働き方改革に罰則はある? 関連法違反、残業・労働時間

働き方改革による各種制度や法に違反すると、どうなるのでしょうか。実は、罰則が科される場合もあるのです。ここでは、働き方改革と違反に対する罰則について解説します。

1.働き方改革と違反に対する罰則とは?

働き方改革には法的な規定があるため、違反した際には刑事罰が科せられる場合もあるのです。たとえば「30万円以下の罰金」「50万円以下の罰金」といったペナルティが科せられます。

「働き方改革」は一億総活躍社会に向けた改革

働き方改革とは、一億総活躍社会に向け、労働者が多様で柔軟な働き方を自ら選択できるようにするための改革です。その背景には、「少子高齢化による労働力不足」「働き方に関する多様なニーズ」などがあります。

働き方改革は、労働者が多様で柔軟な働き方を選択できるようにするための改革です。違反した場合、刑事罰の対象となります

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2.時間外労働の上限設定と罰則について

働き方改革にある時間外労働の上限設定は、刑事罰の対象となっているのです。ここでは、下記3点について解説します。

  1. 残業をさせるためには、36協定が必要
  2. 限度時間が猶予・除外となる事業
  3. 労働基準法第32条における罰則

①残業をさせるためには、36協定が必要

残業、すなわち時間外労働をさせるためには、36協定が必要です。2019年4月の法改正により、36協定による時間外労働に、罰則付きの上限が設定されました。

時間外労働の上限とは、月45時間・年360時間を超えた残業のこと。臨時的な特別の事情がなければ上限時間は超えられません。もしその状態で超えると、罰則が適用されます。

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36協定とは?

36協定とは、法定労働時間を超えて労働者を働かせる必要がある場合、労働基準法第36条にもとづいて、労使間で時間外労働・休日労働について締結する時間外労働協定のこと。

36協定は、労働基準監督署に届け出る必要があります。また会社単位ではなく、個々の事業所単位で締結しなければならないので、注意が必要です。

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36協定で注意するべき点

36協定を労使で締結する際、注意するべき点は下記のとおりです。

  • 時間外労働、休日労働は必要最小限に留めなければならない
  • 使用者は労働者に対する安全配慮義務を負う
  • 36協定が対象とする業務区分を細分化し、業務範囲を明確化する
  • 時間外労働の上限時間を超えてはならない

②限度時間が猶予・除外となる事業

労働基準法で規定されている時間外労働の限度時間の規定が、猶予あるいは除外となる事業があります。ここでは特に注意が必要な、「建設業」「自動車運転の業務」2つについて解説します。

建設業

建設業は、時間外労働の限度時間の規定が猶予されています。ただし、下記に注意してください。

  • 猶予期間の終了後は、災害の復旧と復興の事業を除いてすべての規制が適用される
  • 災害の復旧と復興の事業は、時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満、2~6ヵ月平均80時間以内とする規制は適用除外となる

自動車運転の業務

自動車運転の業務における注意点は、下記のとおりです。

  • 猶予期間の終了後は、特別条項付き36協定を締結する際の年間時間外労働の上限が年960時間となる
  • 時間外労働と休日労働の合計が月100時間未満、2~6ヵ月平均80時間以内とする規制は適用除外となる
  • 「月45時間を超える時間外労働が可能となるのは年6ヵ月まで」とする規制は、適用除外となる

③労働基準法第32条における罰則

労働基準法第32条における罰則は、36協定に関して適用されます。罰則が適用されるのは、「36協定の締結、届出をしなかったにも関わらず時間外労働をさせた」「36協定で定めた時間を超え、時間外労働をさせた」といったケースです。

この場合、労働基準法第32条違反として6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。

時間外労働をさせるには、36協定の締結が必要です。36協定で定めた時間を超えて時間外労働をさせた場合、刑事罰の対象となります

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3.5日の年次有給休暇取得義務と罰則について

5日の年次有給休暇取得義務に違反した場合も、刑事罰の対象となるのです。ここでは、年次有給休暇の基本条件や、年次有給休暇の取得に関するさまざまな事例を取り上げ、刑事罰の対象となるケースを解説します。

年次有給休暇の基本条件

年次有給休暇の基本条件は、「雇入れの日から6ヵ月間継続勤務が終了したとき」「勤務した6ヵ月間の全労働日の8割以上を出勤した場合」に、原則として10日の年次有給休暇を与えること。

所定労働日数が少ないパートタイム労働者などは、労働日数に応じて年次有給休暇を比例付与します。

年次有給休暇の付与について

年次有給休暇の付与について押さえておくべき点は、下記のとおりです。

  • 時季変更権による場合を除き、労働者が請求する時季に年次有給休暇を与える
  • 年次有給休暇の請求権の時効は2年であり、前年度に取得しなかった場合は翌年度に与える
  • 年次有給休暇を取得した労働者に対し、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにする

その他の決まり

年次有給休暇に関するその他の決まりは、下記のとおりです。

  • 計画的に取得日を定めて、年次有給休暇を与えられる
  • 労働者が半日単位での取得を希望して時間を指定した場合、使用者が同意すれば半日単位で年次有給休暇を与えられる
  • 労働者が時間単位での取得を請求した場合、 年に5日を限度として時間単位で年次有給休暇を与えられる

年次有給休暇5日取得義務の対象者について

年次有給休暇5日取得義務とは、「年次有給休暇日数のうち年5日は、使用者が時季を指定して年次有給休暇を取得させなければならない」ということ。

対象者は、「10日以上の年次有給休暇が付与される労働者」「10日以上の法定の年次有給休暇付与日数である労働者」に限られています。また管理監督者・有期雇用労働者も対象者に含まれるので、注意が必要です。

有給休暇取得に関する罰則

有給休暇取得に関する罰則について、下記3つのケースを例に解説します。

  1. 年5日の年次有給休暇を取得させない場合
  2. 時季指定について就業規則に記載がない場合
  3. 時季指定について就業規則に記載がない場合

①年5日の年次有給休暇を取得させない場合

年5日の年次有給休暇を取得させない場合、労働基準法第39条第7項違反となり、労働基準法第120条の罰則規定によって30万円以下の罰金が科せられるのです。違反は、対象となる労働者1人につき1罪として取り扱われます。

②時季指定について就業規則に記載がない場合

使用者による時季指定について就業規則に記載がない場合、労働基準法第89条違反となり、労働基準法第120条の罰則規定によって30万円以下の罰金が科せられるのです。違反行為に該当していないかどうか、就業規則の記載確認が必要となります。

③時季指定について就業規則に記載がない場合

労働者の請求する時季に所定の年次有給休暇を与えなかった場合、労働基準法第39条(7項を除く)違反となり、労働基準法第119条の罰則規定により6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられるのです。

違反は、対象となる労働者1人につき1罪として取り扱われます。

労働基準監督署の監督指導が行われる

年次有給休暇取得に関する労働基準法違反に関しては、罰則だけでなく、労働基準監督署の監督指導が行われます。その内容は下記のとおりです。

罰則による違反は、対象となる労働者1人につき1罪として取り扱われる

労働基準監督署の監督指導は原則、是正に向けて丁寧に指導して改善を図っていく

年次有給休暇の取得に関し労働基準法に違反した場合には、刑事罰の対象となります。5日の年次有給休暇取得義務についても、正しい理解が必要です

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4.フレックスタイム制と罰則について

フレックスタイム制とは、一定の期間についてあらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者自ら日々の「始業・終業時刻」「労働時間」を決められる制度です。ここでは、フレックスタイム制度と罰則について解説します。

フレックスタイム制の改正内容

働き方改革の一環として、2019年4月施行でフレックスタイム制に関する法改正が行われました。改正内容は、下記のとおりです。

  • 清算期間の上限を3カ月に延長する
  • 清算期間が1カ月を超える場合でも、繁忙月に偏った労働時間にはできない
  • 清算期間が1カ月を超える場合には、労使協定の届け出が必要

労働時間の調整期間の延長が可能になったため、働き方の選択肢が増えてより柔軟になりました。

フレックスタイム制で守るべきルール

フレックスタイム制で守るべきルールは、「就業規則などへの規定と労使協定の締結が必要」「フレックスタイム制を導入した場合の時間外労働について」「総労働時間と実労働時間との過不足に応じた賃金」などです。

フレックスタイム制は、通常と異なる労務管理が必要になるため、労使双方による正しいルールの理解が不可欠といえます。

  1. 就業規則などへの規定と労使協定の締結が必要
  2. フレックスタイム制を導入した場合の時間外労働について
  3. 総労働時間と実労働時間との過不足に応じた賃金

①就業規則などへの規定と労使協定の締結が必要

就業規則そのほかこれに準ずるものに、「始業の時刻と終業の時刻を労働者の決定に委ねる旨」を定めます。また労使協定で、「対象労働者の範囲」「清算期間とその期間における総労働時間」「標準となる1日の労働時間」などを定めるのです。

②フレックスタイム制を導入した場合の時間外労働について

フレックスタイム制度では、清算期間における実際の労働時間のうち、清算期間における法定労働時間の総枠を超えた時間数が時間外労働となります。法定労働時間を超えて労働しても、ただちに時間外労働となることはありません。

③総労働時間と実労働時間との過不足に応じた賃金

使用者には、「実労働時間の把握」「適切な労働時間の管理」「賃金の清算」をする義務があります。そのうえで、清算期間における総労働時間と実労働時間との過不足賃金を算定し、労働者に支払わなければなりません。

フレックスタイム制の注意点

フレックスタイム制には注意点があります。フレックスタイム制は、労働者に始業時刻と終業時刻の決定を委ねる制度です。だからといって、使用者が労働時間の管理をしなくてよいわけではありません。

使用者には、「労働者の実労働時間を把握する」「労働者に対し、適切な労働時間管理や賃金清算を行う」という義務があります。

フレックスタイム制の違反に対する罰則

働き方改革を受けた今回の改正によって、フレックスタイム制の違反に罰則が科される可能性もあります。

たとえばフレックスタイム制度のもとで1ヵ月を超える清算期間を設定する場合、「労使協定を締結する」「労働基準監督署に届け出る」という義務があります。この義務違反に対しては、30万円以下の罰金が科せられるのです。

フレックスタイム制度にも、刑事罰が科されるケースがあるのです。制度改正の趣旨を理解し、適切に制度を運用しましょう

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5.医師の面接指導の義務化と罰則について

産業医の面接指導の義務化と罰則について、下記4つから解説しましょう。

  1. 産業医の目的
  2. 産業医の人数
  3. 医師の面接指導が必要な対象者について
  4. 面接指導を行わなかった場合の罰則

①産業医の目的

産業医とは、「労働者が健康である」「快適な作業環境で仕事が行える」を実現すべく、専門的立場から指導や助言を行う医師のこと。つまり企業における産業医の目的は、「労働者の健康管理と衛生教育」「快適で健全な職場作り」です。

産業医は、労働者が心身ともに健康な状態で就労できるよう、さまざまな活動を遂行しています。

②産業医の人数

産業医の人数は、事業所の規模によって決まります。

  • 労働者数が50人以上3,000人以下の事業場では、産業医を1名以上選任しなければならない
  • 労働者数が3,001人以上の事業場では、産業医を2名以上選任しなければならない

労働者数が50人未満の場合、産業医の選任義務はありません。

③医師の面接指導が必要な対象者について

医師の面接指導が必要な対象者については、要件があります。下記労働者に対しては、医師による面接指導が義務化されているのです。

  • 時間外・休日労働時間が1ヵ月あたり80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる者
  • 研究開発業務従事者において、時間外・休日労働時間が1ヵ月あたり100時間を超えた者
  • 1カ月あたり100時間を超える高度プロフェッショナル制度対象労働者

④面接指導を行わなかった場合の罰則

「産業医を設置しない」「産業医による面接指導を行わなかった」といった場合、50万円以下の罰金となります。要件に従って、「産業医の選出」「産業医による面接指導」を実施しましょう。

産業医を選任した企業が面接指導を行わない場合、50万円以下の罰金が科せられます

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6.法的に罰則のない制度

法的に罰則のない制度もあります。ここでは下記2つについて解説します。

  1. 高度プロフェッショナル制度
  2. パートタイム労働法・労働者派遣法

①高度プロフェッショナル制度

高度プロフェッショナル制度の対象者は、「高度な専門的知識などを有する」「職務の範囲が明確」「一定の年収要件を満たす」という労働者です。

「年間104日以上の休日確保措置」「健康・福祉確保措置」などを講じると、労働基準法の「労働時間」「休憩」「休日および深夜の割増賃金」に関する規定が適用除外になります。

②パートタイム労働法・労働者派遣法

パートタイム労働法:同事業所内の通常の労働者と比較して、1週間の所定労働時間が短い労働者に関する労働法。

労働者派遣法:派遣労働者に関する労働法

違法な運用が行われた場合、同制度の利用ができなくなります。派遣の許可取り消しなどの処分が下されれば、業務そのものが困難になるため、法令順守は不可欠です。

罰則のない制度もありますが、違法な運用により免許取り消し処分などが行われる可能性もあります。法令順守を心掛けましょう