社会保険の加入義務、加入有無のメリット・デメリット

社会保険の加入義務とは、従業員の健康や生活を守るために必要不可欠である「社会保険」に加入する、事業主に課せられた義務のことです。ここでは社会保険の加入義務について、目的や背景、事業所や対象者などから解説します。

1.社会保険の加入義務とは?

社会保険の加入義務とは、事業主に課せられた「社会保険」に加入する義務のこと。加入は法律によって定められており、加入手続きを怠った事業主に刑事罰が科される場合もあります。

社会保険の目的

社会保険は病気や怪我、失業や介護など生活のなかに潜むあらゆるリスクに備えるため設立されました。下記5つのうち、主に会社員を対象とした「健康保険」と「厚生年金保険」を狭義の意味で社会保険と呼んでいるのです。

  • 健康保険(医療保険)
  • 厚生年金保険(年金保険)
  • 雇用保険
  • 介護保険
  • 労災保険

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社会保険の背景

日本における社会保険の背景について、かんたんに見ておきましょう。日本の社会保障制度が本格的に発展してきたのは、第二次世界大戦のあとといわれています。

それまでも「生存権」という規定において福祉国家の建設が宣言されていました。しかし1950年(昭和25年)の「社会保障制度に関する勧告」にて、社会保障の概念を明示。

その後1961年(昭和36年)に現在の社会保障制度の中核をなす「国民皆保険・国民皆年金」が実現しました。

社会保険の加入義務は法律で決められている

すべての国民が平等に社会保険の便益を享受できるよう、法律で以下の事業者に社会保険(厚生年金保険、健康保険)の加入が義務付けられています。これを「強制適用事業所」といいます。

  • 被保険者を1人以上使用するすべての法人事業所
  • 常時従業員を5人以上雇用している個人事業所

条件は原則、雇用形態にかかわらずすべての労働者に適用されます。

加入しない場合は刑事罰

事業主が社員を正しく社会保険に加入させなかった場合、一体どうなるのでしょう。これに関しても、健康保険法や厚生年金保険法において罰則が定められています。

正当な理由がない場合、事業主には6カ月以下の懲役、または50万円以下の罰金が課されるのです。また未加入のペナルティとして追徴金が発生する場合も。その際、該当する従業員の社会保険料を最大2年間さかのぼって支払わなければなりません。

従業員がすでに退職していて連絡がつかないため、事業主が代わりに全額を負担しなければならない状況も考えられます。刑事罰より重いダメージといえるでしょう。

被保険者1人以上のすべての法人事業所、および常時従業員を5人以上雇用としている個人事業所は原則、社会保険への加入義務があります

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2.社会保険の加入義務のある事業所

社会保険の加入義務がある事業所について、もう少し詳しく見ていきましょう。社会保険の加入対象は、先に触れた「強制適用事業所」と、一定の要項を充たし、加入申請すると社会保険が適用される「任意適用事業所」のいずれかに分類されます。

強制適用事務所

「強制適用事業所」とは、事業主や個人の意思、企業の規模や業種に関係なく社会保険への加入が義務付けられた事業所のこと。

国や地方公共団体または法人の事業所、製造業や土木建築業などの一定の業種で常時5人以上を雇用する個人事業所などが該当します。

株式会社や合同会社などの法人事業主は、従業員の人数にかかわらずすべて社会保険の強制適用事業所です。たとえ従業員が社長ひとりでも、社会保険に加入しなければなりません。

任意適用事務所

「任意適用事業所」とは、以下2つの条件を満たした場合、任意で社会保険に加入できる事業所のこと。なお常時の従業員が5人以下の個人事業主に、社会保険の加入義務はありません。

  • 従業員の半数以上が社会保険の適用事業所となることに同意している
  • 事業主の申請により、厚生労働大臣の認可を受けている

任意適用事業所の場合、健康保険のみあるいは厚生年金保険のみ、といったように「どちらか1つの制度のみ」の加入も可能です。

個人事業主の場合の保険料

会社員と個人事業主とでは加入すべき社会保険が違うため、保険料もおのずと異なります。

  • 医療保険・年金保険・介護保険:会社員の場合は会社と折半、個人事業主の場合は自己負担
  • 雇用保険:会社員の場合は会社と本人がそれぞれ負担、個人事業主に該当する保険はない
  • 労災保険:会社員の場合は会社が全額負担、個人事業主に該当する保険はない

社会保険の加入義務がある事業所は、株式会社や合同会社などの「強制適用事業所」と、一定の条件を満たすと適用される「任意適用事業所」に分類されます

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3.社会保険の加入義務のある対象者

社会保険の加入義務がある「事業所」について確認したところで、続いては「加入の対象者」について見ていきましょう。基本、会社や商店などの法人、および個人事業所といった社会保険適用事業所で働いている人すべてに加入義務があります。

会社員

まずは社会保険(厚生年金保険、健康保険)に加入している会社の従業員です。工場や商店、船舶などの適用事業所に常時使用される70歳未満の従業員が被保険者、つまり加入対象者となります。これには国籍や性別、年金受給の有無を問いません。

なおここでいう「常時使用される」とは、労務の対償として給与や賃金を受け取る使用関係が常用的に結ばれている関係のこと。雇用契約書の有無は関係ないため、たとえ試用期間中でも報酬が支払われる場合、使用関係が認められます。

会社員の配偶者

先に挙げた会社員の配偶者はどうでしょうか。配偶者についても、一定の条件を満たしていれば社会保険の適用を受けられます。それが130万の壁ともいわれる被扶養認定基準です。

配偶者の年間収入が130万円未満の場合、被扶養者となります。なお年間収入は手取り額(差引支給額)ではなく各種控除前の金額です。また金額はひとつの目安に過ぎません。会社の担当窓口や保険組合、全国健康保険協会に確認しておくと安心でしょう。

パート・アルバイト

社会保険の加入対象者について特に多いのが、パートタイムやアルバイトとして働いている従業員についての質問です。

これまで所定労働時間が週30時間以上の従業員が加入対象でした。しかし2016年(平成28年)10月1日から、以下のとおり加入条件が拡大されています。

さらに2017年(平成29年)4月からは、従業員500人以下の会社でも労使の合意があれば会社単位で社会保険に加入できるようになりました。

パート・アルバイトの加入条件

パートタイマー・アルバイトの加入要件は、所定労働時間が週30時間以上、もしくは以下の項目すべてを満たす従業員です。

  • 所定労働時間が週20時間以上
  • 月額賃金が8.8万円以上
  • 雇用期間見込みが1年以上
  • 学生ではない
  • 従業員数500人以上の特定適用事業所または任意特定適用事業所に勤めている

これによりかつて社会保険の加入対象にならなかったパートやアルバイトも、社会保険のメリットを受けられるようになったのです。

加入条件を満たさない場合

それでは反対に、社会保険の加入条件を満たさない労働者とはどのような人を指すのでしょう。基本、以下の場合に被保険者の対象外となりますが、先に触れた「常時使用されるもの」と見なされた場合、被保険者となります。

  • 日々雇い入れられる人
  • 所在地が一定しない事業所に使用される人
  • 2カ月以内の期間を定めて使用される人
  • 季節的業務(4カ月以内)に使用される人
  • 臨時的事業の事業所(6カ月以内)に使用される人

加入義務が喪失した場合

社会保険の加入義務は、以下の場合に事業主が「健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届/厚生年金保険70歳以上被用者不該当届」を提出すると喪失します。

  • 被保険者が退職や死亡したとき
  • 契約変更といった状況により、資格基準を満たさなくなったとき
  • 資格を喪失する者(70歳以上被用者を含む)が生じたとき

なお被保険者の資格を喪失するのは原則、事実があった日の翌日です。

対象者に社会保険の加入義務があるか見極める際は、「常時使用されているかどうか」がポイントになります

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4.社会保険加入義務のメリット・デメリット

社会保険に加入すると得られるメリット・デメリットとは何でしょうか。それぞれについて解説します。

メリット

社会保険に加入すると得られるメリットは4つです。

  1. 厚生年金保険に加入するため、厚生年金を受け取れる(厚生年金保険に40年間加入して毎月8千円の保険料を納めていた場合、受け取る年金額の目安が毎月1万9千円ほど増える)
  2. 万が一障がいがある状態になった場合、障がい基礎年金のほかに障がい厚生年金が支給される
  3. 健康保険に加入するため、傷病手当金や出産手当金などの給付金が充実する
  4. 健康保険や厚生年金保険について会社が保険料の半分を負担するため、実質的には2倍の保険料が支払われる(充実した給付につながる)

デメリット

デメリットはやはり各種保険料の負担が生じる点でしょう。健康保険と厚生年金保険は保険料の半額を会社が負担しなければなりません。この負担額は対象となる従業員の年収の約15%になります。

従業員にとっても各種保険料が毎月の給与額から徴収されるため実質、手取り額が減ります。また家族手当の支給対象を「社会保険の被扶養者」に限定している場合、配偶者の家族手当が支給停止になる場合も。被扶養者の年収上限には注意が必要です。

社会保険料が所得から控除されるため、結果として所得税や住民税が減る点も、社会保険加入におけるメリットのひとつでしょう

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5.社会保険の加入手続き

社会保険の加入手続きは基本、会社をとおして進めます。事業主は日本年金機構や健康組合などのホームページから届出用紙をダウンロードして提出、もしくは管轄の事務所に問い合わせましょう。

これまで加入していた国民健康保険や配偶者の資格喪失届出など、自身で行うものもあるため確認が必要です。

手続き時期と提出方法

事業所が厚生年金保険および健康保険の加入手続きを取らず、未加入となっている場合「新規適用届」の提出が必要となります。提出時期や提出先は以下のとおりです。

  • 提出時期:事実発生から5日以内
  • 提出先:事業所の所在地を管轄する年金事務所あるいは事務センター(事業所の所在地が登記上の所在地と異なる場合、実際に事業を行っている事業所の所在地を管轄する事務センター)
  • 提出方法:電子申請、郵送、窓口持参のいずれか

加入手続きの手順

社会保険加入の際は、それぞれ以下の添付書類が必要になります。

  • 雇用保険:労働者名簿、出勤簿(もしくはタイムカード)、雇入通知書もしくは雇用契約書、賃金台帳、職歴が確認できる書類
  • 健康保険、厚生年金保険:法人(商業)登記簿謄本(コピー不可)、事業主が国もしくは地方公共団体または法人である場合は法人番号指定通知書のコピー、強制適用となる個人事業所の場合は事業主の世帯全員の住民票(コピー不可)

加入手続きが遅れた場合の対応

「新たに労働者を雇用した」「新たに被保険者となる労働者が生じた」場合、規定の期限までに加入手続きを行わなければなりません。

  • 雇用保険:雇用開始日の翌月10日まで
  • 健康保険、厚生年金保険:採用してから5日以内

何らかの理由で加入手続きが60日以上遅れた場合、「遅延理由書」が必要となります。従業員が退職する場合も同じです。

手続きをする際の注意点

社会保険の加入手続きを行う際は、先に述べた加入手続き時期や提出方法、手続きの手順などをふまえて次の2点に注意しましょう。社会保険の加入手続きでは、以下の間違いが多く見られます。

  1. 加入手続き自体が漏れている
  2. 標準報酬月額の算出が間違っている

①加入手続き自体が漏れている

社会保険の加入手続きを行う際の注意点として特に多いのが、加入手続きそのものが行われていなかったというケース。前述のとおり、社会保険の加入が必要な条件は法律によって定められています。

「対象外だった従業員が新たな対象者となっていたにもかかわらず加入手続きが行われていなかった」「労働条件が変更されていたのに加入させていなかった」といった場合、さかのぼって加入を求められるのです。

②標準報酬月額の算出が間違っている

給与から控除される各種保険料は「標準報酬制」によって定められています。標準報酬制とは、毎年1回、4月から6月に支給された報酬の平均額を標準報酬等級表に当てはめて「標準報酬月額」を算出する制度のこと。

標準報酬月額に含まれる範囲は紛らわしい部分も多いため、金額を決定する際や改定があった際は特に注意が必要です。

社会保険の加入手続きは改正される部分も多く、ミスが発生しやすい業務でもあります。保険料の認識誤りは思わぬ簿外債務につながるので注意しましょう