スキルマトリックスとは? 開示企業事例、項目、作り方

スキルマトリックスとは、知見や経験などのスキルを可視化してまとめたもの。ここではスキルマトリックス開示の目的や作り方、開示の注意点などについて解説します。

1.スキルマトリックスとは?

スキルマトリックスとは、各取締役が保有しているスキルを可視化して一覧化したもの。各ステークホルダーはこのスキルマトリックスをもとに企業の経営方針や重点戦略を確認し、企業経営の判断材料にします。

スキルマトリックスの開示状況

スキルマトリックスが登場したのは2010年頃。もともと国際金融危機後のアメリカで、取締役の素養や取締役会の機能などを客観的に確認する風潮が高まったことから始まっています。

日本では、2021年のコーポレートガバナンスコード改定により2020年には54社だった開示企業が、2021年に103社、日経225構成銘柄の45%にまで倍増しました。

「改訂コードにスキルマトリックスの開示を盛り込むべき」という意見書を公表したことが影響していると考えられています。

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2.スキルマトリックスの開示目的

なぜ企業はスキルマトリックスを開示するのでしょう。ここではスキルマトリックスを開示する目的を3つに分けて説明します。

背景

前述のとおり、スキルマトリックス開示の背景にあるのは2021年6月に行われたコーポレートガバナンスコードの改訂です。補充原則4-11-1には以下の内容が追加されています(抜粋)。

「取締役会は、経営戦略に照らして自らが備えるべきスキルを特定したうえで、各取締役の知識や経験、能力などを一覧化したスキルマトリックスを開示するべきである」

コーポレートガバナンスコードとは?

企業として望ましい関係性や会社を監視する組織のあるべき姿を記した企業統治指針のこと。コーポレートガバナンスを機能させるには、公正で透明性の高い経営が必要です。

そこでコーポレートガバナンスコードに適切な情報開示と透明性の確保を明示し、適切な企業統治が行われているかを判断します。

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コーポレートガバナンスとは?

社外取締役や監査役などの社外管理者を設置して経営を監視し、組織ぐるみの不祥事を防ぐ仕組みのこと。目的は「適切な情報を開示して長期的な企業価値を向上させる」「不祥事の防止とともに各ステークホルダーの利益を最大化する」ことです。

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各取締役の役割を補足

スキルマトリックスの開示には、各取締役の役割やスキルなどを補足する目的もあります。取締役選任議案は非常に重要な意思決定ですが、現状の制度では各取締役の役割を記すものがありません。

そのため投資家は各取締役の経歴からスキルや専門性を読み取る必要があります。そこでスキルマトリックスを開示し、各取締役のスキルや役割を見える化するのです。これにより経営陣のバランスを確認できます。

企業体制の強化

スキルマトリックスによって取締役会の過不足が一目瞭然になるのです。現状の取締役会と理想の取締役会のギャップが認識できるため、スキルマトリックスの開示内容によっては社内昇進や社外招聘などで必要な人材を指名する必要があるでしょう。

この指名プロセスは海外投資家が特に注目する部分でもあるため、納得性の高い説明が求められます。

情報開示

「コーポレートガバナンスコード」の原則では取締役や監査役候補の指名、および経営陣幹部の選解任に際して主体的な情報開示を行うことを指摘しています。

なぜこの取締役を指名したのか、何が不適切で経営陣幹部を解任したのかなどを説明する際に、客観性の高いスキルマトリックスが根拠として役立つのです。

また情報開示には公平な視点で経営を進めるのと同時に、投資家が今後の投資を判断する基準にするという役割もあります。

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3.スキルマトリックスの項目

スキルマトリックスには具体的にどのような情報を記載するのでしょう。ここではスキルマトリックスで開示するおもな項目について説明します。

代表的な9項目

スキルマトリックスには以下9つの項目を記載します。

  1. 企業経営:取締役が保有している企業経営スキル
  2. マーケティングや営業:売上確保や利益向上に欠かせないスキル
  3. 財務とファイナンス:不正会計を防ぎ、コンプライアンスを遵守するスキル
  4. ITとデジタル:デジタル社会には欠かせないITとデジタル活用のスキル
  5. 労務、人材開発:もっとも大きな経営資源であるヒトを確保、開発するスキル
  6. 法務とリスクマネジメント:コンプライアンス違反や法令違反を防ぐためのスキル
  7. グローバル経験:日本を飛び出して世界に販路開拓を計画できるスキル
  8. ESG、サステナビリティ:企業の社会的責任を果たすためのスキル
  9. DX(デジタルトランスフォーメーション):業務効率の改善や生産性の向上に活用できるデジタルスキル

会社独自の項目

前述した9つの項目はさまざまな業種に共通する項目です。しかし会社が抱える課題は同一ではありません。そのためスキルマトリックスにも業界や会社独自の項目が加わります。

たとえば製造業の場合、製造や技術、研究開発などの項目をくわえて、より効果的なスキルマトリックスを作成します。自社ならではの必要スキルがあれば追加しておくとよいでしょう。

選定理由

スキルマトリックスは取締役会の体制に求められる事項を整理して必要なスキルを明確化したもの。しかし多くの場合「どのような意図でそのスキルを選定したのか」「取締役会のメンバーとしてどのような知識や経験を期待しているのか」が明示されていません。

スキルマトリックスの作成時には、項目の定義や選定理由を明確に記載してその必要性を説明する必要があります。

立場や役割によっても異なる項目

企業経営に必要なスキルは立場や役割によっても異なります。もちろん多くの立場や役割に共通するスキルもあるでしょう。しかし執行を行う取締役に必要なスキルと、監査を行う取締役や監査役に必要なスキルは必ずしも同一とは限りません。

そのためスキルマトリックスでは、取締役が保有するスキルを開示するだけでなく、経営環境や事業特性などに応じて必要な情報を開示するのです。

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4.スキルマトリックスの作り方

スキルマトリックスは具体的にどのような手順で作成を進めればよいのでしょうか。ここではスキルマトリックスの作り方を3段階にわけて説明します。

  1. 必要なスキルの選定
  2. 現在保有するスキルを確認
  3. スキルマトリックスの承認

①必要なスキルの選定

はじめに取締役会に必要なスキルを選定し、なぜそのスキルが必要なのか、説明できるようにします。

実際のところ説明まで行う企業は少ないです。しかし他社との差別化を主張する、説得力を高めるなどの理由から、必要スキルの説明ができるよう準備しておくことが望ましいとされています。

ダイバーシティやサステナビリティの要素を含めて説明できれば、コーポレートガバナンスコードの改訂を取り入れたことが証明できるため、より説得力も高まるのです。

現状を把握

スキルマトリックスに必要なスキルを選定するには、現状を正しく把握しておかなければなりません。

なかには「現在のスキルを抽出してそれらがバランスよく配置されるよう列記した」「過度に必要スキルを割り振って意図的にバランスよいマトリックスを作成した」というケースもあります。しかしこれでは本末転倒です。

既存の取締役を評価した結果、スキルの偏りが出てきたり、費用なスキルが不足していたりするかもしれません。そのギャップを発見することこそが、スキルマトリックス作成の目的でもあります。

②現在保有するスキルを確認

項目が決まったら、各スキルを保有している取締役をプロットしていきます。この際専門性や経験の発揮を「期待」するスキルではなく、現時点での「保有」スキルを主眼に置くとよいでしょう。

スキルマトリックスの作成には取締役会が備えている、あるいは不足しているスキルを示すという目的があるからです。なかには実際に保有しているスキルに「〇」、選任した期待理由に「◎」を記入して両者を示す場合もあります。

スキルレベルの基準

どのレベルをもって「スキルを保有している」というのでしょう。これについては、一定以上の高度な水準に達しているかを基準とします。取締役のスキルレベルが企業全体としてのスキルになり、高い水準にそろえておくと企業の信頼性担保につながるからです。

③スキルマトリックスの承認

最後に取締役会や経営会議などでスキルマトリックスの承認を得ます。総務部やIR、広報などで作成した案を遅延なく取締役会に報告。そして機関で承認されたスキルマトリックスを株主総会や社外に向けて適時公開します。

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5.スキルマトリックス開示の注意点

スキルマトリックスの作成および開示における注意点は3つです。

  1. 社内用と外部公開用、2種類のスキルマトリックスを準備する
  2. 昇格予定者にも留意
  3. スキル項目の具体化と定義

①社内用と外部公開用、2種類のスキルマトリックスを準備する

スキルマトリックスは閲覧者の視点によって重視するポイントが異なります。そのため社内の担当者用と外部の関係者用の2種類を作成することが推奨されているのです。

社内用のスキルマトリックスには各取締役が持つスキルやそのレベルを表示して「組織力強化」のツールにします。また外部用のスキルマトリックスはひと目で現状が把握できるよう、全体的な保有スキルを記載するとよいでしょう。

②昇格予定者にも留意

スキルマトリックスを作成する際は、現段階の取締役会だけでなく後任が就任した際の全体像をイメージできるよう、昇格予定の取締役に留意したスキルマトリックスを作成します。

現在と将来のスキルマトリックスを作成すると、現取締役会メンバーが退任した場合の全体像を先に考えられるのです。さらに未来の取締役候補が準備すべきスキルも見えてくるでしょう。

③スキル項目の具体化と定義

スキルマトリックスの項目は、それぞれの定義と各項目の選定理由を明確にすることが肝要です。

これらが具体化されていないと、取締役会でどのような知識および経験を期待しているのかがわかりません。以下を参考に、選定理由や定義を具体化しておくとよいでしょう。

  • 国際性や多様性に関するスキル:候補者の属性(国籍)を示す
  • 海外業務や海外経験:候補者の具体的な経験や知見を示す
  • グローカル経営力:必要な経験や知見を独自に定義したうえで示す

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6.スキルマトリックス開示企業の事例

コーポレートガバナンスの強化を目指して、さまざまな企業がスキルマトリックスを開示しています。以下3社の開示事例について説明しましょう。

SOMPOホールディングス

各取締役の顔写真を掲載したスキルマトリックスを公開。同ページに男女比や指名委員会の内訳などを円グラフで添えて、閲覧者が欲しい情報を探すのに複数ページを行き来しなくてよいよう工夫している事例です。

またスキル項目に「ESG、SDGs」をくわえ、全社的な取り組み姿勢もアピールしています。

ニトリホールディングス

スキルマトリックスで14の項目を定めています。そのなかでも独自の視線として投資家が注目しているのが「現状否定と変化、挑戦」の項目です。

同社のガバナンス基本方針では役員選任に求める資質として「つねに現状を否定して困難な課題に挑戦する人材」と記載しています。独自の項目を取り入れたスキルマトリックスの開示によって、取締役会の独自性、多様性がアピールできたという事例です。

資生堂

化粧品の国内シェアでトップを走る資生堂は、スキルマトリックスで経営や国際戦略に長けた取締役が多いこと、グローバル経営に強みを持っていることなどをアピール。一方現状は法務に関するスペシャリストが少ないことも開示しています。

このようにスキルマトリックスを見ればその企業が何に力を入れているか、何を課題としているかが明確になるのです。