従業員持株会とは? 【簡単に】仕組み、メリット、奨励金

従業員持株会とは、従業員の自社株取得を容易にする社内制度のことです。ここでは従業員持株会の仕組みやメリット、導入方法などについて解説します。

1.従業員持株会とは?

従業員持株会とは、会社が従業員に対して拠出金の給与控除や奨励金の支給などさまざまな便宜を与えて、自社株の取得を容易にする社内制度のことです。

「従業員持株会」会員の給与や賞与から拠出金を天引きし、会員は拠出額に応じた配当金を得られます。従業員は自身で投資のタイミングを考えなくても、財産形成を行えます。

従業員持株会の組織形態は民法にもとづく組合です。そのため経営側の役員は加入できません。

従業員持株会の加入状況

東京証券取引所が発表した「2019年度従業員持株会状況調査結果」によると、2020年3月時点での東京証券取引所上場内国会社はおよそ3,700社。

そのうち従業員持株会を導入している企業はおよそ3,200社で、9割の上場企業が従業員持株会を採用していることが分かりました。奨励金は調査対象会社の97%で支給されています。

参考 2019年度従業員持株会状況調査結果の概要について日本取引所グループ

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2.従業員持株会の仕組み

多くの企業が採用している従業員持株会は、一般的に会社の福利厚生制度の一環として位置づけられています。ここでは従業員持株会の基本的な仕組みについて説明します。

基本的な制度内容

従業員持株会では、持株会に加入している従業員の給与などから一定額の拠出金を定期的に引去り、その分を拠出金として自社株を取得させるのが一般的です。自社株は従業員の所有物になるため、株価の上昇下落による損益は従業員に帰属します。

規約によりあらかじめ決められた日に給与などから天引き(株式を購入)されるため、従業員は投資のタイミングを考えることなく財産を形成できるのです。

持株会型の日本版ESOP

従業員持株会の制度には「持株会型」と「株式付与型」のふたつのパターンがあります。「持株会型」の日本版ESOPでは、従業員の給与などから引去られる拠出金に応じて自社株が割り当てられます。従業員は割当分の株が取得できるというわけです。

給与などの一部が拠出金になるという意味では、基本的な持株会制度と同じといえます。

株式付与型の日本版ESOP

一方、「株式付与型」は企業が信託(持株会)に資金を提供して自社株式を取得し、従業員に支給する仕組みのこと。株式付与型では一定の要件を満たした従業員に、退職金などの形で自社株を支給します。

株式付与型、持株会型のいずれも、評価損が生じた場合は損失を企業が補てんするという点は同じです。

なお、日本版ESOPでは株式付与型よりも持株会型を採用する企業が多い傾向にあります。

ストックオプション制度との違い

従業員に対する報酬制度としては、従業員持株会のほかに「ストックオプション制度」があります。ストックオプション制度とは、あらかじめ決められた価額(権利行使価額)で一定数の自社株を取得できる制度のことです。企業は従業員に労働の報酬として新株予約権を付与します。

将来の株価が権利行使価額を上回った場合は利益を受け取れ、下回った場合は株の取得権を放棄して損失を回避します。

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3.従業員持株会のメリット

従業員持株会を導入することにはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは従業員持株会のメリットを企業側、従業員側それぞれの立場から説明します。

企業

まずは企業にとってのメリットについて説明します。従業員持株会の導入は、企業にとって福利厚生の充実や従業員のモチベーションアップなどのメリットがあるのです。

持株会が安定株主になる

そもそも会社は株式を上場することで運用資金を得ますが、積極的に株式の売買が行われていると価格変動が大きくなり、資金を安定して確保できません。

その点、従業員が株を長期保有してくれる持株会なら流動性が低くなり、安定した資金を確保できるようになります。

また従業員が退職する際に持株会に株が残るようにすることもできます。これにより株式の分散を防ぐことが可能です。

福利厚生になる

従業員持株会が福利厚生の一環となることも、企業にとってのメリットです。持株会で配当を出せば、従業員にその一部が渡ります。

上場企業の場合は市場価格に連動して資産の増加が、未上場の場合は上場の際に大きな利益が期待できるため、持株会は従業員資産形成の一助となり得るのです。

また福利厚生を充実させれば他社との差別化が図れるため、優秀な人材を確保できる可能性も高まります。

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従業員のモチベーションアップになる

会社の業績がよくなれば自社株の配当も上がり、株主である従業員の資産として還元されます。そのため、従業員持株会で自社の株を保有した従業員は、より自社の動向に意識を払うようになります。おのずと経営参画の意識が生まれるのです。

「自分の会社」という意識が強くなり、従業員のモチベーションアップ、ひいては会社の成長を促す効果が期待できます。

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インサイダー取引が適用されない

従業員持株会の導入はインサイダー取引防止の効果も期待できます。インサイダー取引とは、株価に影響を与える非公開情報を持った内部の従業員が株を売買することです。公平な株式市場を守るため、インサイダー取引は法律で禁止されています。

従業員持株会は定期的な株の売買を目的に設置されているため、持株会を通じての株の売買はインサイダー取引が適用されません

従業員

従業員持株会を導入することには、企業だけでなく従業員にもメリットがあるのです。ここでは従業員にとってのメリットについて説明します。

財産形成の手間がかからない

手軽に資産形成ができるのがメリットのひとつです。従業員持株会の制度では、掛金が給与や賞与から自動的に差し引かれます。

拠出額を一度決めてしまえば自動的に積み立てられるため、貯金が苦手な人や、毎月拠出額を検討するのが面倒と感じている人でも簡単に財産形成できます。もちろん会社に利益が出れば配当金を受け取ることが可能です。

少額から株式を買える

従業員持株会ではまとまった資金がなくても株式を購入できます。一般的に株式は100株単位でしか売買できないため、1株1,000円の株式を購入するためには、10万円の資金が必要です。

その点、従業員持株会では1株から購入できます。従業員は高額を用意することなく貯蓄感覚で財産を増やせるのです。

配当金・キャピタルゲインがもらえる

従業員のメリットとして特に大きいのが、配当金やキャピタルゲインを得られること。従業員持株会で得た配当金は、そのまま再投資することももちろん可能です。

また従業員持株会を導入している企業のほとんどが奨励金を支給しています。これにより、たとえ株価が横ばいだったとしても奨励金分の利益が手に入ります。

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最低売買単位を気にしなくていい

株の売買は「単元」という単位で取引されます。この1単元を何株とするかは会社によって異なりますが、数十株や数百株などまとまった株数にしているのが一般的です。これを「最低単位数(単元株数)」といいます。

しかし従業員持株会で購入する場合は、この最低単位数(単元株数)を気にする必要がありません。従業員は高額投資によるハイリスクを負わずに株式を購入できるのです。

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4.従業員持株会のデメリット

従業員持株会にはさまざまなメリットがあるいっぽうで、いくつかのデメリットも存在します。導入を検討する際は以下のデメリットも慎重に考えなければなりません。

企業

企業にとっての従業員持株会のデメリットとして、以下の3つが挙げられます。

  • 会社支配権の低下
  • 業績にともなうモチベーションの低下
  • 退職時のトラブル

オーナーの会社支配権が弱くなる

従業員持株会では従業員の経営参画意識が高まる一方で、オーナーの会社支配権が弱くなります。支配権とは、一定以上の株式を持つ株主に許された決議権力のことで、持株比率に応じて支配権の内容は変わってきます。

従業員持株会に参加する人数が多ければ多いほど、オーナー陣の会社支配権は弱くなるのです。このようにオーナーの独自経営が難しくなることが、デメリットのひとつとして挙げられるでしょう。

業績によってはモチベーションが低下する

会社の業績がよくなると、株主である従業員の資産として還元されるため、従業員のモチベーション向上につながります。しかしこれは業績が下がればモチベーションが低下する原因にもなり得るのです。

株式が下落したり配当が維持できなくなったりした場合、従業員の経営参加意識はおのずと低くなります。従業員のモチベーション低下から会社全体の生産性低下につながるおそれもあるため注意が必要です。

従業員が退職する際にトラブルになる

従業員持株会では従業員が退職する際にも注意しなければなりません。持株会の会員である従業員が退職する際は、登録配分された株式を現金で払い戻さなければなりません。これを「持分返還」といいます。

この持分返還の価格をあらかじめ規約などで決めておかないと、不本意な高額買取を決断しなければならない事態につながります。

従業員

従業員持株会のデメリットは会社だけでなく従業員にも存在します。代表的なのは会社への依存度が高まることや、すぐに売却できないことです。

会社依存度が高くなる

従業員持株会最大のデメリットともいえるのが、会社依存度が高くなることです。投資にはひとつの株に投資する「集中投資」と、複数の株に資金を分散する「分散投資」の2種類があります。

「集中投資」にあたる従業員持株会は、会社の状態が悪くなれば株価が完本割れするうえ、さらに給与にまで影響をおよぼす可能性があります。リスク分散が難しいことは、投資にとって大きなデメリットです。

すぐに売却できない

従業員持株会は普通預金と違い、いつでも好きなタイミングで引き出せません。持株会から自分の証券口座に移したり、経理部や上司から承認を得る必要があったりと複雑な手続きが必要になります。

そのため、株価が下がったタイミングで売却したくても、手続きに時間がかかって損をする可能性があります。

また「インサイダー取引」規制の観点から、自社の決算内容や新商品の情報などを公開前に入手していた場合、あきらかに株価が下がると分かっていても情報公開まで株式を売却することはできません。

持株会だけに頼ると、資産が減る可能性がある

従業員持株会で購入できるのは、一般的に勤めている会社の株式のみです。そのため会社の株価低下にともなう資産価値低下のリスクは避けられません。

資産運用を持株会だけに頼っていると、万が一会社が倒産した場合に資産すべてを失ってしまう可能性があります。持株会だけでなく、貯蓄やほかの投資を行ってリスクを回避する必要があるのです。

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5.従業員持株会の奨励金

先に少し触れましたが、従業員持株会には株を購入する場合に会社から奨励金を支給する制度があります。従業員持株会の加入促進として、多くの会社がこの奨励金制度を実施しています。

金額

従業員持株会の奨励金は、多くの企業が購入金額の5%から10%で設定しています。

株価が1,000円で奨励金が5%の場合に毎月5,000円ずつ積立投資していれば、5%分の奨励金(250円)が上乗せされた5,250円分が購入できることになります。

なかには拠出金1,000円に対して100円から150円もの奨励金を上乗せする会社もあります。

社会保険の報酬に該当しない

気になるのが従業員持株会の奨励金が社会保険の報酬に該当するかどうかですが、従業員持株会の加入が任意であれば、その奨励金は社会保険の報酬とみなされません

持株奨励金が報酬に含まれるか否かは法令上明確に定められていないのです。従業員の自由意思による加入で、報酬の対象とするかしないかが変わります。

「加入を強制している」「従業員の大半が加入しており実態として任意と判断できない」といった場合は報酬とみなされ、算定基礎届に記載が必要になります。

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6.従業員持株会の導入方法

従業員持株会を導入する際はどのような手続きが必要になるのでしょうか。ここでは従業員持株会の導入方法を以下3つの段階に分けて説明します。

持株会の株式保有比率を決める

従業員持株会を導入する際は、持株会の株式保有比率を定めます。前述した「支配権」の確保と節税の観点からも、あらかじめ株式保有率を決めておくと安心でしょう。

持株会の比率効果はもちろん企業によって異なりますが、機関投資家や海外投資家の保有比率が高いほど、生産性や企業業績に与える影響が強いとする調査結果もあります。

出資金の拠出方法を決める

続いて出資金の拠出方法を決めていきます。これには以下ふたつの方法があります。ふたつの拠出方法を併用することも可能です。

  • 定時拠出金:規約の定めにより、申し込んだ金額を給与や賞与から天引きする方法
  • 臨時拠出金:規約の定めにより、一時的な定時拠出金の追加や株主割当による有償増資など会員の申し出によって拠出する方法

運営管理方法を決める

最後に従業員持株会の運営方法を決めます。運営に係る事務管理を自社に設置するか、外部に委託するかを検討しなければなりません。

あわせて設立後の事務局運営方法についても決めておきます。入会時の事務手続きや決算時の対応、自社株の買付けや株式の配分などを行う従業員持株会は、総務部内などに設置するのが一般的です。