成果主義は、近年、日本企業での導入が広がっている人事制度です。一体どのような制度なのか、成果主義について解説します。
目次
1.成果主義とは?
成果主義とは、従業員の仕事の成果や成績、実力などに応じて待遇を決定する人事制度です。成果主義で決定される待遇には、下記のようなものがあります。
- 給与など、金額に関するもの
- 昇格など、社内の地位などに関するもの
成果主義が人事制度に導入されると、年齢、勤続年数、学歴、経験などに待遇が左右されなくなります。
成果主義を英語でいうと
成果主義は、英語で「Result-based Human Resource Management」と表記します。
2.年功序列とは?
年功序列とは、勤続年数や年齢などを基準にして待遇を決定する人事制度のこと。従業員の成績や成果とは関係なく、「社歴が長くなる」「年齢が高くなる」点に評価の重きを置きます。
3.成果主義が広まった背景
成果主義が広まった背景には、1990年代のバブル崩壊があります。業績が悪化した会社にとって、「成果を上げていない従業員にも高い給与を支払っている」「勤続年数が長い従業員の人件費が膨れ上がる」といった問題は、大きな負担となっていました。
終身雇用制が崩壊した結果、働き方が多様化したことも相まり、正社員以外に、派遣や請負、パートタイマーといったさまざまな雇用制度が選択肢として登場します。その結果、従業員の成果に応じて給与を支払う成果主義が広まっていったのですた。
4.成果主義の目的
成果主義を有効活用するためにも、成果主義の目的について理解しておきましょう。
人件費の適正化
年功序列制では、人件費は年々増加していくばかり。高騰し続ける人件費を抑えるだけでなく適正化していくには、成果に応じて待遇を決定する成果主義が非常に有効なのです。
成果のため自発的に活動できる人材の育成
成果や結果、成果を挙げる過程が評価される制度では、「成果を挙げるために何をすればよいのか」を自ら考え、行動できる人材が育成されます。
適切な評価制度の整備
成果や結果、成果を挙げる過程を客観的に評価できる制度を整備できるとどうなるでしょうか。被評価者である従業員も納得できる評価制度になり、不公平感など不満が減って、従業員満足度も向上します。
5.成果主義の特徴、タイプ
成果主義には特徴があります。成果主義をより深く知るためにも、特徴2つについて知っておきましょう。
成果「のみ」の判断ではない
成果主義というと、成果や結果のみを問うと考えがちでしょう。しかし成果主義では、成果や結果だけでなく、成果や結果に至った経緯や背景、過程も含めて評価するのです。
数字だけを基準とすると失敗しやすい
営業や販売の成績といった数字だけを成果主義の基準にしてしまうと、「数字に表れない部分の評価がおざなりになる」「従業員からの不満が噴出しやすい」などによって、人事評価そのものが失敗しやすくなってしまいます。
6.成果主義のメリット
成果主義の導入によって得られる4つのメリットについて、解説します。
- 人件費の適正化
- 評価制度が適切なものに
- 人材育成
- 生産性の向上
①人件費の適正化
従来の年功序列による賃金体系では、従業員の年齢が上がれば人件費も高騰します。しかし成果主義を導入すれば、年功序列で高騰しがちな人件費を、成果に応じて分配でき、人件費の適正化に役立つのです。
②評価制度が適切なものに
成果主義を導入すると、企業全体で成果や結果、その過程を注視するため評価制度が適切なものに変わります。その結果、成果を挙げた従業員が適切に評価され、従業員満足度が高くなるのです。
③人材育成
成果主義が導入されると、人材の育成や採用に良い効果をもたらします。
- 従業員自ら「成果を挙げるためには何をすべきか」を自発的に考えるようになる
- 成果主義が採用方針に盛り込まれるため、成果に対する意識の高い人材を採用できる
④生産性の向上
成果主義を導入すれば、効率よく成果を挙げるために、労働時間や業務の「ムリ・ムラ・ムダ」を少しでも減らそうと努める従業員が増えるのです。その結果、会社全体の生産性が上がります。
7.成果主義のデメリット、問題点、課題
成果主義には、メリットだけでなくデメリットもあるのです。成果主義のデメリット5つについて、解説しましょう。
- 評価基準の設定
- 評価の差
- 個人プレーに走ってしまう可能性
- モチベーションへの影響
- 評価項目を重視
①評価基準の設定
評価基準について、「すべての部署や部門の評価を定量的な項目に落とし込む」「成果をどのような基準で評価するのか設定する」などの合意を社内で得ることは困難といえます。成果主義の根幹となる評価基準の設定が困難な点は、デメリットとなるでしょう。
②評価の差
評価基準を設定しても、部署の特性によっては評価に差異が生じる可能性も。その場合、部署間の評価の差異や誤差をどのように調整していくか、どのように納得してもらうかが、大きな課題となるのです。
評価の差は従業員の不満に直結するため、注意したいところでしょう。
③個人プレーに走ってしまう可能性
個人プレーとは、従業員が組織の利益よりも自分自身の利益追求を優先すること。かつて三井物産でも、組織内で個人主義が台頭する事態が起き、大きな問題となりました。個人プレーは部署など組織のみならず、企業そのものの崩壊をもたらす危険性があります。
④モチベーションへの影響
「成果が思うように挙げられない」「果を挙げるための過程で思ったようにうまくいかない」といった場合、成果主義では評価がマイナス方向に傾きます。その結果、スランプに陥る従業員が離職してしまうなど、従業員のモチベーション低下が起こります。
⑤評価項目を重視
評価項目の重視とは、成果の評価項目を設定することで、その評価項目のみに力を注いでしまうケースです。このような場合、評価項目以外の業務がおろそかになるだけでなく、全く手つかずになってしまう可能性も。
評価項目と非評価項目共に取り組んでもらうことが、難しくなってしまうのです。
8.成果主義を導入する際のポイント、注意点
成果主義を導入する際に意識したい内容があります。4つのポイント、注意点を見ていきましょう。
- 成果は「一人」で得られるものではない
- 心理的報酬
- どの部署も納得いく評価制度を
- 評価者のトレーニング
①成果は「一人」で得られるものではない
成果主義を追求しすぎると、個人プレーが横行したり企業体が崩壊したりといったリスクが発生します。下記のように、成果は一人では生み出せないことを会社組織に定着させる必要があるのです。
- 個人プレーでは得られない成果があることを周知徹底する
- サポートしてくれる仲間や環境が成果に大きく関与する、という理解を深める
②心理的報酬
心理的報酬とは、ねぎらいの言葉掛けなどのこと。上司が部下に対して業務への取り組みをねぎらうといった心理面での報酬を得られる仕組みの構築が重要になってきます。1on1ミーティングなどを活用して、コミュニケーションを図るとよいでしょう。
③どの部署も納得いく評価制度を
どの部署に配属されても、誰もが納得できる評価項目や評価基準の設定は、重要な問題です。評価項目や評価基準の決定の際には、「アンケートの実施」「話し合い」など、それぞれの部署や業務を相互で理解し、お互いが納得できる一致点を探しましょう。
④評価者のトレーニング
評価項目や評価基準を設定できても、評価者がその評価基準に基づき適切な評価ができなければ、被評価者である従業員の不満はたまってしまいます。
たまった不満が業務に悪影響を及ぼすような事態に陥らないためにも、「評価者の評価技術トレーニングを実施」「評価者のレベルを一定に保つ」などの工夫も必要です。