ROIC(投下資本利益率)とは?【意味を簡単に】計算式、経営

ROIC(投下資本利益率)とは、投資した資金に対して得られた利益の割合を表す指標です。計算式、ROIC経営、導入のメリットなどについて解説します。

1.ROIC(投下資本利益率)とは?

ROIC(ロイック)とは、企業が投下した資本から得られた利益の割合を示す経済指標です。「Return on Invested Capital」の頭文字をとった略称で、日本語では「投下資本利益率」と訳されます。

企業における主な資本とは、営業利益などの自己資本や、銀行からの借入や株主からの他人資本のこと。これらの資金を事業活動へ投入して本業利益を生み出します。ROICは、投入したこれらの資金をどれほど有効活用できているかを測る指標なのです。

またROICは自己資本だけでなく負債も含めて判断するため、企業の総合的な収益性を判断する基準として適しています。

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2.ROICの計算式

ROICは、次の計算式で求めます。

ROIC(%)=税引後の営業利益÷投下資本×100

たとえば1,000万円の投下資本から200万円の利益を得た場合、ROICは20%となります。

200万円÷1,000万円×100=20%

ただし投下資本を求める方法は、資金調達側と資金運用側のどちらに着目するかによって異なります。

  • 資金調達側に着目した場合:投下資本=有利子負債(銀行からの借入金)+株主資本(株主からの出資)
  • 資金運用側に着目した場合:投下資本=運転資本(売上債権と棚卸資産の合計から仕入債務を差し引いたもの)+固定資産

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3.ROICが注目される理由

2014年に発表された「伊藤レポート」を契機にPL(損益計算書)重視の経営が見直され、多くの企業でROE(自己資本利益率)の向上に取り組み始めました。企業がROICへ注目した理由について解説します。

投資家が利益率を追求

投資家が企業に対して「利益額」ではなく「利益率」の向上を求めるようになり、ROICが注目されました。ROICを見ると、その企業が投入した資本に対してどれだけ効率的に利益を上げたかを把握できます。

そのため投資家にとって、企業の成長性や収益性をより正確に判断するための材料になるのです。投資に値する企業かを測る指標として、多くの投資家がROICを参考にしています。

伊藤レポートの発表

2014年に発表された経済産業省の伊藤レポートは、ROICへの関心を呼び起こすきっかけとなりました。レポート内で「グローバルな投資家に認められるには最低限8%のROEを達成する必要がある」と指摘したからです。

レポートの発表後、企業はROEの改善に力を入れるようになり、事業別に管理しやすい基準であるROICを意識するようになりました。

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企業のグローバル化やグループ化が進展

企業のグループ化やグローバル化、それにともなうポートフォリオ経営の増加なども、ROICが注目されるようになったことが理由です。

ポートフォリオ経営とは、事業の再編や統一などを行って資本を効果的に分配し、利益を最大化する経営手法のこと。

ポートフォリオ経営では、各事業の収益性や成長の見込みを詳細に分析する必要があります。「ROE(Return on Equity:自己資本利益率)」も利益率の指標として用いられてきたものの、ROEでは事業ごとに自己資本を算出しなければなりません。

そこで投下資本を細かく区別しないROICが浸透していったのです。

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4.ROIC経営とは?

ROIC経営とは、経営戦略にROICを主要な指標として活用する経営手法です。企業の経営状態を評価するためにROICを用います。

また複数の事業のROICを比較して付加価値の高い事業を特定し、事業の再編成や資本分配などを判断する際にもROICを活用できるのです。ROICが高いほど費用対効果に優れており、持続性が高い事業といえます。

一般的に望ましいといわれているROICの数値は7%以上。7%未満の事業は赤字に陥るリスクが高いため、改善の必要があります。

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5.ROICツリーとは?

ROICツリーとは、ROICの構成要素を分解する過程を視覚的に表現するフレームワークです。企業の収益性と効率性の要因を可視化できるため、経営戦略の立案や経営陣と現場との意思疎通に役立ちます。ROICツリーを使った分析方法について説明しましょう。

分析方法

ROICの分解分析では、投下資本利益率を営業利益率と投下資本回転率にわけ、さらにそれぞれを構成する要素へ細分化していくのが一般的です。

たとえば売上高営業利益率は売上原価率や販管費率へ、投下資本回転率は運転資本回転率や固定資産回転率へ分類。これらをさらに細かく分解していきます。

最終的には「原価率」「人件費率」「広告宣伝費率」などへ到達。このように各部門のROICを構成している要素を洗い出すのです。

オムロン株式会社の活用例

ROICツリーは、自社のニーズに合わせてカスタマイズすることが肝要です。

たとえばオムロン株式会社は、独自の「ROIC逆ツリー展開」を導入し、各部門のKPI(目標を達成するための具体的な行動指標)になるまでROICを細分化しました。

現場レベルのKPIに落とし込むことで各部門の目標と企業の方向性が一致。組織全体でROICの向上に取り組めるようになりました。

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6.ROICとROE・ROAとの違い

資本利益率を表す指標としてROICのほかに、ROE(自己資本利益率)とROA(総資産利益率)が上げられます。これらとROICの違いを解説しましょう。

ROEとの違い

ROE(自己資本利益)は当期の出資に対してどれだけ利益を出したかを示す指標で、投資目線で評価する際に用いられます。ROICとの違いは、計算に「当期純利益」や「有利子負債」を用いる点です。

ROEは「当期純利益÷自己資本×100」で求めます。

ROEの自己資本は投下資本から有利子負債を差し引いたもの、当期純利益は管理コストや税金などを差し引いた最終的な利益です。ROEの目安は5%以上であるものの、自社株買いで見かけの数字を操作できるため、信頼性がより高いのはROICだといわれています。

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ROAとの違い

ROA(総資産利益率)は企業が保有するすべての資産から得た利益率を示す指標のこと。ROICとの違いは「総資本」と「当期純利益」を用いて計算する点です。

ROAは「当期純利益÷総資産×100」で求めます。

ROAの当期純利益には本業以外で得た利益も含み、総資産には事業とは直接関係ない資産も計上。本業以外の不動産収入や投資利益を得るとROAの数値は上がり、現預金などを多く保有していれば数値が下がります。

そのためROAは実際の経営状況を正確に反映できない可能性があるのです。

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7.ROICのメリット

ROICは企業の成長に欠かせない指標として、多くの企業が導入しています。ROICのメリットを3つ解説しましょう。

セグメントごとの管理が可能

事業セグメント(事業単位)で資本運用を管理できるのがROICのメリットです。

経営者は、限られた資金をどの事業や部門に投入すべきかを判断しなければなりません。ROICを活用すれば、各事業に投入された資本に対して適切なリターンが得られているかを判断できます。

ROEやROAと異なりROICは特定の期間を設定せずに分析可能。中長期的に利益率が低い事業セグメントを発見するきっかけにもなりえます。低迷している事業に資金を投下すべきか、撤退するかを決める際、ROICは重要な判断材料となるのです。

収益性を正確に評価

収益の効率性を正確に把握できるのも、ROICの利点です。

ROEやROAは計算に自己資本や総資本を用いるものの、これらは「自社株買い」で数値の操作できます。そのため母数となる資本の信憑性が下がるのです。

一方ROICは投下した資本とそれによって得た利益にもとづいて算出されるため、調達コストに応じた収益力を正しく評価できます。

資金調達が容易

ROICの導入により、資金調達が容易になるメリットもあります。ROICは投資と利益率の関係性を正確に示すため、ROICを導入している企業は投資家や金融機関からの信頼を獲得しやすくなるからです。

ROICの数値が一般的な水準の7%を満たしていれば、優良企業とみなされて融資につながる可能性も高まります。

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8.ROICのデメリット

ROICのデメリットは、計算式が難しくて理解に時間がかかる点と、業種や企業のフェーズによって有効性が変動する点です。

計算が複雑

ROICは、ROEやROAよりも正確な利益率を算出できる分、計算式が複雑です。「税引後の営業利益÷投下資本×100」で計算し、各項目の算出に手間がかかります。

またそもそも投下資本の概念をすぐに理解するのが難しく、計算式の意味を理解するのに時間がかかる場合もあるでしょう。ROICを指標として用いる前に、社内での研修するといった準備が必要です

状況や業種によって有効性が変動

ROICの有効性は、業界や企業の状況に大きく左右されます。

とくにサービス業では投下資本を使わず事業拡大を行うケースも多いため、ROICによる評価が最適とは限りません。

また企業は「創業期」「成長期」「安定期」「衰退期」の4つのフェーズにわかれるものの、ROICが効果的なのは安定期前後。

創業期は成果が出るまでに至らない場合も多く、ROICが低くなりがちです。衰退期は利益の効率性よりも健全性を重視するため、ROIC以外の指標をより注視するでしょう。

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9.ROICの注意点

ROICの計算は複雑で、現場での導入が難しい側面もあるため、導入する際に注意が必要です。そのほかに知っておきたい3つの注意点を説明します。

評価期間は複数年に設定

ROICを上手に利用するポイントは、評価期間を数年、つまり中期に設定すること。評価期間を1年といった短期に設定してしまうと、その年度のROICしかわかりません。

事業の実力や将来性を判断できず、本来稼ぐ力のある事業への投資を切り捨ててしまう恐れもあるでしょう。

投資してから実際に成果を生み出すまで、数年単位の時間が必要です。評価期間を3年から5年の中期に設定すると、経営力や事業の利益率をより正確に判断できます。

WACCを上回っているかを確認

ROIC導入後は、つねにROICがWACC(Weighted Average Cost ofCapital:加重平均資本コスト)を超えているかを確認すべきです。

WACCとは、企業が資金調達にかけているコストのバランスを表す指標のこと。具体的には配当や利息の支払いや、借入にかかるコストが含まれます。つまりROICの数値がWACCより高ければ、投下した資本以上の利益を獲得できたことを意味するのです。

出資者はROICとあわせてWACCにも注目するため、他人資本を用いた事業ではROICがWACCを上回る必要があります。

企業に合った評価の実施

ROICは経営力や事業の収益力を正確に評価し、企業価値をさらに高めていくための指標です。

しかしROICを最大限に活用するには、ROICの数値だけで事業の価値を判断してはいけません。各事業の成長フェーズ、売上額や利益額、戦略、WACCとの比率もふまえたうえでROICを評価すべきです。

また計算式の分子部分に何を用いるべきかも、管理の方針によって事業によって変わります。たとえば法人税を差し引かない「税引前営業利益」を分子に使うと、計算やデータの準備を簡素化できるでしょう。