人材ポートフォリオとは? 意味や作り方、事例をわかりやすく

人材ポートフォリオとは、自社の人的資本の量・質を可視化するためのツールです。人材ポートフォリオを作成することで自社の人的資本が可視化され、個々のパフォーマンスを最大化させる人材戦略が検討しやすくなるだけでなく、自社に必要な人材要件の定義が容易となります。

今回は人材ポートフォリオについて、注目される理由や作り方、企業事例などを詳しくご紹介します。

1.人材ポートフォリオとは?

人材ポートフォリオとは、自社の人的資本の構成内容を可視化したもの。具体的には、「社内のどこに(部門、役職、ポジション)」「どのような人材が(職種、能力、スキル、適性)」「どれくらいいるか(人数、在籍年数)」などの情報をまとめたものです。

自社の人的リソースだけでなく、従業員一人ひとりの基本情報や能力など適材適所の配置に役立つ情報が把握できます。経営戦略の達成に必要な人材を明確にできている状態では、今後必要な人材戦略を検討する指針となります。

ポートフォリオの元の意味は「書類入れ」「紙ばさみ」です。クリエイターの作品集や投資家が保有する株式・債券の一覧・組み合わせの内容など、分野によってさまざまな意味合いとして使われるものの、大きな意味は「情報などをまとめたもの」です。

動的な人材ポートフォリオとは?

動的なポートフォリオとは、企業を取り巻く環境や経営戦略の変化に合わせて管理される人材ポートフォリオのこと。動的ポートフォリオは「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~ 人材版伊藤レポート2.0~」で下記のように言及されています。

経営戦略の実現には、必要な人材の質・量を充足させ、中長期的に維持することが必要となる。このためには、現時点の人材やスキルを前提とするのではなく、経営戦略の実現という将来的な目標からバックキャストする形で、必要となる人材の要件を定義し、人材の採用・配置・育成を戦略的に進める必要がある。

将来的な目標を実現するために必要な人材を定義したポートフォリオであり、中長期的に維持することが求められています。

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2.人材ポートフォリオが注目される理由

人材ポートフォリオの重要性は年々高まっています。注目される主な理由をみていきましょう。

人材版伊藤レポートによる言及

人材版伊藤レポートは、2020年に経済産業省が発表した持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会の報告書です。2022年には人材版伊藤レポートの内容を深掘りし、経営戦略と連動した人材戦略の実践について着目した「人材版伊藤レポート2.0」が発表されました。

人材版伊藤レポートにおいて、人材戦略に求められる要素の1つとして「動的な人材ポートフォリオ、個人・組織の活性化」が挙げられています。

企業が中長期的な価値向上を目指すには人材を「資本」として投資していることが重要であり、これを「人的資本経営」といいます。人材に投資するには、まず自社がどのような人的資本を保有しているかを可視化する必要があり、このときに人材ポートフォリオがあることで情報を整理し、適切な投資ができるようになります。

ビジネス環境の変化に対応するため

少子高齢化による労働人口の減少、消費者ニーズの多様化やグローバル化の促進など、ビジネス環境は急速に変化しています。さらに、現代はVUCA時代と呼ばれる、曖昧性と不確実性をまとった時代です。

外部環境の変化に柔軟に対応しつつ、企業が競争力を失わないためには人材を有効活用することが必要です。そのためには人材ポートフォリオを活用して自社の人的リソースを詳細に把握し、適材適所によって個々のパフォーマンスを高めることが求められます。

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3.人材ポートフォリオを作成するメリット

人材ポートフォリオを作成し、自社の人的資本を可視化することは以下のようなメリットが得られます。

適材適所な人材配置ができる

従業員一人ひとりの情報が詳細になるため、個々の能力や経験、適性を生かせる適材適所な配置を可能とします。強みや弱み、キャリア志向を把握した上で適材適所が検討できるため、人材育成も効率的・効果的に進めることが可能です。

また、従業員にとっても自分の強みが生かせる、希望のキャリアにつながる配置はモチベーションが高まります。エンゲージメントや生産性の向上により、結果的に組織全体のパフォーマンス向上につながるのです。

全体最適を維持できる

人材ポートフォリオでは、どこにどのような人材がどれくらい配置されているかといったリソース情報も把握しやすくなります。

現状の人材構成が可視化されると、どの部署で過不足が起こっているか、人件費の無駄が生じているかを把握するのも可能です。常に最適なリソース活用が検討できるため、全体最適を維持できます。

従業員に合わせたキャリアパスが形成できる

従業員一人ひとりの強みや弱み、キャリア志向を知ることは従業員にあったキャリアパスが形成しやすくなります。現代は多様な働き方が浸透しつつあり、キャリアパスも多様化・複雑化しています。

個々に適したキャリアパスを提示することは、企業の役割です。従業員が自分に合ったキャリアパスが実現できる組織では、従業員のエンゲージメントも高まり、定着率の向上にも期待できます。

コスト削減につながる

適材適所かつ全体最適な人材配置ができているかは、人材ポートフォリオから判断できます。人員の過不足が把握できるだけでなく、新たに外部から採用すべき人材も明確に定義できているため、採用コストの削減にも有効です。

人材確保が困難な現代では、限られたリソースをいかに効率的に活用し、その中でもさらにコストを削減していけるかが重要です。人件費や採用費など人材にかかるコストを最適化しながら、全体最適を図れるようになるでしょう。

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4.人材ポートフォリオの作り方

人材ポートフォリオは、以下手順で作成可能です。ここでは、手順ごとに人材ポートフォリオの作り方を解説していきます。

  1. 人材ポートフォリオ活用の目的の明確化
  2. 自社に必要な人材の定義・分類
  3. 現状分析
  4. 現状と理想のギャップを解消する方法の検討

①人材ポートフォリオ活用の目的の明確化

ただ漠然と作成するだけでは、人材ポートフォリオが本来の効果やメリットを発揮しません。

また、作成には従業員の協力も必要です。どういった目的で作成するのかを明確にすることで従業員も必要性を理解でき、協力する姿勢が作りやすくなります。また目的に応じて必要な情報を効率的に収集でき、活用しやすい人材ポートフォリオが作成可能です。

②自社に必要な人材の定義・分類

人材ポートフォリオは、経営戦略や事業計画と連動させることが前提です。その上で必要な人材を定義し、理想の人材構成を明確にします。

まずは経営戦略や事業計画をもとに、必要な業務と職種、人材を定義してグループ分けしましょう。グループ分けは横軸・縦軸からなる4象限の利用が一般的であり、分類方法は「雇用形態」「業務の性質」「人材タイプ」などさまざま。

下記は、業務の性質による代表的な分類方法です。分類方法はさまざまであるため、経営戦略や事業計画の実現に必要な要素を取り入れて独自に作成することがポイントです。

③現状分析

分類方法を決めたら、自社の人材を実際に分類して現状を把握します。このとき、偏りがないかをチェックしながら進めましょう。職種や雇用形態など定量的なデータはすぐに分類できますが、能力や適性のような定性的なデータの分類には注意が必要です。

人事や上司は従業員・部下のことを正しく理解できていると思いがちであるものの、実際はそうとは限りません。主観や勘、なんとなくで分類してしまうと内容自体が間違ったものになってしまいます。そうならないよう、適性検査やSPIなど、客観的な信頼できるデータをもとに分類しましょう。客観的・科学的な分類は根拠もあり、従業員も納得しやすくなります。

④現状と理想のギャップを解消する方法の検討

現状分析の結果、人数や構成比の過不足などから理想の人材ポートフォリオとのギャップを明確にし、課題を洗い出します。課題がない場合は経営層も交えて今後必要な人材要件を明確にし、現状との相違点を整理しましょう。

そして、理想のポートフォリオに近づけるための方法を検討します。主な方法は、以下4通りです。

  • 採用
  • 育成
  • 配置転換
  • 代謝(イグジットマネジメント)

代謝は「雇用」の反対で、定義した人材要件に合わない従業員を退出・解雇することです。従業員が不安や会社への不信感を抱く原因になる恐れもあるため、積極的に推奨できない方法といえるもののときには必要です。

基本は採用、育成、配置転換で調整することを前提とし、それでもやむをえない場合は代謝も検討しましょう。

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5.人材ポートフォリオを設計するうえでの注意点

注意点も押さえた上で人材ポートフォリオの設計に取り組みましょう。

作成と運用には労力と工数がかかる

人材ポートフォリオの作成には、従業員分の情報収集とデータ分類、課題の対策検討など労力と工数を要します。労力は作成者だけでなく、従業員にもかかるもの。協力を得て、効率的に作成するには従業員が人材ポートフォリオの作成に納得感を持っていることが必要です。

作成後の運用もすぐに効果が出るとは限らず、人事を中心に中長期的な視点を持って組織全体で取り組むことが大切です。組織全体で一体的に取り組むためにも、従業員への負担や予算などのリソースを確保・考慮して着手しましょう。

正しいデータを反映する

従業員データが正しく反映されていないと、その後の人材戦略が正しく実行できなくなってしまいます。とくに、能力やスキル、適性などの定性的なデータは、主観や勘で判断しないよう注意が必要です。

また、評価結果は必ずしも客観的であるとはいえないため、参考程度に活用しましょう。適性検査といった客観的かつ科学的な根拠のある指標を主なデータとして活用することがポイントです。

従業員の声も考慮する

人材ポートフォリオを作成するうえで、企業と従業員の認識のズレを最小限にすることも欠かせません。たとえば、人材ポートフォリオを配置転換に活用する場合、従業員の希望や意思を反映させずに実行してしまっては、従業員のモチベーションやエンゲージメントを下げてしまう恐れがあります。

適材適所はできる限り従業員の希望を考慮したうえで実現させることが、結果として組織によい影響を与えます。

従業員に優劣をつけない

作成時に従業員のタイプを分類するものの、このときに優劣をつけることは避けましょう。人材ポートフォリオはあくまで個々の強み、弱みを把握するものであり、従業員同士の優劣を明らかにするものではありません。

人材ポートフォリオの大きな目的は、経営戦略の達成や適切な人材戦略による組織のパフォーマンス最大化です。従業員一人ひとりの強み・良さに着目し、フラットな視点から分類しましょう。

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6.人材ポートフォリオ活用のポイント

人材ポートフォリオは作成して終わりではありません。ここでは、人材ポートフォリオ活用のポイントをお伝えします。

動的な人材ポートフォリオとして運用する

市場の変化など企業を取り巻く環境によって、経営戦略や事業計画は変わるものです。人材ポートフォリオは、経営戦略や事業計画と連動することで高い効果を発揮します。

動的なポートフォリオであることを忘れず、変化にあわせて人材ポートフォリオにも迅速に反映することがポイントです。

パフォーマンスマネジメントを行う

人材ポートフォリオを作成し、人材戦略を打ち出すだけでは持続的な効果は見込めません。人材ポートフォリオの目的は、組織の人的資本を可視化して、適切に投資してその効果を最大化することです。

従業員のパフォーマンスを高めるためにも、人事や現場マネージャーが従業員と一緒に目標を感上げ、フィードバックし成果につなげていくためのマネジメントが重要です。

たとえば人材ポートフォリオに基づいて配置転換した従業員に対しては、異動先で能力や適性が発揮できているかも検証し、パフォーマンスを発揮するための継続的なサポート体制を整えましょう。

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7.人材ポートフォリオ活用の企業事例

「人材版伊藤レポート2.0」の実践事例集より、人材ポートフォリオを活用する企業事例をご紹介します。

旭化成株式会社

旭化成株式会社では、経営戦略の実現に必要な人材ポートフォリオを構築。採用すべき人材の質・量を事業軸と機能軸の両面から毎年全社的に洗い出し、人材ポートフォリオに基づき新卒採用やキャリア採用、社内の人材育成を計画的に実施しています。

採用や育成で確保できない人材は、M&Aやコーポレートベンチャーキャピタル・少額投資を通じた企業とのコネクション強化により確保。経営戦略との連動によって、本当に必要な人材を見極めた上で採用や育成を計画的に実施できている事例です。

KDDI株式会社

KDDI株式会社では人事が主導し、事業変化に必要な人材の確保・育成を実施。人材ポートフォリオを活用し、今後の事業戦略の観点から目指す姿と現状の人材ギャップを把握しながら、不足分を採用・育成・配置によって補充しています。

成長領域の拡大のため、2023年度までにグループ全体でDX人財を4,000名規模に拡大し、中核を担うDXコア人財をKDDI DX Universityで500名育成することを目標としています。

さらに、育成強化の観点で自律的なリスキリングに向けた育成体系を構築。全社員に対して研修メニューの全体像を見える化し、全部門共通のポータブルスキルや専門スキルを社員が望むタイミングで学習できる環境を整えています。

SOMPOホールディングス株式会社

デジタルを活用したビジネス展開が加速する状況をふまえ、社員の自律的なキャリア形成を促進するためにすべての社員を3つのデジタル人材区分に分類し、目指す姿を見据えた人材ポートフォリオを計画的に構築しています。

あわせて、ジョブ型人事制度を導入。MYパーパスにもとづいて社員自らがキャリアを選択し、自身のパーパスを原動力にドライブする企業文化の醸成を目指しています。

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8.人材ポートフォリオ作成に役立つタレントマネジメントシステムとは?

タレントマネジメントシステムは、従業員の基本情報や能力、適性などのデータを一元管理・共有できるシステムです。従業員一人ひとりを分析でき、適材適所や育成に活用できます。

人材ポートフォリオの作成には、人材の可視化・分析が必要であり、タレントマネジメントシステムは人材ポートフォリオ構築の一連のサイクルを迅速に行うことを可能にします。

従業員データを正しく把握・分析し、質の高い人材ポートフォリオを作成する上で、タレントマネジメントシステムは大きな役割を発揮します。

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人材ポートフォリオのQ&A

もともと「ポートフォリオ」とは投資の世界の用語で、株式・債権・金などの資産構成を指し、リスクやリターンをコントロールするために用いられます。 「人材ポートフォリオ」とは、ポートフォリオの考え方を転用し、戦略的に人材を分析し、人材を振り分けて構成することをいいます。企業が保有する人材の構成をタイプ別に可視化し、戦略達成に適切な人材構成を組む手法です。
人材ポートフォリオは、各企業で独自に作成するものです。おおまかな手順として、まず人材の評価軸を定めます。たとえばスペシャリストとジェネラリスト、どちらが自社に必要であるか、人材を分類し、必要なタイプを明らかにします。 自社にとっての重要な軸を複数見つけたら、その中から2つ組み合わせて4つの象限を作成します。4つの象限にそれぞれ名前を付けて、どの戦略に適しているのかを評価します。 現時点で各象限に当てはまる人材がどれほどいるかをカウントし、現状分析すると、どのタイプの人材が多いか、または不足しているかがわかります。
人材ポートフォリオとは、どのようなタイプの人材が(職務・スキル・経験・性格タイプなど)、どのポジションに(部署・役職など)、どれほど在籍しているべきかを明らかにするものです。 分析を行うには、上記情報の一元管理が必要となります。組織内に散らばっている人材情報をひとところに集約し、ツールなどを用いて解析します。 タレントマネジメントツールのカオナビでは、社員の個性・才能を発掘し、戦略人事を加速させるための情報の一元管理が可能です。