問い合わせ7割削減、AI vs AI、「AIを使っていないアウトプットは見ない」──人事AI活用の最前線。「人事でAIを使っていますか?」。
この質問に「はい」と答える人は増えました。ですが、その中身を聞くと驚くほどバラバラです。半年でツールを乗り換えた人、問い合わせ対応を7割減らした人、AIに役員の思考パターンを学ばせている人。同じ「AI活用」でも、見えている景色はまるで違います。
今回は、人事領域でAIを実際に使い倒してきた3人に、最前線のリアルを語っていただきました。 この記事のポイント
カオナビ人事用語集では、人事AI活用の「最前線」に焦点を当て、3名の実務家に座談会形式でインタビューを実施しました。ツール乗り換えのリアルからAI面接の「AI vs AI」問題、「AIを使っていないアウトプットは見ない」という宣言まで、それぞれの現在地をお届けします。
※本記事に登場する方々のお名前はすべて仮名です。
座談会メンバー
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中村さんIT企業の人事担当を経て、現在は事業部門に異動。人事時代にAIツールを片っ端から試した経験を持つ。
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山田さん大手インフラ企業でかつて人事領域に携わり、現在は営業部門のマネージャー。社内のAI活用推進にも関与。
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佐々木さん成長企業の人事戦略責任者。全社的なAI活用の旗振り役を務める。
導入半年で乗り換え──人事AI活用は「ツール遍歴」で語れる時代に
──皆さんが人事の仕事でAIを使い始めたのは、いつ頃からですか。最初に何を使って、なぜそれを選んだのか、聞かせてください。
中村さん
業務で使い始めたのは2023年の秋頃ですね。会社で最初に導入されたのが、ある人事向けのAIサービスだったんです。セキュリティ要件が厳しい環境向けのもので、まあ会社が決めたツールだから使い始めたっていうのが正直なところです。
山田さん
うちはもっと前で、もう8年近く前になりますかね。当時はAIで採用のエントリーシートを採点してみようっていうトライアルから始まったんです。まだ「生成AI」なんて言葉もなかった頃で、人事のコンサル会社と一緒に、人物像の定義に沿ってAIにESを読ませてスコアリングさせるっていう。
佐々木さん
自分のところは、AIの活用自体は生成AIが出てきたタイミングとほぼ同時期に始めてますね。ただ、本格的に「主戦略としてAIを使う」と決めたのはここ2年くらいの話です。最初は自分もGeminiでGASのコードを書いてもらうところから入りました。
中村さん
で、その最初に入れたサービスなんですけど、半年強で乗り換えたんですよ。Geminiに。
山田さん
半年でですか? それは早いですね。何があったんですか。
中村さん
ユーザー視点で言うと、機能がトレンドに追いついていなかった。Web検索ができない、ファイルも読み込めない、最新のモデルも搭載されていない。個人で使っていたChatGPTがどんどん進化しているのに、会社で使えるツールは閉じた世界のままで。情報を拡張して取ってくるのが当たり前になった時代に、学習済みの情報しか持っていないAIと対話するのは、正直厳しかったです。
佐々木さん
それはわかります。自分のところでも、特定のツールに依存しすぎない設計にしているんです。用途ごとにGeminiを使ったり、Notion AIを使ったり。賢いツールがどんどんリリースされるから、「今一番賢いやつを使いたい」っていうのが本音で。
中村さん
面談要約の機能も同じサービスのものを使っていたんですけど、これも乗り換えました。オンラインミーティングで話者分離ができなかったんです。面接のシーンで、面接官の発言が求職者の発言として記録されてしまう。要約の精度も低くて。その数ヶ月後にGeminiの文字起こし機能が出たんですが、それと比べるとコストをかけている割に全然だなと。
山田さん
うちでも一時期、ツールの選定自体が目的になりかけたことがあって。結局、何ができるかで選び直した方が速かったですね。
キーワード解説
Gemini(ジェミニ):Googleが提供する生成AIサービス。テキスト生成に加え、ウェブ検索やファイルの読み込み、画像生成など多機能で、ビジネス向けプランも用意されています。
話者分離:会議や面接の音声データを文字起こしする際に、「誰が話しているか」を自動で識別・分類する技術のこと。精度が低いと、面接官と候補者の発言が混在してしまいます。
NotebookLMで問い合わせ7割削減──テキスト生成の先にある「業務代替」
──AIでテキストを生成する段階から、実際の業務プロセスを変えるところまで進んでいる方はいますか。
佐々木さん
うちで一番工数削減の効果が大きかったのは、問い合わせ対応ですね。過去の問い合わせデータを全部NotebookLMに読み込ませて、「ここに聞けば答えが出る」という状態を作った。問い合わせが7割くらい減りました。人事って制度や就業規則の質問がとにかく多いんですけど、同じような質問が何度も来るんですよ。それがほぼボットで対応できるようになった。
中村さん
それ、すごくわかります。自分もHRにいた時に、労務の人が同じ質問への回答で困っているのを見て、チャットボットを提案したことがあって。でも当時はチャットボットの性能が追いついてなくて、あまり温度感が上がらなかったんです。今はNotebookLMがあるから簡単に作れますけど、当時はそこまでじゃなかった。
山田さん
うちでも似たことはやりましたね。社内の就業規則やルール関係のドキュメントを全部ファイルサーバーにアップして、AIに自然文で検索させる仕組みを作ったんです。人事労務系の文書はワード形式で文字ベースのものが多いので、AIとの相性が良かったんです。問い合わせの件数は目に見えて減りましたね。
佐々木さん
それに加えて、GASでの自動化も結構進めていますね。毎月のように人が入って、辞めて、組織が変わって、給与も変わる。全部手作業だったものを、スプレッドシートを読み込ませて自動で処理できるようにしたんです。
中村さん
自分はそこまでのスケールではないんですけど、面談の議事録生成やスカウト文の作成にはGeminiを日常的に使っています。リサーチや企画の壁打ちにも。ただ、面談要約の完全自動化はまだ遠いなと感じていて。話者分離の精度がまだ十分じゃないから、人の手で直す工程が残るんですよね。
山田さん
テキスト生成は便利だけど、それを「そのまま使えるか」が次の分岐点なんだと思います。佐々木さんのNotebookLMは定型の問い合わせだから自動化できた。でも、文脈が深い業務になればなるほど、AIの出力をそのまま使うわけにはいかないともなりますよね。
キーワード解説
NotebookLM(ノートブックLM):Googleが提供するAIリサーチツール。社内文書やPDFを読み込ませると、その内容に基づいて質問への回答や要約を生成してくれます。社内FAQの自動化などに活用されています。
GAS(Google Apps Script):Googleスプレッドシートやフォームなどを自動化できるプログラミング環境。AIにコードを書いてもらうことで、プログラミング経験がなくても業務自動化が可能になりつつあります。
AI面接・AI採点──一歩先を行く企業の実践
──AIがテキスト生成だけでなく、「判断」に関わり始めている領域はありますか。
山田さん
採用ですね。先ほど少し話しましたけど、エントリーシートをAIに読ませて採点するっていうのは、もうかなり前からやっていました。人物像の定義に沿ってプロンプトを書いて、点数を出させる。最初はこれで何千人のエントリーがあっても大丈夫だと思ったんです。
佐々木さん
山田さん
一時的にですね。でも、そのうち問題が出てきたました。学生もAIでESを書いてくるんですよ。よくできすぎたESが増えて、面談でのギャップが問題になった。面談官から「一次の評価基準おかしくないか」って叱られてしまい。
中村さん
ああ、それは。要するに学生がAIで書いたESを、こっちがAIで採点してるっていう状態ですよね。
山田さん
そうなんです。AIが書いた文章をAIが採点するっていう、よくわからない状態になってしまったんです。結果的に、ESでの評価の比重を大きく下げる判断をしました。もうAI時代にESの文面を見ても、その人の実力は測れない。
佐々木さん
採用のAI化は、まさにそこが難しいところですよね。自分のところでも採用の面接でAIをどう使うかは議論しているんですけど、「判断」の領域に踏み込むとリスクが出てくる。
山田さん
ちなみに、別のところでは「AI面接サービス」と呼ばれるものを導入した事例もあるんですよ。AIが質問して、回答を評価して、面接のスコアリングまでやる。新卒の一次選考みたいな定型的な場面では回せているけど、中途のスキル判定になると精度が出ないという話も聞きます。
中村さん
すごい時代ですね。面接する側もAI、面接対策もAI、そのうちAI同士が面接するんじゃないかって思っちゃいますよね。
山田さん
一方で、人事のDX全体で見ると、うまくいっている部分もあって。QA対応の自動化やタレントマネジメントシステムの導入、業務の本社集約を組み合わせて、拠点ごとに配置していた人事担当を数百人規模で大幅に削減できた。「判断」は難しくても、「定型業務の代替」は確実に成果が出ている。
佐々木さん
そこは本当にそうだと思います。採用のAI化は、選考の「判断」より入社後のフォローの方が、今は精度が出やすいですよね。選考で落とすためのAIより、入った人を活かすためのAIの方が、受け入れられやすいし成果も測りやすい。
キーワード解説
AI面接:AIが面接官に代わって質問を行い、回答内容を評価・スコアリングするサービスの総称。録画面接の分析や、一次選考の自動化などに活用が広がっています。
タレントマネジメント:社員一人ひとりの能力・経験・キャリア志向などのデータを一元管理し、適材適所の配置や計画的な育成に活かす手法。近年はAIによるデータ分析との組み合わせが注目されています。
「AIで戦略を立てる」段階に入った企業──そして同じ会社でも見える景色は違う
──ここまではツールの活用や業務効率化の話が中心でしたが、AIを「戦略」のレベルで使っている方はいますか。
佐々木さん
うちでは全社的なAI活用戦略を走らせていて、社内で独自の名前をつけて推進しています。研修も段階的に設計していて、初級はAIの基礎知識、中級はプロンプト設計やツールの使い分け、上級は自動化やアプリ構築まで。段階的なAI研修プログラムですね。
山田さん
研修まで体系化しているんですか。うちの会社でいうと、AIの利用率を横並びで見てはいるけど、目標としては特に設定されていないですね。使いたい人が申請すれば上位のライセンスを使えるっていう程度で。
佐々木さん
それだけじゃなくて、「仮想役員AI」みたいなものも作っているんです。過去の経営会議の議事録を全部AIに読み込ませて、この資料を出したらどの役員がどんなことを言うかを事前にシミュレーションできるようにしている。まだ実験段階ですけど、起案資料のセルフレビューに使えるんですよ。
中村さん
それはすごいな。自分のところだとそこまでの戦略レイヤーの活用はまだ見えていなくて、日々の業務を速くすることに集中している段階です。
佐々木さん
タレント分析の領域でも進めていて、入社後のインタビューデータをAIに分析させたら、つまずきパターンが8つに整理できたんです。今はさらにその先で、半年ごとに全社員の強みと課題を分析して、中長期のビジョンに照らしてどんな人材が足りないかをレコメンドさせる仕組みを作っている最中です。
山田さん
Level 1のテキスト生成と、Level 2-3の戦略活用の間には、やっぱり大きな断絶がありますよね。大手企業ではまだLevel 2-3に到達している組織は少数派だと思います。
佐々木さん
そうかもしれません。ただ、うちも最初からここにいたわけじゃなくて、さっき話したNotebookLMの問い合わせ対応から始めて、成果が見えてきたから次のステップに進めた。自分が一番意識していることがあって。うちのメンバーには「AIを使っていないアウトプットは見ない」と言っているんです。これはメンバーのスキルを底上げするためでもあります。正直に言うと、HRのメンバーのスキルが十分に高いわけではない。だからこそ、AIで底上げする。AIに3回は壁打ちしてから出してこいと。
中村さん
……それ、相当なメッセージですね。自分のチームでそれ言ったら、半分は「じゃあどう使えばいいんですか」ってなりそうです。
佐々木さん
逆に言えば、AIを楽しめない人は合わないかもしれないっていう判断にもなります。採用の段階でも、AIをどれだけ使ってきたかは聞くようにしていて。
中村さん
自分の感覚だと、新規事業のほうがAI活用は進みやすいんですよ。既存のオペレーションがないから、どうせ作るなら最初からAIを組み込もうっていう発想になる。一方で、既存の事業やバックオフィスは経路依存性があって、今のやり方で回っているからわざわざ変えなくていいとなりがち。
山田さん
中村さん
ええ、30代半ばを超えたあたりから、新しいテクノロジーへの抵抗感が出てくる印象はあります。さすがに「使わなくていいでしょ」とは言わないんですけど、「ちょっと自分はそういう新しいの苦手で」っていう人はいます。
佐々木さん
だからこそ、戦略レイヤーが「なぜAIを使うのか」を言語化して現場に伝えることが大事なんですよ。「AIを使え」だけでは浸透しない。「このレベルのアウトプットを出すにはAIが必要なんだ」という水準を示すこと。「AIを使っていないアウトプットは見ない」という宣言も、その一環なんです。
山田さん
戦略と現場の温度差は、大企業だともっと大きいですよ。人事部がAIを使っていても、営業部門は知らないっていうのが普通にある。逆に経営層が「AIで何でもできるんでしょ」と過剰に期待してくるケースもあって、それはそれで厄介だったりする。
佐々木さん
まさにそういう期待とのギャップが、失敗のもとになるんですよね。ここまで語ってきたのは基本的に「うまくいった話」が中心なので、次は転んだ話を聞いてもらった方が、たぶん皆さんの参考になると思うんです。
キーワード解説
プロンプト設計:AIに適切な回答を引き出すための指示文(プロンプト)を工夫・設計する技術のこと。同じAIでも、プロンプトの書き方次第でアウトプットの質が大きく変わります。
経路依存性:過去の選択や慣習が、現在の意思決定を制約する現象。既存の業務フローやシステムが定着していると、より良い手段があっても切り替えが進みにくくなることを指します。
まとめ
この座談会で見えてきたのは、人事AI活用が「とりあえずChatGPT」というフェーズを超え、業務プロセスの根幹に組み込まれつつあるという現実です。
中村さんの「導入半年で乗り換え」というツール遍歴、佐々木さんの「AIを使っていないアウトプットは見ない」という全社宣言、山田さんが指摘する「同じ会社でも部門ごとに見える景色が違う」という温度差。
3人の実践からは、ツール選定よりも「組織としてAIとどう向き合うか」の設計が重要であることが浮かび上がりました。
人事AI活用を「テキスト生成止まり」にしないための3つの視点
AIツールの導入はゴールではなくスタートです。自社の活用レベルを見直すことが、次のステップへの入口になります。
- テキスト生成の先を見据える:求人票やスカウト文の作成で終わっていないか。問い合わせ対応の自動化やデータ分析補助など、「業務代替」の領域に踏み込めるかが次の分岐点
- ツールは陳腐化する前提で選ぶ:半年で乗り換えた実例が示すように、特定のツールに依存しない運用設計が必要。稟議に時間をかけすぎると導入時にはすでに時代遅れになるリスクもある
- 組織全体のAIリテラシーを底上げする:一部の推進者だけが使いこなしても、組織としての効果は限定的。「使えない」を放置しない仕組みを作ること
「うちのAI活用、テキスト生成で止まってないか」──その問い直しが、最初の一歩です。一方で、AI活用には落とし穴もあります。3人が経験した失敗と、そこから見えた「人間とAIの線引き」は②失敗図鑑編でお届けします。後編(人事AI活用の「ここでつまずいた」──AIバレ、AI vs AI、そして万能説との闘い)もあわせてお読みください。
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