ITSS(ITスキル標準)を活用すると、ITエンジニアのスキルを数値化し可視化できます。
ITSSは、社内での人事考課だけではなく、クライアント企業にとっても明確な指標となるものです。ITSSの活用を検討してみてはいかがでしょうか。
目次
1.ITSS(ITスキル標準)とは?
ITスキル標準とは、経済産業省が策定したIT人材におけるスキル体系のことです。ITのプロフェッショナルを教育する際にこの基準を用いることで、「現状の保有スキルを数値化」「どのスキルを強化する必要があるか」などを把握できます。「IT Skill Standard」の頭文字を取ってITSSと略します。
企業によってはスキルの評価だけでなく、人事考課にITSSを活用しているケースもあり、専門分野の知識や技術を公正に数値化し評価できる指標として注目を集めているのです。
2.ITSSの職種とその具体例
ITSSの職種は11に分かれています。
- マーケティング
- セールス
- コンサルタント
- ITアーキテクト
- プロジェクトマネジメント
- ITスペシャリスト
- アプリケーションスペシャリスト
- ソフトウェアデベロップメント
- カスタマーサービス
- ITサービスマネジメント
- エデュケーション
①マーケティング
マーケティングは、多様化する顧客ニーズに対応するために市場動向を分析し、事業・販売戦略、実行・資金計画などの企画・立案を実施する職種です。
市場動向の分析結果などから立案した戦略の、
- 投資効果
- 新規性
- 顧客満足度
などに責任を担います。
②セールス
セールスは、新規・既存を問わず顧客の経営方針に従って問題解決策やソリューションの提供、サービスや製品の支援などを行う職種です。
顧客との信頼関係をいかに築けるかが問われます。また顧客と良好な関係を確立しながらビジネスビジョンの実現に力を尽くす責任を担います。
③コンサルタント
顧客のビジネス戦略やビジョンの実現に対し、知的資産やコンサルティングメソドロジを用いながら提言やアドバイスを実施する職種です。
提言やアドバイスが生み出す効果と、それに伴う顧客満足度などに責任を担います。最近ではIT戦略の策定や助言を求められるケースが多いです。
④ITアーキテクト
顧客のビジネス戦略を現実化するため、アプリケーション関連技術を有効活用してITアーキテクチャの設計を行います。
設計どおりにソリューションを構成しているかの確認や技術に関するリスクのもたらす影響などについての評価も実施します。
⑤プロジェクトマネジメント
ビジネスマネジメントやプロジェクトマネジメントの分野における技術を活用します。
- プロジェクトの提案
- 立ち上げ
- 計画
- 実行
- 監視コントロール
- 解散までの実施
- 納入物
- サービス
- 要求された品質・コスト・納期
に責任を担います。
⑥ITスペシャリスト
ソフトウェア・ハードウェアの両面における専門技術を集結させ、顧客にとってベストなシステム基盤の構築を実施する職種です。
設計から導入までのプロセスだけでなく、回復性や可用性といった非機能要件の責任も伴います。
⑦アプリケーションスペシャリスト
アプリケーションの開発に関する技術を用いて、
- アプリケーションの設計
- 開発
- 導入
- テストや保守
に至るまでのプロセスを実施する職種です。構築後のテストでは機能性・回復性・利便性といったアプリケーションの品質管理も行います。
⑧ソフトウェアデベロップメント
マーケティング戦略に基づいて、ソフトウェア製品の企画、設計、開発を行う職種です。
経験豊富な上級職では、ソフトウェア製品に関わる戦略の立案やコンサルタントなども担当します。開発を担当したソフトウェアの
- 実効性
- 機能性
- 信頼性
の部分まで責任を担う職種です。
⑨カスタマーサービス
顧客が導入したハードウェア・ソフトウェア製品の修理・保守を行う職種です。
システムが細分化・専門化するなか遠隔保守などの手法を用いて顧客の抱える問題に関するトラブルシューティングを一手に担います。
⑩ITサービスマネジメント
システム全体を取りまとめる職種で、適正な運用・リスク管理・安定した稼動といった課題に責任を担います。
サービスレベルを底上げするため、システム運用に関して情報収集や分析なども含めトータルで管理します。
⑪エデュケーション
ITに関する専門分野の人材育成には、高度な知識と経験が必要になるため研修カリキュラムの設計と運用といった専門技術に関する人材育成全般を担当します。
またユーザーが求めるスキルの分析・評価といったニーズの把握にも責任を担います。
3.ITSSにおけるキャリアパス
ITSSでは、前述のとおり職種や専門分野によってIT技術者が分類されており、11職種、35専門分野、それぞれに7つのレベルが設定してあります。
ITSSのキャリアフレームワーク
キャリアフレームワークは、
- 横軸:職種
- 縦軸:能力レベルの深さ
を表しており、IT人材がキャリアパスを描く上で使用されます。
ビジネスにおけるニーズや、エンジニアとしての専門性、独自性、国際認知性、対クライアントの責任性などを考慮して設定されており、企業側が人材戦略を立てる際にも有効に利用できる分類となっています。
スキルマップのレベルに関する注意点
キャリアフレームワークを見ると、職種や専門分野によっては、下位レベルや上位レベルが空白となっている箇所があることがわかります。
下位レベルが空白になっている場合、その箇所についてスキルフルなエンジニアにとっては、低次元の事象であるため、価値を創出するに至らない、という意味合いになります。けして、下位レベルの空白部分について、スキル不足が理由で実現することができない、という意味ではありません。
また、あくまでもITSSは、該当の職種や専門分野におけるプロフェッショナルとしての価値創出についてのみ言及しているということに注意しましょう。必要スキルの上限以上のレベルが空白となっている箇所もありますが、あくまでも価値創出に必要なスキルレベルの話です。その職種や専門分野が提供する価値の大きさや、組織内における責任レベルについて言及しているわけではありません。
スキルマップとは? 導入メリット、作り方、項目例を簡単に
社員のスキルを集約・見える化し、スキルマップ作成を簡単に。
タレントマネジメントシステム「カオナビ」で、スキル管理の問題を解決!
⇒ 【公式】https://www.kaonavi.jp にアクセスし...
4.ITSSの7段階のレベル
ITSSはITエンジニアのスキルを測る物差しでITのプロフェッショナルとしてテクノロジーやメソドロジを創造する力がどの程度備わっているかを7段階に分けて可視化しています。それぞれのレベルにおける視点は次の通りです。
- エントリーレベル
- ミドルレベル
- ハイレベル
①エントリーレベル(レベル1~2)
7段階のスタートラインに位置するのが、エントリーレベルです。
情報処理に関わる最低限度の知識や技能を有し、上位レベルからの指導があれば仕事のすべてもしくは一部において、課題発見や課題解決ができることが必要となります。
また上位レベルであるITプロフェッショナルに向けた積極的な自己研鑽が必要となるレベルです。
②ミドルレベル(レベル3~4)
ミドルレベルはITプロフェッショナルとしての専門分野を確立した状態を意味し、自らの能力を駆使して、独力で課題の発見や解決をすることができるレベルです。
また経験の知識化や後進の育成において貢献できるプレーヤーであることを認定しており自身のスキル開発においては、引き続き自己研鑽が必要となります。
③ハイレベル(レベル5~7)
レベル5
レベル5はハイエンドプレーヤーとして企業内で認められた存在です。
- テクノロジーやメソドロジなどを自らが中心となって創造できる
- ITプロフェッショナルとしての経験と実績を有している
などを自他ともに認めているレベルといえます。
レベル6
レベル6は企業内外の人にハイエンドプレーヤーとして認識されるレベルで、テクノロジーやメソドロジそしてビジネスの世界をクリエイティブに創造する能力を有しています。
国内におけるITのプロフェッショナルとして専門分野のスキル、経験、実績のすべてで認められているともいえます。
レベル7
レベル7はITプロフェッショナルとしての専門分野を確立すると同時に、市場全体から見ても世界で通用するプレーヤーとして認められるレベルです。
先進的なサービスの開拓ができる経験と知識を有しており、まさにITプロフェッショナルの名に相応しい人材であることを意味します。
5.ITSSと情報処理技術者試験の各種資格
ITSSと対応付けられている試験に、IPAが実施している情報処理技術者試験があります。それぞれの内容とレベルを確認していきましょう。
ITパスポート試験(アイパス)=ITSSレベル1
情報処理技術者試験のうち、最も簡単なエントリーレベルの資格がITパスポート試験。「情報処理の促進に関する法律」に基づき経済産業大臣が実施する国家試験です。
テクノロジ系(IT技術)、マネジメント系(IT管理)、ストラテジ系(経営全般)の3つの分野があり、ITSSレベル1に対応付けられています。初心者向けの資格と言えるでしょう。
基本情報技術者試験=ITSSレベル2
ITエンジニアの基礎資格と呼ばれる基本情報技術者試験は、「高度IT人材となるために必要な基本的知識・技能をもち、実践的な活用能力を身に付けた者」が対象となります。具体的には、プログラム設計書を作成して開発から単体テストまで担当するなど、実践経験のある技術者向けの資格です。
基本情報技術者試験に合格すると、ITSSレベル2で期待される知識および技能を習得していることとみなされます。
応用情報技術者試験=ITSSレベル3
ITSSレベル3への到達が認定される応用情報技術者試験は、IT人材として数年の間キャリアを積んでから受験するケースが一般的です。
ITSSレベル3以降は、個人の得意分野に基づいたキャリア形成を意識する必要があることから、応用情報技術者試験の対象者は「高度IT人材としての方向性を確立した者」となります。職種や専門分野を特定するには、個人のジョブアサイメントの状況や、過去の実践における経験が参考とされます。
高度試験=ITSSレベル4
ITストラテジスト試験、システムアーキテクト試験、プロジェクトマネージャ試験、ネットワークスペシャリスト試験、データベーススペシャリスト試験、情報セキュリティスペシャリスト試験、ITサービスマネージャ試験などが、いわゆる高度試験と呼ばれるものです。
合格すると、ITSSレベル4とみなされます。ITSSレベル1から3までは知識の習得状況の確認が優先されましたが、レベル4より実務能力が見られるようになります。
したがって各種高度試験では、ビジネスにおいて求められる総合的な能力発揮や責務遂行の実績、および技術の発展や後進の育成などにおけるプロフェッショナルとしての実績が要求されます。
6.ITSS+(プラス)とは?
ITSS+は、第4次産業革命に向けて必要とされるIT人材の育成を目的に策定された、新たなスキル標準です。専門分野や業務活動(タスク)、必要なスキルが、体系的かつ具体的に分類されています。
ITSSと同じく経済産業省によって定められ、個人のITにまつわる能力を客観的に評価する指標として使用されています。
ITSS+の領域とレベル
ITSS+では、ITSSの領域に加えて、セキュリティ領域、データサイエンス領域、IoTソリューション領域、アジャイル領域が展開されています。
ITSS+におけるレベルは、人材が持つ経験や実績、成果、実際の活動における価値などを踏まえ、「共通レベル定義」に照らして総合的に判断されます。
ITSS+の目的
ITSS+は、ITSSにおいて対象とされている人材が、セキュリティ領域やデータサイエンス領域など、第4次産業革命において必要とされるスキルを強化するために、また既存の領域内の人材に「学び直し」の指針として活用されるべく、策定されました。
7.ITSSの活用方法
ITSS(ITスキル標準)は、社内的な人事評価に活用できるだけでなく、顧客に対してスキルを証明する明確な判断基準としても活用可能です。
特に行政機関を中心として、ITSSを人材能力評価の指標とした活用が進められており、IT業界全体で活用が促進すると見られています。
8.人事担当者が注意すべきIT人材の育成方法
ITエンジニアには、ITSSで評価することができる専門的な知識や技術が必要ですが良好なチームづくりやクライアントとスムーズにやりとりできるコミュニケーションスキルも重要です。
ITの技術革新は目覚ましく、ITエンジニアは常に新しい技術を習得し、「ITをいかにビジネスに活用するか」というニーズに応える必要があります。
人事担当者は、ITエンジニアが持つスキルを正当に評価できる評価制度を作るだけではなく、キャリアステップを提示し適切な研修や教育が受けられるように配慮するとよいでしょう。
特に問題となっているのがITエンジニアの慢性的な人手不足。優秀な人材の確保が難しく、適正な人員で進められないプロジェクトを抱える企業も多くあります。
- 臨機応変に他部署の人材を活用
- 短時間勤務を採用し女性やシニア層を活用
- 長期的な採用計画に基づくITエンジニアのスキル向上を目指した研修体制を整備
など人手不足の解消につながる取り組みを考案・実施することも仕事のひとつです。
9.ITSSとUISS、ETSS、CCSFとの違い
ITスキル標準には、ITSSのほかUISS、ETSS、CCSFといったものがあります。それぞれどのような特徴を持っているのでしょう。
- UISS:情報システムユーザースキル標準
- ETSS:組込みスキル標準
- CCSF:共通キャリア・スキルフレームワーク
UISS(情報システムユーザースキル標準)とITSSの違い
UISSは、ITシステムを活用する組織において必要なスキルや知識を、体系的に整理した基準指標です。ITSSと同じ独立行政法人情報処理推進機構が主体でVer.1が2006年6月に公表されました。
ITSSとの違いは、主な対象をベンダーではなくユーザーとしている点です。切り口が組織機能とその業務になっておりソフトウェアライフサイクル、すなわちシステムの企画・開発・保守・運用・廃棄といったサイクルプロセスによって体系化しています。高度なIT技術者の育成を図る指標のひとつとなっています。
ETSS(組込みスキル標準)とITSSの違い
ETSSは、組み込みソフトウェアの開発に必要となる知識やスキルを明確化し体系化した指標で、主な対象は組込みエンジニアに絞っています。
システムエンジニアに特化しているため、その切り口はスキルフレームワークに絞られており、一般的なビジネスやパーソナルといった個人的特性に関するスキルへの定義付けを行っていないのが特徴です。
ITにおける国際競争力を高める、技術者にとって必要とされる知識が網羅されています。ソフトウェア・エンジニアリング・センターが主体となる指標で、2005年5月に発表されました。
CCSF(共通キャリア・スキルフレームワーク)とITSSの違い
CCSF(Common Career Skill Framework)は、
- スキル標準を活用するにあたっての課題
- さまざまなビジネスモデルへの対応を迫られたスキルの変化
- 人材ニーズの多様化
といった課題に対して柔軟に対応し解決するために考案されました。
CCSFのフレームワークは、ITSS、UISS、ETSSのスキル標準を参照しながら作られます。CCSF自体は、
- タスク(業務)
- 人材モデル
- スキルモデル
という3つのスキル標準を持っています。
大きな特徴は、3つのスキル標準を使って、ITSS・UISS・ETSSとの切り口の差を意識せずに複数のスキル標準を一括して比較検討・活用できる点です。
CCSFは、タスクの追加や削除などが自在にでき、「タスク」に必要な「人材とスキル」の設定もカスタマイズできるため、幅広く人事施策に利用可能です。