リスクアセスメントとは?【シートの書き方】事例、手法

リスクアセスメントとは、職場に潜在的にある危険性や有害性を抽出・評価し、防止対策を立案・実行すること。あらかじめ想定されるリスクを特定し、リスク低減対策を講じることで労災が起こるリスクを低減する目的があります。

今回はリスクアセスメントについて、その重要性や効果、リスクアセスメントシートの書き方や事例などを詳しくご紹介します。

1.リスクアセスメントとは?

厚生労働省「職場のあんぜんサイト」によると、リスクアセスメントとは、事業場にある危険性や有害性の特定、リスクの見積り、優先度の設定、リスク低減措置の決定の一連の手順のこと。

職場にある潜在的な危険性や有害性を抽出・評価し、防止対策の立案・実行による、先取りの安全衛生対策といえます。

ここでいうリスクは、人が死傷する恐れのある「事故リスク」のこと。事業者はリスクアセスメントの結果にもとづいて適切な労働災害防止対策を講じることが求められています。

なかでも、製造業や建設業などの事業場の事業者は、労働安全衛生法第28条の2において、リスクアセスメントとその結果にもとづく措置の実施に取り組むことが努力義務とされているのです。

さらに、リスクアセスメントの適切かつ有効な実施のために、厚生労働省からは「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」が公表されています。

参考 危険性又は有害性等の調査等に関する指針厚生労働省

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2.リスクアセスメントが重要な理由

リスクアセスメントが重要な理由は、労災を未然に防ぐためです。労災が起こっていない職場にも潜在的な危険性や有害性が潜んでいる可能性があり、放置されることでいつか労災が起こる可能性もあります。

近年、技術の進展によって機械設備や化学物質などの多様化に伴い、危険性や有害性も多様化。そのため、これまでの安全衛生対策を見直し、潜在的なリスクを抽出して的確な措置を講じるためにはリスクアセスメントが欠かせません。

リスクアセスメントがなされていれば、従業員が安心して働ける職場作りが行えているだけでなく、下請け先や取引先、購買者などのステークホルダーからの信頼獲得にもつながります。

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3.リスクアセスメントの効果

ここでは、リスクアセスメントによって期待できる効果を解説します。

職場に潜むリスクの明確化

リスクアセスメントでは潜在的な危険性や有害性を抽出・評価するため、労災として起こってはいなくとも、起こる可能性のある潜在的なリスクが明確になります。

どんなリスクがあるかを認識しているだけでも、安全意識は変わるもの。潜在リスクまで把握できていれば、細かい点にも注意しながら作業に取り組めます。

労災発生率の低下

厚生労働省が行った大規模製造事業場に対する自主点検結果においても、リスクアセスメントを導入している事業場は、そうでない事業場と比べて災害の発生率が大幅に低いとの結果があります。

誰かがリスクを認識しているだけでは、全体での労災は防げません。リスクを明確にしたうえで事業場の全員が把握でき、そのための対策を講じられることで労災発生の抑止につながります。

従業員の安全意識の向上

職場の全員がリスクアセスメントに参加すると、経験が浅い従業員も職場に潜むリスクを把握したうえで、対策が取れるようになります。一方、業務を熟知している経験者や担当者のみが把握しているだけでは、思わぬところでのリスクは防げません。

全員が参加すると職場全体に潜むリスクが把握でき、担当外のリスクについても考えるきっかけになるため、参加メンバー全員の安全意識が高まります。

リスクアセスメントに参加していないメンバーに対しても、結果を共有したり、意見を集めたりすることできっかけを作ることが大切です。

従業員満足度の向上

リスクアセスメントの実施は、安全な職場作りができているアピールにもなります。安心して働ける職場は従業員の満足度向上に伴い、モチベーションや生産性の向上にも有効です。

つまり従業員の安全を確保することは、結果的にパフォーマンス向上にもつながるといえます。

優先すべき安全衛生対策の把握

リスクアセスメントでは、リスクの重要度も分析可能です。リスクは際限なくあるため、すべてに対応するのはリソース・コスト面で難しいもの。

まずは死亡災害や重度の健康障害につながるリスクへの対策を優先して、大きな労災の発生を防ぐことが重要です。影響の小さいリスクは暫定的な対策を講じつつ、経過観察しながら改めて対策を施しましょう。

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4.リスクアセスメントの手法と基本的な手順

リスクアセスメントの基本的な手順は、以下5つです。ここでは、リスクアセスメントの手法を手順に従って詳しく解説します。

  1. 危険性または有害性の特定
  2. リスクの見積もり
  3. リスクの評価
  4. リスク低減対策の実施
  5. 記録・結果共有・有効性の確認

①危険性または有害性の特定

まずは、機械や設備、原材料や作業行動、環境などにおける危険性や有害性を特定します。危険性や有害性の基準は、従業員の死亡や怪我のリスク、健康障害や疾病をもたらす物・状況であるかどうかです。

以下のような情報源を活用し、危険性または有害性を特定しましょう。

  • 前年度の災害発生状況
  • ヒヤリ・ハット事例
  • 元方事業者からの指示事項
  • 安全衛生目標・計画の達成評価
  • 関連法令の改正状況
  • 毎日の作業手順、設備、材料
  • 災害・事故例
  • 安全施工サイクル(安全パトロール)

厚生労働省の『作業別モデル対策シート』の利用や従業員への聞き取り、模擬作業から危険点を指摘し合うことからも危険性や有害性を特定してみてください。

参考 作業別モデル対策シート厚生労働省

②リスクの見積もり

①で特定したリスクが発生する「頻度」「可能性」、発生することで従業員に与える怪我や疾病などの「重篤度」を見積もり、数値化します。一般的には3〜4段階でリスクを数値し、「マトリックス式」または「加算式」で危険性や有害性を総合評価します。

【マトリックス式】リスクの見積もり方法

マトリックス式では、重篤度と発生可能性を合わせて危険性・有害性を見積もります。下記は、3段階評価で見積もる場合のマトリックス式の評価図表です。

  • 死亡災害 発生可能性大 3(即時改善)
  • 休業災害 発生可能性中 3(即時改善)
  • 不休災害 発生可能性小 2(要改善)

発生可能性や重篤度をさらに細分化したい場合には、4段階評価で対応しましょう。

【加算式】リスクの見積もり方法

重篤度と発生可能性を個別に評価し、加算した合計点数で見積もります。

重篤度 発生可能性 優先度・評価点・対応
死亡災害 10 大 6 Ⅲ 16~10 即時改善
休業災害 5 中 3 Ⅱ 9~5 要改善
不休災害 1 小 1 Ⅰ 4~2 現状継続

頻度の高い作業におけるリスクは、頻度・可能性・重篤度の3つを合算して評価するのも1つの方法です。

③リスクの評価

見積もりで算出した数値を元にリスクの優先度を明確にし、結果をふまえてリスク低減対策を検討しましょう。すべてのリスクに対して対策が必要ですが、どこから手をつければ良いかわからない場合は、下記優先順位を意識してリスク低減対策を検討してみてください。

①本質的対策 ②工学的対策 ③管理的対策 ④保護具の使用
・危険度の高い作業の廃止、または作業内容の見直し
・危険度の高い原材料や使用器具の変更
・安全装置や有害物質が発生する作業場に排気装置といった設備を設置する ・立入制限といった注意書きを行う
・リスクについても記載のあるマニュアルの整備
・作業者にゴーグルやマスク、防護服などの使用を徹底する

④リスク低減対策の実施

担当者主導のもと、優先度に従って対策を実施します。実施後も作業者に意見を求めつつ、リスク低減措置の効果や作業性、生産性への影響を確認しつつ、リスクの再見積もりも行いましょう。

新たなリスクが発生する可能性もあるため、措置後でも新たなリスクを特定していきましょう。リスクが見つかったときは、再度同じステップでリスクの見積もり、評価を行い具体的な対策の検討と実行まで行ってください。

⑤記録・結果共有・有効性の確認

職場全体で安全意識を高めるためにも重要なステップです。実施後は、リスクアセスメントの結果を記録し、参加者や関係部署に共有しましょう。

リスクアセスメントの有効性を確認すると同時に、参加していないメンバーへ職場に潜むリスクを認識してもらうことが大切です。

また、リスクアセスメントをしたからと完全にリスクを封じるのは難しいもの。作業開始後も経過を観察し、現場の意見を聞いきつつ、さらなる対策の必要性を検討しましょう。

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5.リスクアセスメントシートとは?

リスクアセスメントの見積もり・評価・実施内容を記録するシートのこと。手順に沿って効果的にリスクアセスメントを実施でき、かつ見積もりや評価内容、導入・実施した対策をまとめられます。

リスクアセスメントシートに決まった作成方法はないため、基本的には自由に作成して問題ありません。また、厚生労働省が「リスクアセスメント記録表」を公開しているため、そのまま活用するもよし、自社で使いやすいようシートを改良して活用してもよいでしょう。

参考 リスクアセスメント記録表厚生労働省 ※リンクをクリックするとExcelファイルがダウンロードされます

リスクアセスメントシートの書き方

厚生労働省「リスクアセスメント記録表」の項目をもとに、リスクアセスメントシートの書き方を解説します。

基本項目

基本項目には、以下内容を記載します。

  • リスクアセスメント対象事業場
  • 実施年月日
  • 実施管理者
  • 実施者

リスクアセスメント対象事業場には、対象となる作業名や事業名を記載しましょう。実施者が複数人いる場合には、すべて記載します。

作業名/工具、機械設備名

「アーク溶接作業」や「フォークリフト運搬作業」のように、具体的な作業名を記載します。工具や機械設備が対象となる場合は、「プレス1号機」などのようにどこにあるどの機械設備かがわかるように記載しましょう。

危険性・有害性により発生のおそれのある災害

災害発生に至るまでのプロセスを正確に予測するため、「〜なので、〜して」「〜なので」「〜する」「〜になる」といったように原因と結果を具体的に記載することがポイントです。下記は、書き方の一例になります。

  • 溶接作業中に発生するヒュームを常時吸うので、じん肺になる
  • ボックスパレットを高く積みすぎたので、ボックスパレットが荷崩れし、前方で作業していた人に当たって負傷する

既存の災害防止対策/リスクの見積もり

現在行っている災害防止対策を記載します。頻度・可能性・重篤度の合計点数からリスクを見積もり、厚生労働省「リスクアセスメント記録表」の点数を表にまとめます。

リスク低減措置案/措置実施後の想定リスクの見積もり

リスクの見積もりと優先度をふまえた低減措置案を記載します。措置後のリスクは、見積もり時と同じ評価基準で見積もりましょう。

備考

備考には、残留リスクへの対応について記載します。そのほか、共有すべき事項があれば必要に応じて入れ込みましょう。

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6.リスクアセスメントの事例

ここでは、3業種を例にリスクアセスメントの事例をご紹介します。

食料品製造業の事例

業種 飲料製造
職場 缶製造殺菌工程
作業名 缶製造殺菌工程での設備点検及び保全作業
危険性または有害性により発生のおそれがある災害 設備の内部点検をするため、釜の扉を開放し釜内へ入ろうとした際に、油圧シリンダーの故障等により扉が閉まり、作業者に直撃し負傷する可能性や、扉が急に閉まり中に閉じ込められる恐れがある
既存の災害防止対策 非常停止釦を押し、作業前に監督者へ連絡し2名以上での作業を義務付ける
リスク低減対策 油圧シリンダーの故障や設備トラブルの場合でも扉が閉まる事がないように、扉と設備本体の接続部に閉鎖防止のピンを差し込めるように加工し取り付けられるようにする

低減措置によって、リスク優先度がⅢからⅠへと低下した事例です。今後の検討課題として、ピンの劣化確認と定期的な注意喚起を挙げています。

金属製品製造業

業種 金属製品製造業
職場 プレス作業場
作業名 材料交換作業
危険性または有害性により発生のおそれがある災害 コイル幅が細く、ワイヤーを通す際、手を挟み骨折する恐れがある
既存の災害防止対策 板木の使用を徹底する
リスク低減対策 幅狭コイルラックを設置する

低減措置によって、リスク優先度がⅢからⅠへと低下しています。

木材・木材製品製造業

業種 木材加工業
作業名 帯鋸での製材作業
危険性または有害性により発生のおそれがある災害 帯鋸の鋸車の電源スイッチを操作し、送材車を跨いで移動する際に、帯鋸回転部に接触し負傷する恐れがある
既存の災害防止対策 作業前ミーティングで注意する
リスク低減対策 回転中の鋸付近に接近しないように、新たに昇降階段を設ける

低減措置によって、リスク優先度がⅢからⅡへと低下。計画的な改善が必要な段階であるため、作業前ミーティングでの反復注意、作業者以外の立ち入り禁止措置もとっています。