進行する少子高齢化社会の中では、誰が、いつ、仕事と介護・育児の両立を迫られるかわかりません。いざ両立を迫られたとき、とても助けとなるのが、「育児・介護休業法」の存在です。そんな育児・介護休業法が改正され、2017年1月に実施されます。存在こそ知られているけれど、その実情はよく伝わっているとは言い難いこの法律について、改正のポイントも踏まえて、詳しく解説していきます。
育児・介護休業法とは? - その定義と内容について
「育児・介護休業法」とは、簡単にいえば、「正社員や契約社員として働いている人に子どもが生まれて育児のための時間が必要になったり、自分の家族に介護が必要になったときに、受給条件さえ満たせば、仕事と育児・介護を両立できるようにするために受けられる申請制の公的な福祉サービス・資格を定めた法律」のことです。
具体的には、育児が必要になった人には、
1.原則として子どもが1歳になるまで付与される育児休業の取得
2.育児のための所定労働時間の短縮などの措置
3.残業などの所定外労働の制限
4.子どもの看護休暇(年5日)
5.原則として子どもが1歳になるまで付与される育児休業給付金の受給
などの資格が与えられます。
また、家族に介護が必要となった人には、
1.93日間の介護休業の取得
2.介護のための短縮勤務等の措置
3.残業などの所定外労働の免除
4.家族の介護を行うための介護休暇(年5日)の取得
5.介護休業給付金の受給
などの資格が与えられます。
2017年1月の育児・介護休業法改正の目的
改正の目的は、現在社会問題化している育児・介護による離職を防止し、男女とも仕事と育児・介護を今まで以上に両立しやすくすることにあります。たとえば、介護による離職は年々増加傾向にあり、2012年には1年間での介護を理由にした離職が10万人を超えるなど、仕事と育児・介護を両立するには、厳しい現実があります。
また、現行法は非正規雇用で働く人の受給条件が厳しいため、非正規雇用が増加している現状にそぐわない現行法を改善することで、有期契約で働く人の育児休業取得の条件緩和を目指すという意図もあります。
これら現行法の課題を可能な限り改善することを目指し、今回の改正では以下の点が変更となりました。
育児休業法の改正点
有期契約社員の育児休業の取得条件の緩和
現行法では、
1.入社から継続して1年以上雇用されていること
2.子が1歳になってからも1年以上雇用される見込みがあること
が取得条件でした。
改正法では、1の条件はそのままですが、2が変更となり、「子が1歳6ヶ月に達する日までの継続雇用が見込まれること」が取得条件となります。
現行法よりも見込み継続雇用期間が半年短くなり、有期契約社員が制度を利用しやすくなります。
半日での看護休暇の取得が可能に
現行法での取得単位が1日だったのに対して、改正後は半日から取得可能になります。
対象となる子の範囲の拡大
現行法では実子・養子に限られていましたが、改正後は特別養子縁組の子供、養子縁組里親に委託されている子供にまで取得範囲が広がります。
妊娠・育児を理由にしたパワハラ・マタハラ防止策の義務化
現行法でもパワハラ・マタハラは禁止されていましたが、改正後は企業にその防止策の設置が義務付けられます。
介護休業法の改正点
介護休業の分割取得が可能に
現行法では93日間取得可能な介護休暇は一括での取得しか認められませんでしたが、改正後は3回までの分割取得が可能になります。
これにより家族が介護認定を受け、介護サービスを選定してから後にも、介護と働くことを両立しやすくなりました。たとえば、月の半分は在宅介護のために介護休業制度を活用し、月の半分はデイケアサービスを利用するなど、これまでよりも柔軟に介護と仕事を両立していけます。
半日での介護休暇の取得が可能に
育児休業法と同様に、取得単位が1日から半日に変更となります。
介護のための短縮勤務等の措置期間の拡大
現行法では介護休業期間である93日間の範囲内であれば取得可能だった短縮勤務等の措置期間が、改正後は介護休業とは別に3年間で2回以上取得可能になりました。
介護のための所定外労働の免除規定が新設
現行法にはない新設規定です。これにより日常的に生じる介護ニーズにこたえやすくなります。
対象が同居・扶養していない家族にまで拡大
現行法の対象範囲は、「配偶者、父母、子、配偶者の父母、同居かつ扶養中の祖父母、兄弟姉妹、孫」まででしたが、改正後は「同居・扶養していない祖父母・兄弟姉妹・孫」まで拡大されます。
介護休業給付金が休業開始前給与の67%に上昇
現行法の40%から育児休業給付金と同じ67%に引き上げられます。
改正後も残る課題と今後企業に求められること
今回の改正により、育児・介護休業法は今まで以上に充実したものとなり、働く人が仕事と育児・介護を両立しやすくなりました。
しかし、それでもまだ課題が多いことも確かです。たとえば、育児休業では男性の取得が珍しいものであり企業も十分に対応できているとは言いがたい現状があります。また、家族の介護は心身ともに疲弊しがちなものであるため、介護休業法でできることを育児休業法並みに充実させるべきだ、という声も数多くあります。
そもそも日本では育児や介護で休業するという文化が根付いていないために「育児・介護休業を申請しづらい雰囲気」が依然として根強く残っています。
そのため、介護や育児と仕事を両立しやすい環境を整えていく努力が今後企業にはますます求められていくことでしょう。しかし、こうした企業による取り組みは離職によって貴重な人材損失を防ぐといった意味でも、企業にとって大きな価値をもたらすものでもあるのです。