そのまま伝えたら、反発されるに決まってる3人のプロが実践する「伝え方」の極意
経営からの指示を現場に伝える。シンプルな仕事のはずが、これが一番難しい。なぜなら、同じ日本語でも、経営と現場では「意味」が違うから。
この記事では、板挟みを生き抜いてきた3名の人事責任者が、反発を招かず、納得を引き出す「翻訳技術」を明かします。
経営の言葉を現場の言葉に「翻訳」し、組織を動かす戦略的コミュニケーションの極意を探ります。
人事の「翻訳技術」と戦略的コミュニケーション
カオナビ人事用語集では、経営方針の浸透という本質的な課題を探るため、異なるバックグラウンドを持つ3名の人事プロフェッショナルに対談形式でインタビューを実施しました。
対談者プロフィール
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高橋さん
大手IT企業で長年人事担当。現在は独立コンサルタントとして中小企業を支援
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木元さん
HRBPとしてデータドリブンな人事施策を推進。理論と実践の両面に精通
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藤井さん
外資系企業でリモート環境での人事制度設計を経験。現在は組織開発に特化
「これ決まりました」は地雷ワード。現場が聞きたいのは背景と意味
経営の方針を現場に伝えるとき、何を意識していますか?
木元さん
相手の文脈で話すことが絶対条件です。人事は経営からの代理人であり、従業員からの代弁者でもある。言葉の選び方一つで反発を招きます。特に営業など現場の人たちにはプライドがあるので、「みなさんのおかげでこういう方針になりました」という形で伝えるようにしていました。
高橋さん
「これ決まりました、やってください」は最悪のパターンです。現場は自分たちが決めた感が欲しいんですよ。だから事前にマネージャーを巻き込んで、「こういう方針を考えているんですが、現場の感覚としてどうですか?」と相談する。その時点で調整して、発表するときには「みんなで決めた」形にする。これが鉄則です。
藤井さん
外資系では特に、Why(なぜ)を明確にしないと動いてくれません。「会社がこう決めたから」ではなく、「市場環境がこう変わって、競合がこう動いているから、私たちはこうする必要がある」この背景をしっかり伝える。経営の言葉を、現場が腹落ちする言葉に変換するのが人事の仕事です。
「翻訳」というより、「共創」に近いアプローチですね。
営業には営業の、エンジニアにはエンジニアの言葉で
職種によって伝え方を変えているんですか?
木元さん
完全に変えています。発する言葉によって上げ足を取られるんですよね。営業には「売上目標」「インセンティブ」「市場シェア」という言葉が響くけど、エンジニアには「技術的負債の解消」「スケーラビリティ」「アーキテクチャの改善」と言わないと伝わらない。
藤井さん
私の失敗談ですが、エンジニアチームに「エンゲージメント向上のため」と伝えたら、「意味不明」と一蹴されました。でも「開発効率を上げるための環境改善」と言い換えたら、すんなり受け入れられた。同じ施策でも、フレームを変えるだけで反応が180度変わります。
高橋さん
逆に、全職種に同じメッセージを送るのは危険です。Slackで@channelで一斉送信とか、最悪ですね。必ず各マネージャーに事前確認を取って、「この伝え方で違和感ないですか?」と聞く。そこで「うちのチームにはこう言った方がいい」という意見をもらって、微調整してから発信する。
職種ごとの「文化」を理解していないと、翻訳者失格なんですね。
キーワード解説
エンゲージメント:従業員の仕事への熱意や組織へのコミットメントを示す概念。ただし職種によって響く言葉は異なり、人事は相手に合わせて言い換える必要がある。ここでは、エンジニアに対して「開発効率向上」と言い換えることで納得を得た事例が示されている。
縦のラインを使え──本部長会議からの階段降ろし戦略
組織全体に方針を浸透させる具体的な方法は?
高橋さん
大企業では縦のラインを活用するのが鉄則です。私がいた会社では、まず本部長会議でアライメントを取る。そこで各本部長に「この方針で行きます」と合意してもらう。その後、本部長から各部門長、部門長からマネージャー、マネージャーから現場、この階段を降りるように伝達する。
木元さん
いきなり全社員に向けてアナウンスすると、現場は「また上から降ってきた」と感じるんですよね。でも縦のラインを使えば、「うちの本部長が決めたこと」として受け取ってもらえる。これだけで納得度が全然違います。
藤井さん
スタートアップでも同じです。CEO→部門長→リーダー→メンバーという順番を守る。飛ばして伝えると、中間層が「聞いてない」と反発する。人事は裏方として、この伝達経路を設計し、各階層でのメッセージを調整する。これが戦略的コミュニケーションです。
組織構造を理解し、それに沿った伝達設計をする──これも翻訳者の仕事なんですね。
事前調整が9割──根回しは悪じゃない、戦略だ
事前調整の具体的なやり方を教えてください。
木元さん
発信する前に必ず主要なマネージャーに個別で確認します。「こういうメッセージを送ろうと思っているんですが、違和感ないですか?」と。そこで意見をもらって修正する。この根回しに8割の時間を使います。
藤井さん
特に抵抗しそうな人には、先に個別で話をして、理解者にすることが重要です。「実はこういう背景があって、あなたの力が必要なんです」と。そうすると、全体会議で発表したときに、その人が「これは必要だよね」と援護射撃してくれる。味方を先に作っておくんです。
高橋さん
根回しを「政治的」と嫌う人もいますが、これは戦略的コミュニケーションです。いきなり発表して反発されるより、事前に調整して納得を引き出す方が、よっぽど誠実。人事の仕事は「正しいことを伝える」ことではなく、「正しいことが実行される状態を作る」ことですから。
事前調整こそが、翻訳者の真骨頂なんですね。
反発されたときの対処法──「聞く」が最強の武器
それでも反発されることはありますよね。どう対応しますか?
木元さん
まず徹底的に聞くことです。「なぜそう感じるんですか?」「具体的にどこが問題ですか?」と。反発の裏には必ず理由があります。それを引き出して、「その懸念、経営にも伝えます」と約束する。実際に経営に上げて、可能な範囲で修正する。これだけで「ちゃんと聞いてくれた」という信頼が生まれます。
藤井さん
反発を恐れて、人事が防御的になるのが一番ダメです。「それは経営が決めたことなので」と逃げると、完全に信頼を失います。そうではなく、「確かにその視点は抜けていました。一緒に考えさせてください」と巻き込む姿勢を見せる。
高橋さん
時には経営側にフィードバックして、方針を変えてもらうこともあります。例えば人事システムの選定で、現場から「このツールじゃ使いにくい」という声が上がったら、経営に「別のツールにしましょう」と提案する。現場の声を経営に届けるのも、翻訳者の役割ですから。
一方通行ではなく、双方向の翻訳が求められるんですね。
まとめ
この座談会で浮かび上がったのは、人事は「伝える人」ではなく「翻訳する人」だという本質でした。
木元さんの「相手の文脈で話す」、高橋さんの「縦のラインを使う」、藤井さんの「事前調整に8割を使う」。いずれも経営の言葉を現場の言葉に、現場の声を経営の言葉に変換する技術です。
反発を招かない伝え方・3つの鉄則
「これ決まりました」と言った瞬間、人事は嫌われます。でも、「みなさんのおかげでこうなりました」と伝えれば、味方になってくれる。同じ内容でも、伝え方次第で結果は180度変わるのです。
- 相手の文脈で話す:営業には営業の、エンジニアにはエンジニアの言葉に翻訳しているか?(職種ごとの価値観や優先順位を理解した上で、フレームを変えて伝えているか)
- 縦のラインを活用する:本部長→部門長→マネージャー→現場の階段を守っているか?(いきなり全社アナウンスせず、各階層でメッセージを調整しているか)
- 事前調整に8割を使う:発信前に主要メンバーに個別確認を取っているか?(根回しを「政治」ではなく「戦略」として実践しているか)
あなたは今、どんな言葉で伝えていますか?明日から、一つでも実践してみてください。「伝え方」を変えるだけで、現場の反応は驚くほど変わります。
現場の文脈を深く理解することは、精度の高い「翻訳」を行うための第一歩です。
カオナビを利用すると、社員の状況がデータで見える化されるだけでなく、業務効率化によって事前調整やヒアリングの時間をしっかり確保できるようになります。
経営と現場を繋ぐ、より良い組織づくりのヒントとしてぜひ参考にしてみてください。
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