ストックオプション制度を導入する企業が増えています。ストックオプションとは、企業から役員や社員へのインセンティブ報酬として付与される新株予約権のこと。
ストックオプションをもっと詳しく知りたいという人のために、ストックオプションの仕組みや種類、メリットとデメリット、制度の導入方法について説明しましょう。
目次
1.ストックオプションとは?
ストックオプションとは会社法第236条にもとづいて、インセンティブ報酬として企業から役員や社員へ付与される新株予約権のこと。
ストックオプションはあらかじめ会社が定めた権利行使価格で自社株を取得できる権利を社員へ付与し、社員は将来株価が値上がりした際、権利を行使して利益を得ることができる仕組みです。
ただし、一般的には付与されてから一定期間は権利を行使できません。その期間が経過してから権利を行使できるようになることがほとんどです。

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新株予約権との違い
ストックオプションとともによく用いられる言葉に、新株予約権があります。
会社法第2条第21号において新株予約権は「株式会社に対して行使することにより当該株式会社の株式の交付を受けることができる権利をいう」と定義されています。
つまり、ストックオプションは、新株予約権の一つという位置付けになっているのです。新株予約権にはストックオプションのほか、
- 転換社債(CB)の転換権部分
- 新株引受権(ワラント)
などがあります。個人向けの転換社債とは、現在でいうところの転換社債型新株予約権付社債のこと。
ワラントとはワラント債から債権部分を切り離したもので、新株予約権証券ともいいます。転換社債もワラントも以前は多く発行されていましたが、近年では発行数が減少しています。
2.ストックオプションの仕組み
ストックオプションの仕組みを簡単に説明すると、
- 権利付与:役員、社員に安く一定金額に設定された株価で自社の株式が購入できる権利が与えられる
- 権利行使:一定期間が経過した段階で、約束価額で株式を購入する
- 株式売却:株価が上がったら売却し、その差額が大きな利益として手元に入る
というもの。
- 約束価額が低ければ売却益が増える
- 企業の業績が伸びれば、値上がりした株価で売却できるので売却益が増える
などのメリットがあります。
①権利付与
ストックオプションはまず、権利の付与がスタートになります。一定期間が経過した後、自社の株式を購入する権利の付与です。
購入する株価の金額設定は、多くの場合、付与時点の時価が採用されています。ストックオプションは、あらかじめ定められた行使価格で株式を購入する権利を会社から与えられるわけです。ここでは、予約価格を1万円と仮定して話を進めていきます。
②権利行使
次のステップは、約束価額で自社株を購入する権利行使です。しかしストックオプションが、インセンティブの意味を持つ仕組みであることや税務の問題から、一定の条件を満たさないと、権利が行使できないようになっています。
一定の条件で最も多いのは、「株式上場が条件になったとき」。このタイミングで税制適格ストックオプションという税制上有利になるようなものが付与されます。税制適格ストックオプションであれば、個人には課税されません。
株式上場の条件をクリアすれば、約束価額で自社株を購入する権利行使ができるのです。例を見てみると、権利行使時の株式の時価は10万円になっています。これが権利を行使する際の時価である行使価格となれば、売却差額が利益として確定できます。
③株式売却
権利行使をして自社株を手に入れたら、上場直後の売買の制限が解除され次第、基本的にはいつでも売却が可能です。
上場後、株価がさらに上昇すると予想した場合には引き続き株式を保有しておきます。一方で株価が今後下がっていくと予想した場合には、すぐに売却したほうが得策です。どちらにしても権利を行使して自社株を購入した場合、以後の判断はすべて個人で行います。
例をもとに説明すると、権利行使後、仮に12万円まで値上がりした自社株を、そのタイミングで売却したとします。その場合には、
- 予約価額の1万円
- 行使価格の12万円
の差額、つまり11万円が売却益になるのです。売却益は、売却時点で課税の対象となります。
3.日本のストックオプション制度概要
日本におけるストックオプション制度には、自社株が権利行使価格を大きく超えて上昇すればするほど、オプションの権利を付与されている経営者や社員に対する報酬が大きくなるようになるという特徴があります。
法制度と歴史
1997年の商法改正で、日本企業へのストックオプションの導入が全面解禁されました。取締役や社員を権利付与の対象者とする、
- 自己株式方式
- 新株引受権方式
が採用されたからです。また、2001年にも商法の改正があり、ストックオプションが新株予約権制度の枠組みに組み込まれることとなります。
従来、日本企業のストックオプションの権利付与は、取締役および社員などに限定されていました。しかし、2001年の改正により、権利付与対象者として
- 会社の取引先
- 関連会社の役員
などが新たに組み込まれたのです。従来の権利付与対象者の制限が撤廃されたことで、ストックオプションは幅広く活用されるようになりました。
税制上は?
日本国内の企業が国内にいる社員に対して付与しているストックオプションの税制上の取り扱いは、原則「給与所得」となっています。
また、
- 税制適格という扱いになった場合は、株式売却時にキャピタルゲイン課税がかかる
- 税制適格の扱いでない場合は、権利行使時に所得税、売却時にキャピタルゲイン課税の両方がかかる
と、税法上定められているのです。
以前は、外資系企業の日本法人が社員に付与していたストックオプションは、親会社である外資系企業と直接雇用関係がないことを理由に、「一時所得」の扱いで、一番低い税額が適用されていました。
しかし、2005年に最高裁判所が「給与所得に該当する」と判断を下したことを受け、現在では課税区分が「給与所得」とされています。
4.ストックオプションの種類
ストックオプションには、3つの種類があります。それぞれの違いを知ったうえで社員への付与を検討しましょう。
①通常型ストックオプション
行使価格を発行時の価格以上に設定し、権利行使時、付与時よりも価格が上昇していれば、その差額を利益にできる制度です。
②有償ストックオプション
発行時の価格で新株予約権を発行し、権利行使時に価格が上がっていれば、その差額が利益となる制度。ただし権利行使時の価格が発行時より下がってしまった場合、社員の士気低下に結び付く可能性があります。
③株式報酬型ストックオプション
株式報酬型ストックオプションは行使価格を1円に設定し、権利を行使することで報酬が得られる制度。1円ストックオプションとも呼ばれており、退職金の代わりとして利用されるケースが多いです。
5.ストックオプション導入のメリット・デメリット
メリット
ストックオプション導入のメリットは4つ。
①企業経営への参加意識の向上
ストックオプションを付与することで「株価を上げる」という社員間での共通の目的ができ、自分の仕事だけでなく企業経営にも関心を持つようになります。
②人材の流出防止
ストックオプションを付与することで、権利が行使できたり株価が上がったりするまでの間、退職を思いとどまらせることができます。
③優秀な人材の確保
株式公開が成功すれば大きな利益が見込めると考える優秀な人材を社外から獲得する、もしくは流出阻止の手段として使うことができます。
④自己資本の充実
ストックオプションを付与するだけで、現金の支出がなくても業績を向上させる効果があります。つまり、ストックオプションの権利行使により現金が流入してくるため自己資本の充実につながるのです。
デメリット
導入のデメリットは2つ。
①モチベーションダウン
1つ目は、モチベーションダウンです。ストックオプションの配分方法によっては、
- 社員のモラルの低下
- モチベーションのダウン
などを招きます。たとえば、ストックオプションの権利行使を
- 取締役
- 管理職
といった役職のみに限定した場合、部下に株価を上げるための働きや利益追求を強要する結果となるでしょう。当然、社員のモチベーションはダウン。ストックオプションの付与の配分によっては、大きな企業リスクとなり得ます。
②権利行使後の退職の懸念
2つ目は、権利行使後の退職の懸念。
たとえば、ベンチャー企業がストックオプションを安易な考えで導入したとします。市場動向などにより自社の実力以上の株価上昇が起こった場合、権利行使をして大きな売却益を得た後、そのまま会社を退職してしまう人が出てこないとも限りません。
このような場合、長期的な企業の成長を阻害されるデメリットが生じます。ストックオプションを導入した結果、企業自体が一時的な株価の上昇に振り回される、そういったことのないよう計画的な導入が必要です。
6.ストックオプション制度の導入方法
ストックオプション制度の導入方法には、いくつかのステップがあります。
①株主総会で取締役への付与を決議する
取締役に対してストックオプション制度を導入する際は、株主総会を開き、ストックオプションの金額や内容などについて決議する必要があります。
ただし、株主総会開催義務には例外があるのです。
- 定款にて、取締役に対するストックオプション制度の取り決めが明記されている
- 社員に対して付与する
などの場合、株主総会の決議は不要となります。ストックオプションの付与対象によって、株主総会の開催要否が変わる点に注意してください。
②募集事項を定める
次に、募集事項を定めます。検討すべき事項は、
- ストックオプションの権利行使価格
- 権利行使期間
- ストックオプションの数量
さらに、
- ストックオプションと引き換える形で金銭の払い込みを必要としない場合には、その理由
- ストックオプションと引き換える形で金銭の払い込みを必要とする場合には、その払い込み金額、もしくは算定方法
- ストックオプションの割当日
なども募集事項として定める必要があるのです。
公開会社における手続き方法
ストックオプション制度の導入に関して、公開会社が気を付けなければならない点があります。
通常ストックオプションを導入する場合、公正な価額で発行するために、本来は株主総会で決定するものを取締役会での決定で済ませることができます。
注意したいのは、株主に対して株主総会当日の2週間前までに募集事項を通知、または告知しなければならないという点。
通知や告知は、
- 官報
- 日刊新聞紙
- 電子広告
を使って行います。
非公開会社における手続き方法
非公開会社における手続き方法では、2つほど注意点があります。
- 公正発行・有利発行どちらの場合においても、募集事項決定に関しては、原則、株主総会の特別議決が必要になる
- さらに非公開会社で注意が必要なのは、有利発行の場合、株主総会で取締役が有利発行で募集する必要性について説明する義務がある
非公開企業は、この2点を注意してストックオプションの導入を進めてください。
③申込者へ通知を行う
3つ目は、申込者に対する通知。
- 上場企業
- 非上場企業
どちらの場合でも、企業はストックオプション制度に申し込んだ者に対して、
- 株式会社の商号
- 募集事項
- ストックオプションの権利行使の際、金銭の払い込みの必要がある場合には払い込みを取り扱う場所
について通知する必要があるのです。
一方、ストックオプション制度に申し込んだ者は、
- 申込者の氏名、および住所
- 申し込みをするストックオプションの数
について、会社に書面を提出します。
④付与予定者と割当数を定める
申込者に対する通知が済んだら、次は付与予定者と割当数を定めていきます。こちらも、
- 上場企業
- 非上場企業
どちらでも、
- 申し込みをした者の中から割り当てる者を定める
- かつその者の割当数を定める
ことが必要です。
ただしこのステップは、割当を行う日の前日までに、申込者への事前通知が必要となります。
もし付与予定者が、ストックオプション制度を設計した段階で決定していた場合は、付与予定者と事前に引受契約を交わすことを条件にして、省略することも可能です。
⑤登記する
ここまでのステップが済んだら、次のステップは登記です。こちらも、上場企業・非上場企業のどちらの場合でも、ストックオプションを発行したら、企業は割当日の当日から2週間以内を期限として、ストックオプションについての登記を行います。
⑥払込みを受ける
ストックオプションの割当を受けた場合該当者は、
- 払込み期日
- 権利行使期間の初日
までに会社が決定、通知した銀行などの金融機関に振り込み金額の全額を払い込まなければなりません。なお、払い込みが行われない場合、ストックオプションの権利は消滅します。
⑦事業報告書に記載する
公開会社は、ストックオプションについて事業報告に記載します。
- 事業年度末時点
- 取締役を含む役員がストックオプションを保有している場合
という条件下で、事業報告書に、
- ストックオプションの内容
- 保有人数
などを記載するのです。
⑧就業規則への規定、周知、労働基準監督署への届出
ストックオプション制度を導入したら、
- 就業規則への規定作成
- 労働者への周知
- 労働基準監督署への届出
も併せて必要となります。この手続きが終了して初めて、ストックオプション制度の導入ステップが完了となるのです。
7.ストックオプションによる利益に対する課税の仕組み
ストックオプションによる利益に対する課税の仕組みは2つあります。
- 経済的利益に対する課税
- 自社株を売却した場合の譲渡益課税
①経済的利益に対する課税
ストックオプションは、経済的利益に対する課税があります。一般的にストックオプションでは、取得時の株価のほうが定められた取得価額よりも高くなっていることが予想されます。
そのことで、
- ストックオプションの権利を行使した取得時の株価(時価)
- あらかじめ定められていた取得価額
両者の間に価格差が生じ、結果、その差額がストックオプション行使者に対する経済的利益と見なされ、課税の問題が発生するのです。
給与所得として所得税と住民税が課税
一般的な経済的利益は、ストックオプションの権利行使者の給与所得と考えられます。
よって、
- 所得税
- 住民税
2種類が課税されるのです。ただし、所得税について注意点があります。新規事業法による認定会社によって実施されるストックオプション制度についてです。
新規事業法下の認定会社が実施したストックオプション制度で新株を取得した場合、経済的利益に関して一定の要件で所得税が課税されないケースがあるのです。
②自社株を売却した場合の譲渡益課税
ストックオプションで権利行使をして取得した自社株が値上がりしたために売却を考えたとします。このように、自社株を売却した場合の譲渡益課税については、
- 原則として、20%(住民税は6%)の税率による申告分離課税を行う
- 株式等に係る課税譲渡所得金額×20%(住民税6%)で所得税額を決定する
と定められています。それから一定の上場株式等にあっては、上記の税額算定方法に代えて、
- 他の所得と分離して譲渡利益金額の20%(住民税は非課税)の税率による源泉徴収で課税関係が完結する源泉分離課税を行う
- 株式等の譲渡利益金額(=譲渡対価×5.25%)×20%で所得税額を決定する
などで譲渡益課税を代替することも可能です。制度が複雑なので内容をしっかりと確認して、納税しましょう。
8.ストックオプションの税制優遇措置
ストックオプション制度には、税制優遇措置があります。そもそもストックオプションとは自社株を購入する権利を付与された役員や社員が、権利行使によって利益を得ることができる制度のこと。
権利行使益が出た時点で、
- 所得税
- 確定申告(確定申告対象外の額である場合を除く)
の2点が関係してくるのです。
税制適格ストックオプションとは?
税制適格ストックオプションとは権利行使時には所得税が課税されないストックオプションのこと。税制適格ストックオプションは税制上の優遇が受けられるため、株式の売却時にのみ譲渡所得税が課税されるだけで済みます。
ストックオプションの権利を行使する役員や社員からしてみれば、税制面で大きなメリットを感じられるでしょう。
ストックオプションの権利行使時には所得税も課税されません。そのため、確定申告の必要もなくなります。ただし、株式売却時には譲渡所得が発生するため、確定申告は必要です。
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