戦略人事とは? 機能、役割、要件、事例について【従来の人事や人事戦略との違い】

戦略人事とは、戦略的人的資源管理の略語です。

企業の経営目標や経営計画の実現と人的マネジメントを関連付ける人事であることから、従来の人事部の業務にはない視点だと、注目を集めています。

  • ビジネスの世界で注目されている戦略人事とはどのようなものか
  • 戦略人事の機能や役割、要件
  • 戦略人事の具体的導入事例

などについて見ていきましょう。

1.戦略人事とは?

戦略人事とは「戦略的人的資源管理(Strategic Human Resources Management)」のこと。企業の経営戦略の目的達成を目指して、人的マネジメントを行っていくことを意味します。

企業が持つ、「ヒト・モノ・カネ」3つの経営資源。戦略的人的資源管理は、経営資源の一つ「ヒト」をクローズアップしたものです。

経営戦略の実現と経営資源の一つ「人的資源」のマネジメントを結び付け、人的資源を最大限活用して企業戦略という成果を最大化させることを、目的としています。

従来の人事部との違い

戦略人事という言葉が生まれる前にも、人材に関する業務を担当する部門として人事部門がありました。

企業内に人事部が存在するのは、多くの企業では当たり前となっています。

しかし、従来の人事部が担当する業務と戦略人事には、その目的に違いがあるのです。

  • 人事部の目的:業務の効率化
  • 戦略人事の目的:経営戦略の実現などビジネスの成果に対して貢献できる人材をマネジメント

従来の人事部における戦略人事的側面というと、CoEとOPsしかありません。

戦略人事と類似する言葉に、人事戦略があります。人事戦略とは、「人的資源の一つである人材のマネジメントをどのように行うか、方向性を決定する」ことです。

2.戦略人事に必要な4つの機能・役割

リクルートワークス研究所『Works vol.133』を参考に作成

戦略人事とは、経営目標を達成するための人材マネジメントを行うこと。戦略人事には、4つの機能や役割があります。

  1. HRBP
  2. OD&TD(組織開発&タレント開発)
  3. CoE(センターオブエクセレンス)
  4. OPs

①HRBP

1つ目は、HRBP。HRBPとは「人事」と「ビジネスパートナー」とで成り立つ言葉です。

ビジネスの成果を最大化するために、各事業部門と綿密な連携を取りながら、人的資源と組織づくりの観点からビジネスをマネジメントすることを意味します。

BPの役割は、

  • 各事業の人材や組織に関するリクエストに応える
  • まだ言語化されていない問題やニーズを引き出し、解決しながら事業を展開していく

ことで、支援する相手は、2つあります。

  1. ビジネスリーダー
  2. 事業部で働く従業員

まず、事業戦略の実現に向けて各部門のビジネスリーダーとやりとりを行います。

  • 事業戦略に沿った人材戦略の考案
  • 人材戦略に則った人材採用や育成計画の実行

は、BPとビジネスリーダーが手を取り合って検討すべき課題です。

それとは別に、BPは各部門で仕事をする個々の従業員の良き理解者になる必要もあります。各事業部の従業員の相談窓口になるなど、個々の従業員に関しても広くサポートすることが求められています。

②OD&TD(組織開発&タレント開発)

2つ目は、OD&TD。

OD
  • Organization Developmentの頭文字を取ったもの
  • 企業理念の浸透や組織文化の醸成によって、組織をあるべき方向や今後ありたい方向へ導く組織開発のことを指す
TD
  • Talent Developmentの頭文字を取ったもの
  • タレント開発と訳され、理想の組織を構築するために必要な人材育成を行い、育った人材に活躍してもらうこと

ODとTDはどちらが欠けても成り立ちません。表裏一体の関係といえるでしょう。

③CoE(センターオブエクセレンス)

CoEとは、Center of Excellenceの頭文字を取ったもので人事に関わる専門領域に特化したコンサルティング機能のこと。

主にビジネスパートナーをサポートするもので、社内における人的資源の各専門領域において、企画や設計機能の役割を担っています。

採用活動を例に見ると、

  • どのような人材を
  • どのような採用方法で
  • いつごろまでに採用するのか

という採用に関する具体的な計画を立てることが、CoEに課せられた役割です。CoEは、その他にもさまざまな制度設計や開発の役割を担っています。

たとえば、

  • 評価制度や報酬制度など各制度の構築
  • 研修プログラムやトレーニングメニューの開発
  • 人事システムの設計と開発

など。

④OPs(オペレーションズ)

OPsは、人的資源に関する実務のエキスパート。

各事業部門を横断するだけでなく地域的な壁も取り払い、コストを最適化し効率化を実現するためにシェアードサービス化、アウトソーシング化を推進します。

CoEが設計し構築した各種ソリューションを、実際に運用管理していくのが、OPsの任務。

定型業務である点からアウトソーシングしているといった場合には、アウトソーシング先の管理もOPsが行うのです。

OPsが行うことを採用活動を例に見ると、

  • 採用に関する細かいプロセス
  • 採用されて入社した人材の入社までのフォローや世話
  • など。その他、従来からある人事部が行っている、
  • 給与計算・支給・福利厚生
  • 勤怠管理・労務
  • 人事システムの運用
  • 新卒採用実務運営
  • 駐在員管理

などになります。

3.戦略人事に必要な要件

戦略人事に必要な要件についてご紹介いたします。

  1. 人事のプロフェッショナル
  2. 経営戦略、事業戦略の理解
  3. 成果力(課題把握能力/問題解決能力、コミュニケーション力、リーダーシップ、グリット)

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①人事のプロフェッショナル

戦略人事は、人事部門内の最高責任者が担当します。

  • 経営層と経営課題や理念、経営目標など人材マネジメントの関係性を打ち合わせ
  • 現場のビジネスリーダーや従業員と現在直面している人的課題についての対応を検討

など、業務の幅は広範囲に及びます。人事の分野に関して幅広い専門知識と経験を保有するプロフェッショナルであることは、最低条件でしょう。

②経営戦略、事業戦略の理解

人事部門の専門的知識だけでなく、経営戦略や事業戦略についての深い理解も必要です。

戦略人事が実際に担っている具体的業務には、

  • ビジネスリーダーの良き理解者として事業戦略に沿った人材戦略の立案
  • 人材戦略に則った採用や人材育成の計画・実行
  • 事業部の従業員の相談窓口

などがあります。戦略人事が各事業部戦略の達成や目標実現、成長を人材面からサポートするには、

  • 各事業部の取り組み
  • 事業の在り方
  • 企業全体の理念
  • 経営計画など

に関する深い理解は不可欠です。

③成果力

成果力とは、平易な言葉で表せば「仕事のできる人」ということ。これは、人事部門の最高責任者に限らず、一般的なビジネスパーソンが持っているべき能力の一つです。

しかし、一般のビジネスパーソンに求められるレベルより高い水準を要求されるということは容易に察しがつくでしょう。成果力は、4つの分野で構成されています。

  1. 課題把握能力/問題解決能力
  2. コミュニケーション力
  3. リーダーシップ
  4. グリット(やり抜く力)

これらすべてで高レベルというのは困難かもしれません。しかし、可能な限り高いレベルで能力を維持できれば、他の能力にも影響を与えますし、相乗効果でより高い成果力を発揮できるでしょう。

①課題把握能力/問題解決能力

成果力を構成する能力の1つ目は、課題把握能力や問題解決能力。

  • 課題把握能力:目の前にある問題の現状や本質を的確に捉える能力
  • 問題解決能力:今ある情報をもとにして現時点でベストと判断できる手段を用いて、目標達成や問題解決に向かう能力

課題を把握し、解決する2つの能力は、目標達成に向けて努力をする際にポイントとなります。

そもそも「課題」「問題」とは、設定した目標と現実とのギャップから生まれるもの。課題や問題を解決するということは、目標と現実のギャップを埋めていくためのベストな方法を導き出す作業です。

この作業では、

  1. 問題を認識
  2. 問題を分析
  3. 解決策を立案・実行

という3ステップにより完了します。

②コミュニケーション力

コミュニケーション力は、新卒採用の現場で最も重視される能力の一つ。

今、ビジネスの世界には、AIの技術革新やオートメーション化という急激な波が押し寄せています。しかし、ビジネスの基本は「人」と「人」の関係で成り立っているのです。

どんなに技術が進歩しようとも、ビジネスの世界では、人間の持つコミュニケーション力の重要性は不変といってもよいでしょう。AI技術はもちろん、語学力や専門知識も単なるツールでしかありません。

それらツールを適切かつ効果的に人対人の間で使いこなせるコミュニケーション力が備わっていなければ、どんなビジネスシーンでも交渉は暗礁に乗り上げます。

  • 相手の話に耳を傾ける
  • 自己主張をしても、意見の相違を乗り越えお互いの着地点を模索できる
  • ときには駆け引きをする

といった多面的で高レベルなコミュニケーション力が求められているのです。

③リーダーシップ

リーダーシップも忘れてはなりません。リーダーシップとは、企業や各事業部門などの目標やビジョンを見据えて主体的、積極的に行動できる能力のこと。

一般的にリーダーシップというと、経営者やプロジェクトチームの長など、組織のトップに立つ人物の行動規範のようにイメージすることも多いでしょう。

しかし、組織論でいうリーダーシップは、トップだけの行動規範で終わりません。組織のメンバーでもリーダーシップを発揮しながら目標に向かうことで、目標達成だけでなく周囲にも主体性や積極性、職場の雰囲気といったあらゆる面に良い刺激を与えます。

プロジェクトの進捗にも大きな良い影響を与え、チーム力の底上げにつながるでしょう。全従業員がどれだけリーダーシップを意識できるかは、成果を生み出すための大きな鍵となります。

④グリット(やり抜く力)

グリットとは、「やり抜く力」のことで、

  1. 度胸を表す:Guts
  2. 復元力を表す:Resilience
  3. 自発性を表す:Initiative
  4. 執念を表す:Tenacity

4つの言葉の頭文字を取った言葉”GRIT”です。

グリットは、強い意志によって成り立っています。

強い意志を個々人が持つとなると、不安も生まれるでしょう。

しかし、チームでグリットを共有しフォローし合うことで効果を発揮します。

  • 「どうしてグリットを持つ必要があるのか」という目的
  • 「どうしたらグリットを持ち続けることができるか」といった方法や手段

を明確にしてチーム全体で気持ちを高めていくとより効果的です。

また、グリットは一過性のものではありません。継続してこそ初めて効果が出て、その価値が向上することも頭に入れておきましょう。

4.戦略人事の事例

戦略人事を導入している企業の例を3社紹介します。事例を参考にして、自社の戦略人事立案の参考にしてみてください。

  1. 日清食品
  2. 日立製作所
  3. 味の素

①日清食品

2014年、日清食品グループの最高人事責任者としてチーフヒューマンリソースオフィサーが着任したときから、

  • 企業が向かうべき方向性
  • 企業戦略に沿って必要な人材の定義付け
  • 必要と考えられる人材の育成プログラム

といった戦略人事についての課題が総合的に組み立てられていきました。

また、2015年には、次世代グローバル経営人材を育成する企業内大学、「グローバルSAMURAIアカデミー」を創設。

アカデミーのコースは年代別で5段階に分かれています。

  • 若武者編:若手や中堅抜擢人材が対象
  • 侍編:係長や課長といったミドル基幹人材が対象
  • 骨太経営者編:次長や部長といった次期幹部人材が対象

となっており、最終的なコースは役員対象の「エグゼクティブ編」へ続きます。この取り組みにより、グローバル経営人材の候補は200人に増加。戦略人事の第一使命は達成されました。

②日立製作所

日本を代表する電機メーカーの日立製作所は、戦略人事にも積極的に取り組んでいます。

まず、それまで個別のタスクごとに分けていた組織を、事業ニーズに即したトータルソリューションの提供によって、改善しました。

また、世界中の拠点にある各国各社ごとに人事制度や人事施策を行っていたのを、

  • リーダー人材データベースの構築
  • リーダーシップ開発

といったシステムの力を使ってグローバルでの標準化・統一化を実現したのです。

一方、年金や採用といったグローバルで共有しにくい部分については、個別の状況に応じられるよう、

  • 国ごとに共通化させる施策や制度
  • 会社ごとに異なる施策や制度

に分類しました。

これにより「グローバル・国・会社」という人事の各種イシュー3つが効果的に機能し、2015年の上期には日立製作所の海外売上高比率は5割を超えるまでに成長したのです。

③味の素

戦略人事に着目し、3つのエレメントを立案しています。

  1. 「一人ひとりの自立的成長」の実現:自分のしたいことは何か、強みは何か、貢献したいことは何かといったことを自ら考えてもらう計画
  2. 「働き甲斐」の実感:働き甲斐を感じながら仕事をしているか
  3. 「多様な人材の共創」:性別や国籍などに左右されず一人ひとりが自分の良さを生かす、互いを理解しながら働く

味の素では、3つのエレメントの歯車を合わせて、会社だけでなく個人の成長、そしてイノベーションを実現しようと試みたのです。

そこで、管理職以上の従業員本人が作成したキャリアプランをもとに、上司と面談を行うキャリア開発支援プログラムをこの1~2年でグローバルの部長職以上全員に導入し、

  • 働き方改革の推進
  • タレントマネジメントの仕組みの充実

などを並行して行いました。

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