みなし残業とは?【わかりやすく】違法性、固定残業違い

みなし残業を導入する企業が増えていますが、求人欄に「みなし残業代を含む」と書かれている場合、どのような意味を持つのでしょうか。就職・転職活動を行うなら、みなし残業がどのような制度なのかを知っておく必要があるでしょう。

ここでは、みなし残業のメリットやデメリット、違法性はあるのかどうか、みなし残業を導入する場合の手順と注意点などについて解説します。

1.みなし残業(固定残業代)とは?

みなし残業とは基本給に一定時間分の残業代を含めて支払う制度のことで、固定残業制度とも呼ばれのです。裁量労働制に基づいた概念で、実労働時間ではなくみなし時間に合わせて残業代をあらかじめ支給することが認められています。

たとえば「20時間分の残業代を含む」と規定されている場合、その月に時間外労働(残業)が発生しなくても、20時間の残業があったものと見なして対価が支払われます。裏を返すと、「時間外労働が20時間を超えるまで残業代は出ない」ということです。

みなし残業が採用されている場合、一般的には労働基準法上の週40時間を超える時間外労働や夜10時以降の深夜残業、休日出勤に対する手当は支払われませんので、覚えておきましょう。

固定残業代(みなし残業代)とは? メリット、計算方法
毎月の固定給の中に含まれる固定残業代。今回はメリットやデメリット、求人広告への明示義務などについて解説していきます。 1.固定残業代とは? 固定残業代とは、毎月の固定給の中に含まれている決められた時間...

労働基準法第38条の例外

労働時間の計算方法などは、労働基準法第38条に規定されています。企業(使用者)は、労働者の労働日ごとの始業時刻と終業時刻を記録して、実労働時間を正しく把握しなければなりません。

しかし業務によっては、実労働時間を算定することが難しいケースも。たとえば営業職などで社外に出ていることが多い場合、労働者に時間配分を任せたほうが効率的な場合もあります。

このようなケースに対応するため、第38条の例外として「みなし労働時間制」が設けられているのです。しかし企業がこの制度を採用する場合、労働基準法に定められた条件を満たしている必要があります。

たとえば、使用者の目の届かない会社外で業務に従事する、実労働時間の算定が困難といったものです。みなし労働時間制が適用される場合、使用者は労働者の実労働時間を把握する義務から免除されます。

みなし労働時間制

みなし残業とは、労働基準法において、実際の労働時間にかかわらず所定の時間分の残業を行ったものと見なす制度のこと。「みなし残業」や「みなし労働時間制」は、「固定残業制度(固定残業代)」や「定額残業制度(定額残業代)」とも呼ばれます。

しかし法令上の制度ではないため、これらの言葉は法律上には存在しません。

見込み残業とみなし残業の違い
「見込み残業」という言葉もありますが、これは「みなし残業」や「固定残業代(制度)」、「定額残業代(制度)」と同じ意味です。

みなし労働時間数は、実際の労働時間に近いものである必要があります。労働者は、みなし残業が採用されていても、必ずしも残業する必要はありません

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2.みなし残業の制度の仕組み

みなし残業とは、企業が規定する時間外労働分の賃金を給与に含めて支払う制度です。この制度を導入している場合、以下のような割増賃金が給与に含まれていると見なされるのです。

  • 労働基準法上の1日8時間、週40時間を超える時間外労働に対する割増賃金
  • 夜10時から朝5時までの深夜割増賃金
  • 休日出勤に対する割増賃金

みなし残業を導入している企業では一般的に、あらかじめ給与にみなし残業代を含めて支払っているため、これらの割増賃金は支払われません。

そのため「みなし残業分が給与に含まれる場合は、残業代を支給されない」と誤解されることもありますが、それは間違いです。使用者は、設定したみなし時間を超えて残業が発生した分については、残業代を支払う必要があります。

企業が規定したみなし残業時間を超えて時間外労働する場合、その残業分に対する賃金は支払われる必要があります

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3.労働基準法における3種類のみなし残業

現行の労働基準法においては、3種類のみなし労働時間制(みなし残業)が定められています。それぞれの制度の内容を詳しく見ていきましょう。

事業場外労働(第38条の2)

労働基準法第38条の2に、事業場外労働におけるみなし労働時間制の適用要件が定められており、要件に該当する場合、みなし労働時間制の導入が認められるのです。

具体的に想定されている職業は、外回りの営業職や国内・海外旅行の添乗員、バスガイド、在宅勤務(テレワーク)など。事業外労働に加えて内勤業務を行った場合もみなし労働時間に含まれます。

適用要件と具体例

事業場外労働におけるみなし労働時間制の適用要件は下記3点です。

  • 事業場外で業務が発生する
  • 使用者による具体的な指示や管理が届かない
  • 実労働時間を算定することが難しい

たとえば外回りの営業社員が、自宅から営業先に直行し、そのまま直帰した場合について。

営業社員の実労働時間にかかわらず、所定の労働時間を働いたと見なされるため、使用者が残業代を支払う必要はありません。ただし、スマートフォンなどの端末が普及している現代、外回りの営業職でも使用者の管理が行き届く場合、適用されないことがあります。

専門業務型裁量労働制(第38条の3)

労働基準法第38条の3に、専門業務型裁量労働制におけるみなし労働時間制の適用要件が定められています。想定されているのは、高度の専門性や裁量性を持つ職業です。

労働時間の配分や業務進行に関することなどについて、使用者が具体的な指示を出すことは難しく、労働者の裁量に任せたほうが合理的な職業に適用されます。

対象業務

専門業務型裁量労働制の対象となるのは、研究職や情報処理システム関連職、デザイナー、放送番組等のプロデューサー、記者・編集者、コピーライター、弁護士、公認会計士など、厚生労働大臣の指定する19の職種です。

企画業務型裁量労働制(第38条の4)

労働基準法第38条の4に、企画業務型裁量労働制におけるみなし労働時間制の適用要件が定められています。適用が認められるのは、専門業務型裁量労働制と同じように、時間配分や仕事の方法などについては労働者の裁量に任せたほうが合理的な場合です。

対象業務は、経営企画、人事・労務、財務・経理、広報、生産、営業部門の調査・企画・計画・分析業務に限られます。

対象業務や対象労働者

労働基準法第38条の4第1項に、対象業務に対する具体的な指針が挙げられています。

みなし労働時間制は3つのタイプに分けられ、それぞれの適用条件が労働基準法第38条に定められています

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4.みなし残業に違法性はない?

「みなし労働時間制を採用している企業は違法ではないか」と思われることがありますが、必ずしも違法とは限りません。事業場外労働や裁量労働に該当しなくても、企業はみなし労働時間制を導入できるのです。

ただし、みなし労働時間制を採用する場合、「就業規則や賃金規定を雇用契約書に明記する」「みなし労働時間を極端に長く設定しない」「労働基準法に定められた最低賃金をクリアする」などに注意する必要があります。

みなし残業はどの企業も導入できる

労働基準法は労働者の労働環境を守るための最低限の法律で、ここに定められた要件を満たせば、どの企業でもみなし労働時間制を導入できますし、企業独自の就業規則を定めることも可能です。

また、みなし残業代が、労働基準法で定められた割増賃金を超えていれば問題ないという判例もあります。

みなし労働時間制は、使用者・労働者双方にとってメリットのある制度です。労働者は、残業をしなくてもみなし残業代を含んだ給与が支払われ、使用者は残業代を抑えながら実労働時間の管理がしやすくなります。

そのため、みなし労働時間制を導入する企業が増えているようです。

適法なみなし残業の条件

みなし残業の条件として次のようなものが挙げられます。

  • 基本給と残業代がはっきりと分けられている:使用者は、基本給(基礎賃金)がいくらで、時間外労働や深夜労働、休日労働に対する残業代(割増賃金)がいくらであるかを明確に示す
  • 労働条件にみなし労働時間制の採用を明確に示している:使用者は労働者に対して、みなし労働時間制が労働条件であることを就業規則や雇用契約書等に記載し、明確に伝える

これらを満たしている場合、違法ではありません。

みなし労働時間制が導入されているからといって、必ずしも違法ではありません。不安に思う場合は労働基準法の要件を満たしているかを確認しましょう

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5.違法? 注意すべき企業のみなし残業

所定の残業時間を上回る場合は、別途残業代が発生します。どのような場合に請求の対象になるのか、具体例を確認しましょう。

違法であるみなし残業の具体例

たとえば以下のような場合、基本給にみなし残業代(固定残業代)が含まれているとは見なされず、別途残業代が発生します。

月45時間超のみなし残業代支給

「36協定」によって定められている残業時間の上限が45時間です。これを超えてみなし残業代を支給しても、裁判所によって無効と判断されます。

給与明細にみなし残業代の金額と残業時間数が未記載

みなし残業代の金額と残業時間数は明確に区別されている必要があり、区別されていない場合、通常は裁判所から支払い命令が下されます。

就業規則にみなし残業代がどの割増賃金に該当するかを明記がない

ほとんどにおいて裁判所は、口頭で伝えただけの状況をみなし残業代が含まれているとは認めません。

基本給を減らす点について従業員の同意を得ていない

みなし労働時間制の導入にあたり、基本給を減額する場合、従業員一人ひとりから同意書を取得する必要があります。

企業がみなし労働時間制を採用する際、労働基準法を遵守して就業規則に明記するなどといった条件を整える必要があります

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6.みなし労働時間制を採用する企業の割合

みなし労働時間制を導入している企業数は増加傾向にありますが、具体的にどのくらいの割合で導入されているのでしょうか。厚生労働省が実施した「平成30年就労条件総合調査」の結果をもとに確認しましょう。

みなし労働時間制を採用している企業割合 15.9%(前年比+1.9ポイント)

  • 事業場外労働を採用している企業割合 14.3%(前年比+2.3ポイント)
  • 専門業務型裁量労働時間制を採用している企業割合 1.8%(前年比-0.7ポイント)
  • 企画業務型裁量労働時間制を採用している企業割合 0.8%(前年比-0.2ポイント)
  • みなし労働時間制の適用を受ける労働者割合  9.5%(前年比+1ポイント)

前年と比べると事業場外労働の採用企業割合は増えていますが、裁量労働時間制については減少傾向にあるようです。

裁量労働に対するみなし労働時間制は減少傾向にありまが、営業職などの事業場外労働に対するみなし労働時間制は増えているようです

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7.みなし労働時間制の導入ステップと注意点

企業がみなし労働時間制を導入する際、どのようなステップで進めていけばよいのか、ポイントを確認しましょう。

固定残業代の金額の決め方

みなし残業代(固定残業代)の金額を決める際は、下記3点に留意します。

  1. みなし残業代の金額と残業時間数を明記する
  2. みなし残業代に対する残業時間数は月45時間以内である
  3. みなし残業代の採用にあたって基本給を減額する必要がある場合は、労働基準法に定められた最低賃金を下回らないようにする

これらの条件を満たしていないと、万が一訴訟を起こされた場合に不利になります。給与にみなし残業代が含まれているとは認められず、別途残業代を支払う必要が出てくるのです。

就業規則や雇用契約書に規定を設ける

企業がみなし労働時間制を採用する場合、就業規則や雇用契約書などに以下のような要件が明記されている必要があります。

割増賃金の該当額の支払いを明記

みなし残業代が残業代の支払いとして認められる大前提として、就業規則などに規定されている必要があります。

みなし残業代を超えた分の支払いを明記

みなし労働時間制を導入していても、使用者は労働者の残業時間を把握し、超過分は支払う必要があります。

みなし残業代に該当するのが時間外割増賃金、深夜割増賃金、休日割増賃金のいずれなのかを明記

割増賃金を支払う条件は労働基準法に定められているため、みなし残業代を支払う際、この条件を念頭に置いておく必要があります。

みなし残業代の該当額との給与明細に明記

各従業員によって異なるため、就業規則や雇用契約書ではなく給与明細に記載する必要があります。

基本給を減額する場合の注意点

企業が総人件費の負担を増やさずにみなし労働時間制を導入する場合、基本給を減額する必要があります。基本給を減額するには、従業員一人ひとりから同意を得なければなりません。同意を得られない場合、基本給の減額はできません。

社長や経営陣は、従業員を説得して、制度の導入について理解してもらうことになります。また、基本給の減額に同意する書面(同意書)を作成して、各従業員に署名、捺印の上、提出してもらう手続きも必要です。

求人広告においての表記方法

求人広告を掲載する際、みなし労働時間制を採用している場合は、その内容を明記しなければなりません。これは、平成29年に改正された「職業安定法」という法律によるもので、企業が求人広告を出す場合に必ず守るべき義務とされています。

みなし労働時間制の導入について、明示する必要があるのは下記のような内容です。

  • みなし残業代に相当する金額
  • 対象となる残業時間数
  • みなし残業代の計算方法
  • みなし残業代を除外した基本給の額
  • 残業時間がみなし残業代に相当する時間数を超える場合、超過分の残業代を支払う

みなし残業代を含む金額にもかかわらずその旨を記載していなければ、求職者との間でトラブルが生じます。その可能性を考慮して、この法律は改正されました。

みなし残業はどの企業でも導入できますが、労働基準法に則って導入しなければトラブルのもととなってしまいます。

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8.固定残業代以外の残業代を請求するための条件

労働者が、みなし残業代(固定残業代)以外に残業代を請求するには条件があるのです。想定されているみなし残業代に相当する残業時間を超えて働いた場合、別途残業代をもらえます。

たとえば、「20時間分の残業代を含む」と規定されている場合、1カ月の残業時間が20時間以内に収まっていれば、残業代を会社に請求することはできません。

逆に20時間を超えている場合は、別途請求できます。25時間なら5時間分、40時間であれば20時間分の残業代が支払われることになるのです。

また、みなし残業代が時間外割増賃金のみに充てられていると規定されている場合、深夜残業や休日出勤をした分は、相応の割増賃金を会社に請求できます。

みなし残業代が給与に含まれているとしても、みなし残業代に相当する残業時間を超える場合は、別途残業代を請求できます

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9.未払い残業代の請求準備の手順

未払い残業代が発生したときの、請求準備の手順について解説しましょう。

残業代の計算に必要な証拠を集める

企業によっては未払い残業代が発生することも。その場合、企業はみなし残業時間を超えた分の残業代を支払う必要があり、労働者は企業に残業代を請求できます。

しかし、未払い残業代の支払いを請求するには、次のような証拠が必要です。過不足なく手元に準備しましょう。

自身が残業していたことを証明する証拠:タイムカード・勤務時間表・出勤簿などのコピー、交通ICカード(定期)の通過履歴など

残業代の計算に必要となる証拠 :給与明細、就業規則、賃金規則、雇用契約書など

未払い残業代を算出する(計算方法)

残業代の計算式は労働者の1時間当たりの賃金(時給)×残業時間数×割増率1.25=本来支払われるべき残業代で1時間当たりの賃金は、日給÷1日の所定労働時間〈定時〉×21日〈1カ月の勤務日数〉で計算できます。

また、みなし残業代(固定残業代)に相当する残業時間を超えて残業した場合の残業代は、下記の計算方法で求めます。

「本来支払われる残業代」-「みなし残業代」=「未払い残業代」

未払い残業代がある際は、必要な証拠をきちんと集め、計算式でどのくらいの額を請求できるのか確認しておきましょう

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10.企業から未払い残業代を請求する方法

未払い残業代を請求するには、労働者から積極的に動く必要があります。

内容証明郵便で請求書を送る

未払い残業代がある場合、法的手段に訴えることもひとつの手です。その場合、次のようなステップで行いましょう。

  • 就業規則と給与明細などで支払われている額を再度確認
  • 弁護士に相談
  • 会社に内容証明郵便を送付(弁護士名義であれば効果的)

内容証明には、「◯◯の理由で◯◯円の残業代が支払われていません。そのため超過分の残業代を請求します」といった内容を記載します。具体的な理由と請求金額を明示することが大事です。

残業代の請求は2年間で時効を迎えます。しかし、一度でも内容証明郵便で請求すれば、その時効を一時的に止めることができます。

労働基準監督署に通報する

内容証明郵便を送るほかに、労働基準監督署に報告する方法もあります。行政が動けば会社も対応せざるを得ません。また、みなし残業代が規定に沿った形で運用されていなければ、それに対する指摘も行われるでしょう。

未払い残業代について黙っていても企業は支払ってくれません。労働者から積極的に動かなければ戻ってこない、と覚えておきましょう