社会保険事務所とは? 行っていた業務や廃止する理由となった年金記録問題について

社会保険とは、健康保険や介護保険、厚生年金保険の3つをまとめた総称です。ここでは、この社会保険を取り仕切っていた社会保険事務所について解説します。

1.社会保険事務所とは?

社会保険事務所とは、地方社会保険事務局の下部組織として年金事務を扱う行政機関のこと。元は旧社会保険庁の出先機関で、各都道府県に置かれていました。

2010年1月に年金記録問題が発覚し、失われた国民の信頼を取り戻すために社会保険庁を廃止。その後に日本年金機構が発足し、社会保険事務所は日本年金機構の年金事務所へ移行することとなりました。

旧社会保険庁とは

旧社会保険庁は、1962年に厚生省の外局として誕生した行政機関です。健康保険や船員保険、厚生年金や国民年金、さらに児童手当などに関する事業の実施と運営を行っていました。

総務部や運営部のほか、社会保険業務センターや社会保険大学校、地方社会保険事務局や社会保険事務所などが管轄です。2010年1月に年金記録問題の発覚により廃止されることになり、これに代わる新しい組織として公法人日本年金機構が設立されました。

2010年1月に社会保険庁が廃止。それにともない社会保険事務所は、日本年金機構の年金事務所に移行したのです

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2.社会保険事務所が行っていた業務とは?

社会保険事務所とは、社会保険に加入している国民に対するさまざまな事務業務を行う機関です。主な業務は、「社会保険の適用や徴収」「裁定事務」「年金手帳の作成と交付」「年金相談の実施」などで、比較的国民に接する立場だったといえます。

年金保険事業の種類と制度について

年金保険事業では、厚生年金保険制度と国民年金制度に関する業務を扱います。厚生年金保険制度は、事業所に使用される労働者の老齢や障害または死亡について保険を給付し、労働者と遺族の生活を守ることが目的となる長期保険制度です。

また国民年金制度では、日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の者を被保険者としており、老齢や障害または死亡について給付を行い、国民生活の維持および向上を図るという目的があります。

厚生年金保険制度

厚生年金保険制度とは、民間企業で働いている会社員を対象として1942年に創設された公的年金制度のことで、国民年金に上乗せする年金として管理運営されているのです。

保険料納付済などの期間が10年以上あり、満65歳などの条件を満たした際に受給資格が得られます。

厚生年金には、65歳以降に支給される老齢年金や障害者に支給されている障害年金、公的年金加入者が死亡した際に遺族に支払われる遺族年金があるのです。

国民年金制度

国民年金制度とは、原則、65歳から受け取れる保険制度のこと。1961年に自営業者や農業者らのための年金として開始されました。その後1985年の年金制度改正で、全国民共通の制度に改められています。

受け取るには、国民年金の納付期間と免除期間、厚生年金に加入していた期間などを合算して、25年以上の保険料の支払いがあるといった条件があるのです。

船員保険事業

船員保険事業とは、日本船舶に乗り込んでいる、原則“日本人”の船員を対象としている「船員法」が適用される船員を対象とした制度です。

陸上で勤務する労働者に対する健康保険、雇用保険および労働者災害補償保険に相当するものを船員に適応した総合保険で、政府が管掌しています。職務外の年金部門は、昭和61年に厚生年金保険に統合されました。

年金保険事業の制度には、民間会社員のための「厚生年金保険制度」、全国民が加入する「国民年金制度」、船員法の適用を受ける船員が加入する「船員保険事業」があります

3.年金記録問題によって社会保険事務所は年金事務所へ

2007年、約5,095万件もの持ち主が不明である年金手帳の存在が明らかになりました。そして2010年1月、国民の信頼を回復するため社会保険庁に代わって日本年金機構が発足。このとき社会保険事務所から移行されたのが年金事務所なのです。

「年金記録問題」とは

「年金記録問題」とは、社会保険庁が行っていた公的年金の加入・納付記録の管理が、長年にわたってずさんに行われていたために起こった問題です。

問題が発覚したきっかけは、国民年金や厚生年金、共済年金の年金加入記録のオンライン化に向けて、今まで紙で管理されていた過去の記録を確認した点にあります。

2007年には、基礎年金番号に統合されていない年金記録が約5,095万件にも及んでいたと判明しました。

「宙に浮いた年金」の意味

「宙に浮いた年金」とは、社会保険庁が管理している年金記録のうち、正しく記録されていない年金のこと。「年金記録問題」の際に今まで使っていた年金番号を基礎年金番号に移せなかったものがありました。

このように、年金記録としては存在しているものの誰が支払ったのか不明な年金が「宙に浮いた年金」です。

その件数は約5,095万件とされており、社会保険庁は2008年の3月までに全件の照合をすすめる一方、「ねんきん特別便」の通知によって年金受給権者や加入者へ加入履歴の確認を促しました。

「消えた年金」とは

「消えた年金」とは、年金記録問題の際に加入者が保険料を納付したにもかかわらず、社会保険庁に納付の記録がない年金記録のこと。記録がなくなった経緯は、結婚して名前が変わったケースや単純な入力ミスによるものでした。

これは非常に怠慢な作業であると政府も社会保険庁を批判。約5,095万件という驚愕の数字とともに国民の大きな怒りを買った点から、政府の監督責任をも追及される結果となりました。現行の年金制度への不信をさらに増大させた事件でもあります。

「消された年金」の意味

「消された年金」とは、社会保険庁職員の管理ミスから発覚した年金ではなく、職員が自ら意図的に改ざんした記録のこと。

オンライン化されている記録のうち、6万9,000件が「標準報酬月額が改ざんされている可能性が高い」とされ、そのうち2万件については戸別訪問により確認作業と訂正が行われました。

しかしそれ以外にも、約140万件ものオンライン化されていない記録や加入期間が改ざんされたケースが推計され、記録の確認と回復作業が進められているのです。

「年金記録問題」により、行方が分からなくなった年金は大きく3つに分類できます。それが「宙に浮いた年金」「消えた年金」そして「消された年金」です

4.年金記録が「記録漏れ」や「誤り」となったケースとは?

「年金記録問題」では年金記録の「記載漏れ」や「誤り」が数多く見受けられていました。これまでに解明された記録の具体的な事例を分析していくと、以下3つのケースが多いようです。ここでは、3つのケースについて解説します。

  1. 転職のたびに年金手帳が発行された
  2. 名前の読み方がいろいろある
  3. 姓(名字)が変わったことがある

①転職のたびに年金手帳が発行された

1997年1月に、転職や退職などで年金制度が変わった場合でも年金記録をひとつにまとめて管理できる「基礎年金番号」が導入されました。

しかし1997年1月以降も基礎年金番号を勤務先の会社に提出せずにいたため、転職のたびに年金手帳が発行されて基礎年金番号が重複してしまった、という人も少なくありません。

②名前の読み方がいろいろある

名前の読み方が何とおりもあり、間違った読み方で別の人として登録されてしまったケースがありました。たとえば熊谷さんが「クマガヤ」と「クマガイ」、山崎さんが「ヤマザキ」と「ヤマサキ」といった具合です。

③姓(名字)が変わったことがある

基礎年金番号に統合したはずの年金記録から、結婚などで自身の姓が変わったにもかかわらず、結婚前の「旧氏名」の記録が見つかる場合も多く見受けられました。

年金記録のミスとなった原因では、「転職のたびに年金手帳が発行された」「名前の読み方がいろいろある」「姓(名字)が変わったことがある」などが大多数を占めているようです

5.【初期】年金機構の具体的な取り組みとは?

初期の年金機構の業務は、「年金記録問題」によって失墜した国民の信頼を取り戻すために、年金記録について包括的かつ徹底的に対応していました。内容は大きく5つの項目に分かれます。それぞれについて詳しく紹介しましょう。

  1. 年金受給権者への対応
  2. 被保険者への対応
  3. 無年金者への対応
  4. 記録同士の突合
  5. 記録・証拠がない場合の取扱い

①年金受給権者への対応

年金受給年齢に到達していて基礎年金番号に統合されていない約2,880万件の記録を、年金受給権者約3,000万人の記録と照合。もしも同一人物の可能性がある場合は、その人の年金加入履歴と一緒に通知して照会を勧奨しました。

この作業が完了したのちは、それ以外の年金受給者も同様に照会が実施されます。

②被保険者への対応

20歳以上の被保険者に対しては、2009年4月から国民年金と厚生年金保険のすべての加入者に対して、毎年誕生月に「ねんきん定期便」を送付して加入状況の確認を呼びかけています。

また58歳の通知を行う際、未統合記録についての注意の呼びかけを行い、年金加入履歴を通知して照会を勧奨していました。

③無年金者への対応

現段階で年金受給資格がない方に対して未統合記録の照会と、本当に受給資格が無いかどうか、確認しました。こちらもまずは未統合記録への注意と照会を勧奨しています。

それに加えて、受給資格未達者と未統合記録の照合を行うために、各市町村へ介護保険料納付通知書などの送付を求めました。

④記録同士の突合

8億件超にものぼる膨大な量の紙ベース台帳とオンラインの記録に対して、未統合記録の把握を徹底する突き合わせ作業が行われました。

受給者や加入者からの申し出の有無にかかわらず、社会保険庁のマイクロフィルム記録や各市町村が持っている記録とオンラインの記録を突き合わせ、不備などがあればほかの書類あるいは本人へ確認する、という流れになっています。

⑤記録・証拠がない場合の取扱い

初期には「できるだけ早く手続きの方法を策定する」としているだけでした。

その後、2007年に設立された「年金記録確認第三者委員会」が案件処理に携わるようになり、資料はもとより金融機関の通帳や雇用者の証言なども含めて検討し、記録訂正に関して公正な判断を行うこととなりました。

初期の年金機構には、失われていた国民への信頼を取り戻すために行わなければならない最優先課題が、5つあったのです

6.【今後】年金機構の具体的な取り組みとは?

年金機構の具体的な取り組みは大きく分けて、「未統合記録の問題への対応」と「年金記録の正確性の確保」2種類があります。2010年1月を目途に一区切りつけるため、取り組みに対する体制を強化し、多くの人員を投入して集中的かつ計画的に実施したのです。

未統合記録の問題への対応

「未統合記録の問題への対応」について3つのことが行われました。この3つについて詳しく説明します。

  1. ねんきん特別便
  2. 記録解明のための作業
  3. 再裁定処理

①ねんきん特別便

ねんきん特別便とは、基礎年金番号に統合されていない年金記録のうち、その持ち主である可能性がある加入者や年金受給者に確認を促す通知書のこと。2009年1月時点では、送付したうちの約7割である約7,200万人から回答が得られました。

回答が届いた人の9割に当たる約6,500万人は、年金記録の確認作業が終わり、残りの回答については日本年金機構の発足までを目途に確認作業を終えることが目標とされていたのです。

②記録解明のための作業

記録解明のための作業とは、結婚などで性が変わった人を対象に、旧姓の情報と未統合記録の照合を行うための作業です。未統合記録の持ち主である可能性がある人に「年金記録の確認のお知らせ」を送付。

最終的にはインターネット上で公示して、未統合記録の解明と統合を進めることも検討されていたようです。

③再裁定処理

再裁定処理とは、記録の訂正後に年金額を再決定すること。再裁定処理のために、2009年12月には280人だった人員を翌年には470人に増強。

ひと月当たり約20万件程度の処理を行い、処理の速度の改善を図りました。2009年の夏頃までに、「社会保険業務センターへ知らせが届いてから3ヶ月程度で処理できるようにすること」を目標としていたためです。

年金記録の正確性の確保

年金記録の正確性の確保 では、4つのことが行われました。

  1. ねんきん定期便
  2. 標準報酬などの遡及訂正事案への対応
  3. 紙台帳とコンピュータ記録の突合せ
  4. 年金記録確認第三者委員会

①ねんきん定期便

「ねんきん定期便」とは、2009年4月から送付が始まった自分の年金記録を確認できる書類のこと。標準報酬や納付年月など自分の年金に関する情報が記載されています。

これにともなって政府広報などによる周知や広報、専用ダイヤルの設置、社会保険事務所での来訪相談といった体制が整備されました。

②標準報酬などの遡及訂正事案への対応

標準報酬などの遡及訂正事案への対応とは、標準報酬などが不適切に訂正されていた事案のこと。該当する案件の数は約6万9,000件で、このうち2万件については戸別訪問にて2009年3月末までに概ね対応が完了しました。

そのほか不適正に遡及訂正されている記録の訂正についても、積極的に訂正を行っているのです。

③紙台帳とコンピュータ記録の突合せ

紙台帳とコンピュータ記録の突合せは、人員の拡充として地方社会保険事務局の人員体制を整え、第二次審査を促進して突合せ作業の完了を目指したもの。

国民年金被保険者名簿や厚生年金被保険者名簿などについては、2009年中に「電子画像データ検索システム」の構築を目指し、2010年度からの実施を予定していました。

④年金記録確認第三者委員会

年金記録確認第三者委員会は、年金記録の確認として、国側にも本人側にも記録が残っていない年金受給者や無年金者の申し立てに対し、「さまざまな関連資料に目を通して記録を訂正」することを目的として設立された団体です。

2007年に設立され、2008年度にあった申し出に対しては翌年の2009年度中に処理を終えるように業務を行ってきました。なおこの委員会は2015年まで業務を終え、解体されています。

まだまだ「年金記録問題」にかんする業務は多く残っています。国民の信頼を取り戻すには時間がかかるでしょう