働き方改革によって、多様な働き方に触れる機会が増えました。そんな働き方の一つ、「テレワーク」とはどのような制度・仕組みの働き方で、「在宅勤務」との違いはあるのでしょうか。
目的別の導入事例や導入を成功させるポイント、導入することで得られるメリットなども含めて詳しく解説します。
1.テレワークとは?
テレワークとは働く場所によって、在宅型テレワーカー(在宅勤務)、モバイル型テレワーカー、サテライト(オフィス)型テレワーカーの3つに分けられる働き方のこと。語源は「tele = 離れた所」と「work = 働く」で、この2語を合わせた造語がテレワークです。
テレワークを実現するには、情報通信技術(ICT=Information and Communication Technology)が欠かせません。
ICTを活用して、就業場所や労働時間にとらわれず、柔軟な働き方を可能とするのです。ちなみにこのICT(情報通信技術)は、IT(情報技術)とほぼ同じ意味で使われます。
コンピューターやネットワークなどの分野で用いられる、技術・サービスなどの総称と理解しておけば間違いないでしょう。
国土交通省によるテレワークの定義
テレワークは国土交通省によって、「職場以外の場所で、ICTを用いて、1週間に8時間以上仕事をする人」と定義されています。
テレワーカーの定義
テレワークの定義を改めて確認しましょう。「テレワーク人口実態調査」では、テレワークの要件として次のようなことを挙げています。
- 収入の発生する仕事を行っている人
- 仕事でICT(IT)を利用している
- ICT(IT)を利用できる環境にいる
- 自分の所属する職場や事業所以外で働いている
- 仕事に従事する時間が 1 週間につき8 時間以上ある
これらすべてを満たす場合に、(狭義の)テレワークとして認められるのです。

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2.テレワークの本質的意義
テレワークの本質的な意義は、ICTの活用によって、特定の場所にとらわれず柔軟な働き方ができる点です。
テレワークと在宅勤務の違い
「テレワーク」=「在宅勤務」と捉えている人も多いですが、テレワークを正しく理解しているとはいえません。在宅勤務は、あくまでテレワークの1つなのです。
先ほども述べたように、テレワークには在宅勤務のほかに、モバイル型テレワーカーやサテライトオフィス型テレワーカーも含まれます。テレワークは在宅勤務よりも広い概念であることを理解しましょう。
テレワークとノマドワークの違い
テレワークと似たような言葉に「ノマドワーク」「ノマドワーカー」があります。これらの言葉は、企業に雇用されている人に対してではなく、個人事業主やフリーランスの人に使われることが多いです。
「ノマド」とは「遊牧民」のことで、働く場所や時間を自由に選べる働き方を指します。カフェはもちろん、旅行先なども職場にできるのがノマドワーカーなのです。

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3.テレワークの歴史と現在
テレワークは、1970年代のアメリカ・ロサンゼルスで生まれた働き方の概念で、当初の目的は、ロサンゼルス周辺の「エネルギー危機」と「マイカー通勤」による大気汚染を緩和することでした。
80年代前半には、パソコンの普及および社会進出する女性が増え、テレワークに注目が集まりました。そして90年代になると、アメリカおよび北欧を中心とした欧州でテレワークという働き方が定着したのです。
また、アメリカでは自然災害やテロなどのリスクを分散させるための対策として、テレワークを戦略的に導入する企業が増えていきました。
テレワークの起源
テレワークという概念が一般に広まったのは、アメリカの未来社会学者であるアルビン・トフラーの著作『第三の波』(1980)の影響ではないかと考えられています。
トフラーは著作の中で「エレクトリック・コテージ」という情報社会を描いており、情報通信技術を利用することで自宅にいながら仕事を行える世界が実現するだろうと説いています。これはまさに在宅勤務型テレワークに近い考え方だといえるでしょう。
この本の特筆すべき点は、インターネットが普及する20年も前に、「農業革命」、「産業革命」に続く第三の波として「情報革命」が起こることが予言されていること。そのほか、SNSや動画サービスを想起させるものも描かれており、さまざまなことが現実世界に実現しています。
日本におけるテレワーク発展の経緯
日本でテレワークが注目され始めたのは、1980年代の半ば頃で、バブル経済期になるとテレワークは最盛期を迎えました。地価の高騰による賃料(コスト)上昇が企業を圧迫し、オフィスを維持できないなどの理由からブームとなったのです。
また、売り手市場で働く環境を整備する必要があった、マイホームを郊外に持つ労働者が増えた点などもテレワークを後押しした理由といえます。
そしてバブル崩壊後、急速に減少していきますが、2006年9月に安倍首相が行った「世界最高水準の高速インターネット基盤を整えてテレワーク人口の倍増を目指すことで、生産性を向上させる」といった所信表明演説により、再びテレワークが注目され始めました。
日本電気(NEC)の事例
テレワークの黎明期、本格的にテレワークを導入した企業はNEC(日本電気)です。NECの本社は東京都港区に置かれていますが、1984~90年にかけて東京・吉祥寺にサテライトオフィスを設置していました。
その背景にあったのは、結婚や出産を機に女性社員が退職してしまうといった問題。状況を改善し、女性プログラマーに働き続けてもらうことを目的に導入されたのがサテライトオフィスなのです。
サテライトオフィスのメリットは、都心よりも比較的通勤しやすい地域にオフィスを設けることで、労働者の通勤の負担を減らせる点。また、本社オフィスと同じような業務環境を整えることで、能力を発揮してもらいやすくなります。
NTTの事例
1991年、NTTは埼玉県上尾市・神奈川県鎌倉市・千葉県船橋市の3カ所にサテライトオフィスを設置します。いずれも旧電話局舎を改造した本格的なサテライトオフィスで、電気通信事業者としての特性を活かし、情報通信システムをきちんと整備していました。
具体的に導入・設置されていたシステムと効果は、以下のようなものです。
- 大画面・高精細テレビ会議システムの導入:テレビ会議システムの導入により、本社や支社オフィスにいる上司や同僚と、業務上のコミュニケーションを円滑に進められる
- 本社・支社オフィスにカメラを設置:またサテライトオフィスから本社や支社の様子を観察できるようにして、疎外感を軽減
このサテライトオフィスは2年間限定の社内実験として設置されたものですが、メリット・デメリット含め、多くの知見を得られたようです。
日本のテレワーク普及率
総務省の「通信利用動向調査(平成30年9月実施)」によると、テレワークを導入している企業は19.1%。モバイルワークが最も多く、在宅勤務、サテライトオフィス勤務がそれに続きます。
また国土交通省の「テレワーク人口実態調査」でもテレワークの実態を知ることができます。

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4.テレワークの種類
場所や時間にとらわれない柔軟な働き方を意味するテレワークには、雇用型と自営型の2つのタイプがあります。
- 雇用型:会社に勤務する被雇用者が行うテレワーク
- 自営型:個人事業主や小規模事業者などが行うテレワーク
またテレワークは勤務頻度によって、下記2つに使い分けされています。
- 常時テレワーク:常にテレワークが行える
- 随時テレワーク:週1~2日や月数回または1日の午前中だけなどに限られる
雇用型テレワークの例とは?
雇用型テレワークとは企業、官公庁、団体などの社員や職員といった組織に雇用されている労働者が、ICTを利用して時間や場所にとらわれず柔軟な働き方をする形態のこと。派遣社員、契約社員、嘱託社員、パート、アルバイトなども含まれます。
在宅勤務
在宅勤務は自宅を就業場所とする働き方で、自宅にいながら、電話やファックス、パソコン、インターネットといった情報通信技術を利用して会社と連絡を取りながら仕事を進めるもの。雇用型テレワークの代表です。
モバイルワーク
モバイルワークとは職場や自宅といった施設に依存しないで、いつでもどこでも仕事を行う働き方のこと。顧客先、移動中の車内、喫茶室などでパソコンや携帯電話などを用いて仕事を進めます。最近のテレワークで多いものです。
施設利用型勤務(サテライトオフィス勤務)
サテライトオフィスとは自社から離れた地域に建設したオフィスで働く働き方のこと。自社でサテライトオフィスを持つ会社や、レンタルサテライトオフィスや共同サテライトオフィスを利用する会社のほか、地方や郊外などにサテライトオフィスを設置する企業も増えています。
自営型テレワークの例とは?
自営型テレワークとは、個人事業主や小規模事業者などが、ICTを利用して時間や場所にとらわれずに柔軟な働き方をする形態のこと。在宅ワーカーとも呼ばれ、PC環境を活用したWeb関連の仕事がメインとなります。
SOHO
自営型テレワークを代表する働き方が、SOHOでしょう。個人事業主や小規模事業者などがそれぞれの技術や才能、知識、経験などを活かした専業性の高い仕事を行うケースが見られます。自宅を就業場所と兼務させることが多く、独立自営度の高い働き方です。
内職副業型勤務
内職副業型勤務とは比較的簡単にほかの人が代わってできる容易な仕事を行うもの。会社との雇用形態は維持されているケースが多いようで、いわゆる「内職」のイメージのような自営度の程度が低いものを指します。

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5.テレワークの導入効果
テレワークを導入することで多くの効果が得られます。具体的に紹介しましょう。
生産性や業務効率が向上する
移動や通勤に伴う無駄な時間を省けます。また、通勤ラッシュなどのストレスから解放されるだけでなく、すぐ仕事に取り掛かれるのです。
さらに自宅などで仕事を行う際、オフィスの場合と比べて、周囲との会話や、社内外からの電話などで業務を妨げられることが少なくなります。急ぐ必要のないミーティングや来客なども発生しません。
そのため集中力が高まって能力を存分に発揮できる上、作業にも没頭できるとされているのです。なお在宅勤務型のテレワークでは、オフィスで作業するよりも長い時間集中力が持続するといった実証実験データもあります。
営業効率や顧客満足度が向上する
モバイルテレワークなどを導入すると、迅速かつ機敏な顧客対応が実現できます。交通の便の良い場所で待機していれば、顧客訪問回数や顧客先での滞在時間が増加しやすくなり、顧客満足度が向上すると同時に営業効率が上がるでしょう。
社員の私生活が豊かになる
業務の始業・終業時刻を柔軟に設定できるため、時間に余裕ができて生活が充実するとされています。たとえば在宅勤務の場合、通勤にかかる時間が削減するため、その時間を育児や介護、家族との団らんや自己啓発、地域活動への参加などに使えるのです。
このようにテレワークをうまく活用すれば、ワークライフバランスの実現に役立ちます。
コストを削減できる
オフィスのワークスペースや支店等の縮小・廃止によるコストダウン、紙の補充・保管、印刷コストを削減できるといったメリットもあります。また通勤や移動に伴う交通費の削減にもつながるでしょう。
事業を再構築する機会になる
テレワークの導入で、業務効率や生産性の向上が図れるだけでなく、組織再編や事業の再構築も可能となるでしょう。インターネットの普及により昨今、テレワークを活用した組織の再編・再構築に着手する企業も増えているのです。
組織再編・再構築の事例として、以下のようなものが挙げられます。
- ある製薬企業:営業社員が自宅を拠点に営業活動を展開することで、全国の支店や営業所を廃止しコストダウンに成功
- ある電機メーカー:社員が自宅などで業務を行うことに伴っ、不要な工場やオフィスを廃止。さらに社員数も大幅に削減して、効率化に成功
また新しいビジネスも生まれています。たとえば在宅コールセンターは、専門的な知識を持ったオペレーターが自宅に居ながら顧客対応を行うもので、今注目のビジネスで、す。地方に住む人も参加できるため、雇用の間口が広がることが期待されています。

6.テレワーク導入のメリット
厚生労働省、総務省、国土交通省など国の全面的バックアップを受けて推進されているテレワーク。テレワークを導入するメリットには、どのようなものがあるのでしょうか。企業経営側のメリット、労働者側のメリット、社会におけるメリットを見てみましょう。
企業経営側のメリット
- 多様な働き方を受け入れることで優秀な人材を確保
- 各々が自分の能力を発揮するので人材の活用が活発化
- 組織はプロ集団化し、業務の生産性や効率性が向上
- 顧客満足度の向上
- 情報通信技術の活用によるペーパーレス化、通勤手当といったオフィスコストの削減
- 災害時の事業継続性(Business Continuity)の確保といった会社のリスク管理も実現
テレワークの導入は、組織の就業規則、設備投資や人事制度などさまざまな制度に影響を与えます。企業が構造改革をするための戦略を大きく前進させる力となるのです。
- 企業の社会的責任:CSR(Corporate Social Responsibility)の向上
- 企業イメージの向上
- 次世代育成支援対策推進法への対応
など企業が社会に与える影響力をさらに良いものへと変化します。
通勤手当とは? 非課税限度額、計算方法、交通費との違い
通勤手当とは、従業員の通勤にともなう費用を企業が支給する福利厚生です。交通費との違い、課税ルール、制度を運用するポイントなどを解説します。
1.通勤手当とは?
通勤手当とは、従業員が通勤に要する費用...
労働者側のメリット
- 育児や介護と就業を両立
- 通勤による疲労の減少
- 地域における子どもの安全確保
- 地域コミュニティへの参加機会の増大
- 居住地域の選択肢が広がる
このように個人のプライオリティに合わせたワークスタイルやライフスタイルの実現が可能となります。それにより、労働者側の仕事の生産性や効率性の向上も期待できるでしょう。
社会におけるメリット
- 家事や育児、介護と仕事の両立を求めている女性や、自分のペースで仕事をしたい高齢者・障害者などの就業促進が期待できる
- 交通量の削減や混雑の緩和、地球環境負荷の軽減
- 昼間の都心に人口が集中することも解消
- 大災害が起こった際の大都市の防災性が大きく向上
- 地方へと住居を移す人も増えるため、地方における就業機会の増加などを通して地域活性化に一役買う
このようにテレワークは、地域や環境にも好影響をもたらすのです。

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7.テレワーク導入の目的と具体例
テレワークを導入する目的と、その具体例について紹介しましょう。
目的①ダイバーシティの推進
企業は多様な社員を雇用し、ダイバーシティ化を図ることができます。たとえば、子育て中の人、家族を介護する必要のある人、病気やケガをしている人、身体に障がいのある人などの採用を検討できるのです。
また、中にはテレワークを福利厚生的な側面として捉えている企業も。先ほど挙げた何らかのサポートを必要とする人に対してテレワークを用いた支援を行えば、社員は会社を辞めることなく継続して業務に従事できるようになります。
またICTなどで働く環境を整えれば、社員は能力を存分に発揮しやすくなるでしょう。こうしたテレワークを導入している企業では、主に在宅勤務を中心とする傾向にあります。
従来型の女性活用に近い視点から導入している企業もあるようですが、必ずしも女性社員に限定しているわけではありません。
導入企業例:万有製薬
万有製薬では在宅勤務制度の目的として、「ダイバーシティ」「ワークライフバランス」「パンデミック対策」の3つを掲げており、それぞれの目的ごとに精度を設計しています。
非常時であるパンデミック対策のための在宅勤務を除き、平常時は、
- ダイバーシティ目的として週5日の完全在宅勤務
- ワークライフバランス目的として週1日の部分在宅勤務
を導入・運用しているのです。
勤務時間の長さではなく、成果を重視した評価(業績主義)をテレワークにも徹底していることは大きな特徴といえるでしょう。上記のような制度を設けている万有製薬では、内勤社員の 30%が在宅勤務を実施しています。
目的②ワークライフバランスの実現
テレワークの導入により仕事と私生活を調和し、ワークライフバランスが実現します。それにより社員は、生活に余裕が生まれるでしょう。そのため大企業を中心にテレワークを導入する事例が増えているのです。
ワークライフバランスの実現を目的にテレワークを導入する企業には、下記のような特徴があります。
- 従業員数が数万人規模の大企業
- 「入社〇年目以上」などと区切って、大多数の社員を対象に在宅勤務制度を導入することが多い
- 臨機応変に対応できるように育児や介護などと目的を定めず、緩やかな条件を設定した上で週に1日程度の在宅勤務を認めることが多い
導入企業例:ノバルティスファーマ
ノバルティスファーマでは、2009年4月より戦略的なテレワークを導入しています。
ノバルティスファーマの在宅勤務制度導入の特徴は、福利厚生の一環という位置付けではなく、オフィスで働いた場合と同じかそれ以上のパフォーマンスを発揮することが社員に求められている点。
そのため育児や介護などの事情を持つ社員に対してだけでなく、幅広い社員に適用されているのです。2017年からは社員の「ライフ・ワークインテグレーション(仕事と生活の相乗効果)」の向上を掲げ、従業員満足度を高めるための施策を展開しています。
目的③業務効率の向上
近年テレワークを導入している企業を見ると、「業務の棚卸し」や「業務の見える化(可視化)」などを導入目的に掲げている企業が多く見られます。テレワークの導入をきっかけに、マネジメントプロセスや業務プロセスの見直しが行われているのです。
特に生産性や業務効率の向上を目的にテレワークを導入している企業では、社員のワークライフバランスの実現とともに経営目的も達成しよう、と考えるケースが多いようです。
テレワークの導入に事業の再構築(BPR)を掲げている企業の特徴として挙げられるのは、
- マネジメントが重要視されている(社員の働き方を重視)
- 比較的多くの社員が在宅勤務を行っている(テレワークの定着率が高い)
- テレワークが社内外に与えるインパクトが大きい(テレワークによる成果が大きい)
導入企業例:コニカミノルタジャパン
コニカミノルタジャパンでは、2013年より組織横断型の「働き方変革プロジェクト」を実施。
本社移転に伴って、ICT利用の促進やフリーアドレス化、外勤者にスーパーフレックス制度を導入したほか、200以上の全国拠点をサテライトオフィスにするなど環境を整備しました。
2016年度にはワークフローを変革するほか、テレワーク・スーパーフレックスの適用範囲を拡大。さらに保管文書ゼロ化を進め、富士山の約1.2倍に相当する86%の文書削減に成功しました。
目的④事業継続性(BCP)の確保
2009年以降にテレワークを導入する企業の特徴で多く見られるものは、「パンデミック」などの有事を想定したものです。
たとえば、新型インフルエンザ(H1N1 亜型)の世界的流行や大きな災害などが発生すれば、社員が出社できず、業務が滞ってしまうでしょう。
このような場合を想定して、リスクヘッジのためにテレワークを導入する企業が増えているのです。実際、1994年のアメリカでノースリッジ地震が起きた際、多くの企業でテレワークを導入して危機をしのいだという事例もあります。
普段から事業継続性(BCP)の観点に立ち、有事を想定してテレワークの仕組みを構築していれば、比較的早い段階で業務を再開できるでしょう。
導入企業例:ネスレ日本
ネスレ日本では、以下のような段階を踏んでテレワークを導入し、社員の働きやすい環境づくりを推進しています。
- 2011年:営業職の直行直帰を導入
- 2016年:一部を除く社員に対して「フレキシブルワーキング制度」を導入
- 2017年:ほぼすべての社員に「ネスレ日本型ホワイトカラー・エグゼンプション」を導入
また、パンデミック時の業務の推進方法を策定し、実証実験も行っています。具体的に行われているのは、パンデミック時に継続する業務とそうでない業務を仕分けし、対象社員にリモートアクセスができるような環境を整えること。
テレワークを日常業務に取り入れて知見を蓄積しておくと、有事に役立てることができます。

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8.なぜ日本で普及しないのか? テレワークの問題点
近年テレワークを導入する企業が増えているといっても、日本ではまだそれほど多くはありません。その理由は何でしょうか。
企業がテレワークを導入しない理由
平成30年の「通信利用動向調査」において、テレワーク未導入の企業は73.7%を占めています。企業がテレワークを導入しない理由として挙げた最も多い回答は「テレワークに適した仕事がないから」で、その割合は73.1%でした。

9.テレワーク導入における課題と対策方法
テレワークの課題(デメリット)にも目を向けてみましょう。テレワークの課題(デメリット)は4つあります。
- セキュリティ
- 労務管理
- 人事評価
- 導入コスト
デメリット①セキュリティ
- オフィスから離れた場所に書類やデータを持ち出す
- 情報ネットワークを通して情報のやりとりをする
これらは、情報漏えいの危険性を高めます。
現実的に、テレワークを行う労働者をオフィスと同等のセキュリティ環境に置くことは困難です。テレワークでは、情報をオフィスの外に持ち出す危険性を認識しておく必要があるでしょう。
外部への情報漏えいの対策
テレワーク最大の課題である外部への情報漏えい対策について言及しておきましょう。
- シンクライアントの導入:テレワーク先で専用アプリケーションを起動することで、ネットワークを通してオフィスのサーバー内に格納してあるデータにアクセス
- PCの暗号化とVPN(Virtual Private Network)の導入:パソコンの紛失や盗難時に安心
- プライバシーフィルターの導入:他人の視線がある場所での覗き見を防げる
情報セキュリティに関する教育を社員に行って、リスク管理意識を育成することも重要です。
デメリット②労務管理
職場から離れて働くテレワークでは、労働者のオン・オフといった勤務状態の見分けができないことが悩みとなっています。
- 勤怠管理
- スケジュール管理
- 時間外の管理
など適切な労務管理の実施ができないことは大きな問題です。システム開発やソリューションの高度化により、ある程度管理ができる部分も増えてはいるものの、労務管理の課題はまだまだ残されています。
勤怠管理やスケジュール管理の対策
テレワークにおける労務管理の課題を克服するには、勤怠管理やスケジュール管理の対策が不可欠です。その対策として都市郊外型サテライトオフィスの活用が有効とされています。
都市郊外型サテライトオフィスとは、ICカードや通話ボックスの設置、個人専用ブース、監視カメラや警備サービスなどを兼ね備えたオフィスのこと。都市部周辺の郊外に設置すればで、通勤負担の軽減といったテレワークのメリットをそのまま活用できます。
ただし、サテライトオフィスの設置により企業側のコストも増えてしまいます。テレワークの生産性と併せて検討する必要があるでしょう。
デメリット③人事評価
テレワークの課題(デメリット)は、人事評価面にも出てきます。就業場所に出勤しない、顔の見えない社員の働きぶりはどう評価すればよいのでしょうか。
同じ就業場所にいる社員同士は、その働きぶりを日常のさまざまなシーンで目にできます。しかしテレワークで働く社員の日常の働きぶりは目にしないため、同じ場所でともに過ごす社員と同様に人事評価を行えるかとなると、疑問が残ってしまうのです。
人事・評価制度における対策
人事・評価制度における対策については、前述した都市郊外型サテライトオフィスの活用が効果的です。
システムの導入次第では、ICカードによる勤怠管理を可能にします。また抜本的な対策として、従来の勤務時間に基づく人事評価だけでなく仕事の成果に基づく評価プロセスの導入も不可欠です。
新しい働き方に対しての評価を、新しい人事評価制度で実施することは、ある意味当然の流れといえます。仕事の成果に対しての評価を人事評価に反映する制度設計が必要でしょう。
デメリット④導入コスト
テレワークの課題(デメリット)で最も企業に重くのしかかるのは導入コストでしょう。テレワークを導入する場合、下記のような各種環境の整備が求められます。
- 社内システムへのアクセス環境整備
- 社外にいる従業員との電話やテレビ会議といったコミュニケーションツールの構築
- リモートでのデータやファイルの編集環境の整備
近年アプリケーションの提供が進んでおり、コスト面の負担は軽減されつつありますがローコストでも投資額の回収が可能かどうかとなると、難しい点があります。
費用対効果の正当化
費用対効果の正当化には、オフィス改革と業務標準化の実施が必要でしょう。たとえば、下記のような事柄です。
- フリーアドレス制の導入
- オフィス面積の削減によるテナント賃料の見直し
- オフィスの移転
オフィス面積の削減は、労働環境の低下を意味するように感じるかもしれません。しかしテレワークの導入が進めばオフィスの人口は減少するのです。こうしてコストを削減していけば、テレワークの効果を最大化できるでしょう。

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10.テレワークの導入方法
テレワークの導入方法について手順を解説します。総務省の「情報システム担当者のためのテレワーク導入手順書」も参考になるでしょう。
業務プロセスやマネジメントプロセスを見直す
テレワークを導入する際、下記のような手順で行います。
- 導入目的を明確にする
- 業務をブレークダウンし対象範囲を決定する
- 現状を把握する
- 導入計画を立てる
- 環境を整備する
- 研修や説明会で導入方法を説明する
- テレワークの実施後、実態を分析・評価する
厚生労働省や総務省のガイドラインを確認しよう
厚生労働省、国土交通省 都市・地域整備局、一般社団法人日本テレワーク協会などが独自にガイドラインを作成しています。
| 発行元 | ガイドライン名 | 内容 |
| 厚生労働省 | 企業のためのテレワーク導入・運用ガイドブック |
|
| 国土交通省 | テレワークの普及にむけて |
|
| 日本テレワーク協会 | - |
|
| 総務省 | テレワークセキュリティガイドライン |
|
テレワーク導入に対する助成金とは?
テレワークを新たに導入する中小企業に、助成金制度が設けられています。たとえば時間外労働等改善助成金(テレワークコース)では、導入経費の1/2~3/4(上限額:150万円)を助成するのです。
- 成果目標を達成した場合:補助率:導入経費の3/4、1人当たりの上限額:20万円、1企業当たりの上限額:150万円
- 成果目標が未達成の場合:補助率:導入経費の1/2、1人当たりの上限額:10万円、1企業当たりの上限額:100万円
支給対象となる事業主の要件として、労働者災害補償保険の適用事業主である、テレワークを新規で導入する事業主であるなど4つの要件が規定されています。
支給対象となる取り組みは、
- テレワーク用通信機器の導入・運用(パソコン、タブレット、スマートフォンは支給対象外)
- 保守サポートの導入
- クラウドサービスの導入
- 就業規則・労使協定等の作成・変更
- 労務管理担当者や労働者に対する研修、周知・啓発
- 外部専門家(社会保険労務士など)によるコンサルティング

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11.テレワーク導入を成功させるためのポイント
テレワークの導入を成功させるための大事なポイントについて解説します。
導入目的を明確にする
テレワークを導入するにあたってまず重要になるのは、導入目的を明確にすること。テレワークの対象となる社員が、目的やメリットをきちんと理解しないまま導入してもうまくいきません。
何のために導入するのか、どのような仕事を行うのかを事前に定め、社員にきちんと説明して理解してもらいましょう。
「政府が推進しているから」といった漠然とした理由で導入すれば、「時間管理がうまくいかずパフォーマンスが上がらない」「社員間のコミュニケーション不足が生じやすい」といった課題が噴出する可能性もあります。
せっかくテレワーク制度を導入したのに誰も利用していない、ということにならないよう、明確に目的を定めて社員に理解してもらうようにしましょう。
テレワーク可能な業務と不可能な業務を分ける
テレワークで最も留意しなければならないのはセキュリティです。情報漏えいが発生しないよう、情報の機密性に着目して、「社外で作業してもよい業務」と「社内で行うべき業務」を事前に仕分けしておきましょう。
テレワークを実施する前に業務の線引きを行って社員に周知徹底すると、機密性の高い業務をむやみに社外に持ち出す状況も減ります。
またセキュリティに関する知識が浅いと、情報漏えいのリスクが高まります。テレワークで使う端末には、マルウェアや端末の紛失・盗難、通信内容の盗聴、不正アクセスといった脅威にさらされやすいといったデメリットがあるのです。
セキュリティ研修を実施する、セキュリティに関する議論を行うなど、対策をきちんと立てておきましょう。
段階的に導入する
柔軟性も重要です。テレワーカーはテレワークだけ、オフィスワーカーは内勤業務だけと決めつけることはありません。柔軟にテレワークと出勤を選べるようにすると、社員のモチベーションの向上やワークライフバランスの実現につなげることができます。
また最初から全面的に導入するのではなく、期間を限定して始めてみるなど、段階的にテレワークの導入範囲を広げていく方法もお勧めです。

12.テレワークの導入事例と活用方法
テレワークはすでに多くの企業で導入されています。ここでは、「2016年テレワーク先駆者百選総務大臣賞」を受賞した導入企業の現状や事例の紹介をしましょう。
- サイボウズ
- ブイキューブ
- 明治安田生命
- ヤフー
①サイボウズ
サイボウズは、グループウェアの開発、販売、運用を手掛ける社員数500名の情報通信会社です。
テレワーク導入の目的は、業務効率の向上や雇用機会の創出、ワークライフバランスの支援、自社が提供するクラウド型グループウェアの利用でテレワークが実践可能かどうかを立証など。
人事部および事業支援本部が中心となり、全組織、全職種、全社員を対象として実施しています。
導入の方法
サイボウズは、全社員を対象に月4回以上8回未満の実施日数を設定してテレワークを導入しました。
まずテレワークに関する社内ルールを作成。社員は事前の申請と承認を経て、テレワークが実施できます。また、突発的な申請にも対応するため、当日の連絡でテレワークを可能とする「ウルトラワーク」も設定しました。
さらに、社内ネットワークへのアクセスに関する証明書をインストールするなど必要に応じたリモートデスクトップも設定したのです。
導入による効果
テレワークの導入により、下記のような効果が現われました。
- 育児や介護など家庭の事情で休職や退職を考えなければならなかった社員の継続勤務を可能とした
- 地元へのUターン、海外希望といった状況でも仕事と生活との両立ができるようになった
- 多様な働き方ができるという評判から、入社希望者は増加し、より優秀な人材の採用へとつながっている
また東日本大震災発生時、全社員に数日間在宅勤務をする指示を出しました。すでにテレワークのインフラ整備が整いつつあったので、業務に支障をきたすことはなかったそうです。
②ブイキューブ
ブイキューブは従業員数が550名(2016年度のデータによる)の情報通信会社で、ビジュアルコミュニケーションツールの企画・開発・販売・運用や保守を行っています。
日常業務よりWebコミュニケーションを活用していることから、国内各地でサテライトオフィスの活用を積極的に推進しているのえす。
遠隔教育、遠隔医療などを含め、対面しなくても世界中でコミュニケーションが取れる労働環境の整備を実現するため、テレワークを積極的に実施しています。
導入の方法
ブイキューブのテレワークは、管理部門や総務人事グループが中心となって全職種の正社員48名(2016年度のデータによる)に対して実施されています。
全社員が自社のWeb会議サービスやチャットツールを利用できるなど、テレワークがスムーズに実現できる環境も整っているのです。
月4回以上8回未満程度で、原則週1回の運用として行っており、社員それぞれの事情に合わせ、所属長の面談を経て週1回以上のテレワーク実施を認可しています。
導入による効果
Web会議サービスなどを利用することで、シンガポールと日本での細かなやりとりができるようになり、海外市場の売り上げは2014年で前年対比2.9倍、2015年で前年対比1.9倍に伸びました。
また、
- 家族の転勤や育児など家庭の事情で会社に出勤できない社員に部分テレワークを実施
- 有能な人材や業務のノウハウの流出を防ぐ
- 人材確保ができるので、新規採用時のコストも削減できる
といった効果もあります。
③明治安田生命
明治安田生命は、生命保険業や資産運用を行う金融・保険会社。従業員は41,000名(2016年度のデータによる)と、日本を代表する大企業です。
同社で働き方改革を推進した結果、従業員のワークライフバランスは整いつつありました。しかし本社において通勤や労働に関する問題は残っており、さらに経営計画で「人財力改革」というスローガンを掲げていたのです。
こうした働き方に関するさまざまな面から、テレワークを導入しました。
導入の方法
明治安田生命は、人事部を中心としてテレワークを推進しています。対象者は全組織にわたる31,590人(2016年度のデータによる)です。
事前に実施した従業員意識調査に、ワークライフバランスの実現にはテレワーク導入が必要という回答が多く上がったのを受けて導入されました。
就業規則および細則で、本社組織ではおおむね週1~2回、営業組織ではおおむね週4回以上と規定されています。また営業現場にタブレット型端末を配布し、迅速な営業活動を実現しているのえす。
導入による効果
テレワーク制度の利用者を対象にしたアンケートによると、テレワークの導入により、下記のような効果が出ているといった回答が上がりました。
- 通勤負担の軽減
- 空き時間の有効活用
- 業務の効率化
- 家庭と仕事の両立がしやすくなった
実際2015年度は、中堅スタッフの時間外労働時間が前年比マイナス20%でした。業務の効率化が図れた上、生産性の向上にもテレワークが貢献しているという点で評価されています。
④ヤフー
ヤフーは、インターネット上の広告事業、イーコマース事業、会員サービス事業などを行う情報通信会社で全社員がテレワークの対象です。
在宅や時間にとらわれることなく希望する場所ならどこでもいつでも業務を可能とするテレワークを、「どこでもオフィス」という名称で実施しています。
テレワークは、自由な発想で能力を最大限発揮できる革新的なサービスを創造するための重要な経営戦略として位置付けられています。
導入の方法
コーポレート統括本部PD戦略本部が中心となり、別途社内規定で雇用上の規定を作成して対応しました。全社員が対象で、月5回まで利用できます。
前日までに上司に事前申請をすれば、旅先、海外、カフェなど自宅以外での就業が可能。全社員にノートパソコンとiPhoneを貸与し、社外から社内環境へアクセスができるようになっているのです。
そのほか、Web会議システム、ビデオ電話、テキストチャットなどの環境も整っています。VPNやSSLといったセキュリティを担保すると同時に、遠隔操作やリモートワイプといった情報漏えい防止にも取り組んでいます。
導入による効果
就業環境が変わることで新しい思考が働き、業務効率の向上や新しいアイデアの創出といった業務の質の向上にもつながっています。また、プライベートと仕事を効率よくやりくりできるようになったため、生活に充実感を持つ社員が増加しました。
さらに、自然災害などで通勤が困難になっても、「どこでもオフィス」があることで通常業務が進められるため、企業のリスク管理体制の強化が整ったのです。
「どこでもオフィス」という名のテレワークは、
- 2015年度の産休・育休復職率97.2%を達成
- 従業員満足度の向上
- 新卒入社3年以内の離職率4.5%
- 一人当たりの年間総労働時間数を削減する
など、さまざまな効果を生み出しています。

13.テレワーク・デイとは?
通勤せずに業務をこなすテレワークは、思わぬことでも注目されています。それは、テレワーク・デイです。
総務省、厚生労働省、経済産業省や内閣府など各省庁が中心となって、2020年東京オリンピック開会式が行われる「7月24日」をテレワーク・デイと位置付けました。
2020年開催予定の2020年東京オリンピックでは会期中、都内で激しい交通渋滞や混雑の発生が予想されています。それらの回避に向け、交通機関や道路が混雑する始業から10時半までの間、企業や団体、官公庁にテレワークを一斉に活用する呼びかけを行ったのです。
期間は2017年から2019年まで。東京オリンピックを契機に、テレワークという働き方に着目した働き方改革の盛り上がりが期待されています。
テレワーク・デイの過ごし方
7月24日、テレワーク・デイ実施企業は朝の通勤で電車など公共交通機関の利用を極力減らすなどのトライアルを実施するのです。
総務省はテレワーク・デイの過ごし方として、下記3つのうちのいずれかの選択を推奨しています。
- 在宅勤務
- モバイルワーク
- サテライトオフィス勤務
またテレワーク・デイ実施企業にアンケートを取り、公共交通機関の利用状況やエネルギーやコストの節減状況などの効果測定も行います。
テレワーク・デイの効果
テレワーク・デイの成功事例はイギリスにあります。
2012年にロンドンオリンピック・パラリンピックがイギリスで開催されましたが、前前から会期中、交通混雑によりロンドン市内の通勤に支障が生じると予測され、早急な対策が求められていたのです。
そこでイギリス政府がテレワークなどを推進し、その結果、在宅勤務が広がって朝夕の通勤時間の交通混雑を緩和できました。成功事例を参考にして、日本政府も個人の生産性やワークライフバランスの改善など「働き方改革」につながると期待感を示しています。

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