人事管理とは、一体何でしょうか。ここでは人事管理の具体的な業務や人事管理システムなどについて、解説します。
目次
1.人事管理とは?
人事管理とは、企業の中心ともいうべき経営資源「人材」を効果的に管理する方法のことで、労務管理と同義に用いられる場合もあります。いずれも組織全体の経営管理の一環として、配置→評価→処遇→再び配置のシステムを動かすという意味では同じです。
働き方改革の推進やワークライフバランスの実現が叫ばれる近年、人事管理の業務にはこれまで以上に柔軟な対応が求められています。
2.人事管理の目的
人事管理における最大の目的は「企業の働き方やルール、処遇を定めて適切に運用し、経営資源ともいうべき人材を効果的に活用していく」「それにより組織全体としての生産性を高める」。ここでは4つの視点から、人事管理の目的を掘り下げてみましょう。
- 人材の「確保」
- 人材の「配置」
- 人材の「育成」
- 人材の「活性化」
①人材の「確保」
リクルートワークス研究所が発表した「2019年卒ワークス大卒求人倍率調査」によると、大卒求人倍率が1.88倍であるのに対して、総従業員数300人未満の中小企業における求人倍率は9倍超。求人に対して38.1万人もの人材が不足していると分かっています。
超売り手市場といわれる昨今、労働人口の減少はもはや他人事ではなく、社会問題ともいえる急務の課題です。企業が継続して成長を続けるには、人材の確保が欠かせません。
②人材の「配置」
人材はただ確保するだけではなく、従業員一人ひとりが最大限能力を発揮できるように適切な配置を行う必要があります。
たとえば豊かな英語力が求められる仕事において、英語に堪能な従業員を配置せず、コミュニケーションを取るのが苦手な人材を配置したらどうなるでしょうか。プロジェクトの成功、生産性の向上を望むのは難しいと想像できるでしょう。
人事管理には、「定員計画や要員計画にあわせた効率のよい人材配置」「組織全体の事業計画達成に役立てる」などが求められるのです。
③人材の「育成」
人材育成とは、従業員を自社事業の発展に貢献できる人材として育てること。人事管理では、「育成」も非常に重要な事項です。
一般的に人材育成は、中長期的な視点でとらえられています。上司に言われるがまま目の前の課題をこなす従業員より、自主性を持って計画的に行動できる従業員を育成したほうが、結果として企業全体のパフォーマンスを高めると考えられているためです。
従業員の自己スキルや能力が高まれば、次の「人材の活性化」にもつながるでしょう。
④人材の「活性化」
適切な配置と育成は人材の「活性化」につながります。人材の活性化とは、従業員が企業の事業目的を達成するためにやりがいをもって最大限に努力すること。
人材の活性化、すなわち意欲の増殖には「精神的魅力(経営層に魅力的な人間がいるか、社会貢献の実感を得られるかなど)」ないし「経済的魅力(納得度の高い賃金制度)」が不可欠です。
人事管理では、2つの魅力に鑑みた評価や処遇を通じて従業員のモチベーションを維持し、活性化につなげます。
3.人事管理の具体的な業務内容とは?
続いて人事管理の具体的な業務内容について、見ていきましょう。人事管理業務は、限られた労働力を効率的に活用するための業務で、次の4つに分けられます。
- 従業員の採用・雇用
- 既存人材の異動・配置
- 人事考課(人事評価)
- 人材育成(教育)
①従業員の採用・雇用
人事管理業務、と聞いてまず思い浮かべるのが「採用・雇用」の業務でしょう。人事管理担当者は企業の採用計画に基づいて従業員を募集します。
それに伴う「企業情報の発信」「就職・転職イベントへの参加」「SNSなどを活用した就職・転職希望者とのコミュニケーション」「自社で働く人の声を紹介」なども採用・雇用の業務に含まれるのです。
②既存人材の異動・配置
後述する人事管理システムなどを活用しながら、従業員の適性やポテンシャル、能力などを把握・分析し、適切な異動・配置を進めていくのです。
異動・配置は特定の従業員のみ異動させたり、一定の期間でローテーションしたりといくつかの方法があります。いずれも、自社の従業員に「新たな環境で自己研磨を求める」という点で共通しているのです。
③人事考課(人事評価)
人事考課(人事評価)とは、従業員の労働や会社への貢献度などを評価し、それらを昇給・昇進など処遇の基準とする制度のこと。
人事管理業務では、各従業員の働き方から能力や業績の成果を評価し、適切な処遇として還元するための仕組みづくりを行うのです。
透明性かつ公平性をもった人事考課(人事評価)は、従業員のモチベーションをアップさせます。企業の業績を上げるだけでなく、人材の定着にもつながる重要な業務です。
④人材育成(教育)
従業員を採用・配置しても、そのまま置いておいたのでは意味がありません。新卒採用や中途入社の従業員に研修の場を設けたり、今後管理職に就く従業員に管理職研修を受けさせたりして、能力の底上げ、必要スキルの教育を行う必要があるのです。
研修を外部委託する場合もありますが、研修内容の立案や企画、コーディネートなどは一般的に、人事管理業務の一環として行われます。
4.間違えやすい労務管理について
人事管理と似た業務に「労務管理」があります。どちらも「従業員を対象にした業務」という意味では同じですが、次のような違いがあるのです。
- 人事管理:採用や育成など、従業員個人を対象とした業務
- 労務管理:労働条件や福利厚生など従業員全体を対象とした業務
人事管理と労務管理は非常に密接な関係にあります。同一の従業員が2つの業務を兼任している企業も少なくありません。
労務管理の具体的な業務内容とは?
労務管理について、もう少し掘り下げてみましょう。労務管理とは、労働基準法や企業規則に従って労働完了を管理すること。前述のとおり対象となるのは、会社全体の従業員です。労務管理の具体的な業務内容は次の5つに大別されます。
- 勤怠管理
- 給与計算
- 社会保険の手続き
- 福利厚生に関する業務
- 安全衛生に関する業務
①勤怠管理
労務管理では、従業員の勤怠について管理します。
- 従業員一人ひとりの出退勤時間を管理する
- 時間外労働の時間を管理する
- 休憩、有給取得状況を把握する
労働基準法にて、労働時間の適切な管理が使用者に定められているためです。また勤怠管理の状況に鑑みて、長時間労働や健康管理の懸念を是正することも労務管理の一環となります。
②給与計算
労務管理業務のなかでも特に大きなウェイトを占めるのが給与計算です。就業規則にもとづいて、勤怠に応じた支給額を計算します。
- 基本給
- 基準外手当
- 諸手当
- 各種控除
従業員のモチベーションや社会的評価にもつながる給与計算は、決してミスが許されない業務です。後述する社会保険や国に治める税金など、法律に関する正しい知識も求められます。
③社会保険の手続き
企業に属した従業員は、必要に応じて以下の社会保険・労働保険に加入する必要があります。
- 健康保険
- 雇用保険
- 厚生年金保険
- 労災保険
- 介護保険
労務管理では、採用時のほか「扶養家族や住所氏名に変更が生じた」「出産による産前産後休業や育児休業の取得」「従業員が退職」といった際も、各機関に届出・申請手続きを行うのです。
④福利厚生に関する業務
福利厚生は、「法定福利」と「法定外福利」の2つです。
- 法定福利:前述した健康保険や雇用保険などの保険料の負担
- 法定外福利:法律で義務付けられた法定福利以外の、企業が任務で実施する福利厚生。交通費や住宅手当の支給、法定健康診断以外の検診、育児支援などが含まれる。従業員が働きやすい環境を整えるため、いずれも従業員のモチベーションに強く影響する
労務管理では、2つの福利厚生を管理します。
⑤安全衛生管理に関する業務
労務管理では、労働安全衛生法にもとづいた健康診断の実施や、従業員の安全と健康を管理する業務も行わなければなりません。
- 健康診断の実施と結果記録の管理、および従業員への通知
- 労働基準監督署長への報告
- 健康保持のための保健指導
近年、身体的なストレスのみならずメンタルヘルスのケアも重要視されているため、パワハラやセクハラの対策、労災対策なども含まれます。
5.人事管理システムとは?
人事管理システムとは、給与計算や出退勤の管理、要員配置に関する人事マネジメントなど人事・労務に関するデータを一元に管理するシステムのこと。業界規模に関わらず多くの企業にて導入されているこのシステムでは、次の2つを主な目的としています。
- システム化による管理業務の効率化
- 効果的な人材活用による経営推進
人事管理システムの機能とは?
人事管理システムで何ができるのか、もう少し具体的に見てみましょう。従業員一人ひとりのデータを管理する人事管理システムの機能は、次の2つに大別されます。
- 人事情報および給与データの管理
- 人材マネジメント管理
人事・給与管理
先に述べたとおり、人事管理業務では人事情報や給与データなどを管理しなければなりません。たとえば人事管理システムを導入していない企業で給与計算する場面を、想像してみましょう。
担当者は一人ひとりのタイムカードを参照しながら労働時間を計測し、給与規定に合わせて計算します。もちろん税金や控除など法律面も考慮しなければならないため、計算にかかる人的コストは計り知れません。
人事管理システムでは毎月の給与情報だけでなく、残業代やボーナス、勤務状態などを一元管理します。それにより人事・給与管理がスムーズかつ公平性をもって行われるのです。
人材マネジメント
人事管理システムでは従業員のスキルや今までの評価だけでなく、保有資格や能力、経験など従業員の特性を一元管理します。新規プロジェクトに必要なスキルがある人材を、一人ひとり聞き歩いて探す必要はありません。
また人材マネジメント機能では定量的に残しにくい評価も細かく記録できるため、配属のミスマッチを防ぎ、プロジェクトを円滑に進められます。
6.人事管理システムを導入するメリット
日本最大級の人事ポータル・HR総研が発表した「人事系システムと人事管理システム」によれば、約6割の企業が人事管理システムを導入、また約3割が改修・新規導入したいと計画していると判明しています。
人事データの一元管理が注目される近年、人事管理システムの導入によってどのようなメリットが得られるのでしょうか。
- 人為的なミスを防ぐ
- セキュリティの強化
- 業務の効率化
- 継続的な人材育成
①人為的なミスを防ぐ
人事管理には給与計算や法令の改正に伴う利率の修正など、煩雑な業務がいくつもあります。どれだけ慎重かつ間違いがないように注意しても、人の手で行う以上少なからずミスは生じるもの。
人事管理システムには自動計算だけでなく、法令改正に応じてアラートを上げる機能もあります。システムを活用すると、計算間違いや更新漏れなどの人為的なミスを防げるのです。
②セキュリティの強化
人事管理では従業員の個人情報を数多く取り扱います。2015年に改正された個人情報保護法にてすべての企業は、個人情報を保護するための万全な対策を講じることが義務付けられているのです。
人事管理システムを導入すると、セキュリティも強化します。人事管理では個人を識別するためのマイナンバーも管理します。マイナンバーを不正に扱うと法律違反となり厳しい罰則を受けるため、人事管理でも強固なセキュリティ対策が欠かせないのです。
③業務の効率化
人事管理システムを導入するメリットの中でも特に大きな割合を占めるのが「業務の効率化」です。人事業務は給与計算や人材採用だけではありません。
人事管理システムを導入し、計算や処理などの単純作業を機械的に行うと、担当者はほかの業務に専念する時間を増やせます。人事管理業務を効率化させることは、人件費を抑えることでもあるのです。
④継続的な人材育成
人事管理システムでは従業員一人ひとりの適性や保有資格、役職歴などあらゆるデータを一元管理します。定量的かつ客観的に集められたこれらのデータは、継続的な人材育成の検討に活用できるでしょう。
人材育成や人事配置を、個人の勘や漠然とした印象などで決定していないでしょうか。納得性の低い評価制度・育成支援は従業員のモチベーションを下げる恐れがあります。