ESG経営とは?【わかりやすく解説】事例、メリット、課題

ESG経営とは、「環境」「社会」「ガバナンス」に配慮した経営を行うこと。ステークホルダーにアピールしつつ、企業価値を高めるための手法として注目を集めています。

これからの時代は、ESG経営に取り組んでいるか否かが企業存続の鍵となるといっても過言ではありません。今回はESG経営とは何かについて、注目される理由や取り組むメリット、その上での課題や事例を詳しくご紹介します。

1.ESG経営とは?

ESGとは 「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(ガバナンス)」の3要素を指し、ESG経営とはこれら3要素に配慮して経営に取り組むこと。ESG経営では、具体的に下記のようなことに取り組みます。

  • 環境(Environment):温室効果ガスの削減や気候変動への対応、環境保護や省エネ
  • 社会(Social):雇用環境や労働条件の改善、ダイバーシティの推進や人権保護、地域社会への貢献
  • ガバナンス(Governance):法令遵守、不正経理や賄賂、汚職の防止、情報開示や公正な競争

ESGは2006年に国連が提唱した「責任投資原則(PRI)」で紹介され、金融機関や投資家にESGの観点を踏まえて投資先を判断するよう呼びかけられました。

ESGは企業が長期的に成長するには欠かせない考え方のひとつであり、ESG経営に取り組んでいない企業は投資面で不利となる可能性が高まるのです。

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ESG経営とSDGsの違い

SDGsは「Sustainable Development Goals」の略で、2030年までに持続可能な世界を実現するための世界共通目標のこと。2015年の国連サミットで採択され、17の目標と169のターゲットから構成されています。

ESG経営とSDGsの違いは、取り組む主体です。ESG経営は企業が主体で取り組むものなのに対し、SDGsは企業のみならず国、個人と世界中すべての人が主体となって取り組むものになります。

つまり、企業がESG経営に取り組むのはSDGsの一環であり、SDGsを達成するひとつの手段といえるのです。

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2.ESG経営の目的

ESG経営の目的は、企業の持続的な成長により市場価値を向上させること。先進国の急速な経済発展の影には、地球環境の破壊や過酷な労働環境がありました。

しかしこれからの時代はこうした問題と向き合い、解決していかないことには持続的な成長は望めないでしょう。

企業の持続的な成長性を図るため投資家もESGに着目しており、ESGを軽視する企業はリスクがあるとみなされるほどです。今後は環境や社会問題、ガバナンスに配慮した経営のもと、利益を上げることが重要とされています。

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3.ESG経営が注目される理由

ESG経営が注目される理由は、主に次の3つです。各理由を詳しくみていきましょう。

  1. ESG投資の考え方の普及
  2. SDGsへの意識向上
  3. VUCA時代に対応するリスク対策

①ESG投資の考え方の普及

2006年に国連が「PRI(責任投資原則)」を提唱し、ESG投資の考え方が普及したことで、投資家にESGへの取り組みを評価して投資先を判断する傾向が強まったのです。

それまでは売り上げや利益、業績重視の考え方でした。しかしリーマンショックで大きな打撃受けた反省からも、持続可能な経営が望める企業に投資すべきとの考えが定着しつつあるのです。

投資が受けられないと、そもそも企業が持続可能な経営を実現するのは難しいもの。資金面から持続可能な経営を実現するためにも、環境や社会問題、ガバナンスを意識した経営は必須といえます。

②SDGsへの意識向上

SDGsは企業も含む、世界共通の目標です。ESG経営に取り組むことはSDGsへの貢献であり、目標達成のための手段といえます。

現代は、多くの人が環境問題や貧富の格差、人権問題などに不安を抱えている状況です。とくに温室効果ガスの排出や気候変動などの環境問題は、世界的に危機意識が高まっています。

経済・環境・社会的にも影響力の大きい企業が主体となってこれらの問題に取り組めば、解決・改善のための大きな一歩となるでしょう。

また2021年のコーポレートガバナンスコードの改訂からも、SDGsやESG経営への重要性が高まっていることがうかがえます。

補充原則2-3①には「環境問題などのサステナビリティを巡る課題への対応はリスクの減少のみならず収益機会にもつながる重要な経営課題であると認識し、中長期的な企業価値の向上の観点から、これらの課題に積極的・能動的に取り組むよう検討を深めるべきである」との記載があるのです。

③VUCA時代に対応するリスク対策

現代は、下記4つの要素が混在したVUCA時代と呼ばれています。

  • Volatility(変動性)
  • Uncertainty(不確実性)
  • Complexity(複雑性)
  • Ambiguity(曖昧性)

先行きを予測できないVUCA時代に備えるには、リスクを見据えた経営活動が重要です。ESG経営は環境・社会・ガバナンスに意識を向けるためリスク予測や対応もしやすく、経営を安定させるために有効といえます。

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4.ESG経営に取り組むメリット

ESG経営に取り組むメリットは、次の4つです。

  1. 投資家からの評価向上
  2. 企業価値・イメージの向上
  3. 経営リスクの軽減
  4. 労働環境の改善

ESG経営に取り組む重要性を理解するためにも、メリットについて押さえましょう。

①投資家からの評価向上

前述したように、現代はESG投資が重要視されています。ESG経営に取り組んでいる企業は長期的な利益の獲得と持続可能な成長が見込めるとして、投資家からの評価が向上します。

投資家からの評価がよいと資金調達もしやすく、資金面でも安定的に経営に取り組めるため企業のさらなる成長につながるのです。

②企業価値・イメージの向上

環境・社会・ガバナンスと社会的な課題に取り組む企業は、ステークホルダーからの信頼獲得につながります。消費者からよい企業イメージを持ってもらえれば、商品やサービスの利用増加や優秀な人材の獲得にも貢献するでしょう。

結果的に企業の業績も向上し、包括的な企業価値の向上も期待できます。

③経営リスクの軽減

外部からの影響が予測不可能な現代、目先の利益を優先した経営形態自体がリスクになり得ま。環境・社会・ガバナンスに意識を向けたESG経営はVUCA時代に対応できる経営形態として、持続可能な安定的な経営の実現につながるのです。

④労働環境の改善

ESG経営では、人種やジェンダーなどの多様性や安全に配慮するなどして労働環境の改善にも意識を向けています。労働環境が改善されるため働きやすい安心できる職場が実現し、離職率の低下や人材確保につながるのです。

結果的に企業力が向上し、持続的な成長をもたらします。

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5.ESG経営の課題

ESG経営のメリットを得るには取り組んでいる内容など適切な情報開示が必要です。しかし現段階では明確な指標や基準が確立していません。

くわえて、さまざまな社会問題に対して情報開示の枠組みや評価指数も複数存在するため、確実性のある評価が難しく、実際に取り組んでいても評価につながらない可能性もあるのです。そのなかでも自社で有効な目標を定め、ステークホルダーにわかりやすい情報開示に努めることが求められます。

また、ESG経営は短期的な効果には期待できず、多額のコストをかけても費用対効果が見込めない可能性もあるのです。そのため、財源に余裕がない企業が大々的にESG経営に取り組むのは難しいでしょう。

ESG経営では長期的な視点を持ち、時間や費用を確保してから取り組むとリスクをおさえられます。

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6.ESG経営の取り組み方

ESG経営に取り組むだけでは、よい評価や効果を得られません。ESGの内容は多岐にわたるため、自社の理念やビジョン、課題などを踏まえてどういった内容に取り組むべきかを策定することが必要なのです。

また「誰が」「いつ」「どのように」ESGに取り組むのかを明確にし、各指標の現在値・目標値を決めてPDCAを回して取り組み、公開すべき情報をまとめていくことも求められます。

ESG経営では、どういったことに取り組むのでしょうか。3つの分野別にみていきます。

  1. 環境への取り組み
  2. 社会への取り組み
  3. ガバナンスへの取り組み

①環境への取り組み

下記は、環境への取り組みの具体例です。

  • 再生可能エネルギーの活用
  • 製品開発で再生資源を活用オフィスの節電や節水
  • Co2排出量が減らせる社用車の導入
  • ペーパーレス化

まずは、事業内容が地球環境に与える影響を考えます。そのうえで環境への負担を減らせる取り組みを策定し、できることから実行していきましょう。

②社会への取り組み

下記は、社会への取り組みの具体例です。

  • リモートワークやフレックスタイム制の導入
  • DX化による業務効率化や残業時間の削減
  • 労働条件の定期的な見直し
  • 適材適所な人材配置
  • 外国人労働者の雇用
  • 育児や介護支援

社会への取り組みは、主にダイバーシティの尊重や労働環境の改善などに関する内容です。個を尊重した環境が構築できれば、離職率の低下やエンゲージメント向上、人材確保の面で効果が期待できます。

③ガバナンスへの取り組み

下記は、ガバナンスへの取り組みの具体例です。

  • 社内取締役や監査役の設置
  • 不正アクセスや情報漏洩を防ぐセキュリティ体制の構築
  • ワークフローシステムの導入
  • 社員の情報リテラシー向上のための研修実施
  • 内部通報制度や窓口の設置

ガバナンス面では、社内の不正を防ぐシステム作りや業務効率化への取り組みが挙げられます。ガバナンスの強化は企業の評価や信頼性に関わる重要な分野であるため、透明性や公正性を持って取り組むことが重要です。

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7.ESG経営の注意点

あわせて、ESG経営に取り組むうえでの注意点もお伝えします。

  1. 中長期的な視点で取り組む
  2. コストがかかる
  3. 事業と関連性のある課題に取り組む
  4. 統一された評価基準がない

①中長期的な視点で取り組む

ESG経営は成果を得るまでに時間を要します。というのも、環境や社会と規模の大きい課題に取り組むため、継続的に取り組まないと成果がわからないからです。

また、すぐに成果が出るわけではない点で、ステークホルダーからもすぐによい評価を得られるわけではありません。「短期的に成果が出るものではない」と理解して、中長期的な視点で取り組むとよいでしょう。

②コストがかかる

ESG経営に取り組むと金銭的・時間的なコストがかかります。具体的には新たな設備投資や人員の投入、待遇見直しや労働環境改善にかかる費用、課題の選定や実施、成果が出るまでの時間などに対するもの。

すぐに成果が出ないため、コストに対して損したように感じるかもしれません。しかし、ESG経営は長期的な成長や持続可能な企業になるための手段です。前述したようにコストに関しても中長期的な視点を持つとよいでしょう。

③事業と関連性のある課題に取り組む

ESG経営で取り組むべき課題は、事業との関連性がポイント。なぜなら、自社に関連性のない課題に取り組んでも、企業の長期的かつ持続的な成長には結びつかない可能性もあるからです。

ESG経営は事業活動をとおして利益を上げつつ、課題に取り組む姿勢が基本となります。

④統一された評価基準がない

ESG経営は歴史が浅いがゆえ、統一された明確な評価基準がありません。そのため、具体的な目標や指標が定めにくいのが現状です。ESG経営に取り組んでいる他社の事例や世界的な動きを参考に、評価に値する取り組みを検討する必要があります。

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8.ESG経営の企業事例

ここでは、ESG経営に取り組んでいる3社の事例をご紹介します。事例から、事業と関連した課題の抽出や取り組み方などを参考にしてみてください。

  1. JR東日本
  2. 積水ハウス
  3. 花王

①JR東日本

JR東日本ではグループ経営ビジョン「変革2027」の達成に向け、SDGsも念頭にESG経営を実践しています。

「変革2027」は「鉄道のインフラ等を起点としたサービス提供」から「ヒト(すべての人)の生活における『豊かさ』を起点とした社会への新たな価値の提供」へと「価値創造ストーリー」を転換していくことを基本方針としているのです。

具体的な取り組みと効果

ESG経営として、JR東日本では各分野において下記のような取り組みを実践しています。

  • 環境:地球温暖化防止やエネルギー多様化
  • 社会:サービス品質の改善や社会的課題への対応(子育て支援・多様な顧客への対応・国際鉄道人材の育成など)、文化活動への支援
  • ガバナンス:究極の安全やリスクマネジメント、コンプライアンス

環境への取り組みでは「低(脱)炭素社会」実現を目標に、鉄道事業のエネルギー使用量の削減を試みています。2030年度までに50%削減を目指し、2021年度の実績は14.9%削減でした。

参考 JR東日本グループ サステナビリティレポート 2018JR東日本

②積水ハウス

積水ハウスはESG経営のリーディングカンパニーを目指し、ESG経営に取り組んでいます。「環境事業部会」「社会性向上部会」「ガバナンス部会」を設置し、組織が一体となってESG経営を実践している点が特徴です。

具体的な取り組みと効果

下記で、ESGの3分野における取り組みの一部を抜粋してご紹介します。まず環境です。

  • 社用車電動化率100%を推進:2021年度の業務車両CO2排出量を前年比で669トン(2.4%)削減、2011年度比では38.3%減
  • オフィスLED化の取り組み:2021年度に少なくとも1,500本の蛍光灯をLEDに交換、年間CO2排出量約56トン削減

オフィスLED化の取り組みについては、投資額860万円に対してコスト削減額は350万円となり、2.5年での費用回収を見込んでいます。

続いて社会です。

  • 男性の育児休業取得の推進(2018年9月より運用開始):2022年2月末までに子が3歳の誕生日(取得期限)を迎えた男性従業員1,239人全員が1か月以上の育児休業を取得、取得率100%を継続
  • 人権に関する通報システムの適切な運用:「セクハラ・パワハラホットライン」を設置

セクハラ・パワハラホットラインでは、マネジメントに関する相談や職場の人間関係に関する相談にも対応するなどして多くの人のサポートに役立っています。

最後にガバナンスです。

  • 建築法令遵守、個人情報保保護、税務放棄遵守の取り組み:腐敗防止方針の不遵守による罰則なし、重要な環境関連法規制などの違反・処罰なし、顧客プライバシーの侵害および顧客データの紛失に関して実証された不服申立なし、反競争的行為、反トラスト、独占的慣行により、法的措置を受けた事例ならびに法規制への違反に対する相当額以上の罰金および罰金以外の制裁措置を受けた事例なし
  • コンプライアンス研修の実施:法令にとどまらない広い範囲でのコンプライアンス意識の醸成に向けた取り組み、実施状況は取締役会に報告
参考 ESG経営の実践 ― 積水ハウスのサステナビリティの取り組み積水ハウス

③花王

花王はESG戦略 「Kirei Lifestyle Plan」を掲げ、2030年までのコミットメント「快適な暮らしを自分らしく送るため」「思いやりのある選択を社会のために」「よりすこやかな地球のために」を策定しています。

社内での組織編成だけでなく外部からもアドバイザリーボードを導入し、EGSガバナンス体制を構築しています。

具体的な取り組みと効果

下記で、ESGにおける取り組みと効果の一部を抜粋してご紹介します。

  • 事業活動におけるCO2排出量削減:目標:2030年までに55%削減、2021年実績:20%削減、2020年実績:15%削減
  • 事業の使用電力を100%再生可能エネルギーで賄うことをめざす:2021年実績:38%削減、2020年実績:28%削減
  • ごみゼロ社会の実現に向けた取り組み:つめかえ・つけかえ製品の数:380品目(2021年12月時点)、普及率83%、プラスチック削減量:77.0千トン
  • 2021年までにプラスチックアイキャッチシール廃止率 100%を目指す:2021年実績:100%削減、2020年実績:73%削減
  • 化粧品包装容器におけるケミカルリサイクル素材の活用・ケミカルリサイクルの実施:ボトル容器にケミカルリサイクルPET素材の採用を開始、ボトル容器からボトル容器への水平リサイクルの実証実験も実施

花王では、製品との関連性を重視した取り組みを多数実践しています。プラスチックアイキャッチシールの廃止率は目標達成を実現するなど、着実に結果も表しています。

参考 サステナビリティ花王