けん責とは? 懲戒処分、処分対象、処分の流れ、始末書

けん責とは、従業員に課せられる懲戒処分のひとつ。処分内容は、始末書の提出など比較的軽度です。処分の内容や流れなどについて解説します。

1.けん責とは?

けん責(譴責)とは、企業が従業員へ始末書の提出を課す懲戒処分のこと。「譴」という漢字は「責める」や「とがめる」などの意味を持ちます。

けん責を課せられた場合、業務上のミスや過失、規程違反などの行為に対して反省と謝罪、再発防止の意を表す始末書を提出するのが一般的です。企業によってはけん責に口頭注意を含む場合もあり、懲戒処分のなかでは軽度といえるでしょう。

しかし懲戒処分である点に変わりはありません。社内での出世や転職の際に影響する可能性もあります。

懲戒処分とは?

企業が従業員へ課す制裁措置のこと。内容は7段階にわかれており、社内規程や業務命令、法律などに違反した従業員に、就業規則で明示している懲戒規定にのっとった処分を企業は行えます。

なお懲戒処分には「不利益取り扱い」が認められているのです。よってあきらかに従業員の違反行為が理由となる懲戒処分の場合、労働基準法違反になりません。

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2.けん責以外の懲戒処分

懲戒処分は7段階となっており、けん責はそのうち2番目に軽い処分です。ここでは軽度な処分から順に解説します。

  1. 戒告・訓戒
  2. 減給
  3. 出勤停止
  4. 降格
  5. 諭旨解雇
  6. 懲戒解雇

①戒告・訓戒

口頭あるいは文書で従業員へ厳重に注意する処分。懲戒処分のなかでもっとも軽度です。通常の注意や指導を繰り返しても改善が見られない場合に、戒告や訓戒を課すことが多いでしょう。

懲戒処分通知書で一定の期間を決めて改善を促します。また基本、減給や降格、始末書の提出など実質的なペナルティは生じません。ただし期間内に改善されないと、戒告の次に重いけん責処分が実施される可能性もあります。

②減給

従業員の給与を差し引く制裁処分。厚生労働省が2021年に公開した「モデル就業規則」では、減給と合わせて始末書の提出も含めています。

減給の限度額は労働基準法第91条にて、「1回の額は平均賃金1日分の半額まで、総額は一賃金支払期における賃金の総額の1/10まで」と定められているのです。

たとえばひとりの従業員へ1カ月内に2回の減給処分を行う場合、「その従業員の平均賃金×1/2×2回」まで減給できます。ただし減給額の合計は月給の1/10以下に抑えなくてはなりません。

③出勤停止

従業員の出勤を一定期間禁止する制裁処分。出勤停止期間中であっても労働契約は継続しますが、給与の支払いがなく勤続年数にも加算されません。期間は1週間から2週間、長くて1か月ほどが一般的です。

なお懲戒処分を下す前に業務命令として出勤を停止させる場合もあります。たとえば事実調査や処分内容の審議などを行う際、処分が決定するまで、処分対象である従業員の就業を禁止するケースです。

この場合はただの業務命令であるため、企業は給与や手当を支払わねばなりません。

④降格

従業員の役職や等級を引き下げる、あるいは役職を解任する制裁処分。たとえば「部長職から課長職へ引き下げる」や「6等級から5等級へ引き下げる」、「部長職を解任したのち、新たな役職を付与しない」などです。

多くの場合、役職や等級が下がると基本給や手当額なども下がるため、実質的な減給ともいえます。

⑤諭旨解雇

従業員へ退職を勧告する制裁処分。「諭旨」とは「諭して言い聞かせる」という意味です。従業員へ処分理由を言い聞かせて納得させ、違反行為を行った従業員から退職届を提出させます。

本人に反省の色が見られる、あるいは酌量の余地がある場合に適用することが多いでしょう。退職推奨と似ているものの、退職推奨は退職するかの判断を従業員へ委ねます。一方、諭旨解雇は基本、従業員は退職を拒否できません。

⑥懲戒解雇

諭旨解雇と異なり、企業が一方的に解雇する制裁処分。もっとも重い処分で、解雇予告をせず即時解雇できます。懲戒処分となる違反行為は、犯罪や機密漏えい、重大な業務命令違反、悪質なハラスメントなど。

諭旨解雇を受け入れてもらえないとき、懲戒処分を適用する場合が多いです。

また諭旨解雇では退職金の一部あるいは全額を支払います。しかし懲戒解雇では、退職金を支払わないという企業も多いようです。

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3.けん責の根拠となる就業規則

けん責をはじめとする懲戒処分を実施する前、あらかじめ就業規則で従業員へ明示しておかなければなりません。法令にのっとった懲戒処分を行うには、以下の3つの条件を満たす必要があるからです。

  1. 就業規則に懲戒処分の条項が含まれており、労働基準監督署への提出と従業員への周知が行われている
  2. 懲戒処分の対象となる行為が就業規則の懲戒事由に該当している
  3. 懲戒処分の対象となる行為に対して、処分の相当性が認められる

処分対象となる行為

けん責は軽度な社内規則の違反行為全般を対象とします。該当する行為の例は下記のとおりです。

  • 正当な理由のない勤怠不良(欠勤や遅刻、早退)が多い
  • 従業員の採用後、その従業員が応募時に経歴を詐称していたと発覚した
  • 正当な理由もなく、業務命令や配置命令に従わなかった
  • 他人を不快にさせる言動で、社内風紀や職場環境の雰囲気を乱した
  • けんかといった理由のもとに暴力行為が社内で行われた
  • 故意あるいは過失であるものの、業務で事故を発生させた

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4.けん責処分において守るべき原則

けん責を含めた懲戒処分を実施する際、原則を守らなくてはなりません。原則が守られていないと、従業員が処分を不服として裁判を起こしたとき、従業員の人権を無視した不当な処分だと判断され、敗訴する可能性があるからです。

  1. 罪刑法定主義
  2. 相当性
  3. 適正手続き
  4. 二重処分の禁止
  5. 平等性
  6. 個人責任
  7. 不遡及

①罪刑法定主義

「処罰を与えるためには、あらかじめ法律で違法とみなす行為とその罰則を定めておかなければならない」という憲法の原則のこと。

懲戒処分を適用する場合も同様、就業規則で懲戒の対象となる行為と内容をあらかじめ定めておかなければなりません。また就業規則に定めるだけでなく、労働基準監督署へ届け出たうえで従業員へ周知していなければならないのです。

②相当性

処分に相当性がある、つまり懲戒事由と処分の重さのバランスがとれていなければなりません。労働契約法では、「客観的に見て合理的」や「社会通念上相当(裁判官が認定する一般的な常識に相当)」でなければ、権利を濫用したと見なして処分は無効となります。

たとえばけん責に該当するような数回の勤怠不良に対して懲戒解雇を適用する場合、相当性があるとは認められないでしょう。

③適正手続き

処分を下す前、就業規則にのっとった適正手続き(違反行為を行った従業員へ弁明の機会を与えること)を踏まなければなりません。弁明の機会を与えずに処分を実施すると、企業は権利を濫用したと見なされるおそれもあります。

たとえ就業規則に適正手続きが定められていなくとも、弁明の機会を与えるべきでしょう。

④二重処分の禁止

一度処分を実施した件に対して、さらに別の処分を適用してはいけません。憲法第39条で「一度判決が確定したらその件については再審理をおこってはならない」という「一事不再理」を定めているからです。

たとえば従業員のある違反行為に対して何らかの処分をすでに実施したとしましょう。そこに対してさらなる処分を課してはいけない、という内容です。

⑤平等性

同じ違反行為であれば、どの従業員に対しても同一程度の処分を適用しなければなりません。特定の人や役職、事由などを理由に処分の重さを変えず、先例と照らし合わせても平等な処分である必要があります。

先例よりも重い処分を行うのも可能です。しかしその場合、あらかじめ違反行為を行った従業員へ十分に説明して納得させなくてはなりません。

⑥個人責任

懲戒処分は違反行為を行った従業員のみを対象とします。よって行為にかかわっていない従業員へ処分を課してはなりません。懲戒処分は個人への処分であるため、連座的な処分は認められないのです。

たとえばある部署で盗難行為が発生した場合、あくまでも処分できるのはその盗難行為を行った従業員のみ。その部署に在籍するほかの従業員を連帯責任として処分してはならないのです。

⑦不遡及

憲法第39条の「遡及処罰の禁止」にもとづき、懲戒規程の制定前までさかのぼった訴求はできません。

たとえば数年前に社内で暴行問題を起こした従業員に対して、数年後それを理由に持ちだして懲戒解雇した事例がありました。しかし最高裁は不遡及の原則にのっとって解雇を無効と裁決。

ほかには違反行為が行われた際に、「就業規則の懲戒処分の条項にその違反行為に対する規程が定められていなかった」あるいは「そもそも懲戒処分の条項が定められていなかった」などのケースがあります。

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5.けん責処分の基本的な流れ

いきなり懲戒処分を実施できません。適正手続きを含めて行わなければならない手順がいくつかあります。

STEP.1
事実確認
「違反行為は本当に行われたのか」や「いつどのように行われたのか」などの事実を知るため、行われた違反行為に関して調査を実施します。

まずは関係者への聞き取りを行い、客観的な証拠を集めてから、違反行為を行った従業員へ聞き取りを行いましょう。このとき調査者が自分の感情や先入観などを含めてしまうと、事実が見落されるおそれもあるので注意が必要です。

STEP.2
処分理由の告知
事実確認が完了し、違反行為を行った従業員への処分はまぬがれないと判明したら、本人へ処分の理由を告知します。事前に通知せず処分を実施した結果、本人が納得せずに裁判に発展するケースも見られるためです。

正式に処分内容が決定したら社内へ通知できます。しかしこの時点では処分の内容について検討中のため、社内への公開は避けましょう。

STEP.3
弁明機会の設置
日時を指定して、違反行為を行った従業員が弁明する場を設けます。本人の弁明は、口頭あるいは書面のいずれでもかまいません。

ただし就業規則や労働協約などで弁明の参加者や弁明方法を指定している場合、それに従う必要があります。

弁明の機会を与えなかった場合、労使問題に発展しかねないため必ず機会を設けましょう。本人が弁明を拒否した場合、弁明を放棄したとみなして次の手順に進みます。

STEP.4
懲戒処分の種類を検討
就業規則にもとづいて処分の種類を検討します。

ただし就業規則だけでなく、事実確認と本人の弁明、先例なども参考にするのです。そのうえで、「就業規則に明記された懲戒事由であるか」「違反行為に対して処分が重すぎないか」の2点に注意して検討します。

場合によってはまず軽い処分を課し、段階的に重い処分へ引き上げるのも検討しましょう。

STEP.5
懲戒委員会への付議
就業規定にて、「懲戒処分を懲戒委員会で決定する」としている場合、懲戒委員会(懲戒処分を審議するために社内に設置される委員会のこと)を開催します。

懲戒委員会を設置している企業では、懲戒委員会規程などでメンバーや決定手続きなどを決めているのです。

懲戒委員会が設置されている場合は、委員会にて関係者や違反行為を行った従業員から聞き取りを実施しましょう。そして聞き取りや事前調査などをもとに審議を行い、処分内容を決定します。

STEP.6
対象の従業員へ通知
処分内容が決定したら「懲戒処分通知書」を作成し、違反行為を行った従業員へ通知書をわたします。懲戒解雇通知書には、従業員の氏名や通知日などとともに、以下の点を忘れずに記載しましょう。

  • 懲戒処分の種類と内容
  • 処分の理由
  • 就業規則上の根拠(どの条項に該当するか)

始末書や誓約書などの提出要否(提出が必要な場合は提出期限も記載)

STEP.7
始末書の提出
就業規定にて、けん責処分に始末書の提出を定めている場合、処分を受けた授業員へ期限までに始末書を提出するよう命じます。

ただし正式に処分が決定する前に始末書の提出をさせ、さらに処分が決定したあとにも始末書の提出を求めてしまうと、二重処罰に該当するおそれも。

こうしたリスクを避けるには、就業規則で「処分決定前に事実調査を目的として顛末書を提出させる」と「けん責処分を受けたら、始末書を提出させる」など定めておくとよいでしょう。

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6.けん責処分による始末書の提出について

多くの場合、けん責処分の一環として、違反行為を行った従業員に始末書を提出させます。始末書は本人の反省を促し再発防止につなげるための文書にとどまりません。万が一裁判に発展した場合、証拠書類ともなるのです。

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始末書と顛末書・報告書の違い

始末書と顛末書、報告書はいずれもミスやトラブル、事故や事件などが発生した際に提出する文書。これら書類の違いは下記のとおりです。

  • 始末書…反省や謝罪を記載する
  • 顛末書と報告書…原因や状況、被害など事実のみを記載する

なお報告書と顛末書も厳密には異なります。報告書は経過や結果など指定された内容を記載するのに対し、顛末書は事象の一部始終を記載するのです。

始末書の提出を拒否された場合

始末書は「謝罪や反省を強制する」ため、業務命令として認められません。始末書の提出を拒否された場合は、報告書や顛末書の提出に切り替えるとよいでしょう。事実を記載する顛末書と報告書は業務命令として提出を強制できるのです。

なお始末書の提出を拒否し続けた場合、未提出について新たな懲戒処分を追加してはいけません。処分を追加してしまった場合、二重処分禁止の原則に該当します。