キャリアブレイクとは、一時的に仕事を離れ、自己のキャリアを見つめ直し、学び直しやスキルアップを行う期間のこと。人生100年時代において、長期的なキャリア形成の一環として注目されています。
この記事では、キャリアブレイクの意味や注目される理由、メリットやデメリットについて解説します。キャリアブレイク経験者を採用する際のポイントも紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
目次
1.キャリアブレイクとは?
キャリアブレイクとは、一時的に仕事を離れて自分のキャリアを見直す期間のことです。この言葉は「career(経歴)」と「break(休憩)」に由来し、もともと欧州で広まった考え方です。
この期間は、学び直しやスキルアップ、リフレッシュなどに充てられ、将来のキャリアを再構築するための準備期間とされています。
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キャリアブランクとの違い
キャリアブランクは、育児や介護、病気などで仕事を離れた期間のこと。この期間は一般的に「キャリアの空白期間」としてネガティブな印象を持たれがちです。
一方、キャリアブレイクは、自己成長やリフレッシュを目的とした前向きな休職期間。つまり、キャリアブランクがやむを得ない理由での離職であるのに対し、キャリアブレイクは自分の意思でキャリアアップのために取る積極的な休暇といえます。
サバティカル休暇との違い
サバティカル休暇とは、長く勤務した従業員に提供される長期休暇制度のこと。サバティカル休暇は、会社に籍を残して一時的に仕事を離れるのに対し、日本でのキャリアブレイクは、会社に籍を置かず仕事を離れるケースが多いです。
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2.キャリアブレイクが注目される理由
日本でキャリアブレイクが注目される背景として、主に以下が挙げられます。
- リカレント教育が注目されているため
- キャリア自律の必要性が高まっているため
- ライフステージに合わせた柔軟な働き方を実現するため
- メンタルヘルスへの意識が高まっているため
- VUCAの時代を生き抜くため
①リカレント教育が注目されているため
リカレント教育とは、社会人が必要に応じて学び直し、スキルや知識を更新すること。人生100年時代を迎え、長期的なキャリア形成が求められるなか、キャリアブレイクはリカレント教育の機会として注目されています。
政府も「人生100年時代構想会議」で、リカレント教育の重要性を強調しており、大学や専門学校での社会人向けプログラムも増加しているのです。キャリアブレイクを活用して新たな知識やスキルを習得すると、キャリアの可能性を広げられるでしょう。
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②キャリア自律の必要性が高まっているため
キャリア自律とは、個人が主体的に自身のキャリアを形成していくこと。終身雇用の崩壊や労働市場の変化により、企業任せではなく自らキャリアを設計する必要性が高まっています。
キャリアブレイクは、自分の働き方を見つめ直し、将来の方向性を考える貴重な機会となります。自己分析や市場の動向を調べ、新たなスキルを身につけることで、主体的なキャリア設計を進められるのです。
キャリア自律とは?【支援を求められる背景】促し方、事例
キャリア自律とは、従業員一人ひとりが主体的にキャリアを考え、自律的にキャリア開発を行うことです。社会構造の変化や多様な価値観などが普及したことで、企業ではキャリア自律を促し、支援することが求められつつ...
③ライフステージに合わせた柔軟な働き方を実現するため
現代社会では、育児や介護、自己実現など、個人のライフステージに応じた多様な働き方が求められています。キャリアブレイクは、こうした柔軟な働き方を実現する一つの選択肢として注目されているのです。
たとえば、子育て期間中にキャリアブレイクを取得し、子育て後に自分のスキルや希望に合った仕事を見つけるなど、柔軟なキャリア設計が可能になるでしょう。
④メンタルヘルスへの意識が高まっているため
職場でのストレスや過労が社会問題となる中、メンタルヘルスの重要性が広く認識されるようになってきました。厚生労働省の調査によると、約8割の労働者が職業生活で強い不安やストレスを感じているとされ、メンタルヘルス対策は企業の重要課題となっています。
キャリアブレイクは、仕事から離れ、心身のリフレッシュや自己再発見の機会となり、メンタルヘルスの改善に寄与する可能性があります。
参照:厚生労働省「職場におけるメンタルヘルス対策の現状等」
⑤VUCAの時代を生き抜くため
現代社会は「変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、曖昧性(Ambiguity)」で表されるように、変化が激しく、環境に適応する力が求められています。
キャリアブレイクを活用すると、新しいスキルを学んだり、異業種に挑戦したり、国際的な経験を積んだりといった自己変革が可能になります。VUCAの時代に対応できる柔軟性や適応力を養えるでしょう。
3.キャリアブレイクを取得する目的
ここでは、キャリアブレイクの主な目的を4つ紹介します。キャリアブレイクの取得を考えている方は参考にしてみてください。
新しいスキルを習得するため
キャリアブレイクは、新たなスキルを身につける絶好の機会です。急速に変化する社会において、既存のスキルだけでは通用しなくなる可能性もあるでしょう。
たとえば、デジタル技術の進歩に伴い、ITスキルの需要が高まっています。キャリアブレイクを利用して、プログラミングやデータ分析などの新しいスキルを習得すれば、キャリアの幅を広げられるでしょう。
また、語学力の向上や資格取得など、自身の市場価値を高めるための投資時間としても活用できます。
自己理解を深めるため
日々の業務に追われていると、自分自身を見つめ直す機会が少なくなりがちです。キャリアブレイクは、自己理解を深める貴重な時間となります。自分の価値観や興味、強み、弱みを再評価すれば、今後のキャリア方針を明確にできるでしょう。
また、これまでの経験を振り返り、自分が本当にやりたいことは何かを探求する機会にもなります。自己理解が深まると、より自分に合った仕事や働き方を選択できるようになり、長期的なキャリア満足度の向上にもつながります。
リフレッシュや再就職のため
長期間働き続けると、心身ともに疲労が蓄積されていく場合も多いです。キャリアブレイクは、このストレスから解放され、心身をリフレッシュする機会となります。休息を取れば、モチベーションも回復し、新たな視点や発想を得られる場合もあるでしょう。
また、再就職を考えている場合、キャリアブレイクは準備期間として活用できます。業界研究や面接対策、ネットワーキングなどに時間を充てれば、転職活動をスムーズに進められます。
家庭の事情のため
育児や介護など家庭の事情やライフステージの変化に伴い、仕事と家庭の両立が難しくなる場合もあります。また、パートナーの転勤や海外赴任に伴い、自身のキャリアを一時中断する人も少なくありません。
長期のキャリアブレイクは以前、「履歴書の空白」としてネガティブにとらえられがちでした。しかし、最近ではキャリアブレイク中に得た経験が、新しい視点や柔軟性を身につける機会とされ、復職後のキャリアにもよい影響を与えると肯定的に評価されつつあります。
4.キャリアブレイクの期間はどれくらい?
キャリアブレイクの期間は、1か月未満から3か月程度が多いとされているものの、より長期間のケースもあります。
短期の場合、1〜3か月程度で集中的にスキルアップや資格取得を目指すことが多いです。半年から1年程度のキャリアブレイクであれば、語学留学や長期のボランティア活動、じっくりとした自己分析や新しい事業の準備などに取り組めるでしょう。
1年以上の長期のキャリアブレイクは、育児や介護、パートナーの海外赴任への同行などが主な理由となります。
再就職を目指す場合、キャリアブレイク中に得た成長や学びを説明できることが重要です。キャリアブレイクの期間は、個人の目標や家庭の事情、経済的な準備状況などを総合的に考慮して決定するとよいでしょう。
5.キャリアブレイクのメリット
キャリアブレイクは企業側と従業員側それぞれにメリットがあります。ここでは、企業側と従業員側のそれぞれの視点からメリットを確認してみましょう。
従業員のメリット
キャリアブレイクを取得すると、従業員は以下のメリットを得られます。
自己と向き合いキャリアを見つめ直す機会が作れる
キャリアブレイクは、日常業務から離れ、自身のキャリアや価値観を再評価する貴重な時間となります。年齢とともに自分の考え方や価値観が変わるのは自然なこと。変化を考慮し、これから進むべき方向を定める有意義な期間となるでしょう。
スキルアップや学び直しに取り組める
キャリアブレイク中は、新しいスキルや専門知識を集中して身につける時間が確保できます。たとえば、語学留学や資格取得、オンライン講座の受講など、学びの方法はさまざま。これまで挑戦したくてもできなかったスキルアップや学びに取り組めるのは、キャリアブレイクの大きなメリットでしょう。
心身のリフレッシュと健康維持ができる
長期間の労働による疲労やストレスを解消し、心身の健康を取り戻すための時間としてキャリアブレイクは有効です。この期間にリフレッシュすると、復職後の生産性向上やモチベーション維持につながります。
企業側のメリット
続いて、企業がキャリアブレイク経験者を採用するメリットを見ていきましょう。
多様な人材の確保につながる
日本では、離職期間が長い人を積極的に採用しない企業が多い傾向にあります。しかしそれによって、必要なスキルを持つ人材を見逃しているかもしれません。離職期間だけで候補者から外し、不採用にするのは非常にもったいないでしょう。
キャリアブレイクを経験した人材を採用すれば、多様な背景や経験を持つ人材を確保できます。こうした人たちは、新しい視点や独自のスキルを組織にもたらし、イノベーションや問題解決力の向上に貢献する可能性があります。
新たな働き方の提案やキャリアサポートにつながる
キャリアブレイクを経験した従業員が活躍する姿は、企業にとっても新しい働き方やキャリアのあり方を学ぶ良い機会となります。さらに、さまざまな考えや価値観を受け入れる姿勢は企業のイメージ向上につながり、魅力的な企業と見なされ、採用活動にも良い影響を与えるでしょう。
既存従業員のモチベーションが高まる
キャリアブレイク制度は、既存の従業員に刺激を与え、自己啓発やスキル習得の意欲を高めるきっかけとなります。また、復職後にキャリアブレイクを経験した従業員が新たな知識や視点を共有すれば、イノベーションも促進され、企業全体の学習意欲も向上するでしょう。
企業が従業員の成長を支援する姿勢を示すと、従業員の信頼感や満足度が高まり、職場の活性化や生産性の向上も期待できます。
6.キャリアブレイクのデメリット
多くのメリットをもたらすキャリアブレイクには、デメリットも存在します。ここでは、キャリアブレイクのデメリットを、企業側と従業員側の視点からそれぞれ見ていきましょう。
従業員のデメリット
キャリアブレイクの取得によって、従業員には下記のデメリットがあります。
経済的な不安が増える
キャリアブレイクを取得すると、収入が一定期間途絶えるため、経済的な不安が生じます。生活費や家族の支出、ローンの返済など、日常生活の維持に必要な費用を自己資金でまかなう必要があるでしょう。
また、キャリアブレイク中に新たなスキルを習得するための費用も自己負担となる場合が多いです。さらに、社会保険や年金などの福利厚生が停止する場合もあり、将来の経済的な安定にも影響を与えてしまいます。
十分な貯蓄がない場合、経済的なストレスが増大し、キャリアブレイクの本来の目的を達成することが難しくなるかもしれません。
再就職が難しくなる場合がある
キャリアブレイクによる職歴の空白期間は、再就職時に不利になる可能性もあります。とくに長期のキャリアブレイクでは、スキルが古くなったり、業界の動向についていけなくなったりするリスクがあるでしょう。
採用担当者から「キャリアの一貫性がない」と見なされ、ほかの候補者と比較して不利になることもあります。また、キャリアブレイク中の活動や学びをうまく説明できないと、その期間の価値を伝えられず、採用に結びつきにくくなるかもしれません。
再就職をスムーズに進めるためにも、キャリアブレイク中に得た経験やスキルを明確に説明できるよう準備しておくとよいでしょう。
企業側のデメリット
キャリアブレイクを導入する際、企業側で考えられるデメリットは2つあります。
コストがかかる
企業がキャリアブレイク制度を導入する場合、さまざまなコストが発生します。従業員がキャリアブレイクを取得している間の代替要員の確保や、業務の再分配にかかる費用が必要だからです。
また、キャリアブレイク後の従業員の円滑な復帰をサポートするプログラムの実施にもコストがかかります。さらに、制度の運用や管理に関する人事部門の負担も増加します。
これらのコストは中小企業にとって大きな負担となる可能性があり、制度の導入をためらう要因となるでしょう。
人材が流出するリスクがある
キャリアブレイクを通じて、従業員が新しいスキルや経験を得ると、より良い条件の転職先を見つける可能性が高まります。優秀な人材が他社へ移籍するとなると、企業にとって大きな損失となるでしょう。
また、キャリアブレイク中に従業員が自身のキャリアを見直した結果、現在の職場や業界に戻らないことを決断するケースもあるでしょう。
このような人材流出は、企業の知識やノウハウの流出にもつながり、長期的な競争力の低下を招きます。さらに、残った従業員のモチベーションにも影響を与え、組織全体の生産性低下につながるリスクもあります。
7.キャリアブレイク経験者を採用する際のポイント
日本ではキャリアブレイクに対するネガティブなイメージが根強く残っているものの、働き方の多様化が進むなか、キャリアブレイクを肯定的に捉える企業も増えています。ここでは、企業がキャリアブレイク経験者を採用する際の3つのポイントを確認しましょう。
肯定的に捉えているか確認する
キャリアブレイク経験者を採用する際、その期間をどのように捉えているか、確認が重要です。単なる「空白期間」ではなく、自己成長や新たな経験を得る機会として肯定的に捉えているかどうかを見極めます。
面接では、キャリアブレイク中の活動や学びについて具体的に質問し、その経験から得た気づきや成長を積極的に語れるかどうかに注目してみましょう。肯定的な姿勢は、入社後の意欲や適応力にもつながる可能性があるため、重要な判断材料となります。
期間中の経験を有効活用できそうか確認する
キャリアブレイク中の経験が、今後の仕事にどのように活かせるか、確認しましょう。新しいスキルの習得、資格取得、ボランティア活動、海外経験など、具体的にどのような活動を行い、それがどのように自身の成長につながったかを聞き出します。
また、その経験が応募している職種や企業の業務にどのように関連し、貢献できるかを説明できるかどうかも重要なポイントです。
今後のキャリアパスを具体的に考えているか質問する
キャリアブレイクを経て、自身の将来のキャリアについてどのように考えているかを確認することも重要です。具体的な目標や計画を持っているか、その目標達成のために必要なステップを考えているかを質問してみましょう。
明確なキャリアビジョンを持っている人材は、自己啓発や成長への意欲が高く、組織にとっても長期的な戦力となる可能性があります。
これらのポイントを確認すると、キャリアブレイク経験者の潜在的な価値や組織への適合性を見極められます。同時に、多様な経験を持つ人材を受け入れることで、組織の多様性や創造性を高める機会にもなるでしょう。
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