「頑張ります」は目標じゃない|事務職・エンジニアの「測れない仕事」を測る技術

「業務効率化に努めます」「品質向上を目指します」。その目標、中身はぜんぶ「頑張ります」です。

売上やKPIがない事務職、事業成果に振り回されるエンジニア。数値化しにくい仕事を持つ人ほど、目標設定がポエムになりやすいのが現実です。

では、どうすれば「第三者が読んでも分かる目標」に変えられるのか。3人の人事プロフェッショナルが、現場で磨いてきた具体的な書き換えテクニックを語ります。

「測れない仕事」を測る技術
この記事では、事務職やエンジニアなど数値化が難しい職種で、目標設定を具体的・定量的に変えるための実践テクニックを座談会形式で紹介します。

お話を伺った方々

幸田さん
流通・サービス業など複数の中堅企業で人事責任者を歴任。制度設計から現場運用まで一貫して手掛け、直近は外部アドバイザーとしても複数社を支援

岡田さん
大手通信系企業のシェアードサービス部門でバックオフィス業務を統括。数値化しにくい事務系職種のマネジメントに10年以上従事

藤本さん
大手インフラ企業にて、評価制度の全社展開と運用改善を推進。多数の管理職を対象とした研修を設計・実施

「事務職の目標、8割は”頑張ります”の変奏曲」

──数値化しにくい職種の目標設定で、最も苦労されたのはどんな場面ですか?

幸田さん幸田さん

やっぱりコーポレート部門が一番難しいですね。経理・法務・人事。どうしても数字に直接紐づかない仕事が多い。定量的に測ろうとしても、最終的には定性的な面が大きくなってくる。事務職の目標設定シートを見ると、8割は「頑張ります」の変奏曲です。「業務効率化に努めます」「品質向上を目指します」。文言は違いますが、中身はぜんぶ同じ。

藤本さん藤本さん

まさに。管理部門の目標シートは「なんちゃって目標」の巣窟でした。人事の仕事でいえば、「頑張ります」的な行動目標に留まりがちで、成果としての目標に落とし込むのが難しい。特に調達、財務、法務といった部門は定量化しづらいのが課題です。

岡田さん岡田さん

私は事務センターを統括していたんですが、そもそも「前向きに働きたい」というモチベーションが高くない方も多い環境でした。パーツの作業しか見えていない。「あなたの業務はお客様のどこに届いているのか」という全体像を誰も教えていなかった。これが目標以前の最大の問題でしたね。

藤本さん藤本さん

全体像が見えないまま「目標を書け」と言われたら、そりゃ「頑張ります」としか書けないですよね。

まず目標を2つに割れ──「守りの仕事」と「攻めの仕事」

──全体像が見えないと目標を立てる意味が分からない、という根本的な問題があったわけですね。それをどう解決していったのですか?

岡田さん岡田さん

まず大前提として、事務方は「成果を生む仕事」じゃないんです。「価値を守る仕事」なんです。この再定義が出発点でした。「売上がないから数値化できない」のではなく、「守るべき価値」を定義すれば測れる。成果主義の物差しを無理に当てようとすると破綻します。

幸田さん幸田さん

私も目標を「定常オペレーション」と「イノベーション」の2つに分けることを導入しました。守りと攻めですね。定常オペレーションで「ミスなく正確に行う」と書いてしまうと、他の人から見たら「当たり前のことでしょ」になってしまう。だから例えば、「業務エラー発生時に○時間以内に原因特定と再発防止策を共有する」というように、具体的な行動に紐づける。

藤本さん藤本さん

私のところでは管理部門の目標を「品質・コスト・納期・柔軟性」の4指標に分解するフレームワークを展開しました。たとえば法務であれば、「品質=契約書レビューの差し戻し率」「納期=依頼から回答までの平均日数」というように分解する。こうすると「頑張ります」が入り込む余地がなくなります。

キーワード解説
定常オペレーション:ミスなく確実に回す日常業務。「守り」の目標は、エラー対応のスピードや品質基準の維持など、安定稼働の質で測る。イノベーション:業務改善や新しい仕組みの導入など、現状を変える取り組み。「攻め」の目標は、効率化や改善の達成度で測る。

「判断・品質・再現性」──数値のない仕事の評価3本柱

──「守る仕事」と認識を変えるだけで評価軸がまるで変わるのが印象的です。さらに具体化すると、どんな評価基準になりますか?

岡田さん岡田さん

「数値がないから評価できない」は嘘です。判断を言語化しないから評価できないだけ。私は「判断」「品質」「再現性」の3本柱を評価基準にしました。「判断」はイレギュラーが起きたときに適切に対応できるか。たとえばクレーム対応で、自律的にエスカレーション判断ができるかどうか。「品質」はミスの質です。単純な入力ミスなのか、構造的な問題を見落としたミスなのかで重みが違う。そして「再現性」。自分だけができるのではなく、他の人にも展開できるか。この3つを言語化したことで、初めて「何を基準に評価されるか」が部門内で可視化されたんです。

幸田さん幸田さん

その3本柱をさらに細かくするなら、「件数・時間・率・頻度・質」の5つの切り口で分解するのが有効です。たとえば「クレーム対応を頑張る」ではなく、「初回対応を2時間以内に行う(時間)」「月次の差し戻し率を5%以下にする(率)」「週次で改善提案を1件以上出す(頻度)」。こうやって分解すると、ほぼすべての業務が定量化できます。

藤本さん藤本さん

人事や経理などの間接部門では、削減コスト・工数・改善件数といったプロセス指標に落とし込むフレームを推奨しています。たとえば事務職の改善目標なら「ミス削減率」「初回対応時間」「マニュアル整備件数」の3軸に絞る。軸が決まっていれば、あとは数字を入れるだけです。

「○○をする」は目標じゃない──手段と成果を取り違える罠

──3本柱と5つの切り口で「測れない仕事」が見えるようになりますね。一方で、目標の「書き方」でよくある失敗パターンはありますか?

幸田さん幸田さん

最も多いのが手段と成果の取り違えです。「研修を実施する」は手段であって目標ではない。「研修後に○○ができる状態になっている」が目標です。「何をしたか(アウトプット)」ではなく「どういう状態になったか(アウトカム)」で書く。これだけで目標の質は劇的に変わります。

岡田さん岡田さん

分かります。私のところでも「業務改善に取り組む」と書いてくる人が本当に多かった。「で、何がどう変わるの?」と聞くと答えられない。

藤本さん藤本さん

「取り組む」は行動の宣言であって、成果の定義ではないですもんね。見分ける簡単なコツってありますか?

幸田さん幸田さん

ありますよ。目標文言に入っている動詞を見ればいい。「頑張る」「努める」「推進する」「意識する」「心がける」。これらが入っていたら赤信号です。代わりに「達成する」「完了する」「削減する」「導入する」「短縮する」といった、完了形が描ける動詞に置き換える。このNGリストを作っただけで、目標シートの質が目に見えて変わりました。あと、もう1つリトマス試験紙がある。「第三者が読んでも分かるか?」。業務のことを知らない人がその目標設定を読んで、何を達成しようとしているのか分かるかどうか。分からなければ、それは曖昧だということです。

藤本さん藤本さん

私は「状態目標」と呼んでいるんですが、「何をしたら100点なのか」というゴールを先に定義して、そこから逆算する方法です。研修で教えているのは、まず目標達成の定義を握ること。「業務効率化」ではなく「○○業務の処理時間を現行比20%短縮し、月末残業をチーム平均10時間以内にする」。ゴールの状態を具体的に描いてから、そこに至るプロセスを分解する。

岡田さん岡田さん

逆算、いいですね。「ゴールの姿」から書き始めると曖昧さが入る余地がなくなる。NG動詞と第三者テスト、それに状態目標。この3つは明日からすぐ使えそうです。

目標文言のNG動詞リスト
赤信号の動詞:頑張る、努める、推進する、意識する、心がける、取り組む、目指す
青信号の動詞:達成する、完了する、削減する、導入する、短縮する、整備する、廃止する
判定のコツ:「完了した姿」をイメージできる動詞かどうか。「意識しました」は完了の姿が見えないが、「導入しました」は見える。

エンジニアの評価──「事業が失敗したら、俺の評価も道連れか?」

──事務職の話が盛り上がりましたが、エンジニア職にも独特の難しさがあるのでしょうか?

藤本さん藤本さん

ありますね。エンジニアは成果物が見えにくいぶん、評価の納得感を得るのが難しい。

幸田さん幸田さん

エンジニアの目標設定には構造的な問題があります。事業に密接に関わる組織だと、事業のKPIがエンジニアの成果KPIに連動してくる。すると、事業が失敗したときに、優秀なエンジニアほど割を食う。本人にはコントロールできない要因で評価が下がる。いわゆる「アンコントローラブル」問題です。

岡田さん岡田さん

それは事務職でもありますね。会社全体の業績が悪いと、どれだけ正確に仕事をしても報われない。

──「アンコントローラブル」な要因をどう切り分ければいいのでしょうか?

幸田さん幸田さん

これを解決するために導入したのが「二軸評価」です。成果軸と行動軸を分ける。成果軸は事業KPIに連動させて賞与に反映する。一方で行動軸──技術貢献やコードレビュー、育成活動──は昇格・昇給に反映する。行動評価は加点方式にすることで、事業がうまくいかなくても、エンジニアとしての成長は正当に報われる仕組みにしました。

藤本さん藤本さん

うちも同じ設計です。行動評価は年1回の賃金改定や昇格に連動させ、成果評価は半期の賞与に連動させる。こうすることで、短期の事業変動に左右されない長期的なキャリア形成と、半期ごとの成果へのインセンティブを両立させています。定量化しにくい部門でも、アンケート回収率や改善件数を成果として落とし込む努力はしていますが、完全にうまくいっているかはまだ課題ですね。

キーワード解説
二軸評価:成果(結果としてのKPI達成度)と行動(プロセスや貢献の質)を分けて評価する方式。成果は賞与に、行動は昇格・昇給に連動させることで、短期的な事業変動と長期的な成長の両面を公正に評価できる。

まとめ

成果と行動を切り分けることで、「アンコントローラブル」な要因に左右されない評価が可能になる。エンジニア評価にも明確な処方箋があることが見えてきました。

数値化しにくい仕事の目標設定は、「センス」ではなく「テクニック」で解決できます。この座談会から見えたのは、共通するいくつかのアプローチでした。

岡田さんの「事務方は価値を守る仕事」という再定義幸田さんの「NG動詞リスト」と「完了形動詞への書き換え」藤本さんの「状態目標」。100点のゴールを先に描く逆算法。いずれも「曖昧さをなくす」という一点に集約されます。

幸田さんの言葉が印象的でした。

いい目標の基準はシンプルです。「評価者が変わっても同じ点数がつくか」それだけ。

明日からできる3つのチェックポイント

目標シートを提出する前に、これらを確認してみてください。

  1. 動詞チェック:「頑張る」「努める」「意識する」が入っていないか? 完了形が描ける動詞に置き換える(「努める」→「達成する」「導入する」
  2. 5軸分解:目標を「件数・時間・率・頻度・質」のどれかで表現できるか? 1つでも数字が入れば、評価のブレが劇的に減る
  3. 第三者テスト:業務を知らない人が読んでも「何を達成しようとしているか」が分かるか? 分からなければ、それは曖昧な証拠

「測れない仕事」は存在しません。「測る技術を知らない」だけです。