績に対する明確な基準が設けられると、従業員は達成感ややりがいなどを感じられ、仕事へのモチベーションが高まる可能性もあるからです。

また公平性が高い人事制度や表彰制度は、従業員が自社からの感謝や承認を得られる機会となるため、エンゲージメントの向上につながります。この点でも静かな退職を防ぐ効果が高まるのです。

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③キャリアパスの多様化

キャリアパスを多様化させることは、静かな退職の抑制や防止に役立ちます。

キャリアパスの選択肢が限られていると、従業員は自分が望む成長を実現できず、与えられた仕事に飽きてしまうかもしれないのです。従業員が自身の長期的なキャリアプランを描けるようになると、帰属意識やモチベーションが向上につながります。

具体的な施策としては複線型人事制度の導入や、多様なロールモデルの設定が挙げられるでしょう。

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④従業員の価値観の見える化

従業員の価値観を見える化して仕事や自社の理念などとリンクさせると、従業員の仕事に対するモチベーションがアップし、静かな退職を防げる可能性があります。自分の価値観を尊重された従業員は、自社への信頼や愛着なども高まるでしょう。

全従業員に対して一斉に行うより、仕事の進みが遅くなった従業員へ優先的に行うべきです。

⑤リーダーにアクション権限を譲渡

静かな退職を防ぐための有効な手段として、リーダーにアクション権限を譲渡することも挙げられます。

十分なアクション権限を譲渡されたリーダーは自身の判断での行動が可能となり、チームメンバーに対する的確なサポートやトレーニング、フィードバックなどを行えます。

チームメンバーは成長の機会や承認などを得られるため、静かな退職の防止に効果的です。またリーダーに裁量を与えると、リーダーが静かな退職者になるのも防げます。

⑥仕事量の管理

上司が部下の仕事量を適切に管理すると、静かな退職対策として一定の効果が期待できます。過剰な量の仕事を与えられた部下がストレスを感じて、静かな退職を選択するケースが見られるからです。

リモートワークの場合は仕事量の管理が難しくなるため、意識的にコミュニケーションをとる必要があります。また仕事の量だけでなく、役割や報酬、期限などについても、無理や不足があれば解消すべきです。

⑦人間関係の改善

静かな退職を防ぐ方法には、職場における人間関係の改善も挙げられます。とくにリモートワークを導入している企業では、部署との信頼関係の構築が今まで以上に重要になってきたからです。

コミュニケーションが不足すると、従業員に心配や不満が生じやすくなるため、上司やリーダーは積極的に対話の機会を設けたほうがよいでしょう。

⑧職務の再定義

従業員の職務を整理して再定義すると、静かな退職を防げる場合もあります。本来ならば任意あるいは自主的に行っていた行動や活動がいつの間にか仕事に組み込まれ、業務量が増大している場合もあるからです。

自分だけ多くの仕事をやらされていると感じた従業員は、不満やストレスを感じてモチベーションが低下するかもしれません。本来の仕事とそれ以外の付加的な仕事を切りわけ、従業員の負担を軽減しましょう。