いわゆる成果報酬と呼ばれる、「一般的に営業や販売の仕事をする人向けの、成果に応じて基本給以外に報酬がもらえる制度」のことをインセンティブと呼びます。
業績に応じて報酬を与えることで従業員の成果への意欲を高めます。スポーツの世界でも見られ、活躍度合いで追加報酬を与える制度として機能しています。
今回のこちらのページでは、この「インセンティブ」についての解説になります。
目次
1.インセンティブとは?
インセンティブとは「動機づけ」です。外部から刺激を与えることにより、人の意欲を掻き立て、行動を促すことを指します。
刺激により発生した行動がもたらす成果、それ自体をインセンティブと呼ぶケースも。その場合のインセンティブは「報奨」という意味合いになります。
インセンティブとモチベーションの違い
インセンティブと同じく「動機づけ」を意味するモチベーション。両者における違いは、意欲の発生源にあります。
インセンティブが外発的な動機づけである一方で、モチベーションは内発的な動機づけを指します。顔の前にエサをぶら下げて、人を走らせるのがインセンティブ。それに対してモチベーションは、自らの内側にフックがあり、自発的にやる気を起こします。

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2.成果主義とインセンティブの関係
日本型雇用慣行の終焉および成果主義の台頭により、キャッシュや株式などを用いてインセンティブ制度を設計し導入する企業が増えています。
スタートアップやベンチャー企業に限らず、古い歴史を持つ大企業においても、今や年功序列や終身雇用といった日本型経営を敷く企業は少なくなりました。従業員に対する企業の視点は、成果やスキルといった個人主義的要素に移り変わってきています。
世界主義型の人事制度と親和性の高いインセンティブ。上手く運用することで組織も従業員も互いにメリットを享受できるでしょう。
3.インセンティブ制度の具体例
企業によってインセンティブシステムの構築方法は異なります。自社の特徴を加味して、そのシステムを構築するとよいでしょう。
①リクルート(営業職)のインセンティブ例
リクルートはいくつか分社化されていますが、総じて、目標を達成した時や目標の達成率が高い時 、また戦略商品を売った時など、細かくインセンティブが設定されているケースがほとんどです。MVPや敢闘賞もあり、社員が表彰されている様子が頻繁に見受けられます。
一例にはなりますが、毎月、目標を達成するだけで年間で約50万円ほど上乗せして支給されると言われています。表彰制度は、月間、四半期、半期、年間と細かくタイミングが切られており、それぞれ1万円〜30万円ほどの範囲で設定されているようです。
②レバレジーズのインセンティブ例
IT業界のベンチャー企業、レバレジーズ株式会社では、インセンティブとして目標達成のチームの飲み会費用が一部免除されます。また、毎月従業員ひとりにつき数千円、従業員同士のコミュニケーション用に飲み会代が支給されます。
インセンティブとしてはめずらしく、従業員全員が無条件で利用でき、高い利用率を誇ります。従業員のモチベーションの向上だけでなく、社員コミュニケーションの活性化も臨むことができるシステムとなっています。
4.インセンティブの種類
報奨に関する仕組みは、必ずしも株やキャッシュである必要はありません。従業員を動機づけする手法はごまんと存在し、組織それぞれ独自に制度設計しています。一般的なインセンティブ制度の5パターンを紹介しましょう。
物質的インセンティブ/金銭的インセンティブ(給与や手当などの報酬)
手当や賞与(ボーナス)など、主に金銭的な報酬のこと。当ページにて解説してきた「インセンティブ」は、概ねこちらを指しています。

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評価的インセンティブ(人事評価や表彰制度)
人の持つ「評価されたい」という尊厳欲求を刺激するインセンティブ。
例えば、
- 人前で褒められる
- 表彰される
- 人事評価で高いランクを付けられる
などです。
人的インセンティブ(チームビルディング)
良い同僚と仕事がしたい、尊敬する上司のもとで働きたい、雰囲気のいいチームに属したい、といった人に関わるインセンティブ。従業員の不満とならないよう、異動希望を出しやすくしたり、ざっくばらんな相談の機会を設けるなどといった工夫が必要になるでしょう。

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自己実現的インセンティブ(目標達成)
自分の能力を発揮したり、可能性を広げたりといった、成長実感が得られるような仕事など。仕事を通じて成長を実感し、さらに夢や目標の「達成」にまでつながった場合、もっともパワフルな動機づけの要因となりえます。
よく「小さな成功体験を積ませることが成長につながる」といったことが言われますが、「達成」が次の仕事へのモチベーションにつながる、ということを踏まえれば当然のことなのかもしれません。
5.金銭以外のインセンティブの具体例
人を動機づけるものは金銭に限りません。従業員のモチベーション向上に寄与しやすい具体的なインセンティブ施策をご紹介します。
インセンティブ旅行(インセンティブツアー)
優秀な成績を残したチームや個人に対する報奨旅行です。大手旅行代理店ではインセンティブツアー専用の相談窓口もあるほど、世に流通しているインセンティブ形態と言えます。
欧米では日本より盛んにインセンティブツアーが実施されており、インセンティブハウスと呼ばれるインセンティブツアーの企画や運営を専門に行う企業も存在します。
MVP表彰制度
社内表彰制度では、他者の称賛によって従業員の自己効力感を高めることが可能です。心理的なやりがいを創出し、また競争心により成績のさらなる向上も期待することができます。
表彰制度は金銭報酬と合わせて運用されるケースが多いでしょう。たとえ金銭報酬が少額でも、社内表彰を添えることでインセンティブとして機能しやすくなります。
物品報酬
金銭ではなく物を支給するスタイルです。特に、業務上必要となる物品を贈る場合が多いでしょう。
例えばクライアントと直接やりとりを行う営業職や販売職の従業員に対して、上質なネクタイやスーツを支給することは、間接的な業務支援に相当します。さらなる成績向上を見込めるインセンティブになり得ます。
6.従業員のモチベーションが向上する仕組み
「動機づけ・衛生理論」というモチベーションを上げ下げする「要因」をまとめた理論があります。
アメリカの心理学者フレデリック・ハーズバーグ(1923―2000年) が提唱した「人間のモチベーションを組み立てる2つの要因」のこと。この理論において「仕事に満足する要素には満足要因と不満足要因がある」としています。
動機づけ要因(満足要因)とは?
「満足要因」とは、何かに対する意欲の元、「モチベーションの源泉」となるものです。前向きな動機づけをするもの、と考えると分かりやすいでしょうか。
具体的には
- 他者に認められること、承認
- 昇進
- 能力の向上、成長
- 達成感
- 職務内容、仕事のやりがい
です。
ちなみに「満足要因を十分に与えないと不満足を招く、というわけではない」と考えられています。
つまり、満足要因はモチベーションにプラスになるときに作用するのであって、これが無いからモチベーションを下げてしまう、というものではないということです。
ここにインセンティブ制度に用いられる「金銭的な報酬」が入っていないことに着目してください。
衛生要因(不満足要因)とは?
「衛生要因」とは、人に不満足をもたらすもので「満たされなければモチベーションを下げうる要因」です。
さらに「必ずしも、改善されたことが満足感につながるわけではない」と考えられています。
具体的には
- 対人関係
- 待遇(給与など)
- 職場環境
- 方針
が挙げられます。
つまり、金銭は「モチベーションアップ」というよりも、「不満解消」の意味合いが強いことがわかっています。
7.キャッシュ? 株式? インセンティブの決め方
自社にぴったりなインセンティブ制度を作るには、どのような観点で制度を設計すればよいでしょうか。具体的な企業事例を交えつつ、一例をご紹介します。
メルカリの事例:インセンティブの使い分け
フリマアプリ「メルカリ」を運営する株式会社メルカリでは、インセンティブとして従業員に支給する総額のうち、50%をキャッシュ、50%を株式という分配で従業員に付与しています。
現在までに個人が出した実績に対する評価についてはキャッシュで支払い、期待している未来の成果については株式で支給する、という考え方です。
なお株式は、以前はストックオプションをインセンティブ制度として利用していたメルカリ。現在は譲渡制限株式ユニット(RSU/Restricted Stock Units)が導入されています。
株式の例:ストックオプション
自社株をあらかじめ定められた価格にて得ることのできる権利のことを、ストックオプションと呼びます。日本では1997年5月の改正商法より、ストックオプション制度が認定されています。
株価が上がったタイミングで従業員がストックオプションの権利を行使することにより、あらかじめ定められた価格(権利行使価格)と株価上昇分の価格との差を利益として得られる報酬システムとなります。
また、ストックオプションの権利が付与された従業員にとっては、会社の業績向上が株価上昇に連動するため、業績向上が事実上のインセンティブにもつながります。

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ストックオプションとは自社株を決まった額で購入できる権利を従業員に与える報酬制度のことです。
ここでは新株予約権との違いや購入するメリット、ストックオプションの種類や税制優遇措置などについて説明します...
賞与の例:プロフィットシェアリング
プロフィットシェアリングとは、部門やチームなど、従業員が所属している組織全体における業績に応じて、配分原資から一律に支払われる賞与を指します。個人の成果にかかわらず一律に支給される点において、成果報酬とは異なります。外資系企業では一般的なインセンティブ形式として浸透しているでしょう。
一定の基準に基づいて利益配分を行うため、全従業員に対してモチベーションの向上を期待することができます。
インセンティブの有無は、従業員のモチベーションに大きく影響します。報酬が上乗せされればされるほど、業務に対するやる気はアップしますし、反対に、成果を出せずにインセンティブが付かない場合には、モチベーションは大きく低下します。
従業員のマネジメントにおいて、インセンティブは重要な役割を果たすと同時に、その扱いには細心の注意が必要になることを心に留めておきましょう
8.インセンティブ制度の導入方法
制度設計の手順
インセンティブ制度を導入する際に、まず決めておかなければいけないことが4つあります。
- 対象者
- 付与条件(ルール)
- インセンティブの内容
- 付与方法
❶対象者
インセンティブを誰に付与するのかを決めます。
決める際のポイントは、
- 対象部署
- 個人インセンティブ有無
- チームインセンティブ有無
- マネージャーを対象にするか
❷付与条件(ルール)
どのような条件付与するのかを決めます。
条件の例やポイントは、
- 目標を達成した場合に付与(例:月間100件達成で付与、など)
- 受注額に応じて付与(例:受注額の5%を付与、など)
- 例外となる条件(例:紹介案件は含まない、など)
❸インセンティブ内容
なにをインセンティブとして支給するか、どのくらい支給するかを決めます。
なにを?
キャッシュが圧倒的に多いですが、その他も含めて以下が例です。
- キャッシュ
- ストックオプション
- 旅行
- ポイント

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ストックオプションとは自社株を決まった額で購入できる権利を従業員に与える報酬制度のことです。
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どのくらい?
付与量の例です。
- 一律(例:目標達成時に一律3万円、など)
- 成果に応じて一定割合(例:受注額の5%を付与、など)
- 成果に応じて変動割合(例:~100万まで5%、101~150万まで7%を付与、など)
- 貢献度(例:成約企業のアポイントをとった人2千円、クロージングした人1万円、など)
❹付与方法
どのように付与するか(時期や方法)を決めます。
一般的な例は以下の通りです。
- 月末締めで翌月の給与に加算
- 半期・四半期締めで賞与とともに(もしくは賞与として)支給
- 現金を手渡し
インセンティブ制度のリスクと対策を想定
続いては、インセンティブ制度のリスクと対策についてです。
リスクを洗い出し、対策を想定することで、デメリット(リスク)を防ぎやすくなります。
インセンティブ制度のリスクを洗い出す
まず、インセンティブ導入によるリスクとしてなにが考えられるか、洗い出しましょう。
- あらかじめ数名の社員にヒアリングする
- 匿名アンケートを実施する
など、現場の声を聞いておくことで予想外のリスクを発見できたり、インセンティブ導入に対する温度感を確認できます。
インセンティブ制度のリスク対策を見つける・考える
リスクの洗い出し後に、それぞれの優先度(重大度)と対策を検討します。
たとえば「ノウハウや情報が共有されなくなる」というリスクが想定される場合、
- 人事評価の評価項目に「情報共有」を設ける
- 情報共有にインセンティブを設ける
といった対策を立てることができます。
インセンティブ制度を運用するためフローを考える
最後に、インセンティブ制度を実際に運用するためのフローを組み立てます。
大まかなフローは下記の通りです。
- ①成果内容の確認(or報告)
- ②インセンティブ報酬の計算
- ③報酬の反映・付与
これらを「誰が」「どのタイミング」で行うのかを決めておく必要があります。
たとえば、
①マネージャーが月初に前月の各メンバーの成果を経理に報告
②③経理がルールにもとづき報酬額を計算、給与に反映し振込予約
といった具合です。
こちらについては制度導入後に決めるということでも問題ありませんが、スムーズに運用するために、また、担当者に過度に負担がかからないようにキチンと社内で話し合いましょう。
9.具体例:営業職にインセンティブを導入することになったら?
「業績アップを目的に、営業職に対してインセンティブを導入する」として、実際にどのような流れでどのような内容に決めていくか具体例を見ていきましょう。
制度導入にあたり決めておくこと
まずは以下の4つを決めていきます。
- 対象者
- 付与条件(配分ルール)
- インセンティブの内容
- 付与方法
❶対象者
個人(マネージャー以上の役職者を除く営業部の社員全員)、としておきます。
❷付与条件
月ごとに目標数字を持たせているので、目標達成時に付与、としておきます。
❸インセンティブの内容
一律1万円を付与、としておきます。
❹付与方法
「インセンティブ手当」として目標達成時の翌月給与支払い時に付与、としておきます。
これで、インセンティブ制度の大枠が決まりました。この内容がたたき台となります。
リスクと対策を想定
次に、制度のリスクを検討し、対策を兼ねた見直しを図ります。
インセンティブ制度導入時のリスクを洗い出す
営業部長、営業マネージャー、トップセールス、あまり成績が芳しくない社員の4名にヒアリングを行い、「インセンティブ制度を導入した場合に懸念されること」を聞きました。
※余談ですが、ヒアリングをする際は1対1で行う方が正直な意見が得られやすいです
すると、下記のような意見や事実が出てきました。
- 各人の目標に差があるのに一律1万円は、目標が高い人や目標を大きく達成した人にとって不公平。現行の給与水準でも不満が出ている
- 毎月、売上目標を達成しているのは1~2名。9割以上の社員は達成と未達成を繰り返している。ただし、そのうち4割の社員は、四半期の売上目標を達成させている(=月の売上に波がある)
- 自分たちでテレアポリストを作成し、営業している。暗黙の了解でエリアがかぶらないようにしているが、エリアによって成果の優劣があるため、インセンティブ制度を導入すれば営業先の奪い合いになってしまう
- 成績優秀者が善意で、メーリングリストでノウハウの共有やマニュアル作成をしてくれているが、そういった行動がなくなってしまう
- 目標を低く設定したがるようになる
対策
現場が挙げてくれた意見や事実をリスクとして想定し、たたき台の見直しを考えます。今回のヒアリングから、インセンティブ制度以外にも見直すべきところがありそうです。
今回は以下のように修正しました。
対象者
個人(マネージャー以上の役職者を除く営業部の社員全員)
↓
チーム(マネージャー以上の役職者を除く営業部)
付与条件
月ごとに目標数字を持たせているので、目標達成時に付与
↓
四半期の「チーム目標」達成時にチームメンバー全員に付与
インセンティブの内容
一律1万円を付与
↓
3万円×四半期の個人目標の達成度(%)を付与
付与方法
「インセンティブ手当」として目標達成時の翌月給与支払い時に付与
↓
「インセンティブ手当」として目標達成した四半期の翌月給与支払い時に付与
インセンティブ制度以外で変更した点
修正したインセンティブ制度に合わせて、会社でもいくつかのことを変更しました。
- いままでの実績をもとに(成績が均等になるように)3人組のチームをつくる
- 営業エリアはマネージャーが各チームに割り振る
- 「情報共有」に貢献した場合は人事評価でプラス評価にする
<インセンティブ支払い例>
上記のインセンティブ制度を導入した場合に、この会社でどのくらいの報酬が払われるのか見てみます。
- 社員A、社員B、社員Cによる3人チーム
- チームの四半期目標は売上300万円
- 社員個人の四半期目標は全員売上100万円
- 社員Aは売上180万円(180%達成)、社員Bは100万円(100%達成)、社員Cは20万円(20%達成)、合計300万円売り上げて、チームは目標達成
- 社員Aは5.4万円、社員Bは3万円、社員Cは6千円のインセンティブが付与された
制度の運用フローの決定
成果発生から報酬の反映まで、インセンティブ制度を運用するためのフローを決めます。
大まかなフローは以下です。
- ①成果内容の確認(or報告)
- ②インセンティブ報酬の計算
- ③報酬の反映・付与
それぞれを「誰が」「どのタイミングで」行うか決めていきます。
この会社では、営業活動をクラウドシステムで管理していたので、下記のようなフローにしました。
①四半期終了の翌月5日までに、営業がシステムへの売上入力を完了させる
②6~10日に経理担当者が売上をシステム上で確認し、各人のインセンティブ額を計算
③計算終了後の11~15日に、経理担当者がインセンティブの振込予約を実行
運用開始後の制度の見直し
いかがでしょうか?具体的にあてはめてみると、イメージがしやすかったのではないかと思います。
実際はこの会社のようにすんなり、スムーズに決まることはまれかもしれません。
ただ、運用までこぎつけたとしても、運用開始後に制度設計時には見えなかった問題が現れることがあります。
また、「導入して良かったのか?効果はあったのか?」を検証する必要もあります。
これらの点についてはキチンと場を設けて社内で話し合い、改善を続けていきましょう。
10.インセンティブ導入でのデメリットは?
ここまで、インセンティブをどのように導入するかについて見てきましたが、インセンティブを導入した場合にデメリットはないのでしょうか?
実は下記のような問題が起こりえるため、制度導入時には考慮しなければいけません。
●チームワークへの悪影響
・取引先(営業先)の奪い合い
・ノウハウや情報が共有されない
●モチベーションを下げてしまう(腐る)社員が出る
チームワークへの悪影響
インセンティブ制度の中で、自分がより多くの報酬を得るには「自分だけが成果を出」せればいいので、会社やチーム、同僚の成績は(短期的には)関係がありません。
業種や業態によっては「邪魔」になる、こともあります。
すると、取引先の奪い合いやチームワークを乱すといったトラブル、またはノウハウや情報が共有されないという将来的なトラブルが発生しやすくなるのです。
モチベーションを下げてしまう(腐る)社員が出る
また、思うように成績が上げられない社員もいるでしょう。その場合、「インセンティブがもらえない」ことで、余計にモチベーションが下がってしまいます。
制度導入はメリット・デメリットをよく検討してから
このように「インセンティブ」にはメリット・デメリットがあります。
デメリットを考えると、業績が順調であるなら無理にインセンティブを導入する必要はないといえます。
しかし、業績を向上させるための起爆剤としてぜひ導入したい、ということであればデメリットへの対策を考えた上で実行しましょう。
11.インセンティブに対する税金
企業よりインセンティブとして金銭や物品の支給を受けた場合、税金の扱いはどのようになるのでしょうか。インセンティブには支給の方法がいくつか考えられますので、主なケース別に解説します。
インセンティブは所得税の課税対象
個人に対して報奨金が支給される場合、基本的には給与所得として課税処理する必要があります。なお金銭ではなく物品が支給される場合も課税対象となります。
チームインセンティブでも課税処理が必要
チーム目標を達成した場合など、個人ではなくチームに対して表彰したりインセンティブを付与したりするケースもあります。
そのような場合でも、最終的に報奨金を分割して個人に対して支払いがある限り、所得税の課税対象となります。
インセンティブが飲み代などの場合
インセンティブの内容が、例えば打ち上げの飲み会など、消費されるものである場合には、内容や金額に妥当性がある限り会議費として非課税にできます。
一定の金額を超える場合には、交際費として課税対象となり会社が税負担します。
12.転職活動におけるインセンティブの重要性
転職活動の最中には、とくに営業職に対してインセンティブ制度を設けている求人を目にする機会が多くあるでしょう。ところが、その具体的な内容まで求人票に書いてあるケースはまれです。
インセンティブ導入企業は、その制度を独自に設計しています。目標達成の定義や報酬の支払いのタイミングなど、インセンティブ制度の具体的な内容を知りたい場合には、企業に対して直接尋ねる必要があります。面接などで、聞き逃さないよう注意しましょう。
【コラム①】インセンティブと歩合の違い
「成果報酬」という意味では同じです。ただ、よく使われるニュアンスとしては、下記のような違いがあります。
- インセンティブ制度=固定給+成果報酬
- 歩合制度=成果報酬のみ
あくまでそういう意味で使われることが多いということで、歩合制が「基本給+成果報酬」を意味しないということではありません。
混同を避けるために、上記の意味では「完全歩合制(フルコミッション制)」と呼ぶケースがあります。
【コラム②】インセンティブとボーナスの違い
業績によって有無や増減がある、という意味では同じです。
ただ、どちらかといえば「インセンティブ」は、個人の成果に対しての報酬。それに対して、「賞与・ボーナス」は会社の業績にひもづくものとして扱われます。
個人の成果に「賞与・ボーナス」として報酬を付与するケースもありますし、チームで何らかの成果を出した場合の「チームインセンティブ」を設けることもあります。
しかし、会社の業績にもとづく報酬を「インセンティブ」と呼ぶことはほとんどありません。(間違いというわけではありません)

賞与/ボーナスとは?【いつ?平均何カ月分?】計算方法
ボーナスとは、毎月定期的に支払われる給与とは別に、夏と冬に支払われることの多い特別な給与のこと。ボーナスを楽しみに働いている人も多いのではないでしょうか。
ボーナスの支払い時期
支払い額の基準
ボー...
【コラム③】その他のインセンティブの定義
マーケティング上の「インセンティブ」
マーケティング分野では、人事制度としての「インセンティブ」とは(似てるけど)ちょっと違った意味合いで用いられています。
ちなみに購買を促進するためマーケティング活動として行うインセンティブのことを「インセンティブプロモーション」といいます。
インセンティブを受け取る対象は、消費者および販売を行う企業です。
消費者インセンティブ
購入する消費者が受けるインセンティブのことを「消費者インセンティブ」と言います。
例えば、
- 集めたシールでお皿などアイテムがもらえるキャンペーン
- 割引セール
- 懸賞によるノベルティの贈呈
- 商品サンプル
などです。みなさんも経験したことがあるのではないでしょうか?
セールスインセンティブ
「セールスインセンティブ」とは、メーカーなどが販売店や流通業者に販売数に応じて商品価格を割り引いたり、支払金を戻したりすること(リベート)です。
具体的な例を見てみましょう。
販売店Aがメーカーから売価100円原価90円の商品を100個(計1万円)仕入れ、かつ、メーカー側が「100個売り切った場合1000円のバックをつける」という約束をしたとします
販売店Aが100個売り切ると、利益1000円と払い戻し1000円で、販売店は2000円儲けることになります。
この払い戻し(リベート)を「インセンティブ」と呼んでいます。