役職定年とは? 背景や実態、運用および活用方法、事例や裁判について

ある一定の年齢に達した際と、能力にかかわらず役職から外されることを役職定年といいます。企業によって制度はさまざまですが、50代の後半に設定されていることが多いようです。

  • いつから役職定年の年齢?
  • 役職定年制度の背景、実態、意欲の変化、給与の変化
  • 運用、活用方法
  • 大企業の導入事例

などを説明しながら、役職定年について詳しく解説します。

1.役職定年とは?

役職定年とは、定年の前に、ある年齢に達したことなどを理由に部長や課長などといった役職から外れる制度のこと。役職に定年があると考えると分かりやすいでしょう。

人件費の増加を抑える、組織内の人事の新陳代謝を促すなどを目的としている制度で、組織の活性化や若手の育成を図ります。また、大企業ほど役職定年制度を導入する比率が高いとされています。

いつから? 役職定年の年齢

役職定年の年齢は、企業によって異なります。人事院が実施した「平成19年民間企業の勤務条件制度等調査結果」によると、部長級、課長級の役職定年年齢は、55歳と設定している企業の割合が最も高く、次に高いのが57歳となっているのです。

この結果からも、多くの企業が役職定年を50代後半に設定していることが分かります。しかし役職定年が導入されたのは60歳定年の時代です。65歳定年制の現代も同じ形態で継続されるのは、実情に合っていないといえるでしょう。

50歳後半になると役職から外れて一般社員になるのが役職定年です。65歳定年の現代も変わらず継続されていることが問題視されています

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2.役職定年制度ができた背景

日本企業はこれまで年功序列や終身雇用により、ある程度の年齢に達すると部長や課長などの管理職のポストに就くと決まっていました。しかし現代は、多くの企業が成果主義を採用し、2019年には働き方改革が施行されるなど企業を取り巻く環境は変わったのです。

こうした社会背景の中で、これまでのような勤続年数や年齢でポストに就いた管理職をそのまま残すことは莫大なコストとなります。そうした背景もあり役職定年制度が導入されるようになりました。

年功序列や年齢でポストに就いた管理職をそのまま残すのは莫大なコストになるため、一定の年齢に達すると一般社員として勤務する役職定年が生まれました

3.役職定年制度の実態

役職定年制度を導入している企業の実態とは? 給与、意欲の変化などを紹介します。

役職定年制度の導入状況

50歳代のキャリア管理に関する調査によると、50歳代の調査では、39.8%が「役職定年制」「役職の任期制」が導入されている(されていた)と回答しています。

また、50歳代前半の12.8%と、50歳代後半の3.6%が、制度によって就いていた役職を降りたと回答しました。降りた役職(対象となった役職)は、課長が最も多くて半数以上、次いで部長が21.8%、係長・主任・現場監督者が11.4%、次長が9.5%となっています。

役職を降りた後の意欲の変化

50歳代のキャリア管理に関する調査によると、役職を降りた後の仕事の意欲に対する変化では、意欲が下がった(「大幅に下がった」「ある程度下がった」の合計)人は59.2%、意欲が上がった(「大幅に上がった」「ある程度上がった」の合計)人は5.4%でした。

およそ6割が会社に尽くそうという意欲を減退させたことが分かります。また、50歳代前半で役職を降りた人ほど仕事に対する意欲が下がっていることも調査から明らかになりました。

役職定年後の給与の変化

平成19年民間企業の勤務条件制度等調査によると、課長クラスの役職定年後の年収水準が役職定年前と比べて「下がる」と回答した企業は、82.5%でした。

「変わらない」と回答した企業は8.8%とごく少数で、「下がる」と回答した企業の年収水準は「約75~99%」が最も高くて78.2%、次いで「約50~74%」が20.4%となりました。

また、役職定年後に減額する給与の項目は、基本給が36.6%、賞与が33.1%、役職手当が30.7%でした。

役職定年時の所属異動に対する意見

2018年に50歳代、60歳代の男女を対象に働き方に関する意識調査を行ったところ、役職定年時に所属異動があって良かった(良かった、どちらかといえば良かったの合計)と回答したのは71.5%でした。

その理由として最も多かったのは、「元上司が所属内に残ると新しい役職者がやりにくい」38.3%。次いで「勤務時間の面で楽になった」「元部下が上司になるなど、職制面で自分がやりにくい」といった回答が見られたのです。

役職定年後は約8割の企業で年収水準が下がり、約6割の人が仕事への意欲が下がったと回答しました。また、所属異動があって良かったと答えたのは約7割でした

4.役職定年者を企業で運用、活用するには?

長年の経験を持つ役職定年者を具体的に活用する方法を紹介します。

  1. 役職定年者を新しい役職者のサポートに
  2. 新たな専門職を設置
  3. 新しい働き方を構築

①役職定年者を新しい役職者のサポートに

役職定年になる年齢まで、長期にわたり携わっていた部署や業務に関する経験、ノウハウを活用するためにも、新任者の指導役になってもらうのがよいでしょう。役職定年者はポストから外れて給料も下がるため、モチベーションが下がる場合が多いです。

そこで本人のこれまで培ってきたキャリアや専門性、得意分野を最大限に活かせるポジションを用意します。これにより、前向きな気持ちで仕事に取り組んでもらえるでしょう。

②新たな専門職を設置

役職定年後の仕事内容は、管理職から外れて一般社員になる、これまでのスキルや専門性、得意分野の知識などが評価されて専門職となるなどさまざまです。

企業はそうした得意分野の能力を活かして、管理職時と似た待遇の新たな専門職を設置することもできます。

前述の通り、役職定年時に所属異動があって良かったと回答する人は約7割。役職定年後、心機一転してやりがいのある業務を新たに見出すことができる環境の構築は重要でしょう。

③新しい働き方を構築

役職定年者のみの新しい働き方を、企業独自で構築していくことも可能です。たとえば、会社に在籍したまま他の企業や組織などに所属する副業や兼業を認めるケースでは、役職定年によって激減した収入を補えます。

またこれまでの経験で身に付けたスキルやノウハウを活かし、専門制を追求したエキスパートとして若手育成や技術の継承など、役職定年した人たちが活躍できる働く場を新たに設ければ、企業側にとっても大きなメリットを享受できるでしょう。

役職定年者は待遇の激変により士気が落ちています。そこで新たな役割を明確にすると、新しい仕事に対しても前向きに取り組むことができるでしょう

5.役職定年制度の事例

役職定年制度は大企業が積極的に導入しています。3企業の事例を紹介します。

大和ハウス工業

住宅総合メーカーの大和ハウス工業では、役職定年後の社員の役割を以下の4コースに分けて再配置先を決定しています。

  • 理事コース…以前より部長職に就いていた社員で、役職定年の対象外で引き続き現ポジションに残ることができる。年収も変わらない
  • メンターコース…若手社員の指導、経営上のアドバイスを行う
  • 生涯現役コース…プレイヤーとして期待
  • シニアマネージャーコース…以前より課長クラスの役職に就いていた社員で、引き続き現ポジションに残ることができる

A社

A社では、役職定年者一人ひとりに合わせた評価制度を構築しています。長きにわたり会社を支えてきた役職定年者は、多くの実績を持つ、技術開発に優れた能力を持つ、人材開発や採用、企業研修、総務や経理などに熟知しているなどさまざまです。

そうしたキャリアや得意分野を一人ひとりに合わせて評価し、役職定年後に活躍する場を用意しています。

評価制度を取り入れる企業は多く、顧客や取引先からの評価制度を設けて、待遇の査定はもとより役職定年者のモチベーションアップや維持に役立てているのです。

B社

B社では、役職に就いた早い時点から、役職定年を考慮した長期間のキャリア開発がスタートします。会社ではキャリアカウンセラーによる面談を実施したり、定期的にセミナーを開いたりするなど対象者向けの手厚い支援を行っているのです。

役職定年後は、社内での活躍だけでなく、他企業へ転職し活躍できる機会をつくることも視野に入れてキャリア開発が行われています。

こうした取り組みは、会社に長く貢献してきた高齢の社員をただ切り捨てるのではないという会社の姿勢が見られ、若手社員のモチベーションにも良い影響を与えているのです。

役職定年者はこの先、どんどん増加していきます。企業は独自の制度を設けて、経験豊富な役職定年者の活躍の場を設けているのです

6.役職定年制と裁判

役職定年制導入に伴う裁判の事例があります。被告であるY社が導入した役職定年制によって、原告側に給与の差額が生じた事案です。

就業規則の変更の合理性の有無、個別の同意の有無が主な争点となりましたが、差額を生じさせた就業規則の変更に合理性はないとの判決が出ています。

また原告側の一部については個別の同意がなかったと判断されたため、会社に対して原告側の一部に対する差額給与などの支払いが命じられました。

役職定年制度を導入する会社には、労働者から給与差額を請求されるなどのリスクが伴う場合もあります