目標設定に「正解」はあるのか|115人のマネージャーが明かした、やるほど深まるジレンマ

部下の目標、6割は「達成基準が曖昧」。でも、直し方に自信がある上司は4%だけ。

目標設定・人事評価に関わるマネージャー115名へのアンケートから、意外な構図が浮かび上がりました。ちゃんとフィードバックしている人ほど、評価のズレに悩んでいる。

「やればやるほど難しくなる」目標設定のリアルを、データで読み解きます。

この記事のポイント
部下の目標設定・評価に関わるマネージャー115名を対象に実施したアンケート調査の結果を紹介します。「ダメ目標あるある」から「赤入れのパラドックス」「AI活用の温度差」まで、現場マネージャーのリアルな実態をデータで可視化しました。

部下の目標シート、最初に何を思う?

「部下の目標設定シートを見て、最初に思うことは?」この問いへの最多回答は、「書き方は問題ないが、達成基準が曖昧なものが多い」(60.9%)でした。

Q. 部下の目標設定シートを見て最初に思うことは?(複数回答)
達成基準が曖昧なものが多い
60.9%
まともに目標になっているものは半分以下
31.3%
去年のコピペが明らか
26.1%
全体的にレベルが高い
8.7%
ちゃんと読む時間がない
8.7%

n=115/複数回答

注目したいのは、「ちゃんと読む時間がない」がわずか8.7%だったことです。多くのマネージャーは目標シートを読んでいます。読んだ上で、「これは曖昧だな」と感じている。つまり問題は「時間がないから読めない」のではなく、「読んでも、どう直させればいいか分からない」ことにあるのです。

ダメ目標あるある──最多は「手段を書いただけ」

では、具体的にどんな目標が「ダメだ」と感じられているのか。「部下から提出された目標で、目標として成立していないと感じたパターン」を聞いたところ、最多は「○○に取り組む。手段を書いただけで、成果がわからない」(60.0%)でした。

Q. 「これはダメだ」と思った目標のあるあるは?(複数回答)
手段だけで成果がわからない
60.0%
中身のない宣言系
38.3%
曖昧な動詞が使われている
26.1%
測定方法の記載なし
20.9%
比較基準も改善幅も不明
19.1%

n=115/複数回答/「あまりない」4.3%は除外して表示

「業務改善に取り組む」「品質向上を目指す」。こうした目標の何が問題かといえば、「何をしたか(アウトプット)」は分かるが、「どういう状態になったか(アウトカム)」が分からない点です。

アンケートの自由記述でも、この問題に取り組んでいるマネージャーの声がありました。

「改善活動に尽力したという目標を、改善活動で効果金額が○○円出たに書き換えさせた」(係長クラス・製造業)

「頑張る等曖昧な表現を、定量的なものに改めさせて、後で設定根拠がわかるように面談内容も記録しておいた」(課長クラス・サービス業)

「申請書の作成時間を50%削減する、のように具体的な数値目標と期限を入れさせた」(部長クラス・金融業)

共通しているのは、「動詞を変える」というシンプルなテクニックです。「取り組む」を「削減する」「短縮する」に。「目指す」を「達成する」「完了する」に。完了形が描ける動詞に置き換えるだけで、目標の具体性は大きく変わります。

※目標の書き方を具体的に変えるテクニックについては、座談会記事「頑張りますは目標じゃない|事務職・エンジニアの測れない仕事を測る技術」で詳しく紹介しています。

「自信がある」マネージャーは、たった4%

部下の目標を見て「ダメだ」と感じるマネージャーが大半である一方で、では、自分自身の目標設定には自信があるのでしょうか。

4%
「自信がある」
56%
「まあまあできている」
40%
「自信がない」+
「考えたことがない」

n=115/単一回答/「自信がない」35.7%+「考えたことがない」4.3%を合算

「自信がある」と言い切れたのは、115人中わずか5人(4.3%)でした。過半数の56%は「まあまあできている」。しかしこの「まあまあ」は、裏を返せば「なんとなくやれている気がするが、確信はない」ということです。

部下の目標に「これはダメだ」と感じることはできる。しかし自分の目標設定が正しいかどうかは確信が持てない。評価する側も、実は同じ悩みを抱えているのです。

赤入れのパラドックス──やっている人ほど、ズレに悩んでいる

今回のアンケートで最も意外だったのが、この結果です。

まず前提として、評価面談で部下と認識がズレて困った経験がある(「よくある」+「たまにある」)マネージャーは71.3%。7割以上が、評価の場で何らかのズレを経験しています。

では、日頃から部下の目標に「赤入れ(修正フィードバック)」をしている人ほど、ズレは少ないのでしょうか?

データは直感に反する結果を示しました。

赤入れの頻度別:評価面談で認識ズレを経験した割合
たまに赤入れしている
79.4%
毎回赤入れしている
78.3%
したいができていない
58.8%
部下の主体性に任せている
33.3%

n=115/「認識ズレ経験あり」=「よくある」+「たまにある」の合計

毎回赤入れしているマネージャーの78.3%がズレを経験している一方で、部下の主体性に任せているマネージャーでは33.3%にとどまります。

同様の傾向は、「期初に何をしたら100点かを擦り合わせているか」でも現れました。

期初の擦り合わせ 認識ズレを経験した割合
必ず擦り合わせている(n=19) 84.2%
大まかに共有している(n=63) 79.4%
特に擦り合わせていない(n=26) 50.0%
制度上の仕組みがない(n=7) 42.9%

100点の基準を「必ず擦り合わせている」人の84.2%がズレを経験しているのに対し、「特にしていない」人では50.0%。ちゃんとやっている人ほど、ズレに悩んでいるのです。

これは矛盾でしょうか? そうではありません。考えられる解釈は2つあります。

なぜ「やっている人ほどズレを感じる」のか
解釈①:介入しているからこそ、ズレが「見える」ようになる
目標に深く関わっていれば、期待値も上がります。「ここまで擦り合わせたのに、なぜ最後にズレるのか」。関与が深いからこそ、小さなズレにも気づく。一方、任せきりの人は、そもそもズレが起きていることに気づいていない可能性があります。

解釈②:赤入れや擦り合わせは「必要条件」であって「十分条件」ではない
期初に1回握るだけでは足りない。期中の方針変更、本人の成長度合い、周囲の状況──変数は常に動きます。テクニック単体では解決せず、中間面談やクロスレビューといった継続的な仕組みが必要なのです。

もう1つ興味深いデータがあります。「毎回赤入れしている」マネージャーは、テクニックの実践率も高いのです。

「毎回赤入れしている」マネージャーのテクニック実践率(全体平均との比較)
達成の判断基準を明記
52.2%
└ 全体平均
29.6%
曖昧動詞の禁止ルール
39.1%
└ 全体平均
18.3%

n=23(毎回赤入れ組)vs n=115(全体)

テクニックを知っていて、実践していて、それでもなおズレに悩んでいる。これが、目標設定という仕事の難しさの正体です。

※評価のズレを防ぐ「期初の握り」テクニックや、マネージャー間の「クロスレビュー」の具体的な方法については、座談会記事「評価で揉めるのは制度のせいじゃない|期初の握りとAIが変える目標管理」で詳しく紹介しています。

AI活用──「使う気がない」3割の本音

最後に、目標設定・評価における生成AI(ChatGPT等)の活用状況について聞きました。

Q. 生成AIを目標設定や評価に使ったことはありますか?
興味はあるが使っていない
53.0%
使うつもりはない
27.0%
使っている
20.0%

n=115/単一回答

最多は「興味はあるが使っていない」(53.0%)。予想通りの結果ですが、注目すべきは「使うつもりはない」が27.0%もいたことです。

使っていない人にその理由を聞くと、最多は「AIに任せるべき領域ではないと思う」(40.9%)でした。「使い方がわからない」(16.5%)を大きく上回っています。

Q. 使っていない理由は?(未使用者のみ)
AIの領域ではないと思う
40.9%
特に理由はない
22.6%
業務上、AI使用が認められていない
20.0%
具体的な使い方がわからない
16.5%

n=115(AI未使用者・使うつもりはないを含む全員への設問)

目標設定は「人と人の対話」であり、AIに委ねるものではない。そう考えるマネージャーが最も多いのは、ある意味で健全な感覚ともいえます。

一方で、すでにAIを使っている20%のマネージャーからは、こんな声が寄せられました。

「サンプルを多数出させて、そこからブラッシュアップする」

「目標文章の是正すべきかどうかの判断に使った」

「評価指標の数値を入力して、質問内容などを聞いた」

共通しているのは、AIに「判断」を任せているわけではないという点です。目標文言の壁打ち相手として使ったり、面談の質問を整理するために使ったり、あくまで「思考を整理するためのツール」として活用されています。

「AIの領域ではない」と感じている方にこそ知っていただきたいのは、目標設定におけるAI活用は「AIに評価を任せる」ことではなく、「自分の思考を外に出して、整理するための道具」だということです。

※具体的なAI活用法については、座談会記事で「曖昧表現チェッカー」「思考の鏡」「面談シミュレーション」という三者三様の使い方を紹介しています。

まとめ──目標設定に「完成」はない

今回のアンケートから見えてきたのは、目標設定に「正解」はないが、「やらないよりやったほうがいい」ことは明確だということです。

赤入れや擦り合わせを「毎回」行っているマネージャーは、テクニックの実践率も高い。しかし、それでもなお7〜8割がズレを経験している。これは「テクニックが無意味」なのではなく、「テクニックだけでは足りない」ことを示しています。

やっていない人は、ズレにすら気づけない。やっている人は、ズレに気づくからこそ悩む。この「やるほど深まるジレンマ」は、実は目標設定の質が上がっている証拠なのかもしれません。

個人のテクニックだけでなく、組織としての仕組み。クロスレビューや中間面談の制度化、上位上長やHRによる現場への介入──を組み合わせることが、個人の限界を超える鍵になるはずです。

明日からできる3つのアクション

  1. 動詞を変える:目標シートから「頑張る」「努める」「取り組む」を消す。「達成する」「短縮する」「完了する」など、完了形が描ける動詞に置き換える
  2. 100点の定義を先に握る:「何をしたらこの目標は達成なのか」を、期初に部下と言語化して合意する。達成の状態だけでなく、未達の状態も両方決めておく
  3. 一人で抱えない:「自信がある」と言えるマネージャーはわずか4%。マネージャー同士で目標シートを見せ合うクロスレビューや、上位上長・HRへの相談を仕組みとして取り入れる
調査概要
調査名:部下の目標設定・評価に関わる「現場マネージャー」アンケート
調査方法:ユニーリサーチによるオンラインアンケート
調査期間:2026年1月
有効回答数:115名
対象条件:部下の目標設定または人事評価に関わるマネージャー(一次評価者80.9%、フィードバックのみ19.1%)
回答者の役職構成:部長クラス24.3%、課長・マネージャークラス29.6%、係長・チームリーダークラス46.1%
回答者の部下人数:1〜4名27.0%、5〜9名31.3%、10〜19名23.5%、20名以上18.3%