育児介護休業法とは? 制度の内容と改正内容、ハラスメントとの関係性などについて

育児介護休業法とは、仕事と育児や介護との両立を支援する制度です。ここでは、育児介護休業法について解説します。

1.育児介護休業法とは?

育児介護休業法とは、労働者が仕事と出産や子育て、または仕事と介護などを両立できるように支援するための制度のこと。正式名称は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」です。

育児介護休業法は、「すべての人が人生の各段階にて仕事と生活の両面を充実させる」ために設けられました。現行法は、時代の要請に応じた改正を経ています。

育児関係における休業の定義と対象者

育児関係における休業の定義とは、労働者が原則として1歳に満たない子を養育するための休業のこと。育児関係における休業対象者は、日雇いを除く労働者です。ただし、下記の点に注意する必要があります。

  • 有期契約労働者に関しては、育児休業の申し出があった時点において満たすべき要件がある
  • 労使協定で対象外にできる労働者がいる

介護関係における休業の定義と対象者

介護関係における休業の定義とは、労働者が要介護状態にある対象家族を介護するための休業のこと。対象者は、日雇いを除く労働者です。ただし介護についても下記のように別途要件が設定されています。介護休業を取得する際は、詳細を確認しておきましょう。

  • 有期契約労働者
  • 労使協定で対象外にできる労働者
  • 対象家族の要介護状態

育児介護休業法が作られた背景

育児介護休業法が作られた背景にあるのは、以下のような社会問題です。

  • 急速な少子高齢化の進行によって、労働人口が減少
  • 地域社会の活力低下
  • 「出産後も働き続け、家庭を豊かにして過ごしたい」といった、生き方の多様化
  • 介護のため離職を余儀なくされるといった社会的損失

育児介護休業法は、家庭と仕事との両立を通して「多様な生き方を前提とした社会参画」「会社や社会全体の活力維持」などを実現するために制定されました。

育児介護休業法は、仕事と「出産」「子育て」」「介護」などとの両立を支援するために制定されました

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2.ハラスメントの関係性

育児介護休業法は、ハラスメントの問題と関係性があります。育児介護休業を取得しようとした労働者が、ハラスメントの対象になる事例が多く発生しているからです。ここでは、下記2点について解説します。

  1. 制度利用への嫌がらせ
  2. 状態への嫌がらせ

制度利用への嫌がらせ

制度利用への嫌がらせとは、「制度の利用を阻害したりそれに関して嫌がらせをしたりする行為」「解雇や不利益取扱いを示唆するような言動」のこと。具体的な事例は、下記のとおりです。

  • 会社や同僚から「育児介護休業の制度を利用するなら退職してもらう」と言われる
  • 会社や同僚から「男性は育児休業を希望しても休業できない」と言われる
  • 会社や同僚から「休業したにも関わらず、給与や役職など待遇面が下がらないのはおかしい」と言われる

状態への嫌がらせ

状態への嫌がらせとは、「妊娠・出産などを理由に、解雇そのほか不利益な取扱いを示唆するような言動」「妊娠・出産などを理由として嫌がらせなどをする言動」のこと。具体的な事例は、下記のとおりです。

  • 会社や同僚から「つわりだと仕事の能率が下がる」と言われる
  • 会社や同僚から「休業をしたから仕事が遅れてしまった」と言われる

男女雇用機会均等法や育児介護休業法では、「妊娠・出産」「育児休業・介護休業」などの申し出や取得などを理由とした、不利益取扱い(解雇など)をすることは禁止されています。

育児介護休業法を利用しやすい環境作り

育児介護休業法を利用しやすい環境作りには、以下のような取り組みが必要です。

  • 休業取得を希望する労働者以外の労働者にも、育児介護休業制度に関して啓蒙する
  • 育児介護休業に関する理解を促す

少子高齢化により労働人口が大きく減少するなか、「多様な働き方を認める」「労働力の確保」は急務です。育児や介護によって就労機会を奪われることのないよう、制度利用者も制度を利用しない者も、制度への正しい理解を深める必要があるでしょう。

育児介護休業制度の利用に関するハラスメントが存在します。ハラスメントの解決には、制度の正しい理解が求められています

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3.育児・介護の休暇・休業について

育児や介護の休暇・休業には、「制度外のもの」「制度として、定義や対象者などが細かく設定されているもの」があります。制度を適切に利用するためにも、これらを正しく理解しておきましょう。ここでは、下記4つについて解説します。

  1. 育児休暇とは?
  2. 育児休業とは?
  3. 介護休暇とは?
  4. 介護休業とは?

①育児休暇とは?

育児休暇とは、「育児のために休暇を取得する」「取得した休暇中に育児を行う」などのことで、育児介護休業法の対象ではありません。法的な制度でないため、育児休暇は通常の休暇と同じように扱われます。

そのため有給休暇を取得して育児休暇にしない限り、基本、「育児休暇は無給」だと考えるべきです。なお介護には、介護休業と介護休暇があります。育児と介護では休暇の考え方が異なる点に注意しましょう。

②育児休業とは?

育児休業とは、育児のために休暇を取得すること。育児介護休業法で育児休業は、以下のように定められています。

  • 定義…労働者が原則として1歳に満たない子を養育するためにする休業
  • 対象労働者…日雇いを除く労働者
  • 期間…原則として、子が1歳に達する日までの連続した期間
  • 回数…子1人につき、原則として1回

対象労働者や期間、回数については例外や別途要件があるので、取得の際には詳細を確認しましょう。

③介護休暇とは?

介護休暇とは、介護のために休暇を取得すること。育児介護休業法における介護休暇の制度内容は、下記のとおりです。

  • 要介護状態にある対象家族の介護そのほかの世話を行う労働者は、1年に5日(対象家族が2人以上の場合は10日)まで、介護そのほかの世話を行うために休暇の取得が可能である
  • 1日または半日(所定労働時間の2分の1)単位で取得可能

対象労働者は、日雇いを除く労働者です。ただし労使協定により対象外にできる労働者がいる点に注意しましょう。

④介護休業とは?

介護休暇とは、介護のために休業を取得すること。育児介護休業法における介護休業とは、下記のとおりです。

  • 定義…労働者が要介護状態にある対象家族を介護するためにとる休業
  • 対象労働者…日雇いを除く労働者
  • 期間…対象家族1人につき、通算93日まで
  • 回数…対象家族1人につき、3回

また対象労働者・対象となる家族の範囲・要介護状態については、例外や別途要件があります。取得希望の際は、詳細を確認しましょう。

育児や介護、どちらの休暇・休業ともに育児介護休業法の対象とそうでないものがある点に注意が必要です

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4.2017年の改正内容

育児介護休業法は、2017年に改正されています。改正内容について下記7点から解説しましょう。

  1. 介護休業の分割取得が認められた
  2. 給付率が67%に引き上げ
  3. 介護休暇が取りやすくなった
  4. 育児休業も取得しやすくなった
  5. 子供の看護休暇
  6. 育児休業期間の延長
  7. 育児休業制度について周知活動の義務
  8. 新しい育児休暇の設置

①介護休業の分割取得が認められた

2017年の法改正により、介護休業を分割取得できるようになりました。以下は、改正前と比較した内容です。

  • 改正前…介護を必要とする対象家族1人につき、通算93日まで原則1回に限り取得可能
  • 改正後…対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限として介護休業を分割して取得可能

このように、介護休業が3回を上限として分割取得できるように改正されました。

②給付率が67%に引き上げ

介護休業給付金の支給率が、改正によって引き上げられました。以下は、改正前と比較した内容です。

  • 改正前…介護休業時の給付金率は休業開始前の40%
  • 改正後…休業開始時の給付金率は休業開始前の67%

これまでより27%も多い67%に、給付率が引き上げられました。これによって労働者の介護休業取得の促進が、期待されています。

③介護休暇が取りやすくなった

介護休暇の取りやすさについても、以下のように変わってきました。

  • 介護を要する家族1人当たり、通算93日分の介護休業を3回に分割取得できるようになった
  • 介護を要する家族1人当たり、所定労働時間の1/2の介護休業が取得できるようになった
  • 労働時間の短縮措置が、3年のうちに2回以上、介護休業と別に利用できるようになった
  • 介護をする労働者も残業が免除されるようになった

④育児休業も取得しやすくなった

育児休業も、以下のように取得しやすいよう変化しました。

  • 1歳6カ月以後も保育園などに入れない場合、会社に申し出ると育児休業期間を最長2歳まで延長できるようになった
  • 育児休業給付金の給付期間が2歳までとなった
  • 育児休業制度などの個別周知の努力義務が創設された
  • 育児目的休暇制度の努力義務が創設された

⑤子供の看護休暇

子供の看護休暇とは、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者が休暇を取れるもの。病気やケガをした子の「看護」「予防接種」「健康診断」を理由として、有給休暇とは別に1年につき5日まで取得できます。改正のポイントは、以下のとおりです。

  • 改正前…子の看護休暇について、1日単位で取得できた
  • 改正後…半日(所定労働時間の2分の1)単位での取得が可能になった

⑥育児休業期間の延長

育児休業期間の延長とは、子が最長2歳に達するまで育児休業を取得できるというもの。改正のポイントは、以下のとおりです。

  • 改正前…育児休業期間は最長1年6カ月
  • 改正後…子が1歳6カ月に達する時点で一定の要件に該当する場合、子が1歳6カ月に達する日の翌日から子が2歳に達する日までの期間であれば、事業主に申し出て育児休業を延長できる

⑦育児休業制度について周知活動の義務

育児休業制度の周知活動の義務化というものもあります。

事業主には、労働者または労働者の配偶者が妊娠、出産したと分かった時点で、当該労働者へ個別に「育児休業などに関する制度内容」を知らせる努力義務があるのです。周知活動の内容には、育児休業中や休業後の待遇・労働条件などの項目があります。

⑧新しい育児休暇の設置

新しい育児休暇の設置とは、事業主は「小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者が、育児に関する目的で利用できる休暇制度の設置に努力する」という規定のこと。

新しい育児休暇には、失効年次有給休暇の積立による休暇制度の一環となる「育児に関する目的で利用できる休暇」の措置も含まれます。

2017年の法改正では、育児や介護に関する休業や休暇を取得しやすくするさまざまな項目が盛り込まれました

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5.育児と介護を同時おこなうダブルケアとは?

育児と介護を同時に行なう「ダブルケア」は、社会問題になっています。ダブルケアが社会問題化した背景には、「晩婚化により出産年齢が高くなった」「医療の発達により、長寿社会が到来した」などがあるのです。

ここでは、下記4点について解説しましょう。

  1. ダブルケアラー人口は?
  2. ダブルケアラーが抱える悩み
  3. ダブルケアを支援する取り組み
  4. ダブルケアを理解しよう

①ダブルケアラー人口は?

ダブルケアラーとは、子育てと親の介護の両方を同時に担っている人のこと。内閣府の調査によれば、女性が約17万人、男性が約8万人いるとされており、全国に25万人ものダブルケアラーが存在していると判明しているのです。

また今後ダブルケアラーになる予備軍を合わせると、ダブルケアラーの数はさらに増加すると予想されます。ダブルケアの問題は、より社会問題化していくでしょう。

②ダブルケアラーが抱える悩み

ダブルケアラーの悩みとして挙げられるものは、下記のとおりです。

  • 育児や介護の負担が、女性に偏っている
  • 1人にかかる介護負担の重さが増している
  • ダブルケアに関して相談できる人が少ないため、当事者が孤立している
  • ダブルケアで働く時間を確保できないため、離職せざるを得ない
  • 思うように働けないうえ、育児や介護の金銭的な負担が大きく、経済的に苦しい

このように、心身の負担や経済面での問題など、さまざまな悩みがあるのです。

③ダブルケアを支援する取り組み

社会問題化しているダブルケアを支援する取り組みが、各地で行われています。大阪府堺市では2016年10月から、7つの区役所にダブルケアの研修を受けた保健師や社会福祉による「ダブルケア相談窓口」を設置しました。

香川県でも2016年4月よりNPO法人が、ダブルケアカフェを月1回開催。ここでは介護に詳しい保健師や育児経験者から、無料でアドバイスをもらえます。今後も全国各地に、ダブルケアラーを支える窓口が広がるでしょう。

④ダブルケアを理解しよう

ダブルケアは、他人事ではありません。自分の身にも降りかかってくる可能性のある問題です。そんなダブルケア問題を解決するには、「一人ひとりが、ダブルケアを自分にも起きることとして考える」「お互いに助け合う精神を広げる」ことが重要です。

また「育児と介護といった複合的なニーズに対応する社会の包括的なサポート」「法的整備」といった取り組みも、ダブルケア問題の解決に重要になってくるでしょう。

ダブルケアは社会問題化していますが、決して他人事ではありません。自分にも降りかかる問題と捉え、相互で助け合う精神を持ちましょう