自己肯定感を高めるとは、さまざまなメリットがもたらされます。そんな自己肯定感の定義や低くなる要因、自己肯定感がもたらす影響などについて解説しましょう。
目次
1.自己肯定感を高めるとは?
自己肯定感とは、自分自身をどのくらい肯定的に考えているか、もしくは否定的に考えているかという自己の存在そのものに対する判断や評価のことで、自己肯定感を高めると、希望や自信を持って、日々を過ごせるようになるのです。
自己肯定感のもうひとつの意味
自己肯定感には、「自分自身の肯定的な側面だけでなく否定的な側面も含めてありのままの自分を受け入れている」という意味もあります。先にあげた自己肯定感の意味に対して、自己肯定感の認知的な側面を持っている、とも言い換えられるでしょう。
たとえば「自分はなんてダメなんだ」と感じた際、「今、自分は『自分はなんてダメなんだ』と思っているんだな」と認知するなどです。
自己肯定感の作られ方
自己肯定感を作るのは、主に幼い頃の経験だといわれています。私たちは見たり聞いたりしたことなど幼い頃からの体験をとおして、モノの見方や考え方、自分なりの常識や信念などの観念を形成するのです。
たとえば、幼い頃に両親からひどい仕打ちを受けたという体験は、孤独感や無力感を伴った低い自己肯定感を形成します。一方、いつも誰かから褒められたという体験は、安心感や満足感などを伴って高い自己肯定感を形成するのです。
自分勝手との違い
自分勝手とは、その名のとおり自分さえよければよい、他者の考えは関係ないという感覚のこと。自分勝手は自分を尊重するのみで、相手や周囲を尊重しません。
自己肯定感が高い状態とは、自分と同じように相手を尊重し、相手にも価値があると考えられる状態ですので、自分勝手とはまったく違います。
2.自己肯定感が低くなる原因
自己肯定感の低さは、必要以上に早い諦めや、未来に対する非建設的な考えを招くため、無気力や絶望をもたらす要因だといえます。なぜ自己肯定感は高くなったり低くなったりするのでしょうか。自己肯定感の高低には、次のような要因が考えられるのです。
過去に虐待を受けた経験がある
親からたっぷりの愛情を注がれて育った子と、親から虐待を受けて育った子との間には、自己肯定感に大きな差があります。親からの虐待は、その子の自己肯定感に直結するのです。
虐待を受けた経験のある人が一生低い自己肯定感のままかというと、決してそんなことはありません。詳しくは後述しますが、人間の脳には回復するための能力「可塑性」という性質があります。自己肯定感は、その後の他者とのかかわりによって育てられるのです。
褒められる・認められる機会が少なかった
たとえ親から虐待を受けたことがなく、愛情を持って育てられたとしても「褒められる・認められる」機会が少なければ自己肯定感はなかなか育ちません。
親から愛されていると頭で分かっていても、身近な人に褒められる、認められる経験が少なければ、自信は失われ、自己肯定感は低くなります。「子どもの存在は無条件で褒めるのがよい」といわれるのはこのためです。
自分で選択する機会がなかった
自分で選択していくと、自己肯定感が高まります。
私たちは幼い頃から、何を食べたいか、どんな部活動に入りたいか、どの高校に行きたいか、将来何になりたいかなど、と成長や場面ごとに選択の機会があります。その際、自分で選択する場面が多いと「自分は尊重されている」という感覚が持てるのです。
一方、親が教育ためにと付き合う友達を選んだり、食べるものを選ばせなかったりするとどうでしょうか。子どもは「自分の考えは尊重されない」「自己の存在はどうでもいい」と感じ、結果として低い自己肯定感が生まれるのです。
過保護に育てられた
過保護に接するのは、「あなたにはそれができない」と伝える状況と同じことです。
子どもがけがしないよう必要以上に警戒したり、チャレンジできない環境を与えたりすると、子どもは「自分にはこれができる」という自信を身につけられません。自己肯定感は、自分で決めたことを達成して初めて高まるのです。
幼少期に親との対話が極端に少なかった
たとえ一方的な文句や、具体的な解決策を生み出さない話であったとしても、子どもは話をしっかりと聞いてもらうことで「分かってもらえた」「自分のことを知ってもらった」「自分を受け入れてもらった」と感じます。これは大人も同じです。
幼少期に、親との対話が極端に少なく、「話してもすぐに否定される」「だったらいわないほうがいい」と感じた子どもの自己肯定感が低くなるのも、当然でしょう。
3.自己肯定感の高さは遺伝と育てられ方で決まる
自己肯定感は、子ども時代の育てられ方に起因します。一般的に、3歳から4歳までの働きかけで最初の自己肯定感が決まり、その後12歳頃までに「自分はどういう人間なのか」という自己認識とともに自己肯定感の基本が決まるといわれているのです。
子供の自己肯定感を育てるうえで決定的な要素
自己肯定感を育てるうえで決定的ともいえる要素が「母親から与えられる無条件の愛情」。たとえば物が落ちて大きな物音がしたとします。赤ちゃんが緊張感や恐怖感で泣き出してしまったため、母親はすぐ赤ちゃんをだっこし、安心感を与えようとしました。
この行動こそが、「不安定な状況のなかでも自分は守られている」「ここにいてもいいんだという安心感と信頼感」そして「自己肯定感」を与えるのです。
子供の達成感と自己肯定感の関係
子どもの自己肯定感を高めるには、何かしら「達成した」という経験を積ませることが効果的といわれています。
親は子どもの能力の範囲を見極め、子どもにできることをさせましょう。その際、指示は控えめかつ答えをすぐ出さないようにし、子ども自身が考え工夫できるよう働きかけます。
子どもが自ら考えて行動すると、「自分にはこれができる」「これを達成できる自分には意味がある」と感じます。つまり子どもが得る達成感には、自己肯定感と密接な関係があるのです。
4.自己肯定感がもたらす影響とは?
人が社会で生きていく際、自己肯定感は非常に重要な存在となります。自己肯定感がもたらす影響は広範囲に及ぶもの。自己肯定感が必要以上に低かったり高かったりすると、次のようなシーンでさまざまな影響を及ぼす可能性があるのです。
恋愛や結婚における影響
自己肯定感が高すぎると、自分とは合っていないレベルの相手を望む可能性があります。反対に自己肯定感が低い場合、積極性を出せず、相手と良好な関係を築きにくくなるのです。
仕事における影響
仕事においてはどうでしょうか。必要以上に高い自己肯定感は、身の丈に合ったタスクかどうかを判断できずに失敗する恐れがあります。一方、自己肯定感が低い場合、必要以上に失敗を恐れ、成績やスキルが向上しない可能性も高いのです。
人間関係における影響
適切でない自己肯定感は、人間関係にも大きな影響を及ぼします。自己肯定感があまりにも高い場合、他人を見下してしまう危険性があるのです。また自己肯定感が低すぎる場合は、他人とのかかわりを必要以上に避ける傾向にあります。
適切な自己肯定感は、自分だけでなく周囲にも行動力や原動力を与えるもの。身の丈に応じた自己肯定感を育てることは、人間関係を育てることでもあるのです。
心への影響
自己肯定感が心に及ぼす影響は計り知れません。高い自己肯定力は生きていくことに自信を与えます。たとえ挑戦に失敗したとしても、失敗した自分を受け入れ、改善点を探そうとするのです。
しかし低すぎる自己肯定感は、できない、やらない理由を探し始めます。また精神の病気につながる恐れもあるのです。
5.自己肯定感を高める方法
自己肯定感は子ども時代の育てられ方に起因しますが、大人になってからでも十分変えられます。そんな自己肯定感を高める方法を、9つ見ていきましょう。
すべてに挑戦しなければならない、というものではありません。取り組みやすいものからひとつずつ挑戦してみるとよいでしょう。
- ネガティブを受け入れる
- 肯定的な人と出会い肯定的な言葉を受け入れる
- 肯定的な言葉を増やす
- 上手くやれない自分を許容する
- 「他人の思い」よりも「自分の思い」を優先
- 達成感を作る
- 不満を適度に吐き出す
- 対象から離れる
- 音楽の力を利用
①ネガティブを受け入れる
自己肯定感を高めるということは、自分自身のさまざまな姿を受け入れることでもあります。つらいと感じる自分、苦しいと感じる自分、だめだと思う、恥ずかしいと思う、これらすべてが自分という存在を構成する要素です。
つらいと感じてもよい、苦しいと感じてもよい、と働きかけて、自分自身を受け入れてみてください。ポジティブとネガティブ、どちらも受け入れることから自己肯定は始まります。
②肯定的な人と出会い肯定的な言葉を受け入れる
プラスのメッセージは、自己肯定感を高めるための特効薬です。肯定的な言葉をかけられたら「いやいやそんなことないですよ」「まだまだ自分なんて」と否定せず、素直に「ありがとうございます」と受け取ってみましょう。
「謙遜」という言葉に代表されるように、日本人はとりわけ自己肯定感が低い傾向にあります。他人から与えられる言葉だけでなく、自分が発する言葉も自己肯定感の高低に影響するもの。意識して肯定的な言葉を受け入れてみましょう。
③肯定的な言葉を増やす
自己肯定感を高めるには、肯定的な言葉を増やすことも効果的です。こんな自分は嫌い、こんな仕事は嫌い、の「嫌い」を減らし「好きではない」に置き換えてみましょう。さらに可能であれば、こんな自分が好き、こんな仕事が好き、と「好き」を増やします。
肯定的な言葉は自分自身によい影響を及ぼすだけでなく、周囲にも心地よさを与えるのです。
④上手くやれない自分を許容する
挑戦したもののすべてが成功するわけではありません。うまくいかなかったり、思ったような成果を残せなかったりもするでしょう。
うまくいかないことはショックなことです。しかしそのショックは、挑戦しているからこそ得られる経験です。チャレンジしていなければ、ショックすら感じることはありません。
思ったような結果が残せなくても、挑戦した自分は尊重しましょう。回数を重ね、できたこととできなかったことを意識すると、モチベーションにもつながります。
⑤「他人の思い」よりも「自分の思い」を優先
自己肯定感が低い人は、誰かの役に立たなければ意味がない、役に立たなければ愛される資格がない、と無意識のうちに考えがちです。結果として自分がしたいこと、思うこと以上に他人がしたいこと、他人がどう評価するのかを優先してしまいます。
自分の思いを優先すると、自己肯定感を高めることにつながります。日常生活の中で「自分はどう思うか、自分はどうしたいか」と自分の思いを優先してみましょう。
⑥達成感を得る
自分で自分を褒め、達成感を得ることも効果的です。ある音楽療法専門の施設では、クライアントにピアノやバイオリンなどの演奏ができるよう指導しています。
新しく何かに挑戦し、できなかったことができるようになると「自分にはこれができた」という自信が生まれます。この自信が自己肯定感につながるのです。
⑦不満を適度に吐き出す
ときには自己評価や周囲の目を気にして口をつぐむことも必要です。しかし感情の過度な封じ込めは自己肯定感の低下につながります。
またつらい、苦しい、悲しい、腹が立つといったネガティブな感情は、抑えこんでも消化されずに蓄積されるもの。自己肯定感を高めるには、不満を適度に吐き出すことも必要です。友達や両親、カウンセラーなどに対して声や行動、表情などで不満を伝え、感情を浄化させましょう。
⑧対象から離れる
ネガティブを受け入りたり、達成感をつくったり、さまざまな対策を講じたりしても自己肯定感が高まらない場合、原因が外にある可能性もあります。その場合は、できるだけその対象から離れましょう。
合わないと感じる上司や同僚とは、必要最低限だけのかかわりにします。嫌な友人と無理に付き合う必要もありません。自己肯定感が高まらないのは、必ずしも自分自身が至らないからではないのです。
⑨音楽の力を利用
音楽には、気持ちを切り替えてくれる強い力があります。「音楽療法」と呼ばれる療法があるように、自己肯定感を高めるには音楽の力を利用する方法もあるのです。
自己肯定感を高めたいときは、今の自分の気持ちに合った曲を聴いてみましょう。音楽には、うまく言葉にできない自分の気持ちを代弁してくれるかのような、不思議な力があります。
6.自己肯定感を高めることで得られるメリット
自己肯定感は、私たちの行動や能力、運や縁などさまざまなものに影響を与えるものです。そんな自己肯定感を高めることで得られるメリットを4つ紹介しましょう。
- 自分の感情をコントロールできるようになる
- 楽観的かつプラス思考になる
- 集中力が増す
- 失敗体験より成功体験を活かせる
①自分の感情をコントロールできるようになる
自己肯定感を高めると、自分の感情をコントロールできるようになります。反対にいえば、自分の感情をうまくコントロールできないときは、自己肯定感が低いといえるのです。
自分の感情をコントロールするスキルは、コミュニケーションに欠かせません。感情を静め、本来の自分を取り戻せることは、自己肯定感を高めるメリットのひとつです。
②楽観的かつプラス思考になる
2013年に和歌山大学が行った研究によると、自分に関することだけ楽観的な認知が働く「ポジティブ・イリュージョン」と自己肯定感の間には、有為な相関があるそうです。
確率の高い不幸に対しても、自分だけは大丈夫とやや楽観的に捉える感情は誰もが持つもの。自己肯定感を高めれば、この感情をうまく利用できます。逆境のときでも「どうにかなる!」と強いプラス思考が働き、上手に肩の力を抜けるのです。
③集中力が増す
自己肯定感の高い人は、高い集中力を持つ傾向にあります。こうと決めたら脇目もふらずに集中し、作業をこなせるのです。
高い集中力のもとで物事を進めれば、おのずと結果も出やすくなりますし、問題解決能力も高まり、さらなる自己肯定感の向上も望めるでしょう。脳の活力が高まり、集中力が増すことは自己肯定感を高めるメリットなのです。
④失敗体験より成功体験を活かせる
成功体験は達成感につながります。自己肯定感が高まると「あのとき成功したから次もきっと大丈夫」と自分自身を本気で信じられるようになるのです。
自己肯定感を高める方法のひとつに「スモールウィンの積み重ね」があります。スモールウィン、つまり小さな成功を重ねると自己肯定感が高まり、大きなことを成し遂げるパワーにつながるのです。