適材適所とは? ビジネス用語としての意味、必要性、判断要素、実践方法について

多くの企業において、適材適所を意識した人事が行われています。しかし、適材適所の実現は容易ではありません。

  • 適材適所の意味とその効果
  • ビジネスでの活用法から効果的な適材適所の成功例まで

解説します。

1.適材適所(の意味)とは?

適材適所とは事業や組織のニーズに対して、人的資源の最適化を実現すること。適材適所になっているかどうかで、その組織の仕事の効率性や意思決定の有効性が決まるとされています。

適材適所によって、

  • 仕事を正確に(作業を適切に)行う
  • 人員、予算、装置などの限られた資源をうまくやりくりする
  • 最小のインプットで最大のアウトプットを引き出す
  • 必要なことを行い、目標が達成できるよう業務を遂行

などの効率性と有効性をともに実現するのです。

適材適所の効果

適材適所の実現は、以下のような効果をもたらします。

  • 社員の定着率向上
  • 人件費の削減

社員の定着率が向上する

適材適所の人事配置ができていると、社員は「自分のしたい仕事ができる」「仕事を通じて自分を高められる」という充実感を得られます。仕事に充実感が生まれれば、会社への帰属意識も高まり、社員の定着率向上につながるでしょう。

反対に、適材適所になっていない職場は、社員に「仕事をやらされている」という意識を生むため、離職の原因になります。

人件費を削減できる

各社員が自分の力を十分に発揮できる環境にあれば、人件費の削減につながります。人事配置が適材適所になっておらず、「やらされている」感覚で仕事に取り組めば、当然生産性は低下するでしょう。

たとえば、本来持つ力の70%しか発揮できない場合、不足分の30%を補うには、新しい人材を補充したり、現在の人員を残業させたりしなければなりません。そうなると、無駄な人件費が発生します。

社員がパフォーマンスを最大限に発揮できる人事配置にすることで、人件費の削減にもなるのです。

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2.日本の長期雇用制度では適材適所を実現しにくい?

現実的に見て日本の雇用システムでは、適材適所な人事配置を実現しにくい状態となっています。

日本でいまだ根強く残る長期雇用制度には、中長期的な人材育成の考え方や、組織による人材の囲い込み・引っ張り合いなどから、優秀な人材を手放そうとしない点が見られます。風土が適材適所な人事配置を妨害している、ともいえるのです。

失業率が低い=適材適所を見つけにくい

日本は諸外国に比べて失業率が低いため、一見良い状況に思えるでしょう。しかし、別の見方をすると、これは流動的な労働市場がない状況でもあるのです。

日本の企業経営者の多くは、人材を企業の力として中長期的に育成しようとしているため、転職を厄介なもののように感じています。

しかし、適材適所な人事配置をするには、労働者自身がより自分に適した、より自分の能力を発揮できる職場を求めなければなりません。日本の失業率が低いのは、自ら適材適所を実現できる居場所を求めて仕事を辞めることが文化として根付いていない証でもあるのです。

諸外国では転職活動を通じて適材適所を実現している

諸外国は一般的に、3~5年サイクルで転職を行います。そういった労働者は、時には厳しい転職活動を通じて、適材適所を実現しているのです。また、就労条件が悪いと感じた場合、スキルアップに時間やお金を費やすなど、より高い給与を得られる機会のために行動する傾向があります。

労働者のみならず海外のグローバル企業も、事業戦略の実行に必要な人材をその時々の人材市場から採用しているのです。現代は競争環境が短期間で変化します。その波に乗るためには、適材適所な人事配置を実行する必要があるのです。

3.適材適所の判断に必要な要素とは?

組織戦略に沿って仕事に最適な人材をアサイン」。一見シンプルな原理原則に思えますがなかなか難しいものです。どうしてこのように思うのでしょう?それは適材適所に取り組む際、人材の能力だけに注目することは不十分だと考えられているからです。

  1. 時間軸
  2. 個人の性格や気質
  3. 属人的なネットワーク

①時間軸

適材適所に取り組む際問題となるのが、どの時点で人の能力を評価し、仕事とマッチングさせるか、ということ。

ある一時の姿でのみ評価され、仕事にアサインされることも少なくありません。しかし人の能力は固定的ではなく、仕事や周囲のメンバーによって変化します。また、中長期的な視点における戦略的人材育成という切り口も欠かせません。

②個人の性格や気質

心理学の分野では、多くの研究から、意思決定への寄与因子には意思決定者の性格が含まれることが示唆されています。

たとえば、外交的でアグレッシブな性格の人と、内向的で慎重な人が行った意思決定を比較したとしましょう。その人たちが同等レベルの能力を有し、同じような仕事を与えられていたとしても、結果が異なる可能性は高いのです。

このように、ある程度定量的に示すことができる本人の能力だけでなく、その人の性格や気質といった定性的な要素も、適材適所の実現に重要な要素となります。

③属人的なネットワーク

組織には公式的な指示命令系統や情報伝達経路だけでなく、組織内外に張り巡らされる属人的ネットワークが多く存在します。情報をはじめとした、意思決定を左右するさまざまリソースをどの程度獲得できるかは、各個人の形成するネットワークによって異なるでしょう。

また、誰と誰が配置されているかという人と人とのマッチングによってパフォーマンスが左右される可能性もあると考えられています。

4.ビジネスで適材適所を実践するには?

ビジネスの現場で、適材適所の人材配置を行うことは容易ではないでしょう。また、一度配置すれば完了ではありません。常に気を配っていなければならないのです。

適材適所のために、人事として意識しておきたいことや行うべきことを解説しましょう。

適材適所は流動的である

人は日々成長します。極端な話、1日で別人のように成長するケースもあるでしょう。

たとえば、仕事を割り振ったり業務分担を行ったりするときにリーダーがメンバーの現在の能力や実力、性格、向き不向きなどを考えながら「適材適所」を行ったとしましょう。しかしそれは、翌日には適材適所になっていない可能性もあるのです。

適材適所を行う場合、現在の能力や実力を基準に判断してはいけません。まずは会社やチームのビジョンを明確にします。

  • このメンバーには半年後、これくらいのことをやってほしい
  • これくらいはできるようになっているであろう

流動的と認識しつつ、先を見通しながら人事を行うのです。

人材の適材適所を生かす方法

適材適所に人材を配置するには、役割・業務分担の作成が欠かせません。まずは以下の2点を行います。

  1. 業務の棚卸し
  2. PDCAサイクルを回す

①業務の棚卸し

業務の棚卸しとは現状をすべて書き出し、重複している業務や効率の悪い作業がないか、徹底的に洗い出すこと。その際、極端に時間がかかる業務があるなど問題点が見つかれば、必要に応じて分析する時間を設けましょう。

  • 業務が標準化されているか
  • 業務量に偏りがないか

を十分にチェックし、役割や業務分担が明確になったら分担表を作成します。

②PDCAサイクルを回す

適材適所は、PDCAサイクルを回し続けることで実現するのです。分担表に従って人材を配置した後は、

  • 社員が効率的に働けているか
  • 役割分担に問題がないか

をチェックし続けなければなりません。

一度完成した適材適所の状態は、いつまでも続きません。社員の能力は、仕事の経験を積み重ねることで変化しますし、社員自身もまた、経験の中で成功や失敗を繰り返しながら、自分の適性ややりがいを感じられる仕事を見出します。

人材の適材適所は人事部門の独断ではなく、現場の意見を丁寧にヒアリングした上で行う必要があるのです。

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適材適所の配置を成功させるコツ

適材適所の人材配置は、人事担当者やリーダーが行うものだと考えられがちでしょう。しかし、社員自身の「これがやりたい」という意思こそ重要な要素となるのです。人は、やりたいことに対してのやる気や集中力、成長のスピードは持続します。

適材適所については社員自身が一番よく知っている、という視点から各社員と繰り返し面談しましょう。

やりたいことが分からないという社員には、

  • 褒める
  • 役割やポストを与える
  • やりたいことについて考える時間を設ける

など「やりたいことを見つけるサポート」をする必要があります。社員それぞれが自分の適材適所について理解できたときが、適材適所の人材配置の成功といえるでしょう。

5.松下幸之助の適材適所とは?

画像引用:NIKKEI STYLE「私の履歴書復刻版」https://style.nikkei.com/article/DGXMZO00246360Y6A420C1000000

一代で世界的企業をつくり上げた松下幸之助は、適材適所の実行に優れていました。特に、リーダーは適性のある人を任に就かせなければグループは発展しない、または崩壊する可能性すらあると考えていたのです。

そんな松下幸之助が考える適材適所の経営とはどういったものだったのでしょう。

適任者が適所で働くこと

松下幸之助は、適材適所で働くことは、企業の発展や個人の成長だけにとどまらず、周りの人々にもプラスになると考えていました。

それぞれ異なる才能や持ち味を最大限に発揮できる環境があれば、その人自身は幸せになり、職責もよく果たされ、周りも幸せになると考えていたのです。

適材適所の経営に関する松下幸之助の言葉(抜粋)

松下幸之助は、適材適所の経営に関して以下のような言葉を残しています。

「自分の適性にかなった仕事に生命をかけていくという態度は尊い。だが、その仕事は世間の常識、通念から見れば、高く評価されるものではないかもしれない。それでもその仕事が自分の適性にかなっているならば、生命をかけて打ち込んでいく。そこにこそ、本当の喜びがあるのではないだろうか。そして社会の発展もまた、このような姿において進められると思うのである。」

「適材適所を考える際、仕事それ自体とともに、人の組み合わせについても併せて考える必要がある。長短補いあうような組み合わせをすれば、それによってどちらもより生きてくる。」

適材適所の2つの意味

適材適所には以下の2つの意味があります。

  1. 性格や適性を見極め、ぴったりな職場に配属する
  2. 適性には合わないが、与えられた場で努力することで能力を発揮してもらう

①性格や適性を見極め、ぴったりな職場に配置する

「適材適所」というと性格や適性に合った仕事や職場に配置することを思い浮かべるでしょう。これが適えば、その環境を与えられた社員はやる気と実力を存分に発揮し、充足感のある仕事を得られ、成長にもつながるのです。

②適性には合わないが、与えられた場で努力することで能力を発揮してもらう

一方で、適性に合わない配置になることも。しかし、そこで与えられた仕事に一生懸命取り組めば、それが自分にとっての適所となる場合もあるのです。これが2つ目の「適材適所」です。

当時、松下の録音機事業部でテープレコーダーの開発をしていた社員が、発足以来黒字を出したことのないビデオ事業部に異動になりました。その際、上司は「たとえ上から命ぜられたとしても、自分が希望した仕事と思いなさい」という言葉をかけたのです。これにより、その社員は異動に後ろ向きだった姿勢を翻し、前向きな努力を続けました。

結果、世界の標準となったVHSビデオの開発に携わり、ビデオ事業部の黒字化に大きく貢献したのです。

興味のないことでも自ら興味を持ち、好きになれば努力が苦にならないどころか、楽しんで物事に取り組めます。そうなれば、適材適所の実現も難しいことではありません。

6.徳川家康が重要視した適材適所

画像引用:Wikipedia「徳川家康」https://ja.wikipedia.org/wiki/徳川家康

明治屈指の実業家である渋沢栄一は、「古今東西を通じて、徳川家康という人ほど上手に適材を適所に配置して、権勢を振るった権謀家は他にいない」と評しています。家康は適材を適所に置いて一歩一歩勢力を広げ、着実に地固めをし、その結果権勢を築き上げたのです。。

徳川家康ほど人を絶妙に配備した権謀家は他にいない

徳川家康が勢力を振るうために行った適材適所は、その後の徳川家の繁栄に大きく影響を及ぼしました。

まず、家康は、日本中くまなく、要所には必ず徳川家代々の家来を配置して、有力な大名を封じ込めたのです。関東のほとんどは恩義を抱く譜代の家来で固め、居住としていた江戸城の警護に当たらせました。

大久保相模守は小田原に配置して箱根の関所に睨みを利かせ、御三家は、

  • 水戸家:東国の入口
  • 尾州家:東海道の要衝
  • 紀州家:近畿の背後

それぞれを警戒させました。そして彦根には忠実な井伊直政を配置し、京都に圧力をかけたのです。そのほか、越後には榊原、会津には保科、出羽には坂井、伊賀には藤堂というかたちで腹心を置いています。

結果、家康は自らの勢力を絶対的なものにし、300年と長きにわたって徳川家を繁栄に導きました。

部下の才能や持ち味を生かした徳川吉宗

徳川八代将軍吉宗は、徳川家康の再来とも、徳川幕府中興の祖ともいわれた名君です。吉宗もまた適材適所を心掛け、成果を残しています。

吉宗は非常に思い切った人材を抜擢しました。有名な江戸町奉行・大岡越前守もその一人。吉宗が将軍に就任する際に登用しています。大岡越前守はかつて伊勢山田奉行でしたが、公明正大な裁きを行い、その様子を吉宗が見たことを機に大抜擢につながったのです

吉宗は大岡越前守に限らず、多くの人材をすべて人物本位、能力本位に登用しています。封建時代にあって、吉宗の政治は新鮮に映ったようです。

7.心理学で適材適所を実現する

ビジネスで適材適所を活用する際、心理学の考え方からアプローチする方法もあります。人間にはさまざまな個性があるため、ある程度タイプを分けられるでしょう。

スイスの心理学者、ユングによる「タイプ論」を使用して、適材適所を考えてみます。

ユングのタイプ論(性格分類)

ユングは人間の傾向を、2つの態度と4つの機能に分類しました。

人間は2つの態度、「外交的」か「内向的」のいずれかのタイプに分けられると考えたのです

  • 外交的な人:外部に関心が向くタイプ
  • 内向的な人:自己の内面に関心が向くタイプ

さらに、人の心には「思考」「感情」「感覚」「直観」の4つの機能がある、と仮定しました。何か決断を下すとき、

  • 論理的に結論を下す人は「思考」
  • 気持ちに従って決断を下す人は「感情」
  • 詳細に状況を把握する傾向にある人は「感覚」
  • 全体像をざっくり把握する傾向にある人は「直観」

が優位であると分類したのです。

ユングは、人間は、この態度と機能をかけ合わせた8パターンのいずれかに分類できると考えました。

タイプ論で分かる、適材適所の配置とは?

このタイプ論の中から、例を挙げて説明します。まずは、2つの態度「外交的」か「内向的」かで人材配置を考えてみましょう。

「外交的な人」は人と話したり励ましたり、その場の雰囲気づくりが得意です。そのため、接客の仕事のほか、チームをまとめたり、コーチとして人を指導したりする仕事など、人と関わる仕事が適所といえます。

一方、「内向的な人」は、的確な分析が得意です。この場合、総務や会計の責任者、システム開発といった、後方で自分の裁量のもと働く仕事が向いているでしょう。

しかし、ビジネスの場面においては、うまく配置できない場合も。そのときには、特性を活用できる工夫で配置をカバーしましょう。

たとえば、内向的な人が接客をする場合、分析好きという特性を生かして、自分でまとめたデータをもとに接客方法を考えさせます。そうすることで、人と話すのが得意でなくても接客という業務が適所になり得ます。

できないことよりもできることを生かし、どれを最大限に活用するかを各人が考えることで、適材適所は実現できるのです。