ダニングクルーガー効果とは? 自分を過大評価する原因と対策

自信家の部下を持つ上司は、「ダニングクルーガー効果」について知っておく必要があるでしょう。ダニングクルーガー効果は「認知バイアス」という心理現象のひとつです。

1.ダニングクルーガー効果とは?

ダニングクルーガー効果とは、能力の低い人が実際の評価と自己評価を正しく認識できずに、誤った認識で自身を過大評価してしまうことです。心理現象である「認知バイアス」のひとつです。人はあらゆる場面で自分を評価する、あるいは評価されます。そうした場面における思い込みや錯覚が認知バイアスを引き起こすのです。

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ダニングクルーガー効果の定義

ダニングクルーガー効果は、認知バイアスの一種で、実際の評価と自己評価のズレが生じる、または認識に誤りが生じる現象を指します。実際の評価はそうでなかったとしても、自身の容姿や言動などが優れていると、心理的に錯覚してしまうのです。

逆に能力の高い人は、実際の評価より自己評価を低く見積もってしまいます。いずれも人が自分を正しく客観視できないために認識の錯覚が生じているのです。

ダニングとクルーガーの実験

ダニングクルーガー効果は、心理学者であるデヴィッド・ダニングとジャスティン・クルーガーの2人が、学生を集めて行った実験で見いだされた現象です。

彼らは米コーネル大学の学生に対して、「ユーモア」「論理的思考」「英文法」の3種目のテストを実施し、さらに自分の成績が全体のうちどの程度なのかを予想してもらいました。

本人の自己評価と実際の評価を照らし合わせていった結果、3種目すべてにて実際の評価が低い学生ほど自己評価が高く、実際の評価が高い学生ほど自己評価は低くなったという現象が起こったのです。

ダニングクルーガー効果の反対語「インポスター症候群」

ダニングクルーガー効果の反対語として「インポスター症候群」と呼ばれるものがあります。

インポスター症候群とは、自分の能力で何かを達成して周囲から高く評価されても「自分の成功は周りの環境に助けられたおかげ、運が良かったから」「自分にはそんな能力などない、評価されているのは間違っている」と過小評価し、認識の錯覚を起こすこと

男性より女性に多く起きやすいとされています。女性管理職や社会で活躍する女性が「自分が選ばれたのは数合わせのため」「女性という理由だけで選ばれただけで、自分の能力ではない」と自分を卑下し、本来の力を発揮できない場合もあるようです。

ダニングクルーガー効果によって、本来の自分よりも過大評価あるいは過小評価をしてしまうと、周囲との間に認識のズレが生まれます

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2.ダニングクルーガー効果によって起きること

ダニングクルーガー効果によって、自分と他者との間に評価のズレが生じると、コミュニケーションに問題が出てきます。

たとえば能力が低い人に皮肉を言っても、ダニングクルーガー効果によって、相手は皮肉を皮肉と捉えられません。純粋に褒め言葉として皮肉を受け取ってしまうのです。ダニングクルーガー効果によって起こるさまざまな問題を確認していきましょう。

  1. 自分を過大評価する
  2. 知識不足に陥る
  3. 他者をきちんと評価できなくなる
  4. 詐欺被害に遭いやすくなる
  5. 困難に対処できなくなる

①自分を過大評価する

たとえば、運転免許証を取ったばかりの初心者マークを付けたドライバーは、自身の能力の低さを的確に見極めて、慎重に運転します。

しかし免許を取得してから3年から5年経過して運転に慣れたドライバーは、運転の慣れから自身の運転技術を見誤って事故を起こす確率が増えるという結果が出ているのです。これも認知バイアスによる錯覚や評価のズレによるものと考えられます。

②知識不足に陥る

能力が低い人ほど、全体の本質や知識の総量が足りないにもかかわらず、自分は知識があると錯覚します。「自分の知識量は足りている」と感じるため、これ以上知識を増やす必要性は感じません。

逆に能力のある人は、「周囲も自分と同等の知識は持っている、自分はまだまだ知識不足だ」と自己評価を低くしてしまうため、さらに知識が増えるという結果になります。

③他者をきちんと評価できなくなる

自己評価は、周囲の反応や他者の評価によって影響されるものです。そのため自己評価を誤っている人は、周囲や他者への評価も誤っている可能性があります。

部下を評価する上司がダニングクルーガー効果に陥っていた場合、部下の正しい評価はできないでしょう。自分自身を高く評価してしまっているがために、部下の評価を不当に低く、あるいは高くつけてしまう可能性があるのです。

④詐欺被害に遭いやすくなる

自己評価が高すぎる人ほど、詐欺被害に遭いやすく騙されやすい傾向にあります。若くして成功を納めた人が、詐欺にあって大金を騙し取られたという話も珍しくありません。

「成功した自分は優れているので騙されるわけがない、自分の判断は正しい」と自意識過剰になっているからこそ、このようなことが起こるのです。

⑤困難に対処できなくなる

自己評価が高すぎると、困難や壁に直面したときに対応できなくなってしまいます。自己認識と現実の壁の大きさに大きな差が生まれてしまうためです。

根拠のない自信をもった人は、困難や壁にも前向きに挑戦する傾向にあります。しかし「自分に乗り越える能力がない」と分かったとき、事実を認められず適応できなくなってしまうのです。

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3.ダニングクルーガー効果が発生する原因

ダニングクルーガー効果が発生する原因は、自身を正しく客観的に判断するメタ認知能力の不足だとされています。ここでは、メタ認知能力不足の原因となりうる事象を、いくつか確認してみましょう。

  1. 他者からのフィードバックを受け付けない
  2. 自己評価の誤り
  3. 他責思考

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①他者からのフィードバックを受け付けない

「フィードバックを受ける機会が少ない」「自ら受け付けない」姿勢が続くと、ダニングクルーガー効果に陥る可能性が高まります。周囲からのフィードバックがないと、自分が失敗したことやできていない部分に気付けませんし、改善にもつながりません。

その結果、周囲の客観的な評価と自分の評価に大きな差を生むダニングクルーガー効果が生じるのです。良い評価だけでなく否定的な評価も受け入れるとメタ認知が高まり、ダニングクルーガー効果に陥ることを避けられるでしょう。

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②自己評価の誤り

メタ認知を養うためには、他者の能力と自分の能力を比べて相対的に判断する必要があります。しかし他者の能力を見誤ると、自分の評価もまた見誤ってしまうのです。その結果、他人と自分の評価に差ができてしまい、ダニングクルーガー効果に陥るでしょう。

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③他責思考

心理学において、人は何か問題が起こったときに、自分以外に原因を求めるとされています。このような傾向もまたダニングクルーガー効果の原因となりえるのです。

何か問題が生じた際、「自分に原因がなかったか」考えない人は、気付きや反省、改善につながりません。そのためメタ認知が高められず、ダニングクルーガー効果に陥る可能性が高いでしょう。

ダニングクルーガー効果に陥る原因は、「他者からのフィードバックを受け付けない」「自分を正しく評価できない」「外的要因を原因と決めつける」の3つです

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4.ダニングクルーガー効果の事例

ダニングクルーガー効果は、ビジネスや教育、そのほかプライベートなシーンでもさまざまな影響を与えます。どのような影響を与えているか、ビジネスと投資にスポットを当てて解説しましょう。

ビジネス

人は他者や自分を動機づける際、金銭的報酬の効果を過大視し、またそれに依存してしまう可能性が高いと分かっています。

ダニングクルーガー効果の生じた自信家が昇進すると、「高い報酬を得ている自分はほかの人よりも優れている」という誤った認知が続いてしまうでしょう。もし経営層だった場合「自分の判断に間違いはない」と、大きな判断ミスをしてしまう可能性があるのです。

投資

自信過剰な投資家が投資に失敗し、資産価格に影響を与えてしまった事例が報告されました。ネットによるオンライン投資は過去のデータをかんたんに収集できるため、「投資で収益を得るのはかんたん」と自分の力量を過大評価してしまうのです。

ダニングクルーガー効果は、ビジネスや投資以外にも、生活のさまざまなところで大きな影響を与えています

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5.ダニングクルーガー効果にはメリットもある

ダニングクルーガー効果には悪い印象が多いものの、プラスに働く場合もあるのです。ダニングクルーガー効果ならではのメリットもありますので確認していきましょう。

何事にも自信を持って行動できる

ダニングクルーガー効果による「根拠のない自信」は、何事にも臆せず挑戦できるというプラスの一面もあります。それはビジネスにおいても発揮されるでしょう。

たとえばまったく経験のない業種から異種業界へ新規参入を成功させた事例はいくつもあります。異種業界への新規参入は、さまざまなリスクを検討して取りやめてしまう場合も少なくありません。

しかしそこで「何とかなるだろう」と抱いた根拠のない自信がビジネスを成功に導く場合もあるのです。

ダニングクルーガー効果によって自分に自信を持っている人は、新しいことにチャレンジしやすくなります。自信過剰という悪い面だけでなく、プラスに考えてみるのもよいでしょう

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6.ダニングクルーガー効果対策

ダニングクルーガー効果によってマイナスとなってしまう要素や、多くの問題があることはこれまで述べてきました。それでは、ダニングクルーガー効果を回避するにはどうしたらいいのでしょうか。いくつかのポイントをみていきましょう。

  1. ダニングクルーガー効果の原因を知る
  2. 多くの人と交流を持つ
  3. 他者の意見に耳を傾ける
  4. 客観的な指標を考える
  5. フィードバックを受けられる環境づくり

①ダニングクルーガー効果の原因を知る

前述のとおり原因として考えられるのは

  • フィードバック不足
  • 自己評価の誤り
  • 他責思考

の3つです。

このうちどれが自分に当てはまるのか考えると、効果的な対処方法を取り入れられます。また同時に他者と自分との評価にどのくらい差があるか、評価のギャップも認識しましょう。

②多くの人と交流を持つ

自分の意見がとおりやすい環境や同じ人間関係では、新しい発見や自分を見直す機会が失われやすいです。多数の人との交流によってさまざまな意見や考えを得て、自身の考えに固執する状況を避けましょう

自分に都合の悪い点まで伝えてくれるような人を探すのがポイントです。

③他者の意見に耳を傾ける

まずは、他者の意見に耳を傾けましょう。

  • 周囲からのフィードバック
  • 他者の意見

を参考にすると、客観的に自分を見つめ直せます。また自分以外の考えを取り入れると視野が広がり、新しい情報の取得にもつながるのです。

④客観的な指標を考える

データという客観的な実験や計算にもとづいた結果を指標にしましょう。自分の行動を数値化すると客観的に比較でき、自分の行動や能力の評価を判断できます

ただしデータだけに固執してしまうと、自分で何かを生み出す力が弱くなってしまう可能性もあります。あくまで指標にとどめておきましょう。

⑤フィードバックを受けられる環境づくり

他者からのフィードバックは、「さらに知見を広げて能力を発揮させる」と実験結果で証明されています。適切なフィードバックが受けられないと、他者からの率直な意見や評価を受けられずに、自己評価に依存した考え方に陥りやすくなるのです。

フィードバックを習慣化していない企業であれば、まずは評価制度や実施ルールなどを見直しましょう。

ダニングクルーガー効果を回避するには、その原因を追求し、客観的な意見を取り入れることが大切です。大勢の人の意見を聞いてみましょう